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10話「冒険者ギルド」

 

 俺は背中にレナを背負い、オヤツを抱きかかえた。寝違えた体がずきずきと疼く。

 

 「あたしも!あたしも乗せなさいよ!」

 

 「わりぃ、ちょっと体力的に無理だ。ヤコは自分で歩いてくれ」

 

 ヤコを肩車してやりたい気持ちはやまやまだが、いかんせん体が持ちそうにない。結構、鍛えているつもりだったのだが、急激な環境の変化というものは想像以上の疲労となったようだ。

 

 「なんでよ!昨日は肩車してくれたじゃない!」

 

 「俺の腰骨がヤバイところにゴールインしそうなんだ。マジで。冗談じゃなく」

 

 正直、オヤツとレナを持ちあげているだけでもきつい。朝だから体が起きていないのだろう。少し歩けば調子がもどるはずだ。

 ヤコには悪いが街までワームホールを使えば一瞬で移動できるので、少し我慢してもらうことにした。足が汚れないように靴を貸してやったのだが、サイズが合わない。革靴なのでスニーカーのように靴ひもで無理やり縛れないし、しょうがないので俺の靴下をはいてもらった。見た目的にどうかと思うが、はいていないよりはましだろう。

 

 「まったく、なんであんたの汚い靴下なんかはかなくちゃならないのよ……」

 

 汚い言うな。でも、文句垂れる割にヤコは靴下をしきりにくんくん嗅いでいた。やはり、こいつもワンコなのか。

 

 * * *

 

 「それで、これからどうするの?」

 

 「そうだな、まずは冒険者になろうと思う」

 

 ワームホールで例の売出物件の裏手にワープした俺たち。今日の目標は冒険者になることだ。

 この都市では、常に冒険者家業の供給が不足している。広大な地下迷宮はどれだけの数の冒険者が潜っても攻略できないほど大きいのだ。だから、冒険者になろうと思えば割と簡単に職に就ける。身元不明の俺たちが食っていくためには冒険者になるしかない。

 それに、モンスターを倒せば魔石も手に入る。これでシップの燃料も確保できて、一石二鳥だ。

 

 「ボウケンシャ?それってどうやったらなれるのかな?」

 

 「俺の勘だけど、冒険者ギルドってやつがあるはずだ。そこにいけば何とかなるかもな」

 

 異世界で冒険者って行ったらギルドくらいあるだろ。テンプレテンプレ。

 試しに道行く人に冒険者ギルドがないか聞いてみると、あるとのこと。ついでに道も聞いた。幼女どもを抱えている俺に対して、ちょっと引かれた目をされたが、昨日のように襲いかかってくる獣人はいなかった。

 それと、首輪の翻訳機は正常に機能した。レナアレンジの翻訳になっていないか不安だったが、別におかしなところはない。これで一安心だ。

 そんなこんなで冒険者ギルドまでやってきた。周りより一回り大きくて立派な建物だ。ここはギルド集会所というらしく、冒険者のための窓口になっているそうだ。この街にはこういう集会所が他にもいくつかある。

 中に入ると、屈強な男たちがわっさわっさたむろしていた。ここはガキの来るところじゃねえ的な視線が突き刺さってくる。確かに幼女フル装備の俺は場違い以外のなにものでもない。部屋に入ったので、オヤツとレナには降りてもらった。

 さっそく空いている受付に向かう。受付嬢はみんな美人さんばっかりだな。

 

 「すみません、冒険者になりたいのですが」

 

 「新規登録の方ですね。少々お待ちください」

 

 受付嬢は机の下から占いで使うような水晶玉を取り出す。

 

 「それでは登録される方は名前と種族を述べてください」

 

 「あ、キクタです。種族は人間」

 

 「では、この水晶に手を触れてください。この水晶には体内の魔力を読み取って、ステータスを数値化する力があります」

 

 指示に従い、水晶玉に手を置く。これはあれだろうか。実は俺はとてつもない量の魔力を持っており、その力に耐えられず水晶が割れてしまうというフラグ……

 

