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14話「無駄遣い?」

 

 大幣は「おおぬさ」と読む。神社の神主がお払いの時に振るアレ。詳しいことは知らないのでアレとしか言いようがない。木の棒に細長い紙を折った物をとりつけたヤツ。はっきり言って小学生の夏休みの自由工作でも、これよりマシなものを作ってくるであろうというレベル。いや、俺はペットボトルに穴を開けただけのブツを貯金箱と言い張った男だが。

 

 「失礼な奴だな。これもちゃんとした職人が作った立派な武器だ。あまり需要がないから少しばかり値段が高いが」

 

 「需要がないんですか?」

 

 「ああ、祈祷士はレア職だからな。まあ、治療士系は治療士以外レア職なんだが」

 

 治療士系を選んだ冒険者は、ほとんどが「治療士」のクラスになるらしい。それ以外には「祈祷士」、「催眠士」、「按摩士」、「吟遊詩人」などのクラスがあるのだとか。レア職の中でも、祈祷士は割となれる確率が高いクラスのようだ。

 さて、問題は俺たちの懐事情である。予想外の武器の高さにより、俺とヤコの分を買っただけで残金13180G。もしレナの武器を買うことになれば、4280G。

 サポート職を侮るわけではないが、前衛の装備が薄いと話にならない。予算の関係上、ここはオヤツに適当な武器を持たせよう。俺はこの店の数ある剣の中から4000Gの銅の剣をチョイスした。

 

 「あれ?銅の剣って3000Gだった気がしたんですが」

 

 「それはよその店の話だろう。同じアイテムでも仕入れ先によって質が異なる。うちは品質重視なんでな」

 

 俺が見かけた3千Gの剣は露店で売られていたが、そういうものはかなり質が悪く使い物にならないことが多いらしい。鑑定眼など持たない俺には同じアイテムの違いなどわからない。ぼったくられたような気がしないでもないが、このおっちゃんを信じよう。

 

 「『ケイブハンマー』に『アチチの書』、『銅の剣』でしめて20970Gだ」

 

 冒険者ってお金かかるんだな。震える手で大銀貨3枚を渡しておつりを受け取る。小銭がじゃらじゃらする。布の服にはポケットもついていないので、しまっておく場所がない。しかたがないのでヤコの異次元空間に入れてもらうことにしよう。

 そのとき、レナが俺の方を見ていることに気づいた。悲しそうに伏せられた耳。しっぽも垂れさがって毛先が力なく揺れている。レナは一人だけ武器を買ってもらえなかったのだ。悲しくなる気持ちもわかる。

 

 「れ、レナ、わかってくれ。俺たちには金がないんだ」

 

 「くぅん……」

 

 う、うわああああ!!胸が苦しい!シメツケラレルゥ!

 さびしげでありながらもどこか期待を含んだその視線。俺のSAN値がガリガリと削られていく。

 

 「きゅうん、きゅうん」

 

 レナが見捨てないでと言わんばかりに俺の腕にすがりついてくる。そ、そのきゅんきゅん鳴くのをやめろ!このままで俺がキュン死にしてしまう!も、もうだめだ……

 

 「店主、この店で一番いい祈祷具を頼む」

 

 * * *

 

 レナに堕とされた俺は「かんたん大幣」を衝動買いしてしまった。これで残金、280G。これから防具を買う計画だったのに。スク水の耐久力はすさまじいが、ヴィジュアル的に問題があるので、スク水の上から着られる服を買ってあげたかった。それに俺の今の防御力は紙同然。布の服でモンスターに特攻はしたくない。

 道具屋で照明器具も買わないといけないし、もしものときのためのポーション類もそろえないと。なによりヤコの靴も準備しなければ。そのすべてを280円でどうにかできるわけがない。

 

 「元気だして、キクタくん!」

 

 「……そうだな。すぎたことをいつまでも悔やんでいたってしかたない」

 

 せっかく武器が手に入ったのだから装備してみようじゃないか。しかし、装備ってどうすればいいのだろうか。買った時点で装備したことになるのか。俺はカードでステータスを確認した。俺は文字が読めないが、宇宙人たちは読めるらしいので教えてもらう。

 

 キクタ(LV1)

 

 体力:7/10

 魔力:7/7

 攻撃力:13

 耐久力:4

 想像力:1

 精神力:1

 敏捷力:3

 技術力:3

 元気力:1

 

