Level5-1:彼女達の休日
※この小説は『デュエル・マスターズ』を題材にした小説です。
※あくまでもフィクションです。
実在する地名、氏名年齢住所電番などとはまったく関係がありません。
※なおカードの効果などはココ(http://www27.atwiki.jp/duel_masters/)で調べるといいと思います。
※致命的なミスが発覚しました。詳しくは前回の後書きをご覧ください。
初夏の眩い昼の光が、薄いピンク色のカーテンによって遮られつつもその部屋に伝わってくる。
その光が照らした勉強机の棚には、きっちりと教科書やファイルが配置されており、その部屋の主の几帳面さが表れているようだ。
壁には某有名男性アイドルのポスターが貼られており、木製のベッドの上にはぬいぐるみがいくつか置いてある。時計も枕も全て何もかも薄いピンクや水色、白などの普段からその部屋の主が好んでいる色で統一されている。極普通の女子の部屋だ。
ただ一つ、ただ一つ違うところは、その勉強机の引き出しの中にデュエル・マスターズのカードがあるということだけだった。
Next Level ~輝ける切札~
その部屋の主―――飛鳥は家のダイニングで麦茶をコップに注いでいた。
その数は2つ。今日は彼女の親友の黒埼 楓が遊びに来ている。
コップを両手に持ち、階段を上って部屋のドアを開く。そこには濃い紫のフリルのワンピースを着た楓が座り込んでいた。ワンピースの裾からは黒のレギンスが見えている。
「お疲れ様~」
楓の手元にはトランプのカードが置かれている。『スピード』と呼ばれるゲームだ。置かれたカードを見る限り、どうやら飛鳥が負けたようだ。
「もう、ホント楓、速過ぎるよー」
飛鳥が片方のコップを楓に手渡す。お茶を持ってくるか持ってこないか、賭けルールでゲームをしていたらしい。
「まあ、伊達に生徒会やってないからねー」
と、楓は悪魔のような笑みを浮かべて答えた。その話し方一つ一つが普段の彼女からはまったくと言っていいほど想像出来ない。
彼女はプライベートでは“何に対してでも容赦が無い”のだ。言いたいことは必ずはっきり言う。やりたい事は必ず成し遂げる。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。
そして隠れた情報通でもある。この学校であったことで彼女の知らぬものは無い。その面は特に生徒会で重宝されているらしい。
学校ではそれをうまく隠しているが、プライベートではそれを曝け出している。特に、親友である飛鳥に対しては。
手元のトランプを器用に片付け、ケースにしまう飛鳥。ピンクのラフなTシャツに白のパーカーを着ている今の彼女と楓はまるで対照的だ。
「で、本題なんだけどさ―――」
飲み干され、氷だけとなったコップを手に持つ楓。その目は机の“引き出し”を見つめていた。
「私にデュエル・マスターズを教えてくんない?」
「…………へ?」
呆然としている飛鳥。当然だ、飛鳥は自分がデュエマをやっている事を自分の兄、そして翔と優也にしか明かしていなかったのだから。
まさか、翔か優也が誰かにバラしてしまったのだろうか―――。と彼女が頭を混乱させている内に、静かな笑みを浮かべていた楓が口を開いた。
「飛鳥、火渡君と蒼木君は何もバラしていないわ。落ち着いて」
「えっ、じゃあどうやって……?」
前述したとおり、飛鳥は自分の秘密をその3人にしか明かしていない。デュエマを出来る場所である『トランプ』に行く時は念入りに注意をしているから、その方面でバレることは無いだろう。
「最近のあなたの行動を見ればすぐ分かるわよ。最近ずっと火渡君や蒼木君と話してたし。その二人に共通する事は唯一つ、TCG『デュエル・マスターズ』。一年の時に彼らがそのカードゲームのプレイヤーであるってこと聞いた事があったし」
飛鳥の開いた口はまさに“塞がらなかった”。流石情報通といったところだ。
「…………楓、下手したら探偵になれるんじゃない?その推理力」
しかし情報をただ手に入れているだけでは、ここまでは出来ない。彼女はそれに加えて、小説の中の名探偵に匹敵できそうなほどの推理が出来るから、生徒会でも重宝されているのだ。
「で?なんでデュエマ教えて欲しいの?」
それでも何故楓がデュエマを教えて欲しいのかは謎だった。飛鳥がプレイヤーだろうか?
