Level3:桜と少女[1]
※この小説は『デュエル・マスターズ』を題材にした小説です。
※あくまでもフィクションです。
実在する地名、氏名年齢住所電番などとはまったく関係がありません。
※なおカードの効果などはココ(http://www27.atwiki.jp/duel_masters/)で調べるといいと思います。
桜の花が咲いていた。
少し古めかしい公園に一本だけそびえ立つその桜の木は、まるでその景観を見守っているようだ。
周りに団地などなくいつもひっそりとしているこの公園には珍しく、その日には二つの声が響いていた。
その声は、競い争うようにも聞こえ―――。
「《未来設計図》で6枚から《レクタ・アイニー》を手札に!」
「《幻緑の双月》で手札を1枚マナブースト!」
Next Level~輝ける切札~
夕日が教室に差し込んでいた。
その開け放たれた窓からは春の香りが漂い、教室全体を癒している。
外では野球部がバッティング練習をしているようだ。ホームランの音が鳴り響く。
そんな教室の中で翔は一人掃除をしていた。
別に罰ゲームとかの類ではない。たまたま今週教室の担当だった翔の班のクラスが彼以外全員休みで、たまたま担任の先生が急用で居なくなったからだ。かなり奇跡的だが。
一人で机を運び、黒板を拭き、床を掃く。
彼がクラスで“クール&ヒート”と呼ばれる所以の一つがココにあるのだろう。
熱い志を持っているが、マンガの主人公のように一直線ではなく、何事にも冷静に対処する。かと言って周りに対して冷たいというわけではない。
まさに“クール&ヒート”ということだ。
最後の机を運び終わると、翔は自分の机に座り込み一息入れた。
翔はこういう時間が嫌いではない。
朝と同じようにキチンと整列されたきれいな教室だ。他の人間ではこうはいかない。
翔がボーッと窓から見える夕日を眺めていると、後ろからドアの開く音が聞こえた。
振り向くと、制服姿の少女がラケットケースを背負い息せき切っている。
桐谷 飛鳥。バトミントン部のエースで、このクラスにいる第2学年の副学級委員長。成績優秀で、この前部活を都大会へ導いたらしい。黒髪のセミロングで、この学年ではそこそこ人気がある。
彼女の性格はその服装にも表れており、しっかりと第一ボタンまで閉められている。
第一ボタンまで閉めている生徒は指を折るほどしか居ない。翔もその一人だ。
「お疲れ様。もう終わったの?」
飛鳥が呼吸を整えながら翔に近づく。
「あぁ、ただの掃除だったからな。簡単だったし」
翔が淡白に答える。時計はもう5:00を指していた。
今日、彼は部活があった。硬式テニス部だ。しかし、もうすでに出るのを諦めている。
「明日って部活があるの?」
「いや、明日は無いけど。それがどうかした?」
明日は土曜日、つまり『トランプ』でのDR開催日だ。同じテニスコートを使う軟式テニス部にいるデュエリストはそれに参加出来ず、わざわざ町のはずれにあるカードショップに遠征しているという話を彼は聞いたことがあった。
「じゃあさ―――」
「?」
「明日、私とデュエマしてくんない?」
彼女の話を要約するとこうだ。
義兄に勧められて去年の冬からデュエマを始めたそうだ。
成績優秀な彼女はすぐにデュエマに嵌っていったが、幼い弟しか対戦相手がいなく困っていた。
周りにやっている女子などおらず、男子にはデュエマをやっている人もいたが、普通はカードゲームをやっている女子は偏見を持たれるため敬遠していた。
しかし、夏休み前に義兄が一度帰ってくる。しかもその時デュエマをする約束をしていたのだ。
今彼女が使っているカードはその義兄が残したカードである。そのデュエルで勝たない限りそのカードは彼女のものにはならない。
いわゆる「賭けデュエル」だ。(注:賭けデュエルを他人とやるのはトラブルの元です!ぜったいにマネしないように!