 ステータス異常:ロリコン 慢性疲労

 

 クラス:失笑ハンマー士(LV1)

 

 チーム:プリティキクタくんズ

 

 装備

 頭:なし

 右手:ケイブハンマー(攻撃+9)

 左手:なし

 胴:学生服(耐久+1)

 足:ローファー(敏捷+1)

 その他Ⅰ:奴隷の首輪・改

 その他Ⅱ:なし

 

 個別スキル

 ・おいしい血(LV1)

 吸血鬼系種族とのエンカウント確立アップ。

 ・ハンマー装備補正増(LV1)

 ハンマータイプの武器を装備すると補正強化。

 

 武器スキル

 ・モグラたたき(LV1)

 消費魔力10。土属性モンスターへのダメージ増加。

 

 しっかり装備されているようだ。しかし、MP10も使うのか。今の俺には使えないスキルだな。前衛職だからスキルが使えなくても通常攻撃でなんとかできるだろう。しばらくは技に頼った戦いはできない。

 幼女らのステータスも見てみた。

 

 カソレケテニツモオヤツハール(LV1)

 

 体力:16/16

 魔力:2/2

 攻撃力:18

 耐久力:253

 想像力:1

 精神力:2

 敏捷力:10

 技術力:1

 元気力:3

 

 ステータス異常:空腹

 

 クラス:へっぽこカポエイラ使い(LV1)

 

 チーム:プリティキクタくんズ

 

 装備

 頭:なし

 右手:銅の剣(攻撃+5)

 左手:なし

 胴:スク水(耐久+250)

 足:木のサンダル(補正なし)

 その他Ⅰ:なし

 その他Ⅱ:なし

 

 個別スキル

 ・リフューザル(LV3)

 サイコキネシス。四肢にエネルギーフィールドを形成でき、パンチ力、キック力が異常に上昇する。ステータス異常『狂戦士』になる。

 ・徒手空拳(LV1)

 両手スロット無装備時、攻撃力1%増。軽装備時、敏捷力1%増。

 

 武器スキル

 ・強い切りつけ(LV1)

 消費魔力8。

 

 銅の剣なのに俺よりも攻撃力がある件について。強いことはいいことだ。だが、レベルがあがらないとMP不足で悩まされそうだ。ゲームだと中盤あたりでMP値がインフレして全然気にならないことがよくあるが。

 

 ヤコレダッテッパノトネーロッポ(LV1)

 

 体力:8/8

 魔力:9/9

 攻撃力:1

 耐久力:251

 想像力:12

 精神力:4

 敏捷力:2

 技術力:7

 元気力:1

 

 ステータス異常:空腹

 

 クラス:ひよっこ火魔術士(LV1)

 

 チーム:プリティキクタくんズ

 

 装備

 頭:なし

 右手:アチチの書(想像+6)

 左手:なし

 胴:スク水(耐久+250)

 足:なし

 その他Ⅰ:なし

 その他Ⅱ:なし

 

 個別スキル

 ・ワームホール(LV14)

 小規模な疑似次元断層を構築し、時空間に高度環境管理下におかれた超限定多元宇宙へと通じるゲートを作成する。

 ・魔道書装備補正増(LV1)

 魔道書タイプの武器を装備すると補正強化。

 

 武器スキル

 ・火弾(LV1)

 消費魔力12。火属性魔法攻撃。

 

 魔道書は想像力が増加するようだ。さすがに本で殴るわけにはいかないし。しかし、魔術士にとっては魔法が攻撃の主体だ。MPがないと役に立たない。まあ、クラスから考えてMPの伸びしろは大きいだろう。今後に期待だ。

 

 レナイトマヤメラパエラナイカッビセン(LV1)

 

 体力:22/22

 魔力:13/13

 攻撃力:5

 耐久力:261

 想像力:746

 精神力:815

 敏捷力:1

 技術力:658

 元気力:30

 

 ステータス異常:空腹

 

 クラス:まあまあ祈祷士(LV1)

 

 チーム:プリティキクタくんズ

 

 装備

 頭:なし

 右手:なし

 左手:かんたん大幣(想像+5、精神+3)

 胴:スク水(耐久+250)

 足:木のサンダル(補正なし)

 その他Ⅰ:なし

 その他Ⅱ:なし

 

