11 八日目。青森(9)
渚から熱い浜の上に戻って、ようやくに、二人は待ち構えていた“追跡者”と対峙したのでした。
それは、あの男でした――
顔面や胸板、腕や腿に、力を誇示した赤いペイントをほどこし。
同様に腹部には、ご先祖でしょうか、守護霊の尊顔。
肉食獣の毛皮の腰巻きを着け、頭部には猛禽類の羽飾りを纏い。
鋭い牙や白い角、そして宝石(三波石)をつる草でむすんだ首飾り。
足は皮サンダルでしっかりと固めて。
右手には、自身よりも長い、竹槍を携えた――
グンマー……。
そう、あの、グンマーの、誇り高き少年戦士だったのです。
忘れもしない、その精悍な面構え――
その顔つきが、ふと、眩しいものでも見たかのように、弱々しく緩んだのでありました。
気迫が薄れ、気づいてよく見ると、彼自身、少なからずのダメージを負っています。すぐに思い起こします。彼は、ナマハゲ軍団との戦闘からただ一人、からくも脱出に成功し、崩壊した城ヶ倉の千尋の谷をどうにかして渡り、恐らくは消えかかった二人の匂香を頼りに、徒歩にて、ここまで追いかけて来たのだと。
赤いペイントは汗や汚れで消えかかり。
あの立派だった腰巻き、羽根飾りは、ぼろぼろです。
首飾りも玉が大分にこぼれ落ち、よく見ると竹槍の先端も、四角い箱(?)がヒモで、かろうじてぶら下がっているだけです。
いえ、油断はしていません。なんたって、相手が相手ですから。
ですが必要以上に謙るつもりもありませんでした。
何たって、今からはぼくらは、彼らと対等、この世界の住民なのですから。生存をかけて競争するくらいの気概は、ぼくだって持ち合わせています。
加えて、ぼくらには旅人として、艱難辛苦を乗り越えてここにゴールしたのだという誇りがありました。ぼくたち二人は、これでも一丁前の人間なのです。
個人と個人、相手の、たかが単純な腕力に、平伏するつもりは毛頭なかったのでありました。
その気迫が出てしまったのでしょう。
「何のご用ですか?」
そのセリフに、しゃがれ声に、凄みが混ざってしまったことは否めません。
そして――
そして少年戦士が、フッ、と吹っ切れたような笑顔を見せたのでした。それはほんのひとときのことで――
すぐに真面目な顔つきに戻り――
彼は、右手の竹槍を、柄尻をそのまま砂にめり込ませて立たせると、自身は羽根飾りを外し、首飾りを取り、腰巻きを脱ぎ、皮サンダルすら取り払い、隠し武器はないことを、戦意がないことを示すように、手のひらをこちらに向ける形で、軽く両手を万歳させたのです。




