2 一日目。神奈川・東京(10)
パムホの方位計と距離測定機能。そして、ランドマークとしての富士山。とりあえずはこれだけで、位置と進路の確認をするしかないようでした。
鞍に跨がり、鐙に両足を掛け、
「さぁ、出発しようか」
と、心配そうに背中を伺っていたコン吉に声をかけます。すると、
「コン!」と元気な一声。
緩やかに毛皮が波打ち、体躯が動き始めたのでした。てくてくてく……体がリズミカルに揺さぶられます。あっという間に不安感が吹き飛んだのでした。
「あは! あは? あは!」
それは夏空のもと、気分も熱せらるる体験だったのです! 動物の背に乗るなんてこれが生まれて初めての体験です。その上それが大ギツネだったなんて、もう……! 一気に、なにか、この、その、ファンタジーな世界の、本物の(?)旅人になった気分になります。
そして、“動物型”のいいところは、第一に、自分で漕がなくてもいいということでしょうか。これは本当に、目が覚めるような乗り物だったのでした。
ですが――楽でいいや、と手放しで思っていたのは最初のうちだけでした。
さすがに際限なく都合よくはなかったようで、実はペダルを漕ぐ分だけの疲労は、しっかりと体に蓄積されることを、すぐ自覚したのです。疲労するということは、体力を使っているということ。つまり、例えるならば、コン吉はモーターバイク。そして自分はそのエナジーパックだということです。ちょっと注意ですね。
でも、今――そんなことは些細なことでした。
なんたって、元気元気、旅なんですから――!
いつからか行は鞍上で、興奮気味にフォトボタンを押しまくっていたのでした。
だだっ広いだけではなかったのです。空の感触が違いました。雲の匂いが違いました。地平線から吹き上がる光の色が違いました。何より、時折見かけるこの世界の住人たちの姿が、様々に違っていたのです。丸かったり細かったり、毛むくじゃらだったりしていました。
足元にある、潰れているとは言え、物産も物珍しい品の数々でした。
異世界でした。
異世界でした。あそこも――
ここも、そこもです!
「おおっ!?」
あの人たちがやったのでしょうか、道路脇に、地が青色の看板が突き立てられています。
青看板――
それにはかろうじて判読できる不思議な日本語の白文字で、こう書かれていたのでした。
『ここはトッキオ都、マチールダ市』
やぁ、くだけすぎ!(笑)
気の高ぶりも、仕方なしというものなのです。




