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11話「罠」

 

 「冒険者の活動はダンジョンでモンスターを討伐し、経験値とドロップアイテムを手に入れることが主です。ドロップアイテムはギルドで換金できます。他の場所で売り払うことは規制されています。また、ギルドではモンスター討伐やドロップ品の収集に関する依頼も受け付けています。クエストを受けたい場合は依頼掲示板をご覧ください。……キクタさん、聞いていますか?」

 

 「ふぇっ!ああ、うん、聞いてますよ!?」

 

 やべ、寝てた。どうも疲れがたまってるんだよ。だって、ステータス異常:慢性疲労だぜ?

 

 「では、説明は一通り終わりました。ギルド登録に当たって、登録料500ゴールドをいただきたいのですが、よろしいですか?」

 

 「へ?」

 

 と、登録料!?なんだよ結局、世の中金か!でもそりゃそうだよな。こんな便利なカードまで作ってくれたんだし、まるまる無料ってわけないよな。しかし、俺らは一文無し。どうすりゃいいんだ。

 

 「……お金をお持ちでないようでしたら、初登録のお客様専用オプションとして、おひとり様につき700ゴールドまでお貸しすることができますが」

 

 「ほんとですか!?借ります!」

 

 即答で借りた。登録料が500Gだから、四人で2000G。手元に800G残ることになる。そうか、冒険者になるなら装備をそろえなくちゃならないし、色々とお金がかかるだろう。ギルドとしても優秀な冒険者の人材発掘と育成のために、初期投資するメリットはある。

 

 「見ろ、お前ら!800ゴールドだぞ!ばばーん!」

 

 「「「おおー!」」」

 

 俺が天高く掲げる800Gに目を奪われる幼女たち。

 

 「キクタくん、おいしいもの食べられるの!?」

 

 「ああ、食えるとも。でもその前に装備品を買わないとな。防具と武器と、後それからポーションとかの消耗品」

 

 「宿もとらないといけないわよ」

 

 「そうだった。これでお金足りるかねえ。まあ、あんまり高いところとらなきゃ大丈夫だろ」

 

 「靴がほしいですわー」

 

 「おお、忘れてた!確かにそうだ。最初は靴を買おう。いくぞ、お前ら!」

 

 俺たちは期待に胸を膨らませてギルドを飛び出した。周りから可哀そうなモノを見る視線が浴びせられていたことにも気づかず……

 

 * * *

 

 「ば、馬鹿な!一番安そうなブロンズソードが一本3000ゴールドだと!?」

 

 驚愕した。武器屋の前で崩れ落ちる俺。無造作に壁に立てかけられたその剣一本3000円。対して俺らの全財産800円。この格の違い半端じゃねえ。経済的弱者にかける情けはないのか。ギルドの野郎、絶対許さん。

 

 「ねえ、靴があったけど」

 

 オヤツが防具屋で靴を見つけたが、革のブーツのお値段、一足3500円。

 

 「3500ううう!?ブロンズソードより500円高いいいい!」

 

 絶望に頭をかきむしる。まあ、物価の違いを少しくらいは考えていたさ。門の通行料が100Gで、ギルドの登録料が500Gだろ。所持金たった800Gで武器防具一式がはたしてそろえられるだろうかと心配はした。でも、これはひどすぎるだろ。

 

 「こっちにいいのがありましたわー」

 

 レナが雑貨屋で500円のサンダルを見つけた。植物のつるのようなもので編まれている。たぶん、これより安い靴はないだろう。

 俺はサンダルを二足手にとり、店主のところへ持って行く。

 

 「すみません、これください……」

 

 「二つで1000ゴールドだ」

 

 「は、800ゴールドにしてもらえませんか?」

 

 「ああん?だめだだめだ。もうこれ以上安くならねえよ」

 

 強面のおっさん店主はいかつい顔をゆがめて威圧してくる。払えねえならよそに行きなと言わんばかりの表情だ。

 俺は深くうなだれた。なけなしの800円を握りしめる。

 

 「すまん、お前ら。ははは……靴もまともに買ってやれないなんて、情けねえ」

 

 「キクタくん……」

 

 オヤツが心配そうに俺の手をつかむ。

 

 「こんないい子たちに靴も、靴も買ってやれないなんて俺はああああ!!うわああああ!!すまん!!すまねええ、お前らあああ!!」

 

 男泣きする俺に、店主はさすがにばつが悪そうにしている。

 

 「はあ、わかったよ。800ゴールドでいい。もっていきな」

 

 「うう……ほんとに、いいのか?」

 

 顔は強面だが、太っ腹な店主だ。800ゴールドで靴を二足ゲットした。やはり、世の中人情である。

 

 「じゃあ、ついでにもう一足もらっていい?」

 

 「帰れ!」

 

 * * *

 

 俺の迫真の演技によってどうにかサンダルを手に入れられたが、それでも二足。オヤツとレナにしか履かせられない。ヤコはしばらく俺の靴下で我慢してもらうしかないな。

 

 「べ、別にあたしはかまわないけど……」

 

 あれ?ヤコのやつ、もしかして靴下が気に入ったのか?

