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2話「異世界トリップ」

 

 はたして、ごく普通の生活を送っていた一般的男子高校生が、ある日突然コンビニで謎のコスプレ幼女三人組に拉致られ、その空飛ぶUFOが事故を起こして巻き込まれる、という経験をする確率とはいかほどのものか。天文学的な確率だろう。しかし、俺はその奇跡的な運命というものに出会ってしまった。

 ただの日常にそんなことは起こり得ない。だとすれば、今俺は、人知を超えた境遇の中にいるのではないか。ただの高校生にここまで派手なドッキリを仕掛ける意味がわからないし、ただの幼女が空飛ぶ円盤に俺を拉致る意味もわからない。そして、そんな幼女が現実社会にいるだろうか。いるわけがない。つまり、あれはただの幼女じゃない。

 俺は、奴らが宇宙人であるという仮説を信じ始めていた。

 

 * * *

 

 二度目の起床。激しく気持ちが悪い。

 UFOの中は照明が消えて真っ暗になっていた。依然として、俺の手足は拘束されたままだ。なんとか空中分解せずに不時着できたのだろうか。

 

 「おおーい、大丈夫か!」

 

 込み上げてくる吐き気をこらえて幼女たちに声をかける。すると、がさごそと音が聞こえた。どうやら死んではいないようだ。

 

 「あいたたた……ふいー、何があったの?事故?」

 

 「あれだけ派手に転がり回ってたのによく無事だったな」

 

 「それはこの特殊繊維ボディスーツのおかげだよ」

 

 なんでもあのスク水はサイバーナノテックニュートリノ繊維という科学雑誌に載っている単語を羅列しただけのような意味不明の素材で作られており、あらゆる宇宙の環境下に対応できる夢の宇宙服なのだそうだ。

 

 「ヤコレダッテッパノトネーロッポ!ヤコレダッテッパノトネーロッポ!」

 

 幼女は突然、解読不能の謎の言葉を口走る。宇宙語か?

 

 「う、うーん……」

 

 「よかった、無事だったんだ、ヤコレダッテッパノトネーロッポ」

 

 「それ名前かよ!」

 

 なんだその早口言葉みたいな名前は。三回連続で言ってみろ。

 

 「ですなのー」

 

 「レナイトマヤメラパエラナイカッビセンも大丈夫みたいだね」

 

 ごめん、俺は一回すらまともに発音できる自信がない。

 

 「一体、何が起きたんだ?」

 

 「まって、今調べるから……どうやらレベル5の局所的次元断層が発生し、シップがそれに巻き込まれたみたいね。次元的環境操作管理外宇宙でこのレベルのカオスが偶発的に発生する可能性なんて考えにくいんだけど……」

 

 「もっとわかりやすくプリーズ」

 

 「つまり、並行宇宙に迷い込んだってこと。ありていに言えば、異世界ってとこかしら」

 

 SFの次はファンタジーかよ。もうついて行けん。

 

 「幸いにもこのシップは次元断裂空間も移動可能な設計になっていたわ。でも、プロテクトフィールドも張らずにいきなり投げ出されたものだから、破損が激しい。動力機関がやられたかもしれないわ。ちょっと見てくる」

 

 そう言って、幼女の一人がUFO、彼女たちに言わせればシップの状態を調べるために奥の部屋に行ってしまう。でも、真っ暗だから実際どうなってんのかわからないんだけどな。

 

 「なあ、俺はこれからどうなるんだ?」

 

 「そうだね、ひとまずシップがすぐに修理可能な状態だったら、ちゃっちゃと直して元の世界に帰れるよ」

 

 「もし、直せなかったら?」

 

 「最悪の場合……シップが修理不可能なほど破損していたときは、その、帰れないかも……」

 

 そうか、つまりこれと言った非行に走ることもなく真っ当な人生を歩んできたただの平凡な男子高校生は、ある日突然UFOでさらわれて宇宙人と一緒に異世界旅行を楽しむわけだ。あっはっは、そいつは最高だな。

