2 一日目。神奈川・東京(6)
行は地面に降り立ってみました。想像を絶する圧力でプレスされたらしく、お互い同士密着し、かちんこちんに固まっています。恐るおそる一台の車に顔を近づけました。
勇気を出して細かく状態を観察しましたが、被災者の“血糊”などの痕跡は一切なく、匂いもなく、ひいてはこの事態で“体”を“損傷”させた“動物”はただの一体もいないことが類推され、まずは安堵の息をつくと同時に、“あの話”は本当のことだったのだそして自分は今、確かに“そこ”に、いえ“ここ”に、“この地”に、こうして立ち、存在しているのだと、ぐらぐらと湯が煮立つような心持ちで、一気に実感したのです。
と――
「コン、コン……」
という“声”が聞こえました。ドキリ、としました。普通を装い、ゆっくり振り返ると、やっぱりと言うか、間違いなく“それ”が、“四つ足”で、切なくも主を慕うような顔つきで、若々しく立っていたのです。それは――
それは、キツネでした。
日の光に輝かんばかりに美しい、黄色い毛並みの、キツネでした。
体高が行の腰上まである、鞍と振り分け荷物を背に乗せた、大変な大ギツネだったのです。
そんなキツネに、行は諦めたように首を振り、改めて優しく声をかけたのでした。
「“コン吉号”いやさ、“コン吉”!」「コーン!」
それは――シンケ工業製MTB。型式名MF26。
カラーはイエロー。
普段からピカピカに磨き上げていた、ギンギンにチューンナップしていた、我が愛車の――立派に変化した姿だったのです。
認めるしかない。ここは、こういう世界なのです。信じられない思いですが、もう開き直って受け入れるしかありません。
それに今からの、文字通り“単独行”にとっては、コイツだけなのです。
「これから頼むぞ……相棒!」
歌いだしかねないほどの喜び顔の相手の頭をなで、首を掻いてやると、コン吉は気持ちよさそうにまた、コンと鳴くのでした。