「簡単な理由よ、ただやってみたかっただけ」
一瞬の沈黙が流れる。
「それだけ?」
「うん、それだけ」
彼女の心は親友である飛鳥にも読めない。
紫のワンピースの少女は静かに笑みを浮かべていた。
「ふぅん、つまりマナと呼ばれるエネルギーを貯めて、クリーチャーや呪文を駆使し、五枚のシールドを破って先に直接攻撃が勝つってことね」
飛鳥が20分ほどかけてした説明をなった一文で纏め、興味深そうにカードを眺める楓と苦笑いを浮かべる飛鳥。彼女達はかなり深いところから性質が違うようだ。
本来友人関係は、自分に性質が似ているものを選びがちなのだが、案外本当に気が合うのは真反対の性質のものなのだ。
「じゃあ実践してみよっか。さっき教えた五文明の中で楓はどれがいい?」
引き出しの一番下から大量のカードが入っているナイロン製の収納ケースを取り出した。
「う~ん。…………闇かな?」
楓らしい文明のチョイスである。飛鳥は、収納ケースの中できっちりと小分けされているストレージBOXの中の、「闇文明のデッキ」と表紙に書かれている物を取り出す。そして、その中から一つデッキを楓に手渡した。
飛鳥は他のと違い何も書かれていないストレージBOX―――“飛鳥専用”の中から、一つ赤いスリーブのデッキを取り出した。デッキ内容は火が中心なのだろう。
火と闇、これらは友好色と呼ばれる組み合わせだ。
“破壊や感情、自由”と“死や犠牲、利己”。まったく異なっているように聞こえるこの二つの文明も実は共通点がある。
友人関係でも同じだ。違う性質に思えても、意外に共通点があるものなのだ。
「ルールはさっき教えたとおりだからね!行くよ!」
互いにシールドを展開し終え、デュエルが始まる。
「「決闘、スタート!」」
「《霞み妖精ジャスミン》召喚。効果で破壊してマナを一枚増やすわ。そして《エナジー・ライト》で2枚ドローね」
前のターンに《霞み妖精ジャスミン》により、マナが増えている楓はさらに《霞み妖精ジャスミン》を使いブーストをした。そして《エナジー・ライト》を使ってその分失った手札を補充している。
彼女が使っているデッキは彼女の義兄が残していったデッキだ。しかし、飛鳥は使った事が無いのでデッキの内容は分からない。義兄はコンボデッキと言っていたそうだが。
「《レッピ・アイニー》召喚!効果で山札の上から三枚めくり、超次元呪文を一枚手札へ!」
めくった三枚の中には《超次元ボルシャック・ホール》があった。飛鳥はそれを手札に加える。
バトルゾーンには今召喚した《レッピ・アイニー》の他にセイバー:ドラゴンとサムライを持つ《ポッポ・弥太郎・パッピー》が置かれている。
どうやら彼女のデッキは翔とデュエルしたときの《龍炎鳳エターナル・フェニックス》のとは違うようだ。
「《天真妖精オチャッピィ》を召喚して墓地から一枚をマナゾーンに。そして《百発人形マグナム》召喚するわ」
さらにマナを増やす楓、そして超次元メタカードの代表格である《百発人形マグナム》が召喚された。
コレにより、飛鳥が《レッピ・アイニー》が手札に加えた《超次元ボルシャック・ホール》が撃ち辛くなる。
「う…………」
飛鳥は楓のプレイングに驚いていた。カードに初めて触れた楓がココまでうまく使いこなすとは、と。カードゲームの基礎であるドローとブースト。相手の次の手を読みそれを制するためのメタカードの使用――――。どれもこれもアドバンテージの重要性が理解できていないと出来ない事だ。
(…………でもっ!)
