2 一日目。神奈川・東京(5)
『キュルッ・キュルッ・キュルッ――』
ハッ――!? と意識を取り戻します。
突如、鳴り始めた、それは――パムホからの警告音。
福島県田村市と、佐賀県佐賀市からの標準電波(標準周波数報時電波)が、『途絶えた』ことを知らせる合図だったのです。つまり、この――
今――
今こそ人生初めての、この瞬間――
ワープ!
――を、果たしたのでした。
冷静に確認マークをタッチして、警告をリセットします。そして、一度息を飲んだのです。
慎重に、そして覚悟して、けっして震えが声に出ないよう気をつけて、
「……止まれ」
ぼくは自転車にそう掠れた声を掛け、同時に軽く手綱を引いたのでした。
ふいに眩暈に襲われ、思わず顔に片手をやります。
目の前――
「ああああああああ……」
――
大きな――
なんて大きな青空のもと――
「号!」と広がる、そこは、荒涼たる大地だったのでありました。
あの強大な壁が……東名高速道路が、壊滅、消滅――地面のただの灰色の帯と化していて――
市の、町の、その夥しい家屋、ビルディングが、地平線まで見渡すかぎり一軒残らず倒壊し、まっ平らに押し潰されていたのです。
遠く遠く、確実に東京都心を越えてさらに向こう、房総半島まで――すっかり見渡せます。
車や電柱、標識、信号機、ガードレール、街路樹や記念碑のたぐい。はては陸橋、鉄道、大鉄塔、摩天楼。はたまた、林、森、丘、小山、大山に至るまで、全てのものが余さずプレスされ、真っ平らに、頭上を暑い風の吹くに任せています。広く平らな駐車場が、より平たくなっているのは何だか象徴的でした。自分の目の高さよりも、いえいえ、つま先よりも高いものが何一つありません。そんな、何らかの大災害がなした、驚異の関東大平面だったのでありました。
7月21日、日曜日、午前7時30分。
“まっすぐライン”にして、スタート地点から約15.6km地点。ワープイン。
(赤線:まっすぐライン 緑枠:5%ゾーン。途中の緑線は15.6km地点 青線:走行ルート)
行は知らず、自分自身に向けてつぶやいたのです。
「ようこそ、“異世界”、非日常の世界へ……」