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1話「アブダクション」

 

 まず、冷静に今の状況を確認しよう。

 俺は菊田。ごく一般的な男子高校生だ。今日も一日、学校の退屈な授業を受け、放課後に下校していた。部活にも入っていない俺は、某有名週刊漫画誌をコンビニで買いもとめ、家に帰ってまったりとした時間を過ごす。はずだった。

 

 「やったー!地球人の捕獲に成功したよ!」

 

 「いいから早く実験の準備をしなさいよ」

 

 「ですなのー」

 

 コンビニから出た俺は駐車場を占領する銀色の円盤を目にした。どこからどうみてもコテコテのUFOだ。この近くで映画の撮影でもやっているのか。しかし、わざわざコンビニの狭い駐車場に停めなくてもいいではないか。

 だが、今考えれば不審な点はいくつもあったのだ。そのUFOに対して、俺以外の誰も注目していなかった。コンビニの店員も、窓際の雑誌棚で立ち読みする客も、通行人も、誰も。さらに、駐車場に入ってこようとした車は歩道まで横切ったのに、何か思い立ったようにUターンして帰って行く。結局、一台も車は入ってこなかった。

 だが、無警戒にも俺はそんな異変に気づくことなくのんきに携帯でUFOの写メを撮っていた。そのとき、コンビニの自動ドアが開き、三人の幼女が現れた。

 そいつらは誠に不思議な格好をしていた。まず、服装がスクール水着なのだ。これだけでも十分怪しい。しかしこの猛暑が続く季節、プール帰りの小学生が着替えるのをめんどくさがって水着のまま表を歩いていることがないとも言い切れない。

 しかし、そいつらの頭には、なぜかケモノの耳がついていた。そして、おしりにはケモノの尻尾。これはいわゆるコスプレなのか。そして、髪の色も変だった。赤、緑、黄色とまるで信号機のような原色の取り合わせだ。こんな染め方したら親に怒られそうだけど。

 さらに靴を履いておらず、裸足だ。舗装された黒いアスファルトの地面は焼けるような熱さだろうに、その上を裸足で歩くのか。靴はどうした。実際、幼女らは熱い熱いと言いながらぴょんぴょんと跳ねるようにして歩いている。いや、靴をはけよ。

 そいつらはホームランバーバニラ味をむしゃむしゃ食べ食べ、UFOに向かって歩いていく。その光景を呆然と見詰める俺。UFOは幼女たちが近付くと、ひとりでにハッチが開き、タラップが降りてくる。三人の幼女はそこからUFOに乗り込もうとしていた。そこで、俺と一人の幼女との視線が合う。

 次の瞬間、俺の意識は暗転した。

 

 「こ、ここはどこだ……?」

 

 「おー、目が覚めたようだね、地球人よ」

 

 俺は気がつくと、手術台のようなものの上に拘束されていた。手足が固定されて動かせない。目の前にはコンビニで会った変な幼女三人組がいる。

 話しかけてきたのは黄色い髪をした幼女だ。俺のことを地球人と呼んでいる。まさか、あの怪しさ爆発のUFOに乗って地球にやって来たエイリアンとか言い出すんじゃないだろうな。

 

 「私たちは、この惑星から遠く離れた銀河に住んでいる者だよ。つまり、君たちからすれば宇宙人ということなるね」

 

 マジで言ってるのか。これは壮大なドッキリか何かか。スク水コスプレ幼女の宇宙人なんて、どこの宇宙にいるんだ。悪いが、俺はそんなことよりもジャンプを読みたい。

 

 「精神感応電磁波による認識の改竄の影響を受けなかったようだね。気になったからアブダクションしてみたんだよ」

 

 何のことかわからないが、アブダクションというのは宇宙人による誘拐事件のことだったと記憶にある。これから脳内に怪しげな金属チップをインプラントされるとでもいうのか。馬鹿馬鹿しい。

 

 「あのねえ、どこでこんな遊び覚えたのかしらないけど、洒落にならないから早くこの手錠をはずしなさい」

 

 「実験が終わるまではダメだよ。だいじょうぶ、多分死なないと思うから」

 

 そう言うと、赤い髪の幼女がこちらに近づいてきた。その手に持っているものを見てギョッとする。注射器だ。なんで、幼女がそんなもん持ってんだ!?

 

 「ちょ、ちょっと、落ちつこうか。その注射器はなに? これから何するの? ねえ!?」

 

 「血液を採取するだけよ。ぎゃーぎゃー騒がないで」

 

 やけに簡単に言うけど、血液採取ってこれどんなプレイよ。注射器だってちゃんと血管を狙ってくれないとものすごく痛い。マジで幼女が注射打つのか、いやいや、やめなさい!

 

 「まてまて! ホントに打つ気か!? ふざけんな、お兄さん割と本気で怒っちゃうよ!?」

 

 「あーもー、うっさいわね! 集中できないでしょっ!」

 

 ぐさっ!

