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12 浜坂(8)

「俺は発作を起こしたせいで結果的に生者でありながら死者の世界へ行ったわけだが、生者はやがて元いた場所に弾き返されるという宇宙の摂理により、ゾーンに再び復活を果たした。

 だが、その間、俺は半年間待たされたことになる。ところが君たちの場合は、きわめて短時間のうちに元の場所ゾーンに弾き返された。これは一体、どういうわけだろうか?」

 予想された質問でした。直接答える代わりに、行は荷物を両手に持ったのでした。

「文太郎さんにお土産があります」

 丁寧に、折り詰めのような四角い箱を差し出します。それは、あの、グンマーの少年戦士が、神への供物として、槍ならぬ竿の先に(くく)り付けていた品物でした。

「グンマーの方から、一族の誠意を込めてと、託されました。中身は名物の“お団子”です」

「おう……それはそれは……?」

「彼ら、よほど文太郎さんが恐かったようです。“神”文太郎さんにおかれては、近々にもあの世界に再降臨されるものと信じ込んでいて、それはあからさまに言えば、連中にとっては迷惑だ、ということでした」

「あはははは……。なるほどな! ということは、それは――」

 行は頷きます。

「“薬効”があります。“死ぬな”、という薬効がです。

 効能は、ぼく自身で確かめました。何と言えばいいのでしょう、具体的にどれこれの症状に効く、ということじゃなくて、病魔を払う、という感じで……。彼らの文太郎さんの見立ては鋭いと思わされました。

 で――

 届けてくれた彼の目の前でフタを開けて、お団子を一つ、それも、爪の先ほどを、千切って口の中に入れたんです。

 いえ毒とは疑いませんでした。毒だったら“御子”であるぼくは殺されるってことで、返って神の怒りを増大させることになるからです。ぼくのことも、文太郎さんのことも、そしてランのことも、つまり神の関係者全員、彼らは生かして、追い払ってしまいたかったのです。

 口にしてから一分もたたないうちにです。

“命”を蹴飛ばされた感じに、腹の底から元気が出てきて、気づくと浜にワープアウトしていました。

 つまり、死の世界から、まず元の場所、フラットランドの“まっすぐゾーン”に弾き返された。そのときランの命も引張っていた。

 そしてそこはゴール地でありましたから、遅滞なくそのまま二人してワープアウトした、という構造です。

 気づいたときには、そこは青森の浜です。あの、大きな世界が消えていました。目の前にいたはずの彼の姿が、消えていました。彼に、最後の挨拶ができなかったことだけが、心残りです。名前だって聞いたのに。好きになりかけていたのに。話し合いを、ゴール地の手前で、行ってたらよかった。始めから、友情を前提に口をきいていればよかった。――苦い反省点です」

 口を閉じます。静寂。室内に、惜別の情の余韻が漂ったのでありました。

 瞬間、でした。文太郎が、分厚い拍手をしたのです。そして、力強い、深みのあるバリトンで宣言したのです。

「君たち二人は立派な旅人であり一人前のトレジャーハンターだ。俺が断固保証する! 今後は堂々とそう名乗るといい!」

 言質を与えたのでありました。

「!」

 世界一の文太郎に認められた!? ――行、そして蘭は、この時ばかりは体が浮き上がるほどの興奮を、そして感激を味わったのでした。


 ふと真顔になった文太郎が付け加えます。

「お前は俺の弟子だよな? だったら、いいか? 迷わず俺を目指してくれよ。俺だって、そうだったのだから――」ウインク。

「?」

 このときは、文太郎の笑顔に押されて、その真意を確かめる間もなく、ただ頷かされて――そのまま流されてしまったのでした。

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