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15話「ヤコの貴重な○○シーン」 

 

 「あ゛ー、米が食いたい……」

 

 ショッピングを終えて文無しになった俺たちはシップに帰って来た。今日は飯を食って寝ることにする。明日は明日の風が吹くのさ。

 だが、夕食は言うまでもなくお菓子。ほとんど間食をしない生活をしてきた俺にとってこのお菓子との連戦は、食傷をおこすに十分な苦行だった。

 

 「文句言うなら食べなきゃいいでしょ。食糧も残り少ないんだから」

 

 確かに明日の朝の分でお菓子のストックはなくなりそうだ。これでも貴重なエネルギー源。何も食べないよりはましである。はやくちゃんとしたごはんを食べられるだけの稼ぎがほしい。

 クッキーとアーモンドチョコを7個くらい食べたところで胸やけを起こしたので俺の食事終了。全然ものを食べた気がしない。

 風呂に入りたいところだが、シップに入浴設備はないようだ。例のスク水が体表をある程度清潔な状態に保ってくれるらしい。そういう生活に必要な設備はマザーシップという別の大型船にあるようで、もともとこの小型船で何日も生活できるようにはできていないのだ。戦闘機と空母みたいな関係である。

 

 「さーて、それじゃあよい子の歯磨きの時間だ~!ヒャッハー!」

 

 このうっぷんを解消すべく、強制歯磨きタイムに突入だ。幼女たちは部屋の隅に集まってビクビク震えている。そこにハブラシを振りかざしてにじりよる俺。完全に変態です。

 そのとき、ふと気づいたのだが、ハブラシセットの隣にチューブがついていた。「歯磨き粉いちご味」。

 

 「そ、それは歯磨き粉……!まさかキクタくん、それを使う気じゃ……」

 

 「ひっひっひ!」

 

 新品のチューブを開け、ハブラシの上に投下。ピンク色の歯磨き粉が毛先に乗っかる。うわ、これ逆に虫歯になりそう。いちご臭がぷんぷんするぜ。

 

 「あんた、そんなにたっぷりつけるなんて……血も涙もない悪魔め!」

 

 「私たちが何をしたって言うの!?」

 

 「ですなのー!」

 

 「何を言っているのかね、チミたち。俺は親切で世話を焼いているのだよ」

 

 THE偽善。親切心と遊び心が半々といったところか。非難囂々の幼女たちなど一向に気にせず、ゆっくりと手を伸ばす。

 

 「さあ、おいでえ。おにいさんが歯磨きをしてあげよう。フッフッフ……ほおら、おいしいおいしいイチゴ味の歯磨き粉もあるよお!」

 

 「い、いや!こないで!」

 

 「逃がすか!」

 

 逃げまどう幼女をハブラシ片手に追い回す俺。最高に変態です。

 まずはオヤツを捕獲。ジタバタ暴れるオヤツを背後からホールド。ぷにふわ幼女の感触を堪能しながらハブラシを口内に挿入!

 

 「ウボアー!」

 

 オヤツ大号泣。あまりにも悲痛な声で泣くので、さすがに良心の呵責に耐えられず、軽く磨いただけで開放してやった。少しずつ調教してやる。

 さて、次はどいつを血祭りにあげてやろうか。ギラギラした目で獲物を探す俺の前に、無防備にもレナがその身をさらしている。肉食獣のように襲いかかる俺に対し、レナは抵抗しようとしなかった。

 

 「や、やさしくしてください、ですなのー……」

 

 恐怖と期待が入り混じった目をしている。もしや、レナは新たな可能性の扉を開いたというのか。

 

 「成長したな、レナ。よし、俺の歯磨きテクニックで天国へ連れて行ってやるぜ!」

 

 口を開けて待つレナに俺のハブラシが(ピーッ!)した。そして、口内をめちゃくちゃに(ズキューン!)。奥の方までしっかりと(ピロリロリ!)して、上の(ホワホワ!)を(ワオーン!)することも忘れない。そしてフィニッシュはねっとりと(アーンV)。

 

 「あひいいいいい!!」

 

 ヘブン状態ッ!

 

 「……ふう、俺としたことがハッスルしすぎちまったぜ」

 

 ぬぽんっとハブラシを引き抜く。レナはアヘり顔で放心していた。まったく宇宙人はすぐアヘるんだから。そして俺も鼻血ダラダラ。

 そして、最後に残った幼女へ振り向く。ヤコはひっと小さく悲鳴をあげて逃げ出した。ふふ、今宵の我がハブラシは一味違うぞ。幼女の歯を磨きたいと疼いておるわ。

 

 「次は貴様だ。URYYYYYY!」

 

 「く、くるな!変態ロリペドショタコン最低男!」

 

 ショタコンの言いがかりまでつけてくるとは。よほど俺のハブラシの餌食になりたいらしい。泣き叫ぶヤコの顔を早く見たいぜ!くっくっく!