 

 「ところで、お前らのステータスはどうなってるんだ?俺にも見せてくれよ」

 

 「うん?いいよ」

 

 オヤツの冒険者カードを教えてもらった。

 

 カソレケテニツモオヤツハール(LV1)

 

 体力:16/16

 魔力:2/2

 攻撃力:13

 耐久力:253

 想像力:1

 精神力:2

 敏捷力:10

 技術力:1

 元気力:3

 

 ステータス異常:なし

 

 クラス:なし

 

 チーム:プリティキクタくんズ

 

 装備

 頭:なし

 右手:なし

 左手:なし

 胴:スク水(耐久+250)

 足:木のサンダル(補正なし)

 その他Ⅰ:なし

 その他Ⅱ:なし

 

 個別スキル

 ・リフューザル(LV3)

 サイコキネシス。四肢にエネルギーフィールドを形成でき、パンチ力、キック力が異常に上昇する。

 ステータス異常『狂戦士』になる。

 

 武器スキル

 なし

 

 「つ、強い……」

 

 俺よりもステータスが高いぞ。特にこの耐久力はなんだ。装備補正が異常だろう。なんでスク水に耐久力が250点もあるんだ。あ、そういえばこれスク水じゃないんだったな。でも、スク水って表記されてるぞ?

 攻撃力とか地味に高いし、個別スキルもカッコイイし。いいなあ。狂戦士は嫌だけど。

 

 「ふん、あたしたちのステータスがあんたよりも優れているのは当然よ。あたしのを見なさい」

 

 ヤコレダッテッパノトネーロッポ(LV1)

 

 体力:8/8

 魔力:9/9

 攻撃力:1

 耐久力:251

 想像力:6

 精神力:4

 敏捷力:2

 技術力:7

 元気力:1

 

 ステータス異常:なし

 

 クラス:なし

 

 チーム:プリティキクタくんズ

 

 装備

 頭:なし

 右手:なし

 左手:なし

 胴:スク水(耐久+250)

 足:ロリコンの靴下(敏捷+1)

 その他Ⅰ:なし

 その他Ⅱ:なし

 

 個別スキル

 ・ワームホール(LV24)

 小規模な疑似次元断層を構築し、時空間に高度環境管理下におかれた超限定多元宇宙へと通じるゲートを作成する。

 

 武器スキル

 なし

 

 「ちょっとまて!靴下おかしい!?」

 

 しかも敏捷点がついてる。

 それにしても耐久以外はパッとしないけど、やっぱりスキルが強いな。スキルレベルが意外に高い。技術力と想像力に適正があるかもな。

 

 「ですなのー」

 

 レナイトマヤメラパエラナイカッビセン(LV1)

 

 体力:22/22

 魔力:13/13

 攻撃力:5

 耐久力:261(装備補正+250)

 想像力:741

 精神力:812

 敏捷力:1

 技術力:658

 元気力:30

 

 ステータス異常:なし

 

 クラス:なし

 

 チーム:プリティキクタくんズ

 

 装備

 

 頭:なし

 右手:なし

 左手:なし

 胴:スク水(耐久+250)

 足:木のサンダル(補正なし)

 その他Ⅰ:なし

 その他Ⅱ:なし

 

 個別スキル

 ・テレパシー(LV99)

 精神感応電磁波を障害物に関係なく半径500メートル圏内に発信できる。テレパシーで意思疎通できる。

 

 武器スキル

 なし

 

 「いやいやまてまて!なんだこれは!?」

 

 チートだなおい!バイタルレベル1でこれはどう考えてもありえないだろ。なんだこのボクの考えた最強宇宙人。こいつで世界征服できるんじゃないか?

 まあ、でもレナだしなあ。なんとなく納得できる俺がいる。

 

 「結局、装備はそろえられなかったな。そういえば、まだクラスについて聞いてなかった」

 

 冒険者カードのクラスの欄がまだ決まっていない。俺たちは一度、ギルドにもどることにした。

 

 * * *

 

 ギルドにもどると、ああ、あのマヌケどもか、といった視線を感じる。これは被害妄想だろうか。

 さっき登録を担当した受付嬢がいる。よく考えたらあの人が一言注意してくれれば、ぬかよろこびはしなくてすんだのだ。あれだけはしゃいでいたのだから気づかなかったはずはあるまい。あのポーカーフェイスが憎い!