 「はい、計測は終了です。ギルドカードを発行します」

 

 なんてことはなかった。

 水晶の台座がカードダスみたいになっていて、そこからにゅるっとカードが出てくる。カードは金属製で免許証サイズ。何か文字らしきものが書いてあるが、俺には読めない。首輪のおかげで聞いたり話したりはできるが、異世界語の読み書きはできないのだ。

 

 「次はあたしよ!」

 

 「その次は私ね」

 

 「ですなのー」

 

 幼女たちも冒険者登録をしていく。ヤコがうっかり種族を宇宙人と言おうとしたので、俺が獣人と訂正させた。

 

 「そのカードは冒険者としての地位を保証するものですので、大切に保管してください。身分証の代わりにもなります。提示を求められたときはその指示に従ってください。初回発行は無料ですが、紛失、破損等の理由により再発行する場合は有料となります」

 

 なんでもこのカード、さっきの水晶玉と同じように体内の魔力を常に読み取る機能があり、自動でステータス情報が更新されるという。犯罪歴なども赤裸々に表示されるのだとか。そのとき装備している武装も表示されるらしい。便利だな。

 

 「あのー、俺は字が読めないのでなんて書いてあるか読んでもらってもいいですか?」

 

 「はい、かまいませんが……」

 

 受付嬢は俺のカードに目を通し、なにやら意味深な表情で俺を見詰めてきた後、内容を読み上げる。

 

 キクタ(LV1)

 

 体力:7/10

 魔力:7/7

 攻撃力:4

 耐久力:4

 想像力:1

 精神力:1

 敏捷力:3

 技術力:3

 元気力:1

 

 ステータス異常:ロリコン 慢性疲労

 

 クラス:なし

 

 チーム:なし

 

 装備

 頭:なし

 右手:なし

 左手:なし

 胴:学生服(耐久+1)

 足:ローファー(敏捷+1)

 その他Ⅰ:奴隷の首輪・改

 その他Ⅱ:なし

 

 個別スキル

 ・おいしい血(LV1)

 吸血鬼系種族とのエンカウント確立アップ。

 

 武器スキル

 なし

 

 「……」

 

 「……」

 

 あ、あれ?なんか色々とおかしいところがあった気がするぞ。

 

 「すみません、何分素人なもので、どういうことか一つずつ教えてもらってもよろしいですか?」

 

 「わかりました。まず名前の横に表示されているのがレベルです。キクタさんの現在のレベルは1ですね。これは戦闘力の総合的な指標を表します。モンスターを倒して戦闘の経験を積むことでレベルはあがり、各種ステータスも上昇していきます。レベルの上限は99です」

 

 これはRPGでもおなじみな仕様だよな。要するに経験値を稼いでそれが一定値に達したらレベルが上がって強くなるということだ。

 

 「次に書いてあるのがステータスです。『体力』はその人の生命力です。現状体力/最大体力で記されており、これが0になると戦闘不能に陥ります。休息をとったり、薬を飲むことで回復します。『魔力』もこれと同様です。魔法や特殊技を使うためには、この魔力を消費します。魔力の場合は数値が0になっても戦闘不能にはなりませんが、不足するとスキルを使うことができなくなります」

 

 つまり、体力がHPで、魔力がMPね。そして、なぜかすでにして体力が減っているという。

 

 「『攻撃力』は武器などの物理的な手段による威力の高さです。『耐久力』が高ければ、物理攻撃をより軽減させることができます。『想像力』は魔法攻撃の威力に関係し、『精神力』は魔法攻撃の対する防御力です。『敏捷力』は戦闘時の素早さと回避率を示します。『技術力』は攻撃の命中率に関わります。弓や銃といった遠隔武器の場合はこのステータスが高いほど威力が増します。『元気力』が高いと、ステータス異常にかかりにくくなり、かかっても早く回復できます」

 

 「ステータス異常ですか……その、俺の異常って」

 

 「そういうことになります」

 

 受付嬢は表情一つ変えることなく答える。この顔は仕事と割り切った顔だ。

 