 

 「ふざけんな」

 

 「え?」

 

 「いきなり拉致まがいのことしておいて帰れませんだと?お前、何様だよ。宇宙人サマか?いいからとっとと俺をあの平凡な日常に返しやがれ。こんな茶番、おなかいっぱいだ。これドッキリなんだろ?もう十分いい絵撮れたじゃねえか。なあ!」

 

 「ど、ドッキリじゃないよ?現実だよ」

 

 「うるせえっ!」

 

 俺は手足をばたつかせて拘束を振りほどこうとする。

 

 「はやく解けよ!どうせ、この胡散臭いUFOだってお芝居のセットなんだろ!?外に出たら収録スタジオとかで、テレビカメラが囲んでて、はいはいドッキリおつかれさんってなるんだろうが!」

 

 「違うよ!ほんとにここは異世界で……」

 

 「異世界だと?百歩譲ってお前らが本物の宇宙人で、ここが本当に異世界だったとしよう。で、元の世界には帰れませんってか?俺はただ巻き込まれただけなんだぞ!どう責任とってくれるんだよ!」

 

 「だ、だって、私だってこんなことになるなんて知らなくて、うくっ、どうしたいいか、ぐすっ、う、うわああああん!」

 

 幼女が泣き出してしまった。その声を聞いて頭が一気に冷えた。

 何やってんだ俺。もし本当にここが異世界で帰る手段がないのだとしたら、この幼女たちだって俺と同じ境遇ってことになる。帰れないという不安は同じなのだ。仮にも相手は小さな子ども。自分勝手に一方的な主張をぶつけていい相手じゃない。

 

 「す、すまん!言いすぎた!」

 

 「びえーん!」

 

 「ですわー」

 

 どうしたらいいんだ。俺も泣きたい。

 

 「ちょっと、なに騒いでるのよ!」

 

 「ちぎゅうじんがいじめたのおお!!びえーん!」

 

 「なんですって……!」

 

 騒ぎを聞きつけて、シップを調べに行った幼女が帰ってきた。そして、俺の鳩尾にきまるかかと落とし。ぐほおっ!

 

 「ま、まって、真っ暗で全然見えないから対処できないんだ。不意打ちの攻撃はやめてね!」

 

 「自業自得よ!カソレケテニツモオヤツハールを泣かしたんだから、これくらいの罰は受けて当然だわ」

 

 反論できん。甘んじて受け入れよう。

 

 「大丈夫よ、カソレケテニツモオヤツハール。シップに致命的な損傷はなかったわ」

 

 「えぐっ、えぐっ、ほんと?じゃあ、かえれるの?」

 

 「今すぐに、というわけにはいかないわね。メインエンジンが一部破損していたわ。修理は可能だけど、問題はエネルギーがかなり漏洩してしまったことね。予備のバッテリーじゃ時空間移動できるだけの余裕はないわ。この世界の惑星で代替できるエネルギーを探さないと……」

 

 俺たちは今、並行宇宙のとある惑星に不時着しているらしい。この惑星は不思議なことに地球とほとんど類似した環境にあるらしい。空気中の成分も地球と変わらず、屋外での活動もできるということだ。

 シップは時空断裂とかいうSFチックな空間にとりこまれたせいで、燃料が漏れだしてしまったらしい。帰るためには不足した分の燃料が必要だ。

 

 「まず、これからの方針だけど、一番にしなければならないことは代替エネルギーの探索。そして、この惑星の文明レベルを調査し、敵対生物を判断、生活のための拠点を作らないといけないわ」

 

 「そうだね」

 

 「ですなのー」

 

 「ひとまず、食糧については問題ないわね」

 

 そう言って、俺の肩が叩かれる。って、俺!?

