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7話「いこいの水場」

 

 危なかった。もう少しで猟奇殺人事件が起こるところだった。

 俺が身を呈してオヤツを止めたのでなんとかなったが、そのせいで獣人から与えられたパンチの数倍には及ぶダメージをこの身で受け止めることになってしまった。

 

 「ほんとにごめんなさい!」

 

 「いいんだ、オヤツは俺のことを守ろうとしてくれたんだからな。ガフッ!」

 

 片足を引きずりながら噴水がある広場まで来た。全身がくまなく痛いや。これなら獣人のリンチを受けた方がまだマシだったかもな。でも、オヤツの攻撃だから耐えられたのかもしれない。愛があれば、人間なんとかなる。俺、いいこと言った。

 そうそう、俺は全身全霊を尽くして頑張ったわけだが、ビーストモードのオヤツを完全に抑え込むことなんてできるはずがない。あの獣人はボロ雑巾と化した。助けるとそれはそれでめんどくさそうなので、放置。多分、死んでない。はず。

 

 「あっはっはっは!もう、おなかがよじれる!くるしい!」

 

 「てめえはもっと反省しろ!」

 

 ヤコは未だに大爆笑中だ。そもそも、ヤコが獣人に弁解してくれればこんなことにはならなかったのだ。言葉は通じなくても、身ぶり手ぶりで獣人を止めることくらいできただろう。そうすれば、俺が変態野郎だという誤解だって解けたはずだ。え、誤解だって。

 噴水広場の近くに共同水場があった。井戸が数台設置されている。これを使わせてもらおう。俺は最後の力を振り絞って、井戸のポンプをキコキコと動かす。ああ、この疲労感。骨身にしみるぜ。

 

 「楽しそうですなのー!」

 

 「なんだレナ、やりたいのか?」

 

 「ですなのー!」

 

 レナの感性はよくわからん。しかし、やりたいのならやってもらおう。ちょうど俺の体力も限界に近付いていたところだし。そういえば、よく考えたらレナが今日のトラブルのすべての元凶だった気がするのだが……

 レナが張り切ってポンプを回してくれたおかげで、勢いよく水が飛び出した。

 

 「キクタくん、顔洗ってあげるよ!」

 

 「ん、頼む」

 

 血とか土とかで俺の顔面はひどいことになっているからな。

 オヤツが水をすくって、俺の顔を洗ってくれる。いやされるぅ~!

 

 「あたしも洗ってあげるわ。キクタ、こっち向きなさい!」

 

 「どういう風の吹きまわしだぶわっ!」

 

 ヤコがそんなわかりやすい親切をするなんてあるわけがない。案の定、ヤコの方を向いたら水をひっかけられた。

 

 「やりやがったなーい!お返しだ!うらっ!うらっ!」

 

 「やー、なにすんのよもー!」

 

 口では嫌がっているようなことを言っても、しっぽを振って喜んでいるヤコ。どうせスク水を着ているのだし、遠慮なく水を浴びせてやる。まったくこのツンデレは。

 

 「よーし、オヤツも体を洗わないとな」

 

 「そうだね。べたべたで気持ち悪いもん」

 

 オヤツは水を手にとって、その手で撫でつけるようにして洗っている。スク水を着ているのだから、もっと豪快に水の中に入って洗えばいいだろうに。

 

 「どうした、そんな洗い方してたら日が暮れるぞ?」

 

 「え?だ、大丈夫だよっ!これでいいんだよっ!」

 

 もしや、水に入るのが怖いのか?ペットの犬なんか風呂嫌いが多いって言うしな。俺は思いやり半分、悪戯心半分でオヤツを手伝ってやることにする。オヤツの背後に回り込み、わきの下に手を突っ込んでホールドする。

 

 「わあっ!キクタくんっ!なになに!?」

 

 「もっとちゃんと洗わないとダメだろ。スライムの粘液なんだから発疹とかできたら大変だ。さ、俺が洗ってやるからな!」

 

 「いいよっ!自分でできるから!」

 

 逃げ出そうとするオヤツを無理やり押して水に向かわせる。嫌々と首を振って拒絶している。ケモミミもぷるぷる震えているぞ。

 

 「ほら!おとなしくしろ!」

 

 「だ、だめっ!やめてよっ!あっ!あーーっ!」

 

 あ、あれなんだろう。俺はオヤツを水に入れさせようとしているだけなのに、なんでこんなに興奮しているんだ。変な声をあげるんじゃない!

 

 「もうだめ!これ以上はムリだよぉ……」

 

 「ま、まだいけるだろ!ハァハァ!ちょっとしか入ってないじゃないか!もっと入れるぞ!」

 

 「や、やめて、いやっ、だめえええ!!」

 

 まだ足しか水に浸かってない。もっと中まで……もっと中まで入らないと!断っておくがこれは全くいやらしいことではない。繰り返す、いやらしいことではない!

 

 「まって、キクタくん!洗ってもいいから、体の向きを変えさせて?」

 

 オヤツはそう言うと体を反転させ、俺と向かい合うような形になる。

 

 「ど、どうしたんだ?」

 

 「その……入れてもいいけど、キクタくんの顔を見ていた方が安心できるから……」

 

 俺、鼻血噴出。もう最後まで洗ってもいいよね?

