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16話「未知との遭遇リターンズ」

 

 「と、いうわけで、今日はこの平原でモンスターを狩るぞ!」

 

 「「「おー」」」

 

 翌朝、朝食をもって、ついに食糧が尽きた。もう、一食分も残っていない。近くの森に入って、食べられそうな物を探そうと思う。ついでにモンスター退治だ。俺はハンマーを構え、幼女たちを率いて森へ向かった。

 前衛、俺とオヤツ。後衛、ヤコ。支援、レナ。完璧な布陣だ。

 

 「はいほー、はいほー♪」

 

 「草がチクチクするわ。おぶって」

 

 「スライム発見ですなのー」

 

 「はいはい、わかったから……」

 

 宇宙人たちは今日も元気だ。まるで小学校の引率の先生だな。もとの世界に帰ったら、教職を目指してみるのもいいかもしれん。保育園の職員とかもいいな。

 ん、あれ?今、レナが何か重要なことを言ったような……

 

 「プギャアアアッ!!」

 

 「ス、スライムじゃねえかよ!?」

 

 森に足を踏み入れた途端に、あの因縁のモンスターと再会とは、運がいいのか悪いのか。

 

 「だが、ここで会ったが百年目だ!俺のハンマーでオダブツに……」

 

 できそうにないな。こういう敵に打撃は効かないのがセオリーだ。考えているうちにもスライムはこちらに迫ってくる。

 

 「しかたない。俺が注意を惹きつける。その隙にヤコ、お前が魔法で仕留めるんだ!」

 

 「無理」

 

 「なじぇだぁ!?」

 

 早くもリーダーの命令無視!?離反フラグなんてなかったはずだろ!

 

 「魔力がないから一発も打てないわよ」

 

 「そうだったああ!!じゃ、気合いでなんとかしんさい!」

 

 「気合いでなんとかなるんだったら、あんたがやりなさいよ。そのハンマーで」

 

 「できるか!このままではスライムにやられてしまう。お前はあのスライムの餌食になってもいいのか!?」

 

 「そ、それはいやだけど……」

 

 スライムに襲われて全身をくまなくまさぐられ、べとべとの粘液だらけにされてもいいのか。いい……のか?いや、それも悪くない気が……

 

 「近づいてますなのー」

 

 敵は軟体生物のくせに俊敏な動きでこちらに接近している。まずい。モンスター遭遇二度目にしてまたもやピンチ。このままでは一巻の終わりだ。

 

 「キクタくん、ここは私に任せて!」

 

 「まて、オヤツ!お前まさかあの力を開放する気か!?」

 

 「……後のことはお願い」

 

 「やめろ、オヤツ!そんなことをしたら、お前は」

 

 「“リフューザル”」

 

 「オヤアアアアツ!」

 

 真・狂鬼オヤツ、覚醒。

 

 「おらあああああ!!」

 

 手足を発光させたオヤツが地を駆ける。電光石火の速度でスライムの後ろに回り込んだ。そして、両手でスライムを左右からはさみ込むようにつかむ。

 

 「おぉーーーらっ!」

 

 ズバアッ!

 

 「プギャッ!?」

 

 その手が紙を引きちぎるかの如く、スライムを両断した。くす玉を割ったみたいにきれいに真っ二つに分かれ、核がぽとりと飛び出す。一瞬にして絶命。お悔やみ申し上げます。

 

 「もらっもらああ!!」

 

 そしてお食事タイム。これが弱肉強食だと言わんばかりのワイルドな食いっぷり。いかん、やめさせねば。

 

 「オヤツ、正気にもどるんだ!」

 

 「おらあああっ!」

 

 「ぎゃふうっ!?」

 

 後ろ脚で蹴りあげを食らい、吹っ飛ぶ俺。ああ、人間って、空を飛べるのか。

 短い飛行体験はすぐに終わりをつげ、地上に激痛と共に帰還。転げまわる。こんなことで立派な冒険者になれるのだろうか。不安だ。

 

 * * *

 

 「うえーん! べとべとー!」

 

 暴走モードから解けたオヤツは体中ネトネトだ。タオルがないので、俺の布の服にすりつけてくる。まったくオヤツのやつ、俺の腰に抱きついて体をすりすりしてきやがって……はぁはぁ!