 

 「いてえええ!!」

 

 医療道具なんだからちゃんと資格のある人しか他人に打っちゃいけないはずだ。医療的侵襲は本人の意思によらないとやっちゃダメなんだぞ。

 幼女は容赦なく俺の血を抜き取り、どこかへ持って行った。手術台に縛り付けられているので何がされているのかわからない。やたらメカメカしい機材があちこちにあり、配線や金属板でごちゃごちゃした部屋だ。まるで改造手術を受ける仮面ライダーの気持ち。

 そういえば、幼女は三人いた。もうひとりはどこにいるのか。首をひねってなんとか周囲を見渡すと、意外と俺の近くにいた。椅子に座ってジャンプを読んでいる。って、それ俺のジャンプ。

 俺の視線に気づいたのか、その幼女がこっちにやってきた。緑の髪の子だ。そういえば、コンビニの前で目があった幼女はこの子だった。その子は俺の耳元でこそこそ話をするように囁く。

 

 「今週のジャンプの内容は……」

 

 「ま、まさかお前ネタバレする気か!」

 

 やめろおおお!! 地味に精神的ショックを食らうからやめろ! 立ち読みするのではなく、購入してじっくりねっとり家で読む派の俺にとってネタバレは最も忌避すべきもの。一週間の活力を根こそぎ奪われてしまう……!

 なんなんだ、こいつら。これがかわいい幼女じゃなくて、むさい男どもの犯行だったら絶対に許さないところだ。そして、俺はこれから何をされるんだ?

 

 「実験って何する気だよ、これってドッキリか何かなんだろ? なあ?」

 

 「まあ、簡単な身体検査だよ。それが終わったら記憶を操作して地上に返すから」

 

 「地上? ここはあのUFOの中なのか?」

 

 「そうだよ。今は成層圏を飛行中だよ」

 

 もう付き合っていられない。これ以上、頭がイカレタ幼女軍団のおままごとに付き合わされるなんて御免こうむる。

 俺がこの拷問される理不尽な状況について嘆いていると、さっき俺の血液を持って行った幼女が何やら慌てた様子で帰って来た。

 

 「ちょっと、これ見て! この地球人の血液からダイオカシスキン成分が検出されたわ!」

 

 「え、ホントに!?」

 

 「とてもよろしいですなのー」

 

 「なんだその人類史上最悪の毒物兵器にニアピンした名前の成分は」

 

 そんな得体のしれない物を体内で生成した覚えはない。

 

 「ダイオカシスキンは、私たちにとって人間で言う必須アミノ酸に相当するたんぱく質なんだよ。これがないと、私たちは生きられないんだ。地球上にはこのたんぱく質が存在しないはずだったんだけど、なぜか君の血液には大量のダイオカシスキンが含まれてるんだよ!」

 

 「これは後世に名を残す大発見よ。あんたを研究すれば、地球人をダイオカシスキンの生産主として改造することができるかもしれないわね。そうすれば地球侵略計画の有効性が一気に増すわ」

 

 「われわれは宇宙人ですなのー」

 

 わけがわからん。病院に行けと言いたい。いや、病院が来い。

 

 「そうか、それはよかったな。よかったついでに俺を開放してくれ。いい加減、我慢の限界だ」

 

 「そうはいかないよ。簡単に説明するなら、君の血は私たちにとってゴチソウなんだよ。ゴチソウをタダで手放したりなんかしないよ」

 

 「そして、モルモットとして飼いならしてあげるわ。記憶をいじれば地上で生活していたころの記憶なんかなくなるから悩む必要はないわ」

 

 「ところで、今週のジャンプの内容ですがー」

 

 あろうことか、幼女たちは注射器から漏れ出た俺の血液を手にとってぴちゃぴちゃ舐めはじめた。なんかエロい……じゃなくて! 衛生的にも問題だ。俺が感染症とか持っていたらどうするんだ。

 

 「ぺろっ! おいしいよ!」

 

 「むぐむぐ、なかなかイケるわね」

 

 「美味ですなのー」

 

 ヴァンパイヤじゃあるまいし、血がうまいなんてことがあるか。

 だが、三人ともとてもおいしそうに血を飲みほしてしまった。血がなくなって残念そうな顔をしていたのもつかの間、今度は俺の方にすり寄ってくる。まさか、また血を抜く気か!?

 

 「こ、これだけ元気そうなんだし、もうちょっとくらいなら……いいよね?」

 

 「ごくり……死なない程度に残して、後はあたしが……ふふふ」

 

 「あったかいちぃー、う゛ぇろう゛ぇろなめたーい、ちぃー!」

 

 幼女が俺の上に乗ってくる。ああ、なんだかこれはこれでいい気もするようなしないような。はっ! まずい、俺のロリコンが発症してしまう!

 

 「ええい、うっとおしい! お前ら離れろおお!!」

 

 そのとき、俺の叫びに呼応するように地面が揺れた。

 地面と言うよりもUFOの本体が激震する。天地がひっくり返り、何回転も回り続ける。俺の体は縛り付けられていたからよかったが、幼女たちはブッ飛んで壁に叩きつけられた。このあり得ない回転から考えて、UFOは本当に空を飛んでいたようだ。空中でなければこんなアクロバティックな動きができるわけない。そして、何らかの事故が起きて正常に飛行できなくなったのだろう。

 幼女たちのことも心配だが、他人を気にしている余裕はない。遠心力がすさまじい。ジェットコースターなんかとは比べものにならないほどのGだ。息もできないほどの強力回転。胃が締め付けられて吐きそうになり、それが引っ込んでまた吐きそうになるくらいの逼迫感だった。

 そのうち俺は耐えられなくなり、意識は再び闇に落ちた。

 

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