 

 「あんたら……なにやってんのよおおおお!!」

 

 「ぶぼおおおっ!!」

 

 しかし、すんでのところでヤコがフライングドロップキックをかましてくれたおかげで、俺は正気にもどった。その代わり、開きかけていた鼻腔の古傷が全開し、ちょっとやばい量の鼻血がこぼれだす。

 

 「このヘンタイ!ロリコン!ペドフィリア!もうどうしようもないわね!あんた地球人じゃなくてロリコン星人でしょ!ロリコン星に帰りなさいよ!」

 

 ロリコン星……ちょっと、興味がある。

 

 * * *

 

 オヤツは自分で体を洗い終え、ぶるぶるっと体を震わせて、犬みたいに水滴を飛ばしている。俺はなんとか出血が止まり、ふらふらになりつつもなんとか歩ける程度には回復した。

 ふと、レナの方を見てみると、まだポンプを回している。まだ飽きないのか。水場には十分な水が溜まっているので、これ以上水を出し続けると無駄になる。

 

 「レナ、それくらいにしておけ」

 

 「やーですなのー!」

 

 いつまでもポンプから手を放さないレナを引き剥がして、水辺の段差に座らせる。レナも今日一日で汗をかいただろうし、軽く体を洗った方がすっきりするだろう。いや、他意はない。ほんとに。

 

 「ほら、きもちいいだろ?」

 

 「ですなのー……」

 

 ぱしゃぱしゃと水をかけてやると、水の冷たさが心地よいのかうっとりした表情でなごんでいる。そこで気づいたのだが、レナの足に土がついていた。足の裏を見ると、小さな砂粒がたくさんやわい肌に食い込んでいる。

 そういえば、こいつらずっと裸足で歩いていたんだ。ナチュラルに水着を着ていたから疑問に思わなかったが、足の裏の皮が分厚いわけではないのだ。裸足で土の上を歩けばそりゃ痛かっただろう。

 

 「足の裏が真っ赤になってるじゃないか。オヤツとヤコも、なんで言わなかったんだ?」

 

 オヤツのことだから俺に遠慮していたのだろう。でもヤコなら真っ先に不満を漏らすと思うのだが……はっ!よく考えたら、ヤコの奴、この街に来るまでの間ずっと俺の背中におぶさってやがった!なんてあくどい!

 

 「くすぐったいですわー!」

 

 「じっとしてろ」

 

 レナの足についた砂利を洗い流してやる。この白く柔らかい肌に食い込んだ砂粒が痛々しくてならない。一番に買ってやらないといけないものは靴だな。

 それにしてもレナの足はぷにぷにだな。こうやってさわっていると別世界に旅立てそうなくらい気持ちがいい。それに至近距離でレナの前にかがんでいるので、ぴっちりとした水着の局部とか、なだらかだかほんの少しふくらみがある胸部とかに自然と目がいってしまう。

 そして、レナの前でひざまずいて足を洗っているというこの図。な、なんだこの背徳感!嫌いじゃない自分が怖い。

 

 「あんたまた変態的なことを考えてるんじゃないでしょうね?」

 

 「ま、まさか!お前は疑いすぎなんだよ!よし、みんな洗い終わったみたいだし、そろそろ行くか」

 

 強引に話題を変えてバッドエンドを回避。これ以上、痛めつけられたらさすがにギャグじゃすまされなくなる。

 このままこいつらを歩かせたら、せっかく洗った足がまた砂まみれになる。俺はレナを抱きかかえた。

 

 「ですなのー!」

 

 「オヤツ、俺の背中に乗れ」

 

 「え、いいの?キクタくん重くない?」

 

 「お前ら軽いから大丈夫だ」

 

 俺の体は現界が近い状態だが、幼女のために力尽きるならそれもしかたない。もう少し頑張ってみようと言う気が起こるというものだ。

 

 「まちなさいよ!あたしはどこに乗ればいいのよ!」

 

 「ヤコは歩け。今までずっと俺の背中に乗ってたから疲れてないだろ?」

 

 「いやよ!あたしも乗せなさい!」

 

 「わっ、こら、ちょ、まて!」

 

 ヤコが俺の肩に飛び乗って来た。肩車する形でライドオン。やれやれ、まったくこのワガママお嬢様には困ったもんだ。でも、スク水で肩車は役得。幼女のふともも最高。

 

 「キクタくん、私降りようか?」

 

 「心配するな。今の俺は猛烈だ」

 

 胸にレナを抱き、背中にオヤツを背負い、肩にヤコを乗せると言う完璧な布陣だ。フル幼女装備。負ける気がしない。さすがに幼女三人の重さはこたえるが、俺はもうそんな次元を超越しているのかもしれない。体の奥底から力が湧いてくる。これが幼女力……!

 

 「ですなのー」

 

 レナが俺の口もとに手を伸ばしてきた。何事かと思っていると、口の端についていた血を拭ってくれたのだ。獣人に殴られたときに切れた口内の傷が、ヤコのドロップキックで開いたのだろう。

 レナは拭った指を、あろうことか自分の口に運んだ。俺の血をぺろりと舐め取る。

 

 「大好きですなのー」

 

 ああ、もう俺、ロリコンでいいや。

 

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