表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/116

12 浜坂(1)

 遠峰行と緑原蘭の二人は、新しくできた友人のご家族の助けを借りて、青森空港に移動。昼一番の飛行機に乗ったのでした。

 着いた先は鳥取空港です。そこからは自転車(MTB)にて楽々3時間。国道9号、国道178号と東へ快走し、その地に到着したのでした。


挿絵(By みてみん)

(図はイメージ)


挿絵(By みてみん)

(図はイメージ)


 7月28日、日曜日、夕方。

 兵庫県日本海、浜坂町(はまさかちょう)


 海近くの白亜の近代ビル、“浜院”――木藤文太郎が入院している病院でした。

 お見舞いに訪れる旨は、青森で連絡済みです。パムホを通して一週間ぶりに聞く文太郎の声は、いえお互いにとってでしょう声の交し合いは、まるで数年来の出来事のような、感動を伴うものだったのでした。師匠も直に会って話を聞きたいらしく、歓迎するとのお言葉でした。


 最上階、個室――

 ノックするとすぐに賑やかな(いら)えがあります。さすがに少し緊張しながら入室すると、そこに、ベットからパジャマの半身を起こした、歓声を上げる満面の笑顔の文太郎と、もう一人、意外な人物が二人を待ち構えていたのでした。でもまずは――

「木藤先生、お元気そうでなによりです」挨拶です。ぺこり。

「よく来てくれたコオ君。この俺の病気は、なんともないときは本当になんともないんだ。暇を持て余していたところさ」と、ウインクします。

 勘づいて、

「え、お暇だったのですか?」と、わざとらしい返答です。

「ああ。数時間前まではな」芝居っけタップリに、にやりと文太郎。見守っていた“当人”を苦笑させる、師弟の呼吸の合ったやり取りだったのでした。

 意外な人物――

「まず、紹介を済ませてしまおう。お顔はすでにご存じだろうけど、こちらが、吉田花子さん、その人だ。目下この俺の最大のライバルだな。たまたま連絡が取れたんで、面白い話が聞けるぞと、誘ったんだよ」

「吉田です――」鼓膜に染み込むような大人の声。まだ、子供のようにクスクスしています。

 怪物・吉田花子でした。

 しっとりと腰まで綺麗に伸びた髪の毛がトレードマークです。その黒髪に、桜の花びらのように上品に散りばめた色とりどりのミニミニ・リボンが唯一のアクセサリ。可愛らしく笑う真面目眼鏡の美人でした。今の服装は、まるで高校生のような地味なツーピースです。メディアで見ても、いっつも、飾り気のない質素な衣装をお召しになっているようなのですが、行でさえ勿体ないと思うほど、バストは十二分に太く、ウエストは細く、丸いヒップからズバッと奔放に伸びた長い脚。スタイル抜群な方だったのでした。

 後ろから蘭に小突かれます。ほおが赤らんでいたようです。えへん……。

 これが、去年。エベレストをやっつけた、御年18歳のお姉さん。これが飛び級で“東大”理学部に既に在籍してるお姫様。そして、ベストセラー連発の愛の詩人。これが――

 怪物・吉田花子だったのでした。

 一般人にとっては殿上人(てんじょうびと)です。自然と、彼女に向かって低頭します。そして挨拶。直にお会いするのは、これが初めてのこと。緊張と感激でした。

「ありがとう」花子さんは気さくに頷いて、ついで蘭に顔を向けます。

「素敵な湖は、見つけられましたか?」心からの笑顔でした。

 再会できるとは全く思っていなかった蘭は、嬉しいサプライズにさっきから感激の顔で、うんうんと何度も頷いています。

「――ええ。それも毎朝!」

 みんな笑顔でした。まさかここで“一同”が勢ぞろいすることになるとは思ってもおらず、これは素晴らしい文太郎の演出だったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