 個別スキル

 ・テレパシー(LV99)

 精神感応電磁波を障害物に関係なく半径500メートル圏内に発信できる。テレパシーで意思疎通できる。

 ・祈祷具装備補正増(LV1)

 祈祷具タイプの武器を装備すると補正強化。

 

 武器スキル

 ・虫祓い(LV1)

 消費魔力10。対象1人をリラックスさせる。

 

 十分盾役が務まるステータスだと思う。才能の無駄遣いのような気がする。しかし、幼女を最前列に立たせるなんて俺にはできない。あ、オヤツは前衛職じゃないか!?まあ、レナが治療士系になりたいと言ったのだから、その希望をかなえてやるべきだ。

 それにしてもこのスキルェ……まったく役に立つ気がしないのだが。リラックスってなんだよ。これで8900Gはひどすぎる。いや、最終的に俺がレナのおねだりに負けて買ってしまったのが悪いんだけどさあ。

 あと関係ないけどみんな、おなか空いているんだなあ。

 

 「お、レナ、スキルが使えるじゃないか。試しに俺に使ってみせてくれよ」

 

 「いいですなのー」

 

 今のレナのMPでも一回だけスキルが使えるようだ。8900Gの効果がどんなものか見てやろうじゃないか。

 ところで「いいですなのー」という返事はオーケーということ?それともノーサンキューということ?

 

 「むむむ……」

 

 レナは大幣を額に当てて唸りだした。これはスキルを使ってくれるということでいいんだよな?

 間もなく大幣がぼんやりと白く光り出す。その神秘的な光は確かに癒しを与えてくれそうだ。

 

 「キ、キキ、キエーッ!」

 

 「レナ!?」

 

 しかし、その光が強くなるに比例してレナの様子がおかしくなっていく。この前のオヤツみたいに白目をむいてアヘ顔になっている。そして尋常じゃない奇声。道行く人々がこちらを見て、何かひそひそと話しあっている。恥ずかしい。

 

 「キエーッ!キエーッ!」

 

 「レナ、おいしっかりしろレナ!?」

 

 トランス状態に入ったレナはビクビクと痙攣を繰り返した後、ガクリと意識を失った。と思った直後、すっくと立ち上がる。レナの雰囲気はさっきまでとまったく違っていた。鋭利に研ぎ澄まされた、射抜くようなその眼光。いつものぽけぽけしたレナではない。まるで別人だ。

 

 「吾輩はこの冒険者都市に名を残す伝説の祈祷士、ミツカゲMAX。この少女の体を借りて降霊させてもらった」

 

 「レナ、何言ってんだお前」

 

 祈祷士によって口寄せされた祈祷士。まどろっこしい。あと名前がうさんくさすぎる。え、もしかして祈祷術ってこういうものなの?

 

 「吾輩の無慈悲なる最強最大のMAX祈祷術を用いてそなたを癒してやろう。全力でかかってくるがよい」

 

 俺は癒される側なんだよね?なに、戦うの?戦わなくちゃならないの?

 

 「八百万の神々よ!吾輩に力を与えたまえ!はああああああ!くらえ必殺!MAX虫祓い!」

 

 超絶最高潮のテンションで放たれたスキルが俺に襲いかかる。キラキラしたエフェクトが俺の頭上に降りる。お、なんだか体が軽くなったような気がするようなしないような。

 

 キクタ(LV1)

 

 体力:7/10

 魔力:7/7

 攻撃力:13

 耐久力:4

 想像力:1

 精神力:1

 敏捷力:3

 技術力:3

 元気力:1

 

 ステータス異常:ロリコン

 

 おお!ステータス異常の慢性疲労が治っている。一応効果はあるみたいだな。

 

 「これで吾輩の使命はまっとうした。では、さらばだ」

 

 そう言って伝説の祈祷士ミチカゲMAXさんの霊は去っていった。レナがもとの人格にもどる。どうでもいいけど、あれが最強最大の必殺技だったのか。

 

 「……ですなのー」

 

 「なんだか大変なことになってたけど、ありがとな、レナ」

 

 俺はレナの頭を撫でる。くすぐったそうにしていたが、ケモミミがピコピコ動いたので喜んでいるのがわかった。

 しかし祈祷術は戦闘中とっさに使うことはできなさそうだ。改めて思うが大丈夫かこのチーム。

 

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