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5話「異世界のしくみ」

 

 俺たちは門の前の列から抜け出した。このまま門番の前まで行っても、通してもらえるとは思えない。通行料すら払う事が出来ないのだ。それどころか不審者扱いでもされたら目も当てられない。

 

 「はあ、これからどうすっかなあ」

 

 「門から入れないのなら、別の所から入ればいいじゃない」

 

 「それができたら苦労しねえよ」

 

 街は360度隙間なく高い塀で囲まれている。出入りできる場所はすべて見張りがついている。塀は道具があれば何とか登れるかもしれないというくらいの高さだ。仮に登れたとしても、とてつもなく目立つ。すぐに見つかってお縄にかかってしまう。

 

 「あたしの能力があれば簡単よ。“ワームホール”!」

 

 ヤコが塀の壁に手をついて能力を発動させる。すると、壁に黒い穴が開いた。

 

 「壁の向こうにホールをつなげたわ。これですり抜けられるはずよ」

 

 「わーい、さすがヤコちゃん!」

 

 「ですなのー」

 

 ドラえもんで言うところの通り抜けフープみたいなものか。これで街の中に入ることができる。

 オヤツとレナは真っ黒い穴の中へ飛び込んでく。しかし、便利とは言ってもなんだか怖いな。試しに穴に片手を入れてみると、ずぶずぶと何とも言えない生温かい感触がする。液体ではないが、気体でもない。その正体不明の感覚についしり込みしてしまう。

 

 「何やってんのよ、さっさと行くわよ」

 

 「ちょ、ま、待て、心の準備が!」

 

 ヤコに手を引っ張られて穴の中に引きずり込まれる。目をつぶって穴に飛び込むと、全身が重い空気に包まれるように感じる。そして、その感触は一瞬で後ろに流れ消え去って行く。

 

 「あ、あれ?」

 

 気がつくともう壁を抜けていた。何と言うかほんとに一瞬のことで拍子抜けしてしまう。もっと時空間のねじれでスパゲッティ化現象に巻き込まれるとか、歪んだ時計だらけの空間にでるとか起こると思ったのに。

 そして、壁を抜けた先は馬小屋だった。目の前にでっかい馬のケツがある。初めて見る本物の馬に驚きつつ、蹴られないように安全なところへ移動する。馬の方は案外、落ちついていて俺たちには興味なさそうだ。

 

 「そっか、よく考えたら壁の向こうに何があるか確かめてからワープするべきだったな」

 

 今回は偶然にも人のいない馬小屋の中に出てきてしまったが、もしワープした先が人通りの多い道だったりしたら騒ぎになるかもしれない。

 

 「わあ、おっきい動物だねー!これって、オウマサンって言うんだよね?」

 

 「ああ、お前たちのいた星にはいなかったのか?」

 

 「うん、いないよ。でも地球の動物のことは勉強してたからすぐわかったよ。えっへん!」

 

 オヤツが胸を張って答える。微笑ましいので頭を撫でて褒めてやった。ケモミミをぱたぱたさせて喜んでいる。うえ、手がねちょねちょ。

 

 「えへへー!」

 

 「なによ!あたしだってそれくらい知ってるわよ!あれでしょ、口から火を吐く動物のことでしょ?」

 

 「吐かねえよ」

 

 それはどんな生物だ。いや、そんな生物は地球上に存在しない。

 

 「ほら、はやく火ィ吐きなさいよ!ヒィー!」

 

 ヤコは馬に向かって罵声を浴びせる。しかし、怖いのか近づくことはできず、俺の手を握ったままだ。

 こんなところにいつまでも居たってしかたがない。俺は馬の尻尾を触ろうとしているレナを捕まえて小屋を出た。

 

 * * *

 

 冒険者都市ルガッツァはその名の通り、活発な喧騒あふれる街だった。

 広い道に出ると、さっきの門の前にもちらほらといた人間以外の様々なファンタジーの人種と出会う。いかつい野郎どもがやたらと目につくな。その反面、ビューティな女戦士さんの美しさが際立っているが。

 しかしさっきから視線を感じる。道行く人々から寄せられる明らかな好奇の目。やはり俺は変態ロリペド貴族に見えるのか。い、いや、頼む、せめて変態ロリペド紳士貴族にしてくれ!

