〜二丁目のママだった最強侍女、敬愛するお嬢のために学園の卒業パーティーでクソ男どもを塩撒いて一掃したら、執着系皇太子に拉致(求婚)されました〜
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初の異世界恋愛短編やってみました。
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【前日譚:ママの激怒と夜の特訓】
「ううっ……、どうして……。私、何か悪いことをしたかしら……」
公爵令嬢である私の主人、エレノア様は、自室のベッドに突っ伏してしとしとと涙を流していた。
真面目で大人しく、誰にでも優しい彼女の手には、婚約者であるバカ王子からの冷酷な手紙が握られている。内容は、他の女にうつつを抜かし、エレノア様を一方的になじる最低なものだった。
その姿を見た瞬間、私――貧乏男爵家の令嬢でありながら、中身は前世で新宿二丁目の敏腕ゲイバーを営んでいたオネエのジュリは、頭の血管がブチ切れる音がした。
私は淑女の仮面を剥ぎ取り、エレノア様の肩をガシッと掴んだ。
「ちょっとアンタ! そんな盛りのついたオス犬のために泣いてんじゃないわよ!!」
「えっ、ジ、ジュリ……?」
涙目で固まるエレノア様に、私は魂の説教をぶちかます。
「涙はね、もっと高いマスカラ塗ってる時か、もっといい男に抱かれてる時に流しなさい! 真面目で大人しいのは美徳だけど、舐められたままで終わるなんて二丁目のママが許さないわ。あの泥棒猫とバカ王子、まとめて地獄に叩き落としてやるから、アタシに乗りなさい!」
大人しいエレノア様は私の気迫に気圧されながらも、コクコクと深く頷いた。
そこからの数日間、私の「夜の街のネットワーク」と「ママの観察眼」がフル稼働したわ。
学園内の情報通な従者たちを手のひらで転がして、王子と浮気相手の男爵令嬢の裏情報をすべて洗いざらいクリップ。さらに、エレノア様には「男を骨抜きにする極上の視線の配り方」と「哀れみを誘う完璧な微笑み」を徹底的に叩き込んだ。
準備は万端。さあ、開店の時間よ。
*
【断罪劇:卒業パーティーの修羅場】
そして迎えた、学園の卒業パーティー。
きらびやかな会場のど真ん中で、予定通りバカ王子がエレノア様の前に立ちはだかり、大声を張り上げた。
「エレノア! 地味で可愛げのないお前との婚約を破棄する! 私はここにいる、真実の愛であるアメリアを正妃に迎えることを宣言する!」
王子の隣では、いかにも男受けを狙ったあざとい男爵令嬢アメリアが、勝ち誇った顔でエレノア様をチラチラと煽っている。
周囲の貴族たちがざわつく中、エレノア様は一切慌てなかった。
私の教え通り、ただ静かに、そして息を呑むほど美しく哀れみに満ちた瞳で、じっと王子を見つめたのだ。
(あらやだ、完璧じゃない。これだけで周囲には『王子が一方的に悪者に酷いことをしている』って一瞬で刷り込めたわね)
形勢が完全にエレノア様の美貌と儚さに傾いた瞬間。王子の後ろに控えていた私は、すっと一歩前に出た。
「あら、お言葉ですが王子殿下」
私はわざと、鈴の鳴るような猫かぶり声で割って入った。
「そちらの『愛らしいお嬢様』、ずいぶんと……男の趣味が幅広いようですけれど?」
「な、何だと!? 侍女の分際でアメリアを侮辱するか!」
激昂する王子を無視して、私は手元に抱えていた大量の書類を、周囲の夜会参加者たち全員に見えるように「うっかり」派手にぶちまけた。
「あら失礼、手元が狂ってしまいましたわ。……おや、これはそちらの男爵令嬢が、王子殿下以外の複数の高位貴族の方々――あらぁ、あちらの既婚の侯爵様も含まれてますわねぇ? ――と『パパ活』……いえ、援助交際のように転がし合っていた生々しいお手紙と、デートの目撃証言リストですわ!」
ドサドサと床に広がったのは、言い逃れのできない証拠の山。
名指しされた既婚貴族たちが顔を青くしてガタガタと震え出す。
