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4話「都市」 

 

 「おい、オヤツ!俺のズボンで顔拭いただろ!」

 

 「ご、ごめーん、鼻がむずむずして我慢できなかったんだよ~!」

 

 ズボンがスライムの粘液でねちょねちょになってやがる。人の服をハンカチ代わりにしやがって!

 俺たちは道なりに歩いてきた。来る途中、スライムがいないか探してみたが、あれから一度も姿を見せない。こんな調子じゃ、一万匹討伐の夢は遠い。遠すぎる。まあ、スライムが出たら出たで、またオヤツに倒してもらわなければならないので問題がある。

 これは別の手段を考えた方がよさそうだな。

 

 「あっ、何か見えてきたよ!」

 

 「おお!」

 

 なだらかな丘の向こうに建造物が見えた。あれは人間が建てたものだろう。え、人間だよね?まさか、この惑星の住人はスライムでスライム文明が築かれているとか、おかしなことになっていないよね?

 その建造物は壁だった。石造りの高い壁で、まるで要塞みたいだ。万里の長城みたく、長く続いている。そして、俺の不安は杞憂だったようで、ちゃんと人が出入りしているようだ。

 壁に作られた大きな門の前に長蛇の列ができている。あそこで出入りが規制されているらしい。門は三つあった。一つは馬車が並んでおり、一つはたくさんの人が並んでいる。そしてもう一つの門はあまり人がおらず、ほとんど素通りできそうなくらい空いている。

 そして、近づいてみてわかったことがあった。まず、服装。みんな中世のヨーロッパみたいな格好だ。粗末とは言わないまでも古風な服を着ていたり、ものものしい鎧と武器を装備していたりと様々。それと人間の中に、獣の耳とか獣の尻尾がついている人がいた。宇宙人ではないことを切に願う。あと、エルフっぽい人もいる。あれはドワーフだろうか。余裕で身長が2メートルを超えていそうな筋肉ムキムキ男もいる。まるで映画を見ているようだ。

 ここは随分、ファンタジーチックな世界のようだ。まるっきり小説とか漫画とかゲームみたいじゃないか。

 

 「なあ、あれ、近づいていいと思うか?」

 

 「いいと思うよ?たぶん」

 

 オヤツがいいと言ったから信じる。もし、トラブルが起こってもオヤツがなんとかしてくれるさ。

 俺は三つある門のうち、人がずらりと並んでいる列の最後尾についた。馬車の列は馬車しかいないので、個人が並ぶ感じではなかったし、ガラガラの門はなんか怖いからパス。VIP専用とかだったら怒られそうだもの。

 

 「すいません、ここいいですか?」

 

 「nfweo!? mdixqo,dewide」

 

 俺は日本人のデフォルトモードである低姿勢で、列の最後に立っていた人へ話しかける。その人はチュニックを来た人の良さそうな男性だ。なんかアングロサクソン系の顔立ちだな。異世界の住人は西洋人よろしく体格が立派だ。俺は学校のクラスの中ではそこそこ背が高い方だったが、ここでは平均くらいの身長だろうか。

そして、恐れていた事態発生。言葉が通じない。ここは異世界だった。そうだった。

 俺が話しかけると、男性は少し驚いていた。確かにスク水ケモミミ幼女を三体も引き連れていたら驚かない方がおかしいよな。

 

 「ハ、ハロー!ナイスチューミチュー!」

 

 「jqiehoz? Moemiuwmqzeuwoqienuu」


 英語じゃないね。異世界語なんて話せないぞ。海外旅行にすら行ったことがない俺が、まさか異世界人との言葉の壁に四苦八苦することになろうとは。

 身振り手振りでコミュニケーションを図ろうとする俺を見て、異世界人さんも困り顔だ。

 

 「レナちゃん、なんて言ってるかわかる?」

 

 「……ですなのー」

 

 俺がボディランゲージをフル活用している横で、レナが瞑想に入り始めた。そうか、レナはテレパシーが使えるんだった。それを使えば言葉の壁を越えて話ができる。

 

 「言語コード解読

 >XXXXXXX

 アクセス

 >XXXXXXX

 認証完了」

 