しかし、デュエマを始めたての頃と比べて彼女は成長した。幾ら楓がアドバンテージの重要性を理解できていてもまだ初心者だ。
「《マッハ・ルピア》召喚!」
アーマード・ドラゴンにスピードアタッカーを与える《マッハ・ルピア》が飛鳥の場に召喚される。コレで次のターンに召喚される飛鳥の竜はすぐ殴れるようになった。
しかし、楓は落ち着いた対応を見せる。
「マナは十分あるわね。《終焉の凶兵ブラック・ガンヴィート》召喚」
クリーチャー版《ロスト・ソウル》といっても過言ではない程の手札破壊能力を持つ《ブラック・ガンヴィート》。「ノー・チョイス」による強力なフィニッシュ力を持つこのデーモン・コマンドが楓の使っているデッキの切札のようだ。
「私のターン!《超次元ボルシャック・ホール》!《オチャッピィ》を破壊して、《時空の剣士GENJI・XX》をバトルゾーンに!」
《百発人形マグナム》の効果により、何か1体飛鳥は破壊しなければならない。彼女は《レッピ・アイニー》を選択した。
《GENJI・XX》と《ブラック・ガンヴィート》―――。互いの切札が揃った。
「一斉攻撃!《時空の剣士GENJI・XX》《マッハ・ルピア》《ポッポ・弥太郎・パッピー》でシールドをブレイク!」
先に動いたのは飛鳥だ。楓のシールドのほとんどが吹き飛ぶ。
「…………」
一枚ずつ確認していく楓、黙って全て手札に加える。
「ターンエンド。そして、まず《時空の剣士GENJI・XX》の覚醒条件達成!」
裏返り、《剣豪の覚醒者クリムゾンGENJI・XX》へと覚醒する。
《GENJI・XX》の覚醒条件は“自分のターンエンド時に、自分のクリーチャーが全てタップされている”こと。彼女はその条件を達成させるために《マッハ・ルピア》を投入したのだ。
「次に、《マッハ・ルピア》の効果を解決。《剣豪の覚醒者クリムゾンGENJI・XX》を手札に加えるわ」
彼女のコンボはまだ止まらない。《クリムゾンGENJI・XX》はバトルゾーンを離れる時、山札の一番上を捲りそれがファイアー・バードならそのまま残る事が出来る能力をもつ。しかも、1体コスト7以下の火のサイキック・クリーチャー付きで。
「…………!!」
飛鳥は、慎重に山札を捲っていく。
「捲れたカードは《トット・ピピッチ》、条件達成!《時空の火焔ボルシャク・ドラゴン》をバトルゾーンに出すわ!」
条件達成、《クリムゾンGENJI・XX》は場に残ったまま、さらにサイキック・クリーチャーが一体増えた。コレで、バトルゾーンにあるサイキック・クリーチャーのコスト合計は21だ。
「超無限進化!《クリムゾンGENJI・XX》と、《ボルシャック・ドラゴン》を《超時空ストームG・XX》に!」
彼女にとって、《クリムゾンGENJI・XX》はあくまでコンボパーツの一枚に過ぎなかったのだ。
《超時空ストームG・XX》の、“コスト20以上になるように、サイキック・クリーチャーを一体以上選び、その上に置く”という進化条件を達成するための。
「……ターンエンド」
満面の笑みを浮かべる飛鳥。コレほどのコンボを決めるのはそれだけ難しいのだ。
圧倒的なピンチに立たされる楓。いくら初心者とはいえこの状況がどれだけ危ないか彼女にも分かっているだろう。
しかし、彼女は表情を崩さなかった。自分の手札とバトルゾーンを見つめるだけだ。まるで相手には関心の無いように。
「私のターン―――」
現在、彼女のバトルゾーンにあるのは《終焉の凶兵ブラック・ガンヴィート》と《百発人形マグナム》の2体。そしてマナは9枚。彼女はこれから、5枚ある手札のうちのたった一枚のクリーチャーを使いこの状況をひっくり返す。
「《大河海嶺・K・アトランティス》召喚するわ」
バトルゾーンに出された《大河海嶺・K・アトランティス》は、破壊された時に相手のクリーチャーを全てバウンスする能力を持っている。その効果が発動すれば、十分にこの状況に対抗できるだろう。
しかし、彼女の手札にはこの《K・アトランティス》を破壊するためのカードは無かった。
そう、彼女の手札には。
「マナ爆誕、《陰陽の舞》を召喚。ねぇ飛鳥、一つルールの確認をしても良い?」
「?」
「“マナ爆誕0”は、コストを支払っていないことになるのかしら?」
「…………!!」
ケケケケ―――。《百発人形マグナム》から声が聞こえる。飛鳥は刹那、そんな奇妙な感覚にとらわれた気がした。
「《百発人形マグナム》の効果が発動するわね。じゃあ、《大河海嶺・K・アトランティス》を破壊するわ」