 宇宙人どもはそんな視線などどこ吹く風と言わんばかりにはしゃぎまわって、露店を見て回っている。道の端に並ぶ露店には珍妙な品がたくさん目にかかる。食べ物を売る屋台が多く、いい匂いが空きっ腹にしみた。でも、お金がないので見るだけだ。

 

 「ねえねえ、キクタくん!あれ見て!フルーツがあるよ!」

 

 オヤツが指差す方向には、瓜っぽい形をした果物のジュースを売っていた。スイカみたいだけど、中身は真っ青。ジュースも見事なスカイブルー色。まるでブルーハワイだ。化学着色料とか使ってないよね?

 オヤツは何か期待のこもった目で俺を見詰めてくる。これはあれか、あのジュースが飲みたいんだな?上目使いの買ってぇ~攻撃だな。小さな子どもや金持ちに貢がせる女が使いこなすあの必殺技だな。

 

 「ごめんオヤツ、お金がないんだ」

 

 「あ、そっか……」

 

 さっきまでぶんぶん振っていた尻尾が垂れ、ケモミミをぺたんと伏せる。

 うおお……何と言う罪悪感!買ってあげたい!腹が破裂するまであの青々としたジュースを飲ませてやりたい!でも、今の俺はそんな小さな幸せも与えてやれないほど無力。ふがいない俺を許してくれ、オヤツ。

 

 「ちょっとキクタ、すごいもの見つけたわ!こっちに来て!」

 

 「だから、金はないと……」

 

 「いいから来なさいよ!」

 

 そこにやって来たヤコが俺を引っ張ってどこかに連れて行こうとする。ヤコは一度これが欲しいと決めたらいつまででもダダをこねるタイプのような気がする。

 めんどくさいことになりそうだなあと思っていたら、連れてこられた露店に置かれているものを見て驚いた。そこにはスライムの核から出てきたあのビー玉状の石がたくさんあった。

 

 「こ、これは何ですか!?」

 

 「woxzouamewoh?」

 

 「あ、レナ通訳頼む」

 

 「ですなのー」

 

 露店を開いている男は、なにがなんだかわからないといった風な顔をしている。レナに俺が言っていることを伝えてもらった。

 

 「あらーん、ボウヤどうしたの?おねえさんのお店にようこそ、んまっ!これが気になるのかしら?と言っていますのー」

 

 「嘘だよな、嘘だと言ってくれっ!」

 

 俺の見た限り、間違いなくこの人はノーマル。しぐさも全くそっちのけがある人には見えない。絶対おかしいってレナ。お前は俺をからかっているのか。

 

 「これは魔石といって、モンスターから採れるアイテムなのよ、と言っていますのー」

 

 露天商の話をまとめると、さっき戦ったスライムの他にも色々なモンスターがこの世界にはいるらしく、それらのすべてが体内にこのビー玉状の物体「魔石」を持っているのだという。魔石にはモンスターの魔力が蓄積されている。その力を使って、生活に役立つ道具となるらしい。

 魔石には属性がある。赤い魔石は炎、青い魔石は水、茶色い魔石は土、緑の魔石は風といったように色でわかる。赤魔石は火打石などの着火道具に使われ、青魔石は水の清浄化などに役立ち、茶魔石は土壌を肥やし、緑魔石は空気を清浄化したり心地よい風を生み出したりできる。その他にも魔石を単体で使うだけでなく、動力源に利用する二次魔法道具もあり、多種多様な使い道があるようだ。

 魔石にはランクがあって、ここで取り扱っているものは比較的質が悪いものらしい。

 