 

 「なに気持ち悪い顔してんのよ!」

 

 「ぎゃぷぃっ!」

 

 ヤコが投げた魔道書が俺の顔面にクリティカルヒット。そんな使い方をさせるために買ったつもりはないぞ、このやろう。

 

 「と、それはともかく、反省会だ」

 

 「反省会?」

 

 「そうだ。今の戦いを見てわかっただろ。俺たちのダメダメさが」

 

 俺たちはシップの燃料調達のために魔石を集めなければならない。そのためにはモンスターと戦う必要があり、戦う力がなくてはならないのだ。

 しかし現状、スライム一匹にいろんな意味で苦戦する有様だ。チームワークは最悪。かろうじてオヤツに抜きん出た戦闘力があるが、理性がなくなるという欠点もある。

 

 「戦闘はオヤツに全部任せればいいんじゃない?」

 

 「最終的には全員が協力した方が効率的に対処できるだろうけど……」

 

 弱いモンスターなら一対一で戦って勝てるくらいの戦力が全員に欲しい。だが、今のところそれは無理かもしれない。

 そう考えると、やはりオヤツに頼るしかないのか。

 

 「うんっ!私がいっぱい戦うよ!」

 

 オヤツの野生の本能さえ発動しなければ頼もしいのだが。

 

 「オヤツ、あのバーサーカー状態を抑えることはできないのか?」

 

 「うーん……たくさん練習すればできるかもしれないけど……」

 

 慣れるしかないか。ならば、まず第一の目標として戦闘中のオヤツの感情コントロールを目指そう。オヤツがきちんと自我を保った上で戦うことができるようになれば、大幅な戦力アップとなる。いや、もはや戦国オヤツ無双の幕開けだ。余裕で天下が取れるぜ。

 

 「よし、そうと決まればさっそく特訓だ!オヤツ、俺についてこい!」

 

 「わーい!」

 

 * * *

 

 特訓開始。

 1戦目。オヤツVSスライム。

 

 「おらっあああ!」

 

 決まり手、袈裟切りチョップ。ナイフのように研ぎ澄まされたオヤツの手刀がスライムを一刀両断。まるで、深夜テレ通の万能包丁がごとき切れ味だ。

 2戦目。オヤツVSなんか赤いスライム。

 

 「おらっおららああ!」

 

 決まり手、ペンデュラム・バックブリーカー。オヤツの片手が軽々とスライムを脇に抱える。そして、スライムの触手をもう一方の手でやさしく押し上げたかと思うと、そこから自分の膝頭目がけて一気にスライムを叩きつける。え、スライムの腰はどこだ?さあな。

 3戦目。オヤツVSなんか青いスライム

 

 「おらあああっ、あっ!」

 

 決まり手、投げ捨て式ドラゴン・スープレックス。スライムの後方から羽交い締め、そしてそこからの反り投げ、投げっぱなして叩きつけられたスライムが衝撃ではじけ飛ぶ。。これでスライムの頸椎はズタズタだ!え、スライムの首はどこだ?さあな。

 4戦目。オヤツVS赤青マーブルスライム

 

 「おららららっ! おらーっ!」

 

 決まり手、ツームストーン・パイルドライバー。オヤツが横一線に手を振るうだけでスライムの体が浮き上がり、上下逆さまの状態に。そして、頭部を股の間に挟む。オヤツの太ももに挟み込まれるという天国からの、脳天杭打ち!頭から地面に衝突したスライムは破裂。

 5戦目。オヤツVS紫スライム。

 

 「行くぞ、オヤツ!」

 

 「おらっ!」

 

 決まり手、ダブル・インパクト(合体技)。俺がスライムを肩車したところに、オヤツが近くの木の上から飛び上がり、ダイビング・ラリアットを食らわせる!後方に投げ捨てるまでもなく、スライムは雲散霧消した。

 そして、オヤツの捕食タイムへ。

 

 「もらああああ!」

 

 「それはダメえええ!」

 

 * * *

 

 結局、オヤツの暴走を止めることはできなかった。止めに入ったセコンドを躊躇なく蹴り飛ばし、ねるねるねるねみたいな色をしたスライムにおいしそうにかじりつく始末。反則なんぞくそ食らえと言わんばかりのその暴挙を、俺は黙って見ていることしかできなかった。