 おお、なんか厨二っぽい。これはいけるんじゃないか。

 

 「では、通訳しますー」

 

 レナが通訳してくれるようだ。考えてみたらいきなり初対面の人にテレパシー使って話しかけたらびっくりするよな。異世界人がみんなニュータイプでない限り、通訳した方が自然だろう。

 

 「えっと、つかぬことをお聞きしますが、ここは街ですか?」

 

 「Ojehoz,kaiouenuioci? ですなのー」

 

 俺が言った言葉をレナが訳して男性に伝える。男性はこちらの意図を察してくれたようだ。ほっとした表情で返事をしてくれる。

 

 「eo,dfeicoewoomfoeo,“rugattua”mneoawomwi」

 

 「よう坊主、ここは冒険者都市ルガッツァですなのー。ガキはおよびじゃねえファッキン、と言っていますのー」

 

 「嘘つくな!ちゃんと訳せ!」

 

 絶対そんなこと言ってないだろ。こんないい人そうな笑みを浮かべる青年が、そんな毒づき方していたら、俺はすぐに人間不信になれる自信がある。

 

 「joawuhau,kdoauaowouhdbz?」

 

 「なんでこんな常識も知らないんだ?アホかおめーは、と言っていますのー」

 

 「そ、その、色々ありまして。ははは……」

 

 レナの荒くれ者口調パッジで解読された翻訳はこの際、無視しよう。男性は不思議そうな顔をしている。そりゃこれだけ大きな都市なんだし、こっちの世界の人にとっては常識的な知識だったのだろう。多少、変な人に見られてしまうかもしれないが、さりげなく最低限の情報は集めておきたい。知らぬ間に文化の相違から異世界の恐ろしい洗礼を受けるはめになんてなりたくない。

 それと関係ないが、レナはちゃんと俺の言葉を正確に訳してくれているのだろうか。もしかして俺の訳にも荒くれパッジを当てていないか!?頼むぞマジで。

 

 「冒険者都市ですか。俺は遠くから来た田舎者なので、この辺りのことはよく知らなくて。よろしければ教えていただけませんか?」

 

 「houaowiuwamowhoaowou」

 

 「まったくケツの青い小僧が一丁前に言いやがるなですなのー。しかたねーから教えてやるよ、と言っていますのー」

 

 「レナ、後でゲンコツな」

 

 「いやですなのー!」

 

 この男性、マルクさんは俺のような怪しい素性の者に、特に詮索もすることなく快く答えてくれた。見た目通りのいい人だ。

 ルガッツァはこの時代の文明からすればかなり大規模な百万人都市である。この国は僭主政をとっているが、ルガッツァは自治区として権力がある程度独立しているらしい。この街は内部に「地下迷宮ダンジョン」という場所があり、独自の発展をとげてきたという。

 ダンジョンとは、邪神の力が満ちる特定の場所のことを言う。ダンジョンでは次から次へと邪神の眷族である魔物が生み出される。そう言った場所は、魔物をあらかた駆除した後、専門の神官が邪神の力を浄化することで正常にもどせるらしい。しかし、この街の地下には巨大な古代遺跡があり、その場所がダンジョン化している。そのとてつもない大きさから浄化が不可能なのだ。

 ダンジョンを放置しておけば、生み出された魔物の軍勢があふれかえってしまう。それを防ぐために、人々はダンジョンの中に入って増え続ける魔物を駆除していかなければならなかった。そういった魔物退治人たちがこの地に集まり、街として発展していったそうだ。今では魔物狩りを生業とする者を冒険者と呼ぶ。冒険者が魔物を倒して手に入る戦利品によって、この街の経済は大いに潤っている。

 

 「だから、この街にいる人は冒険者が多いですなのー。むしろ、冒険者でない者の方が少ないですなのー。わかったか青二才が、と言っていますわー」

 

 「へえ、そうなんですか」

 

 魔物退治は金になる。一攫千金を夢見てこの街を訪れる者は多い。ここには腕っ節に自信がある冒険者が集まっている。だが、それは命の危険を伴うハイリスクハイリターンな仕事だ。ちなみに、マルクさんも冒険者志望らしい。