 

 「あの女……あたしたちの純情をもてあそんだこと、後悔させてやるわ!」

 

 ヤコが怪しげな銃器を取り出す。気持ちはわかるが落ちつけ。オーバーテクノロジーの無駄使いだ。

 俺とヤコはめぢからで例の受付嬢を威圧しながら、ギルドの中を進んだ。心なしか彼女も動揺しているように見えなくもない。

 まあ、最終的に世間知らずの俺たちが悪いのだけれど。

 

 「すみません、クラスのことについて聞きたいのですが」

 

 受付のブースはいくつかに別れている。鑑定・換金コーナー、初心者登録コーナー、クラス関連コーナー、よろず悩み相談コーナーなどいろいろあった。俺たちは真っ先に相談コーナーに行くべきだったのかもしれない。

 その中のクラス関連コーナーの受付に入る。

 

 「冒険者初心者の方ですか?クラス登録でしょうか、クラスチェンジでしょうか?」

 

 「そのへんのことを何も知らないので教えてもらえますか?」

 

 「かしこまりました。まず、クラスについて説明させていただきます。冒険者カードに記載されているように、冒険者は自分のクラスを一つ決めることができます。これはその冒険者さんの戦闘タイプを表すものですね。クラス未定のままバイタルレベルを上げても、個別スキルを習得できません」

 

 「どんな種類があるんですか?」

 

 「まず、大きく分けて『戦士系』、『魔術士系』、『治療士系』、『生産職系』があります」

 

 『戦士系』は武闘戦闘職である。剣士、槍士、斧士など主に武器を使った近接戦闘を得意とする者が多い。弓士、銃士などもある。

 『魔術士系』は魔法戦闘職だ。火魔法士、土魔法士、風魔法士、水魔法士など。レアな職だと精霊召喚士など強力な魔法も使えたりするとか。

 『治療士系』は戦闘補助職である。攻撃よりも、回復と補助に特化した魔法使い職で、治療士や祈祷士などの種類がある。

 『生産職系』はその名の通り戦闘職ではない。鍛冶士や調合士など。名のあるチーム連合だと、こういった職種を囲い込むところもあるらしい。

 

 「俺は何にしようか……」

 

 後衛という選択肢はない。いくらなんでも幼女たちの影に隠れて後ろからこそこそ狙うなんて、俺の紳士精神に反する。やはり俺が前に出ないといけないだろう。幼女と比べて俺の耐久力が紙だけどな!スク水を借りるか……いや、それは人として大切な何かを失う気がする。

 だとしたら、戦士系か。初心者の俺が何とか扱える武器っていったら、槍かな。

 

 「じゃあ、槍士で登録してもらっていいですか?」

 

 「……申し訳ありません、冒険者さんが選べるのは『戦士系』、『魔術士系』、『治療士系』、『生産職系』の四つのカテゴリのみです。詳細な職に関しましてはランダムに決定します」

 

 「ええええ!?なにそのシステム!?」 

 

 つまり、戦士系を選んでも自分の思った通りの職につけるとは限らないわけだ。俺も希望通り槍士になれるかどうかはわからない。しかも、その人の特技とかステータスから適正な職業が判定されるなどという酌量の余地はなく、完全にランダム。一発限りの大博打である。

 弓士とかになったらどうすんだよ。まともに使える自信がない。

 

 「愚痴を言ってもしょうがない。俺は『戦士系』にしようと思うが、みんなはどうだ?」

 

 うちの幼女たちも悩んでいる。生産職系は選ばないだろうから、戦士系か魔術士系か治療士系の三択だろう。

 

 「私は戦士系にするよ!自分のスキルも活かせそうだし」

 

 確かにオヤツは思いっきり前衛型だよな。能力使ったら暴走する魔術士なんて嫌だ。

 

 「なら、あたしは治療士系にするわ。楽そうだし」

 

 サポート職はパーティーでかなり重要な役割なんだぞ。でも、こいつビビリでモンスターと戦えないからしかたないか。

 

 「治療士がいいですのー!」

 

 「ま、まさかの治療士二人!?」

 

 パーティーバランスぐちゃぐちゃ!回復役が複数いるのは心強いけど、アタッカーがそろってないのに補助が二人もいてもねえ。いや、オヤツは確かに強いけど、魔法攻撃での援護がほしいところだ。

 

 「なあ、魔術士系にしてくれないか?」

 

 「いやですわー!」

 

 かたくなに拒否するレナ。こんな展開になるなんて思わなかったぞ。ここは流れ的に魔術士一本だろ。

 

 「しかたねえ。ヤコ、お前魔術士になれ」

 

 「えー」

 

 ステータスから見て、想像力に適正はある。だったらヤコに魔術士になってもらおう。正直、レナが魔法攻撃してくれたら歩く砲台になって敵を一掃してくれただろう。でも、嫌がっているし。まあ、強力な回復役がいてくれることは、それはそれでいいことだ。

 

 「わかったわよ。魔術士になってあげるわ。感謝しなさいよね」

 

 相変わらず偉そうだな。かわいいから許すけどさ。

 

 「お決まりになりましたか?それでは、冒険者カードをお預かりします。こちらの水晶に一人ずつ手を置いてください」

 

 冒険者カードを何気なく渡していると、レナのカードを見た受付嬢が凍りつく。そうか、あのステータスってやっぱり異常なんだよね。隠した方がよかったか。でも、ギルドの職員には隠し通せないだろう。

 

 「あの……このステータスって、あとこのスキルは……」

 

 「見なかったことにしてください」

 

 黙殺した。

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