 最後らへんは合体技まで決まって、野生オヤツとの心の距離も縮まった気がしたのだが。まだ、オヤツは俺に気を許していないようだ。

 そこで、俺は考えた。暴走したオヤツはまさに猛犬そのもの。そんな状態のオヤツに自分で自分を律することなどできるとは思えない。つまり、外からオヤツの行動を矯正する必要があるのだ。俺がオヤツを躾ける。そして、オヤツに言うことを聞かせる。ゆくゆくは俺の言いなりにして……おっと、よだれが。

 そういうわけで俺は森から出て、オヤツをモンスターのいない草原に連れてきた。戦闘中はなりふり構わず敵に特攻するので、オヤツと接する時間がない。まずはオヤツとの信頼関係を築くことが肝要だ。

 

 「ほんとにうまくいくんでしょうね?」

 

 「大丈夫だ、問題ない」

 

 オヤツにはすでに能力を使った状態になってもらっている。草原に悠々と寝そべるオヤツ。しかし、その目はハンターのものだ。草陰に隠れ、獲物が訪れるチャンスを虎視眈々と狙っている。

 

 「オヤーツー♪俺だよー♪キクタくん、だよー♪」

 

 オヤツを警戒させないように、俺は陽気な歌を口ずさみながら近づいた。オヤツはバッと俺の方に振り向く。

 

 「がるるるるる……」

 

 「オ、オチツケ、オヤツ!」

 

 唸り声を上げられた。それ以上近づけば、狩る、と言わんばかりの反応だ。これではどうしようもない。

 動物と仲良くなるためには、餌付けが一番だ。俺の独断でそう決めた。しかし、今の俺たちには食糧もない。近づかなくては話にならないのだ。どうにかしてオヤツに接近するすべはないものか。

 

 「あいさつですなのー」

 

 そのとき、レナが無謀にもオヤツに歩み寄っていった。やばい!レナが死ぬ!

 

 「まて!レナ、はやまるな!」

 

 「あいさつですなのー」

 

 だが、驚いたことにバイオレンスな事態は起こらなかった。レナはおしりをオヤツのほうに向けて、後ずさるように近づいていく。オヤツは少し警戒していたが、なんとレナの方に自分から向かっていった。そして、レナのおしりに顔を近づけて、くんくんにおいをかいでいる。なんだこの状況。

 

 「あっ! そういえば……」

 

 俺は思いだした。前に見たテレビの動物番組で、犬はおしりのにおいを嗅ぐことで相手のプロフィールがわかるという。すなわち、このレナの行動は犬の挨拶なのだ。

 

 「よし、俺も!」

 

 今度はレナの真似をして、俺もオヤツに近づいてみた。思った通り、オヤツは逃げない。

 

 「くんくん……」

 

 幼女に尻のにおいを嗅がせる高校生の図。うん、最低だな、俺。

 挨拶が終わったのか、オヤツは俺の後ろから離れた。そして、俺の方におしりを向けると、シッポを上げてついっと突き出した。こ、これはまさか、俺もオヤツに挨拶をし返さなければならないということか!?

 

 「い、いや待て!さすがにそれはまずいって。幼女のアレをアレするなんてそんな……」

 

 これはやるしかない!(逡巡タイムおよそ1秒)

 濃紺色のスク水と白いふともものコントラストがまぶしい。その輝きは、まさにロリコン誘蛾灯。いや、もっと神聖なる導きの光だ。ぴっちり閉じた脚と股の間に生じた隙間はシャングリラへと通ずる門か。神の威光を目にしたとき、人は自然とひざまずき、こうべを垂れる。そして、その逆三角形の門へと顔を近づけ……

 

 「ふんっ!」

 

 なぜか俺の股間に衝撃が走った。

 

 「ごああぁあアあぁああアアアあアァッ!」

 

 男の最大の弱点にクリティカルなインパクトがスマッシュして、俺の意識はハッピーソウル、のたうちまわってブレイクした。

 息も絶え絶えだ。俺のHP、まだ生きてるか?そうか、頑張ったな。今は休め。

 俺のリトルブラザーを破壊したブツは、脚の間に挟まったままだった。震える手つきで確認する。それは頑丈な装丁の魔道書だった。

 

 「ヤ、コ……てめ、え……!」

 

 「ああ、なんか年端もいかない女の子に変態的なことをしようとしているゴミムシを見つけたから駆除してあげようと思ったんだけど、なにかまずかったかしら?」

 

 俺は、お前を、絶対に許さない。いつかリトルブラザーの仇をとる。俺は心に誓った。

 

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