 

 「だいたいそのハブラシ、あんたが昨日使ったでしょ!?」

 

 あ、そうだった。ハブラシは三本あって、昨日の夜、ヤコが歯磨きしなかったのでその余った一本を俺が使ったんだった。さすがに人が使ったハブラシを使わせるわけにはいかない。

 

 「スペアはないのか?」

 

 「その三本だけよ」

 

 「……ちっ、命拾いしたな」

 

 今度、街でハブラシも買ってやろう。

 

 * * *

 

 広げたお菓子類を片づけて寝る準備に入る。そう言えば、今日はヤコと寝ようと決めていたな。

 

 「ヤコー」

 

 「なによ」

 

 「一緒に寝ようぜ!」

 

 「はあ!?あ、あんた何言ってんのよ!」

 

 ヤコがあせあせしてる。いつもなら罵倒をマシンガンのごとく浴びせてくるところだが、今は独り言をブツブツ言いながら、顔を赤くしてもじもじと落ちつきなく歩きまわっている。

 

 「ちょ、ちょっと、何言ってるのよ。あんたみたいな変態ロリコン野獣と寝られるわけないでしょ。ま、まあ、ベッドが足りないわけだし、いくら下等な地球人とは言っても床に転がしておくのはあんまりだから、どうしてもって言うんならあたしのベッドの端っこを使わせてあげないこともないけど……」

 

 「えー、キクタくん今日も私と寝ようよー!」

 

 もう少しでヤコが落ちるというところでオヤツが食いついてきた。オヤツと寝るのもいいんだけど、今夜はヤコと寝るって決めてたからなあ。

 

 「またぎゅっとしてほしいな。ダメ?」

 

 「ダメじゃない!ダメじゃないよ!」

 

 上目遣いで見あげてくるオヤツに2秒で陥落。くっ、ヤコすまん。オヤツには勝てなかったよ……

 しかし、俺の布の服をがっしりとヤコの手がつかんできた。

 

 「待ちなさいよ!あんたが一生のお願いです偉大なるヤコ様あなた様の高貴なるベッドに俺のような低俗なゴミムシが触れることをどうかお許しくださいと懇願して頼むから、せっかくあたしが嫌々だけど、すごくイヤイヤだけど!あんたとね、ねねね、寝てやってもいいって言ってんのよ!?それをオヤツに誘われたくらいでなにノコノコついていこうとしてんのよ!」

 

 「嫌なんだろ?だったら別にいいじゃないか。なあ、オヤツ」

 

 「そうだよ。キクタくんは私と寝るから気にしなくてもいいよ」

 

 「ぐぬぬ……!」

 

 ヤコは歯ぎしりして悔しがっている。オヤツはなんでヤコが怒っているのかわからず、きょとんとしている。天然さんだ。

 

 「ふんっ!もういいわよ!勝手にすればいいでしょ!あんたのロリコン臭がうつる心配がなくなってせいせいしたわよ!」

 

 腕を組んでそっぽを向くヤコ。その100%強がり丸出しの態度、なんというツンデレ。もっといじり倒してやりたい気持ちが沸々と湧きおこってくる!

 

 「なあなあ、寝る前に怖い話しようぜ」

 

 ヤコは絶対、こういう話が苦手なはずだ。モンスターに会ったときの反応から見ても、ビビリなのは一目瞭然だからな。

 

 「こわい話?」

 

 「こわい話っ!?」

 

 そのとき、放心状態だったレナの目がカッと見開かれた。きゅぴーんと瞳が光り、すぐさま起動。激しくスピンしながら軽やかな動きで飛び出してくる。

 

 「するするするする、するですなのーる」

 

 「お、おう。レナは怖い話が好きなのか?」

 

 「ですですなのー!」

 

 どうやらレナはオカルト好きのようだ。なんとなくわかる気もする。違和感はない。

 

 「ま、待ちなさい!今日はもう遅いし、明日もやることはたくさんあるんだから早く寝た方がいいわ!こわい話はまた今度に……」

 

 「これは、このシップにまつわる、ある奇怪な噂話ですなのー」

 

 「だからそういう話は……え?このシップ?」

 

 ヤコが慌ててやめさせようとするが、レナは問答無用で語り始めた。しかも、この宇宙船に関わる話だという。ヤコも知らない話のようだ。聞きたくないと思いつつも、どんな話なのか聞かずにはいられない、そんな表情をしている。

 

 「これはわたくしが地球調査特別先行チームの先輩から聞いた話ですなのー」

 

 レナは静かに話を進める。いつもとは違う若干落ちたトーンが雰囲気を醸し出す。心なしか近寄りがたいオーラを放っている。

 肝心の怪談。このシップは、もともと軍のものだったらしい。軍のシップが最新型宇宙船の規格に一新されるとき、古くなったものが払い下げられた。それをヤコが購入したようだ。

