11 八日目。青森(8)
『キュルッ・キュルッ・キュルッ――』
ハッ!? と意識を取り戻します。突如、鳴り始めた、それは、パムホからの警告音。
いえ今回の場合は――
合浦公園海水浴場の海岸線から50m以内、すなわち、ゴールしたことを告げる通知音だったのでした。
白い、美しい砂浜に横倒れ――
のろのろと手を伸ばし、確認マークタッチにて音をオフします。
爆弾地震はすでに止んでいます。気を失っていた時間は数秒間だったはず――
そこまで意識を回復させ、そして、慌てて身を起こしたのでした。
そのままの勢いで、躊躇もなんにもなしに、天を見上げます。そこに見えたのは――
ブラジル、だったのでした。
すぐに、その形が滲み、歪みます――
「あは、あは、あははは――!?」
そうです、ここは、コンケーブランド――
フラットランドでは、ない。
現世では、ないのです!
この瞬間、行を襲った感情は、まさに筆舌に尽くしがたいものでした。
行の涙、それは、熱い、歓喜の涙だったのです。
期待に胸を膨らませ、鼓動を踊らせ、振り返るとまさに――
そこに、蘭がいます!
コン吉がいます! ケンケンがいます! 全員そろっています――!
みんな、みんな、喜びの涙顔だったのでした。
行は最後まで腰に巻き付いていたパムホの革ベルトを脱ぐと、砂浜に放ります。
同じくそうした蘭に手を伸ばします。
手をつないで、駆けて、二人して海に飛び込んで――
ひゃっこい、冷たい、わーわーきゃーきゃーと歓声をあげて――!
ああ!
水しぶきを掛け合い――
顔を洗って、また涙でグチャグチャに汚して――
そして――
そして行は激白したのでした。
「よかった! 本当によがっだ! ぼくだげがワープアウドじなぐで――!!!」
「わたし、赤ちゃんが欲しがっだの。一人だげじゃ寂じいがら。でも、赤ぢゃんが可哀想で。だから、だがら――」
あとはもう、号泣です。
いつしか寄り添い、互いに抱きしめ合い――
そこに夾雑物などなにもなく、ただ純粋な形だけがあり――
はじめて唇を重ねて――
――
「これからのことですが、考えがあるんです」
「どうぞ……」
「銀河鉄道に、乗ってみませんか?」
「素敵です。実は、わたしもそうしたいと思っていたのです」
「よかった」
「切符は買えるでしょうか。お金が足りるか、それだけが心配」
「神聖で特別な列車です。きっと、金高の多寡じゃない。所持金ぜんぶを差し出せる心があるか、が資格だと思うのです」
「案外、俗っぽかったりして」
「だったら、一等車両、遠慮なしにアンドロメダの彼方まで」
「ウフフ、行きましょう」
「行きましょう」
そうしてまた、固く、優しく、肌のぬくもりを確かめ合ったのでありました。