 

 「俺を食う気じゃないだろうな!?」

 

 「食う気満々に決まってんでしょうが。この地球と類似した惑星の環境から見て、おそらくダイオカシスキン成分は存在していないはず。つまり、あたしらにとって、あんたが唯一の食糧ということになるのよ」

 

 「おなかすきましたわー」

 

 こいつらの心配をした俺が馬鹿だった。

 

 「安心しなさい。貴重な食料を使い捨てる気はないわ。ちょっとずつじわじわと骨までしゃぶりつくしてあげるわ。じゅるり」

 

 「なんでだよ!?俺たち仲間だろ!これから一緒に協力して暮らしていこうじゃないか!ね?お願いだから!」

 

 「それにしてもここ暗いわね。あんたライトとか持ってないの?おっ、携帯があるじゃない!」

 

 勝手に俺のポケットをまさぐる幼女。ズボンのポケットはやめて、あふん!

 幼女は携帯のライトをつけた。急に明るくなってまぶしい。

 

 「地球のシケた科学技術も少しは役に立つわね。メールボックスチェック」

 

 「やめろよおお!!」

 

 俺のさびしい交友関係が明るみに出てしまう!

 

 * * *

 

 「ま、並行宇宙の惑星なんてどんなバケモノが生息しているかわからないし、一人くらい小間使いの奴隷がいた方がいいかもね」

 

 結局、俺は奴隷という立場に落ちついた。奴隷の首輪という代物を首にとりつけられて、手足の拘束を解かれる。この首輪をつけている限り、幼女たちの命令に逆らうことができないらしい。うそくさ。

 

 「逃げようとしても無駄だからね。その首輪から電撃がでてお仕置きされちゃうから」

 

 「今さら逃げたりなんかしねーよ」

 

 この幼女たちの保護者として、俺もついてやらなければならないだろう。面倒くさいやつらだが、悪人には見えない。正直な話、異世界探検なんて俺も不安だ。幼女でもいいから仲間が欲しいというのが本音なのかもしれないが。

 シップの外に出ると、さんさんと輝く太陽の光に迎えられた。ここは広い草原のようだ。見たところ、地球の風景と何も変わりない。空が紫色をしているとか、太陽が二個あるとか、地面がスポンジ状だとか、重力が小さくて大跳躍できそうだとか、そんなことはなかった。

 

 「まず最初に、確認しておきたいことがある」

 

 俺は幼女たちに告げる。彼女たちはきょとんとした目で俺を見詰めた。

 

 「自己紹介がまだだ」

 

 「そういえばそうだったね!私の名前はカソレケテニツモオヤツハールだよ」

 

 黄色の髪をした幼女だ。俺がさっき泣かした奴である。活発で元気そうな性格をしているな。それに素直そうだ。この三人組の中では、最も俺の話をわかってくれそうな気がする。

 それにしても名前が長い。なんか途中にオヤツって聞こえたな。オヤツでいいや。

 

 「あたしはヤコレダッテッパノトネーロッポよ」

 

 次は赤い髪の幼女。こいつはなんか性格がツンツンしている。頭はなんとなく良さそうだけど、生意気なところが鼻につくな。俺のことを奴隷扱いするし。

 呼び方は……ヤコでいいか。

 

 「レナイトマヤメラパエラナイカッビセンですなのー」

 

 最後に緑色の髪の幼女。こいつの性格は一番わけがわからない。「ですなのー」が口癖なのか。ろくに会話が成立しないんだよな。地球人である俺にはさっぱり理解できない奴だ。

 呼び方はレナで。

 

 「よし、オヤツにヤコにレナだな。覚えたぞ」

 

 「ちょっと待ちなさい!ヤコってもしかしてあたしのこと!?なんで略すのよ!」

 

 「オヤツはひどいよ~」

 

 「ですなのー」

 

 「異論は認めん!俺の名前は菊田だ。ここが異世界だなんて未だに信じきれていないが、お前らを放っておくことはできないからな。年長者として、保護者としてありたいと思っている。よろしく!」

 

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