 「ステータス異常には様々なものがあります。毒や麻痺、混乱、眠りなどのバッドステータスにかかると戦闘に重大な支障をきたしますので注意してください。それぞれの異常に合わせた回復薬を常備しておくことをお勧めします。放っておけば自然に回復するものもありますが、石化や呪いなど、専用のアイテムを用いなければ回復できない異常もあります」

 

 現実にモンスターと戦う上で、ステータス異常は確かに脅威だ。すぐに回復できなければ命にかかわる。多少、お金がかかっても薬は用意しておくべきだな。

 ……ロリコンに効く薬はないものか。

 

 「次にクラスですが、これは冒険者の戦闘タイプです。剣士系、魔術師系、回復師系など色々なジョブがあります。クラスに関しましては、クラス登録窓口で説明を受けてください。そしてチームですが、これは複数の冒険者同士でパーティーを組む制度です。パーティーを組むと、そのメンバーでダンジョンに潜ることができます」

 

 「え?じゃあ、逆にパーティーを組まないと数人で一緒にダンジョンには入れないのですか?」

 

 「はい。ダンジョンの入り口は転移機というマジックアイテムになっておりまして、転移機を使うと個人ごとにばらばらにダンジョン内へ飛ばされてしまうのです。しかし、あらかじめパーティー登録をすることで魔力的な結びつきを作り、複数人がまとめて一つの場所に飛ぶことができます。パーティーの人数の上限は5人までです」

 

 だとすると、もちろん俺たち4人でチーム登録しておいた方がいいだろう。

 

 「チーム登録をした場合、モンスターを倒した際の経験値はチーム内である程度分散されます。敵を直接倒した人が最も多く経験値を獲得します。その戦闘への貢献度によっても、チーム内で得られる経験値が変わります。低階層はチームを組まなくても比較的攻略がしやすいので、始めのうちはチームの必要性が感じられないかもしれません。ですが、階層が深くなると敵も強くなり数も増すのでソロでの攻略は難しくなります。また、チーム内でのドロップアイテムなどの報酬の分配について、ギルドは干渉しません。トラブルが起きても対応はできませんのでご了承ください」

 

 「だいたいわかりました。俺たち四人で登録してもらっていいですか?」

 

 「了解しました。では、チーム名を決めてください」

 

 チーム名?そんなこと急に言われても、ぱっとは思いつかないぞ。

 

 「お前ら、なんかいいアイデアないか?」

 

 「そうね……『ヤコ異世界調査団』なんてどう?」

 

 自分大好きだな。異世界言うてるし。

 

 「うんとねえ、『プリティキクタくんズ』がいいと思うよ!」

 

 それは俺を褒めているのか、貶しているのか。

 

 「『変態貴族と雌奴隷たち』がいいですのー」

 

 思いっきり誤解される。俺の世間体が崩壊する。

 

 「しかたないわね、ジャンケンで決着をつけるわよ」

 

 「いいよー!さーいしょーはぐー!」

 

 「ぱーだしますのー」

 

 ジャンケンで決めるのかよ。マジでレナのやつはやめてくれよ。頼むからレナ以外のにしてくれ!

 

 「やったー!勝ったー!」

 

 オヤツが勝ったらしい。ふう、これで後ろ指をさされる人生を送らなくて済む。

 

 「じゃあ、『プリティキクタくんズ』でお願いします」

 

 「はい、わかりました」

 

 はっ!よく考えたら、プリティキクタくんズも十分バカ丸出しのチーム名じゃないか!うわあああ!これじゃ俺はチームリーダー、プリティ菊田になってしまう!

 

 「やっぱり今のはなかったことにしてもらえませんか」

 

 「もういいじゃないですか、『プリティキクタくんズ』で」

 

 なんだこの受付嬢のどうでもよさそうな目!まるで仕事を増やすなよと言わんばかりの!