 

 「ところで、てめえは貴族かなにかか、と言っていますのー」

 

 「へ?」

 

 「ガキのくせにいい服着てんじゃねえかですわー。奴隷を三人も連れているし。貴族階級なら順番待ちしなくてもあっちの門から入れるぜ、と言っていますのー」

 

 そう言って、マルクさんは人が空いている門の方を指さす。

 確かに、俺が着ている学生服はマルクさんたちの物と比べて遥かに高水準の技術で作られているから豪華に見える。それはわかるが、どうしてこの幼女たちが奴隷に見えるんだ?

 

 「ちょっと、人を奴隷呼ばわりするとは失礼ね!これだからローテクの野蛮人はむぐうっ!」

 

 「お前は少し黙ってなさい」

 

 ヤコの口をふさぐ。後、どうしてこいつは未だに俺の背中におんぶされたままなんだ。

 

 「もうスライムはいなんだから大丈夫だろ。さっさと背中から降りろ」

 

 「いいじゃない。歩くの疲れるからこのままで。あんたもあたしの役に立てて本望でしょ」

 

 「なんお前はそんなに偉そうなんだよ!?」

 

 でもまあ、スク水幼女のぴっちりとしたやわらかい体が俺の背中に当たる感覚は何とも言えないというか。こいつに押しつけられるほどの胸はないが、それでも女の子の体はどこもかしこもやわらかい。それに、さりげなく後ろに回した手で脚をさわれるし、背後から香るフローラルな匂いもまた……

 そんなことを考えていると、ヤコに頭を殴られた。

 

 「いてえっ!なにすんだよ!」

 

 「あんた今スケベなこと考えたでしょ!」

 

 「い、言いがかりだ!なぜそんなことがわかる!?」

 

 「あんたのそのスケベ面見てたら、テレパシーなんか使わなくても一発でわかるわ!」

 

 マルクさんは俺らのやりとりを見て苦笑いしている。

 

 「私たちはドレイじゃないんだよ」

 

 「nizo,buwnxhaomwn,waopcuwubys,vziwiaoczoiehl」

 

 「そうみたいだなですわー。だが、この街にはお前らみたいな獣人の奴隷はたくさんいるんだよですわー。そんなビッチ腐った成りしてると、主人の悪趣味に付き合わされる雌奴隷にみえるぜ、と言っていますわー」

 

 今、俺はスク水ロリっ娘奴隷を三体も従える変態ロリペド貴族に見えているのか。ガッデム!

 

 「おい、オヤツ。お前らそれ以外のまともな服は持ってないのか?」

 

 「このサイバーナノテックニュートリノ繊維宇宙服はとっても丈夫で、超フッ素コーティングが汚れも全部はじいて清潔に保ってくれるスグレモノなんだよ。宇宙活動ではこの服装が一般的なの。これ以外の服はもってないよ」

 

 いや、いくら頑丈でも問題ありすぎだろ。腕とか脚とか露出してるじゃん。宇宙空間でそんな格好したら紫外線モロに浴びるぞ。スペースデブリが飛んできたらどうする?酸素は?

 とにかく、こいつらの服をなんとかしないとな。街に入ったら買おう。

 でも検問で絶対、素性を聞かれるよな。どういうふうに答えよう?いっそ幼女どもは奴隷ということにしてしまおうか。マルクさんの話だと、人が空いている方の門はこの街の住民や滞在者、特定の身分がある人が優先して使える門で、通行証を見せれば素通りできるらしい。しかし、初めてここに来た人はそういうわけにはいかず、門前で身分証がチェックされ、簡単な尋問を受けなければならないそうだ。

 この世界の身分証なんて持ってないし、正直に素性を明かせるはずもない。俺は異世界からやって来たごく普通の男子高校生、菊田!そしてこの幼女三人組は宇宙人だ、よろしく!とかいったら頭が可哀そうな人扱いされること請け合いだ。

 

 「それと、一人当たり100ゴールドの通行料を取られるぜ、と言っていますわー」

 

 あ、お金もってないや。

 何から何まで致命的に不足していた。

 

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