表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/116

2 一日目。神奈川・東京(7)

 そうすると、次に自分の衣装に、ようやくにしろ気が向くのは当然の流れでした。

 まず両手に目をやりました。

「うへ!?」思わずヘンな声が出ちゃいます。

 中指の根元から、甲、手首、肘の上までをカバーした黒のアームバンド。しっくりとフィットしています。一見、皮革製品のように見えたのですが、違うようです。素材は何でしょう、とても柔らかでした。この世界の不思議な生地なのでしょうか。

 行くん、引っ張ったり、腕を振って具合をみたり。

 他もすべて、この黒革ふうの素材ででき上がっているのでした。すなわち――

 丈がベリィショートの、ハイネック・ノースリーブトップ。鳩尾(みぞおち)から下と、両肩が大きくむき出しになっています。

 なんでこんなファッションセンスなんだと思うのですが、詮無きことです。だったらこの際、男子としては逞しさをアッピールしてもいいでしょう。ちょっと鼻息荒く、フリーな丸い肩をくりくり動かしながら、少年はそう、諦めた、のでした。

 ボトムに目を移すと、ローライズショートパンツです。おへそと腰、そして太ももの、かなりの面積が大胆にフリーになっています。ちょっと引っ掛けたらすぐ脱げ落ちてしまいそうで、その危機感(いけなさ)が冒険心を刺激して、逆にわくわくするのでした。

 足元は、サンダル様式の編み上げシューズです。裸足のつま先から脹脛(ふくらはぎ)あたりまでを、革ひもがレース編みで包んでいたのでした。

 頭に手をやると、被ってたはずの帽子が消えています。そのかわりに、なんとも可愛らしい白のカチューシャがはまっていたのでした。「うは……」そして左耳のイヤホンマイクは、機能はそのまま、形だけがこれもファンシーな感じなものに変わっているのです。

 全体を見回して、なんだか革鎧の軽戦士にジョブチェンジしたみたい。これを「変身願望」と呼ぶのでしょうか、あるいは「デビュー」と呼ぶのでしょうか――

「ヤバイ……」顔が上気します。激しく人生観、道徳観、価値観が揺さぶられたのでした。

 現世・地球人類は、()()()()()()()()()だけだから許される格好なのだ、と羞恥心に折り合いを付けたのでした。

 腰のくびれに回されてあるだけの一本のベルトは、これは本物の硬い革のようでした。何個か小さな革袋がしっかりとくくり付けられています。ということは、このベルトが、ポケット、あるいは鞄がわりなのでしょう。キラリと光る銀の星、校章のピンバッジもここで、今は仰々しいデザインに変わっています。けれど一目で所有者が分かるマーク代わりとして、まったくお誂え向きになっていたのでした。


 コン吉が裸の肌をペロペロと嘗めてきます。

「フフ、いたずらはだめだよ……」

 大切なパムホは、そのままの姿でベルトのホルダーに収められています。

 取り外した片手を伸ばし、もう片方の手で太い首を抱いて、コン吉とのツーショットを撮りました。

 愛車はキツネに変わり、着衣は革鎧に変わった。なのに、このパムホには変化は何も生じていません。

「……うん」

 しかし行は本能的に納得したのです。現代人にとってパムホは身の一部も同然なのです。だから、世界が変わり、環境や衣装、用具が変わっても、ぼく自身の肉体が変わっていないように、パムホはパムホ、そのままの形であり続けるのですね……。

「――」

 首を振り、意識を変えます。


 さぁ――


 最後は、この世界です。

 この世界は、出発時にぼくが望んだ、“文太郎の世界”なのでしょうか?

 それにはまず、この惨状を知る必要があるのかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