だから、今回彼女はありったけの勇気を振り絞り、翔にデュエルを挑んだようだ。
翔は、中1の頃から周りからデュエマプレイヤーであることを知られている。
自己紹介の時にはっきりと「好きなことはデュエル・マスターズです」と言ったからだ。
さらに翔は彼女の仕事を何度か手伝ったことがある。
彼女の周りで一番面識があり、尚且つデュエリストだったのは翔だったのだ。
「…………」
「やっぱ変かな?女の子のデュエリストって?」
彼女が少し俯く。その彼女の横顔に夕日の光があたり影を作りより際立たせて見えた。
「いいや、変なわけないだろ?」
「え?」
「人にはそれぞれ好きなものがある。それを否定しても何も生まれない。ただ相手を傷つけるだけだ。そうだろ?」
「うん・・・・。」
「いいぜ、明日。どこでデュエルする?」
「ホントにいいの?」
「ああ、別に断る理由なんて無いし。で、どこでやるの?」
彼女がデュエルをする場所に選んだのは町の外れにある小さな公園だった。
この公園には殆どなにもない。古く成長した桜の木と、誰が置いたのかも分からない木製のテーブルと二対のベンチ。
確かにココならあまり人は来ない。
翔は桜の木の下で腕時計を見る。針は1時50分を指していた。
遠くでベルの音が聞こえる。翔がパッとそちらを振り返った。
「ごめん!少し遅れたかな?」
飛鳥が自転車に跨りながらこちらに近づく。
その飛鳥の服は彼女を表すような色で彩られており、ピンクのYシャツの上に白のカーディガンを羽織、少し短めの水色のスカートを履いている。
飛鳥は自転車を桜の木の下に止め、スタンドを下ろす。桜と飛鳥、絶妙にマッチしていた。
「いいや、俺が早すぎただけだ。別に遅れてないぜ」
翔がベンチに腰を掛ける。その手にはもう既にデッキが握られていた。
「そう。じゃ―――」
飛鳥も同じようにベンチに腰掛ける。
「決闘スタート!」
「《青銅の鎧》召喚。マナブーストしてターンエンド!」
飛鳥のバトルゾーンには先程召喚された《青銅の鎧》が1体だけある。前のターンで唱えた呪文《未来設計図》で手札に加えたカード《レクタ・アイニー》を見るに、どうやらドラゴン系のデッキのようだ。
「《アラゴト・ムスビ》召喚!M・Tで《幻緑の双月》を手札に加え、マナブースト!」
対して翔は先程召喚した《幻緑の双月》をM・Tで手札に戻した《アラゴト・ムスビ》1体のみ。2ターン目と変わらず、翔のバトルゾーンにはクリーチャーが1体だけである。
しかし、問題は無い。彼のデッキはこの《アラゴト・ムスビ》のみで動くことが出来るからである。
翔のデッキはいわゆる「シルヴェスタビート」というものである。
強力なK&Mソウルの進化クリーチャーである《爆裂大河シルヴェスタ・V・ソード》の全体火力&大量ドローを機軸とし、攻撃性能の高いK&Mソウルのクリーチャーでビートダウンし、そのまま勝利をもぎ取るデッキである。
次ターンでマナをチャージすれば6マナだ。バトルゾーンには《シルヴェスタ・V・ソード》の進化元になれる《アラゴト・ムスビ》もいる。
つまり、次のターンで飛鳥の《青銅の鎧》を蹴散らしながら翔は《シルヴェスタ・V・ソード》で殴ることが出来るだろう。
「私のターン。ドロー!」
山札を勢いよく飛鳥がドローする。マナゾーンのカード等を見て、このターン中に《アラゴト・ムスビ》を除去しなければ危険と気付いたのだろう。
引いたカードを見て、飛鳥の緊張していた頬が少し緩んだように翔には見えた。
「《超次元ボルシャック・ホール》!《アラゴト・ムスビ》を破壊し、《時空の嵐ストームXX》をバトルゾーンに!」
《アラゴト・ムスビ》が破壊され、かわりに《時空の嵐ストームXX》 が超次元ゾーンからバトルゾーンに出る。
これで翔のバトルゾーンは0。対して飛鳥には《ストームXX》と《青銅の鎧》がある。
しかし、翔は物怖じしない。デュエマでは、バトルゾーンが空になることはよくあることだ。
そこから逆転できるのがデュエル・マスターズ―――いや、全てのカードゲームに共通に魅力である。
「俺のターン。《鳴動するギガ・ホーン》を召喚!」
《アラゴト・ムスビ》を失った翔は、《ギガ・ホーン》のサーチ能力によりその穴を埋めようとした。
翔は山札を一通り確認した後、飛鳥のバトルゾーン、マナゾーンを凝視する。そして山札から一枚を抜き出した。
「《爆竜GENJI・XX》を手札に加えるぜ」
《爆竜GENJI・XX》。《シルヴェスタ・V・ソード》と並ぶ翔の切札。
K・ソウルの高スペックドラゴンで、今まで何度も翔のピンチを救ってきた彼の相棒でもある。
「……確かに《GENJI・XX》は強いカードだけど……。火渡君、プレイミスね」
「え?」
「この《ストームXX》を破壊しなかったのはプレイミスだと思うよ」
単純に考えて別に今《ストームXX》を除去する必要は無い。彼女の墓地には今《未来設計図》しかないので覚醒条件を満たす可能性は無い。《ストームXX》自身の墓地肥やし能力があるにしろ、最速で覚醒するのは2ターン後である。だから別に今は脅威ではない。
「私のターン。まず《ストームXX》で山札から3枚墓地に送るわ。そしてG・0、《レクタ・アイニー》を召喚!」
翔にはその《レクタ・アイニー》に見覚えがあった。確か、2ターン目に手札に加えたはずだ。
しかし、今のままでは攻撃出来ない竜と非力な火鳥がそれぞれ1体ずつ居るだけだ。
そう、竜と火鳥―――。
「進化V!《ストームXX》と《レクタ・アイニー》を《龍炎凰エターナル・フェニックス》に!」
このデュエルの運命をつかさどる紅蓮の不死鳥が舞い降りた。
学校で地震が起きてビックリしました!W-swordです。
あんなに揺れてたのにすごく冷静だったです。何故だろう?
避難訓練が役に立つ日も来るんだな、と思いました。
被災した人達に早く安心できる日が来ることを願ってます。
次回は後編です。お楽しみにー。