飛鳥のクリーチャーが全て吹き飛ぶ。今の彼女には、《ポッポ・弥太郎・パッピー》も《マッハ・ルピア》も、《超時空ストームG・XX》もない。
「さらに《終焉の凶兵ブラック・ガンヴィート》で飛鳥に攻撃。じゃあ、手札を捨ててね」
互いの大量にあった手札が全て墓地におかれる。シールドをブレイクされたことにより多少飛鳥の方が手札が多くなっているが、状況は完全に楓に傾いている。
「手札から捨てられたので効果発動!《翔竜提督ザークピッチ》をバトルゾーンに!」
飛鳥も反撃に出る。しかし、それは意味を成していない。
「《百発人形マグナム》の効果発動。クリーチャーを1体破壊してね、飛鳥」
「……っ!」
“楽しみたければ、代償を支払わないとな。”
何をしても、今の飛鳥は阻まれてしまう。この狙撃手によって。
「私のターン……」
《翔竜提督ザークピッチ》により手に入れたカードでも、今ドローしたカードでもこの状況をひっくり返す事は出来ない。
「……ターンエンド」
飛鳥は、完全に意気消沈してしまった。
「じゃ、《終焉の凶兵ブラック・ガンヴィート》で飛鳥を攻撃。残りのシールドを全てブレイクして《百発人形マグナム》でトドメね」
最後はアッサリとした淡白なトドメだった。楓と飛鳥のデュエルはコレにて終結した。
太陽の光が徐々に薄れ、部屋も辺りも薄暗くなっていた。楓はもうその部屋に居ない。用事があるので帰ったのだ。
飛鳥は自分が負けた原因をずっと考えていた。勉強机に乗せられた、自分のデッキに向かいながら。
《超時空ストームG・XX》を出すまでは完璧な流れだった。しかし、負けてしまったのはその後のことを考えていなかったからだ。
ふと、飛鳥の脳裏にあるカードが頭をよぎった。目の前のデッキの中から、一枚のカードを引き抜く。
“戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ。そして勝者と敗者は、その次の四手五手を読みきれるかで決まるのだ!” ―――《変幻の覚醒者アンタッチャブル・パワード》だ。
楓は常に二手三手先を読んでプレイングしていた。彼女をデュエマの道に一歩進めさせてくれた友人、翔の様に。
カードを持っていない方の腕を握り締める。コレでは、まだまだ兄を超える事は出来ないだろう。
しかし、幸いな事にまだ彼女には強くなれるチャンスがあった。
楓はあのデュエルの後こんな事を言い残して去っていったのだ。
「デュエマ、面白かったよ」と。
楓は滅多に面白いと言わない。飛鳥の記憶が正しければ、トランプと本に関して言った事があるだけだ。
だから、楓と遊ぶ時はいつもトランプのゲームをしていたのだ。それ以外は一度やっただけで二度と興味を持ってくれない。
その彼女がデュエマに興味を持ってくれた。つまり、それはデュエマを始めるということ。
彼女の周りにプレイヤーが増えるという事だ。
床に置かれた楓が使っていたデッキを見つめ、飛鳥は笑みを浮かべた。
まず始めに、読者の皆様にお詫び申し上げます。
前回の後書きをご覧になられればお分かりになると思いますが、致命的なミスが発覚しました。
今回の話で登場する黒埼 楓(Kurosaki Kaede)は前回の本文中では“生徒会長”として登場していたのですが、彼女は中学2年生になったばかり。普通の公立学校では2年の始め頃に生徒会長になるのは不可能なのですよ。
なので、“生徒会役員”として修正させていただきました。ご了承お願いします。
それでは、今回楓が使っていたデッキをどうぞー。
『Black Requiem』
■クリーチャー
3/闇《終焉の凶兵ブラック・ガンヴィート》
3/水《大河海嶺・K・アトランティス》
2/闇《超神星DEATH・ドラゲリオン》
3/自然《陰陽の舞》
3/闇・自然《腐敗無頼トリプルマウス》
3/闇《百発人形マグナム》
3/闇《解体人形ジェニー》
3/自然《天真妖精オチャッピィ》
3/自然《霞み妖精ジャスミン》
3/水《アクア・サーファー》
■呪文
3/自然《ナチュラル・トラップ》
1/自然《母なる紋章》
3/水《エナジー・ライト》
3/《エマージェンシー・タイフーン》
使い方は本文を見てくだされば分かると思います。
ワンポイントは《超神星DEATH・ドラゲリオン》。もしコンボを決めた後に相手が再び展開しても、コイツで吹き飛ばしちゃってください。
いつの間にか前回から2ヶ月経ってしまいましたね。次の更新はもっと早くしたいと思っているので楽しみにしてください!