 「でも、低級魔石の方が消費量が多いのよ。庶民が使うのは小魔石から大魔石くらいのレベルね。それ以上の質の魔石は冒険者の装備品とか高価な魔法道具の材料や動力にされたりするから。だ、け、ど、なんでボウヤはこんな常識的なことを知らないのかしら?もしかしてどこかの貴族の箱入りおぼっちゃまだったりするの~?うふふ~、と言っていますのー」

 

 「まあ、ええ、ちょっと今まで人のいない山奥に住んでいたもので、知らないことが多いのです。ところで、この魔石はどうやったらたくさん手に入れられますかね?」

 

 「nxqio,ixrhuxbaqwixgbieu,imawhzabiyiwoc,naxwagyioxiobgavrserixniaw」

 

 「そうね、手っとり早くて安い方法は冒険者になってモンスターをダンジョンで狩りまくるのが一番よ。腕っ節に自信があればの話だけれど、と言っていますのー」

 

 この街は巨大ダンジョンの功罪半す影響で、モンスターから大量の資材が得られる半面、その調達には大きな危険がある。冒険者になればそれらの資材を入手しやすいのだ。そもそも、この街は冒険者のために作られた場所であり、出稼ぎに来たよそ者にそれ以外の仕事に就く余地はないらしい。

 魔石を集めることもしなければならないが、俺たちはここで生活の基盤を築く必要もあるのだ。お金を稼ぐためにも冒険者になるしかないかもな。

 

 「まどろっこしいわね。あたしの能力でこの店の商品を全部盗めばもっと早く集められるわ」

 

 「なんてことを考えてるんだ!お前をそんな娘に育てた覚えはない!」

 

 「育てられた覚えはないわ」

 

 確かにヤコが能力を使えば証拠も一切残らない完全犯罪の達成だ。しかし、万が一ばれれば俺たちはお尋ね者。それ以前の問題として倫理的にアウトだ。

 

 「akuaebimxfuae,owhabiuwawooimですなのー」

 

 「kiawiuxway?hahahaha!oqexabxyieasuriabdheiu“asuta”」

 

 「泥棒するですって?おっほっほっほ!そんなことしたら正義神アスタ様の神罰を受けるわよ、と言っていますのー」

 

 しかも、レナの奴、馬鹿正直にヤコの犯行予告を露天商の男に通訳しやがった。露天商は本当にするとは思っていないのか、笑い飛ばしてくれている。まあ、本人の前で暴露するような泥棒はいないよな。

 聞きたいことは聞けたし、これ以上ヤコが余計なことを言う前に退散することにしよう。

 

 「また来てねボウヤ、待ってるわよ、と言っていますのー」

 

 「は、はい、また今度」

 

 * * *

 

 「何を慌ててるのよ。あたしの言うとおりじゃない」

 

 「どこがだ。盗みなんかさせられるわけないだろ」

 

 露店から離れたところでヤコに説教する。宇宙人の倫理観念は地球人のそれとは異なるのだろうか。でも、オヤツはいい子そうだし。

 

 「オヤツも盗みはよくないと思うよな?」

 

 「そうだよ!地球人のことわざにもあるよ、『キツツキは泥棒のはじまり』って。ヤコちゃん、キツツキサンになっちゃうよ?」

 

 「うん、オヤツ少し黙れ」

 

 しまった、あまりに低レベルなボケに突っ込むより先に叱ってしまった。オヤツはきょとんとした顔をしている。ま、いっか。

 

 「うるさいわね、エネルギーさえ手に入ればこんな並行宇宙からはすぐに脱出できるんだから、盗もうが何しようが勝手でしょ」

 

 「それは不可能ですなのー。正義神アスタの神罰がくだりますのー」

 

 珍しくレナが意見してきた。どうでもいいけど、レナって怪しい宗教を信仰していそう。意味不明な儀式を毎日繰り広げていそう。と思うのは俺だけか。

 

 「神なんているわけ……え?まさか、そういう仕様?」

 

 「そういうプログラムになっていますのー」

 

 どういうこと?

 

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