 

 「ステータスの説明にもどります。装備欄に関しましては、現在装備されているアイテムが表示されます。基本的に一つのスロットに一つのアイテムしか装備できません。たとえば、鎧を着た上からローブを羽織っても、どちらか一方の防御点しかステータスに反映されません。また、右手と左手に武器を二つ持つことができますが、『二刀同時使用』などのスキルがない限り、どちらか一方の装備補正しかステータスに反映されません。両手武器を装備している場合は、左手のスロットが装備不可になります」

 

 ナチュラルに話をそらされた。もうチーム名はあれで確定なのだろうか。

 それにしても、装備品はあのスロットに記された範囲でしか効果を発揮しないらしい。ステータス補正というものは、装備品それ自体の物理的な防御力や攻撃力だけでなく、装備した時点で体の一部であるかのように機能することによって発生するものだという。ヒトに扱える限界が、このスロットなのだそうだ。だからここに表示されていないアイテムは、装備品としての本来の効果を発揮することはない。

 その他装備は、指輪や腕輪、ネックレスなどのアクセサリが入るらしい。スロットにある通り、最初につけた二つまでしか効果がない。これもなんだかゲームの仕様っぽいな。

 

 「最後にスキルについて説明します。スキルには『個別スキル』と『武器スキル』があります。『武器スキル』の方が、説明が簡単ですね。これは武器を装備すれば習得できます。キクタさんは今、武器を装備していらっしゃらないので空欄になっています。よい装備になると、防具でもスキルを習得できるものがあります」

 

 どんな武器でも最低一個はスキルはスキルが設定されていているという。装備するだけで技が使えるなんてお手軽だな。

 

 「『個別スキル』は装備品に関係なく本人が習得するスキルです。たいていはレベルを上げれば、クラスに応じた個別スキルを覚えます」

 

 「あの俺、すでにわけわからん個別スキルを覚えているんですけど……」

 

 「そういったことも稀にあります。たとえば、エルフの方は『魔力成長増』、獣人の方は『獣化』など、種族によっては最初から覚えているスキルもあります。キクタさんの場合は特殊体質ですね。『おいしい血』……私は見たことがないスキルですが、吸血鬼系モンスターを惹きつけるようですね」

 

 ダンジョンにも吸血鬼系モンスターがいるそうだ。ヴァンパイアとか、見るからに強そうなモンスターは深い階層にいるようだが、吸血コウモリなどの弱めモンスターは低階層にもいるという。常時発動型のスキルらしいので、意識的に血をおいしくなくさせることはできない。使えね。

 これってまさか、ダイオカシスキンの影響じゃないよな?

 

 「このスキルの横にカッコつきで表示されてるレベルはなんですか?」

 

 「これはスキルレベルです。スキルレベルが上がる条件は様々ですが、ほとんどの場合はそのスキルを多用することであがります。武器スキルにも同様にレベルがあります。スキルレベルが上がると、そのスキルの威力も高くなります」

 

 これをスキルレベルと言うのに対して、本人の肉体的なレベルをバイタルレベルというそうだ。単に経験値を稼いでバイタルレベルを上げるだけではスキルを使いこなせない。習得したスキルを何度も練習してスキルレベルを上げることで格段に戦術の幅が広がる。

 

 「武器スキルに関しましては、その武器を装備していないと使えません。紛失したり破損したりして使えなくなった場合、上がったスキルレベルが下がることはありませんが、まったく同種の武器を新しく装備しないとそのスキルは使えなくなります」

 

 ある武器を装備して覚えたスキルのレベルを上げていたとして、次に別の武器を装備してしまったらそのスキルを使うことはできない。スキルが装備品一つ一つに設定されているので、武器を変えたらスキルも変わるのだ。

 

 「と言っても、剣や槍といった武器のカテゴリごとにほぼ共通して使えるスキルがあります。そういうスキルは剣なら剣で装備を変えたとしても、同じスキルを使うことができますのでレベル上げが無駄になることはありません。ですから、初心者のうちは色々なカテゴリの武器に手を出そうとせず、一つの武器のカテゴリでスキルを集中して上げた方がいいでしょう」

 

 そんな説明が長々と続いた。幼女たちは途中から眠そうにしていた。

 


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