2 一日目。神奈川・東京(7)
そうすると、次に自分の衣装に、ようやくにしろ気が向くのは当然の流れでした。
まず両手に目をやりました。
「うへ!?」思わずヘンな声が出ちゃいます。
中指の根元から、甲、手首、肘の上までをカバーした黒のアームバンド。しっくりとフィットしています。一見、皮革製品のように見えたのですが、違うようです。素材は何でしょう、とても柔らかでした。この世界の不思議な生地なのでしょうか。
行くん、引っ張ったり、腕を振って具合をみたり。
他もすべて、この黒革ふうの素材ででき上がっているのでした。すなわち――
丈がベリィショートの、ハイネック・ノースリーブトップ。鳩尾から下と、両肩が大きくむき出しになっています。
なんでこんなファッションセンスなんだと思うのですが、詮無きことです。だったらこの際、男子としては逞しさをアッピールしてもいいでしょう。ちょっと鼻息荒く、フリーな丸い肩をくりくり動かしながら、少年はそう、諦めた、のでした。
ボトムに目を移すと、ローライズショートパンツです。おへそと腰、そして太ももの、かなりの面積が大胆にフリーになっています。ちょっと引っ掛けたらすぐ脱げ落ちてしまいそうで、その危機感が冒険心を刺激して、逆にわくわくするのでした。
足元は、サンダル様式の編み上げシューズです。裸足のつま先から脹脛あたりまでを、革ひもがレース編みで包んでいたのでした。
頭に手をやると、被ってたはずの帽子が消えています。そのかわりに、なんとも可愛らしい白のカチューシャがはまっていたのでした。「うは……」そして左耳のイヤホンマイクは、機能はそのまま、形だけがこれもファンシーな感じなものに変わっているのです。
全体を見回して、なんだか革鎧の軽戦士にジョブチェンジしたみたい。これを「変身願望」と呼ぶのでしょうか、あるいは「デビュー」と呼ぶのでしょうか――
「ヤバイ……」顔が上気します。激しく人生観、道徳観、価値観が揺さぶられたのでした。
現世・地球人類は、この宇宙に自分一人だけだから許される格好なのだ、と羞恥心に折り合いを付けたのでした。
腰のくびれに回されてあるだけの一本のベルトは、これは本物の硬い革のようでした。何個か小さな革袋がしっかりとくくり付けられています。ということは、このベルトが、ポケット、あるいは鞄がわりなのでしょう。キラリと光る銀の星、校章のピンバッジもここで、今は仰々しいデザインに変わっています。けれど一目で所有者が分かるマーク代わりとして、まったくお誂え向きになっていたのでした。
コン吉が裸の肌をペロペロと嘗めてきます。
「フフ、いたずらはだめだよ……」
大切なパムホは、そのままの姿でベルトのホルダーに収められています。
取り外した片手を伸ばし、もう片方の手で太い首を抱いて、コン吉とのツーショットを撮りました。
愛車はキツネに変わり、着衣は革鎧に変わった。なのに、このパムホには変化は何も生じていません。
「……うん」
しかし行は本能的に納得したのです。現代人にとってパムホは身の一部も同然なのです。だから、世界が変わり、環境や衣装、用具が変わっても、ぼく自身の肉体が変わっていないように、パムホはパムホ、そのままの形であり続けるのですね……。
「――」
首を振り、意識を変えます。
さぁ――
最後は、この世界です。
この世界は、出発時にぼくが望んだ、“文太郎の世界”なのでしょうか?
それにはまず、この惨状を知る必要があるのかもしれません。