 ちなみに地球の調査チームの一員であるヤコたちには、調査用のきちんとした専用の船がある。どうしてヤコ個人の船を使っているのかというと、俺たちが出会った日はちょうど休日だったらしく、私的な目的で地球を訪れていたためのようだ。

 

 「確かに、そうだけど。それが何?」

 

 「このシップは中古品ですなのー。前の持ち主のこと、ヤコは知っていますか?」

 

 「え、ええと、知らないけど……」

 

 どうやらこの船、いわくつきらしい。かつての持ち主である船長は軍での重圧に苦しむ立場にあった。その辛さに耐えきれず、追い詰められた船長は……

 

 「う、ううううそでしょ?これ、あたしの船なのよ!?たちの悪い冗談はやめて……!」

 

 「嘘じゃないですなのー。船長はある日、この船内で自ら薬をあおったですなのー」

 

 「くすり?それって、何の薬なの?」

 

 「……かぜぐすり、粉タイプ」

 

 ヤコとオヤツの顔色が真っ青になる。

 

 「オブラートに包んだ薬を、口に入れて……」

 

 ヤコとオヤツがお互いの体にくっついてガクガク震えている。

 

 「くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ……」

 

 「やめて!そんなに口の中でもぐもぐしたら……!」

 

 「くちゅ、くちゅ……」

 

 「だ、だめだよ。はやく飲み込まないと!」

 

 「くちゅ、くちゅ…………………………………………………………苦いのジュワッ!」

 

 「「きゃあああああああああああああああ!!」」

 

 しょうもな。

 

 * * *

 

 ヤコが俺に抱きついて離れないので、なし崩し的にヤコと寝ることになった。オヤツは気絶した。レナが捕えた獲物を巣穴に持ち帰るかのごとく、オヤツを自分のカプセルベッドに運んで行った。ですです笑いながら。

 

 「ううう……」

 

 「もうそろそろ落ちつけよ。いつまでくっついてんだよ」

 

 ヤコはいつものように俺の足にしがみついている。ケモミミを伏せて、シッポも股の間に挟むように丸めている。涙目でぷるぷる震えるヤコ。

 いや、やっぱりこのまましがみついていてください。

 

 「な、なによ。なんであんたは平気そうにしてるのよ!」

 

 「あの話のどこに恐怖要素があったのか、地球人のセンスでは理解できなかった」

 

 粉薬の苦さで自害とかギャグ以外の何だと言うのだ。結局、船長はどうなったのだろう。

 

 「ふん!……あたしだってちょっとはこわかったけど、もう平気よ!さっさと離れなさいよね」

 

 お前が抱きついて来ているんだろうに。

 

 「あんたはベッドの端っこに寝るのよ。こっち見ないでよね」

 

 狭いカプセルのさらに端に追いやられる。そうして、俺とヤコは背中合わせになるようにして床に就いた。シップの明かりが消えて、暗闇に包まれる。まったく、ヤコのツンデレにも困ったものだ。

 俺は明日のことを考える。俺たちがまずやらなくてはならないことは、金を作ることだ。金がなくては装備も食糧も買えない。また、ダンジョン内でのモンスターとの戦闘の危険度も未知数だ。俺たちはまだスライムとしか闘ったことがない。まず、戦闘に慣れなければならないだろう。

 そこで思いついたのだが、モンスターは何もダンジョン内にだけいるものではない。スライムを見つけたように、地上でも遭遇することはありえるはず。ならば、地上の敵を最初に狩っていこう。ついでに食べられそうな植物とかがないか探すのもいいかもしれない。

 そんなふうに思考を巡らしていると、ヤコが声をかけてきた。

 

 「ねえ、もう寝ちゃった?」

 

 よし、ここは寝たふりだ。何も答えずにじっとしていると、ぴとっと何かが背中に触れる。これはもしや!デレが来たか!?

 やばい。振り返りたい。でも、あからさまにやったらヤコは恥ずかしがって逃げてしまうと思う。あくまでも自然に、寝返りだ。これは寝返り。寝返りだから不可抗力だよ。

 

 「うーん……」

 

 「!!」

 

 緊張の一瞬。ヤコを押しつぶさないように気をつけながら、ゆっくり反転する。腕の中に収まる温かな感触。よし!逃げない!行ける!

 シップの明かりは落ちたが、小さい電気はついている。俺はバレないように薄らと目を開けてヤコを見る。ヤコは最初びっくりした様子だったが、俺が寝ていると勘違いしているようだ。なんと、自分から俺の胸にすり寄るように潜り込んできた。

 

 (ふおおおおお!?)

 

 よく見ると、静かにだがシッポも振っている。ヤコのデレキターーーー!いつもなら絶対に見せない姿だ。うおおお、ヤコの貴重なデレシーン最高ッス!

 それからしばらく興奮で寝つけず、ヤコの寝顔を堪能する頃には結構な深夜に。でも後悔はしていない。

 

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