裏に怯える僕と自殺志願者な君
*
「…おきてよ」
何時の間にか彼女は僕の部屋に居た。
扉を開ける音とかそういうのはまったく聞こえなかったが居た。
どうやって入ってきたのかというのはスルーしようか。
彼女は僕の上に馬乗りになっていて、上手い具合に僕の腹を押している。
苦しい。重苦しい。早く降りてくれないだろか。
「殺してよ」
彼女は僕に囁いた。
嗚呼、君の口癖はどうやったら直るのだろうか?
「アタシを殺して、翔も一緒に死ぬの!どう?素敵でしょう?」
全然、素敵じゃない。 というよりヤバイだろ。
*
彼女は、自殺志願者だ。
何で死にたいのか、と聞くと何時もこう答える。
"だって、かみさまの居ない世界なんて最悪でしょう?"
僕にはよく解らないけど、絶望しているようだ。
かみさま、なんて僕は信じていない。
彼女は信じているが故そうなってしまったのだろう。
でも、1つ僕が言えること。僕はそんな君が好きなんだ。
恥ずかしくなるような台詞だ、だとか厨2乙だとか、そんな言葉は要らない。
僕が何時か息絶えるまで君を愛し続ける。願うなら君の死ぬ姿を見たくなんて無い。
だから君にその口癖を直して欲しい。
「殺して」と言うその口を塞いでしまいたい。
*
妄想の中で僕は君を愛し、犯し、殺した。
命の灯火が消える寸前君は笑った。勿論妄想の中で。
嬉しそうに、嬉しそうに。
僕の見たことの無いような綺麗な笑顔で。
僕はまたその笑顔が見たくなって妄想の中で君を愛し犯し殺す。
時々怖くなる。
僕が"妄想"だと思っているのは"現実"なのかも知れない。
そんな筈は無いのだけど、余りにも君の笑顔、殺した時に手に残る紅、生々しい鉄の匂い。
全てがリアルすぎて怖いのだ。
でも君は何時もの口癖を吐いて、僕に寄り添う。
この温もりが妄想な訳、無い。
勿論僕は現実で君を愛しても殺したりする事は無いだろう。其処まで狂っては居ない。
きっと君にこの話をしたら「現実で実現させてよ」って言うのだろう。
君は死にたがりだから。
*
「おきてる?」
「…起きてるし」
馬乗りの状態で僕を見下ろす君。
「翔はさ、アタシの事如何思う?」
「花音の事?」
勿論、愛してる。
でも、君はそんな答えを求めちゃいないだろう?
少し考えて見る。君が喜ぶ答えは…
「ねーぇー」
軽く僕の胸板を叩きながら君は唇を尖らせる。
「待てって」
「解ったー。あと2分ね!」
こうしていると自殺志願者になんか見えないのにな。
そんなくだらない事を考えてから、思いつく。
「花音」
「何?」
「花音の事、殺したい位愛してるよ」
僕なりの答え。
案の定君は満面の笑みで僕の首に抱きつく。
「翔!大好き!」
「こんなんでかよ?」
「だってさ、アタシの事殺したい位愛してるって事は、独占欲でしょう?それだけアタシを欲してくれてるのが嬉しいの」
その言葉には答えず、僕は君を抱き締め返した。
(此れが僕らの愛の形)(誰が何と言おうとも)
2人は幸せに成れるのでしょうか。