すかさず、男爵令嬢アメリアが涙をポロポロとこぼしながら私を睨みつけた。
「ひ、ひどい! 私は殿下を純粋に愛しているだけなのに、侍女の分際でそんな嘘を……っ(涙)」
キタキタ、その安い演技。私は一瞬で猫かぶり声を捨て、ドスの利いた二丁目のママのトーンで一喝した。
「ちょっとそこのアマ、アタシの前でその安い涙芸やめなさい。新宿二丁目じゃね、そんな嘘泣き3秒で見破られて塩撒かれるわよ。アンタが裏で『チョロい金蔓』って呼んでた男たちのリスト、ここに全員揃ってるんだけど、今ここで順番に読み上げてあげましょうか?」
「ひっ……!?」
男爵令嬢は完全に蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
さらに私は、一番重い「特大のボトル」をトドメとしてテーブルに叩きつけるように言い放つ。
「ついでに王子殿下、貴方がエレノア様の実家からだまし取ろうとしていた『公金横領の裏帳簿の写し』も、ここにセットで置いておきますわね」
「な、なんだと……っ!?」
王子の顔から一気に血の気が引いた。
浮気相手の女は本性がバレて、それまで鼻の下を伸ばしていた男たちから一斉にゴミのように引き剥がされ、王子は公金横領罪と不貞の現行犯で、その場で駆けつけた衛兵たちに縄をかけられた。
「離せ! 私は王子だぞ! エレノア、助けてくれ!!」
泡を吹いて没落していく元婚約者が引きずられていく。そんな哀れなクソオスの姿を、私たちは冷ややかに見送った。
*
【乱入:執着系皇太子の華麗なるお持ち帰り】
泥棒猫とクソ王子が一瞬で自滅し、会場が静まり返ったその時――。
「そこまでのようだな、愚王の子よ」
大広間の重厚な扉が不意に開き、響き渡ったのは、低く、しかし驚くほど威厳に満ちた美しい声だった。
現れたのは、磨き上げられた漆黒の軍服に身を包んだ、目も眩むような美貌の青年。
この国の同盟国である、帝国最強の皇太子――ルファード・ザハル・フォン・エステルハージ殿下だった。
彼の背後には、威圧感溢れる帝国の精鋭近衛兵たちがずらりと控えている。
「ル、ルファード皇太子殿下!? なぜ我が国の学園のパーティーに……っ」
引きずられていく途中のバカ王子がガタガタと震えながら声を絞り出す。
ルファード殿下は、彼をゴミを見るような一瞥であしらうと、まっすぐにエレノア様のもとへと歩み寄った。
そして、床に膝を突くと、エレノア様の白く細い手を取り、そっと甲に唇を落としたのだ。
「ようやく、堂々と迎えに来られた。……エレノア」
「ルファード、様……? どうしてここに……」
驚きで目を丸くするエレノア様に、ルファード殿下は底知れない執着を湛えた美しい瞳を向け、ふっと微笑んだ。
「王都へ移動する途中でな、君の父親である公爵閣下と話をさせてもらったのだよ。そこで、一つ約束を交わしてきた。『もしもあそこの馬鹿王子がエレノアに婚約破棄を突きつけるようなことがあれば、その瞬間にエレノアは私がもらう』とな」
「え……? お父様と、そんな約束を……?」
「当然だ。私はずっと、この時を待っていたのだから」
ルファード殿下は、彼女の手を握る力を少しだけ強めた。
「覚えているか? 幼い頃、我が国との行き来のたびに、私は君の公爵邸に何度も滞在させてもらった。当時の私は周囲を警戒し、常に心を尖らせていたが……ある日、中庭で君が花を見つけて、不意に私に見せてくれたあの無垢な笑顔。……あの瞬間から、私の心は君に撃ち抜かれ、君以外の女性など、視界にすら入らなくなったのだ」
うわ、ちょっと待って。
この皇太子殿下、めちゃくちゃスパダリのイケメンだけど、中身はなかなかの重度な「執着系こじらせ男子」じゃないの!
前世のゲイバーでも、こういう一見完璧に見えて一人の女に狂ってるヤバい極上物件、よく見たわよ!
「だが、君には王太子との婚約があった。私は指を咥えて耐えるしかなかったが……よもや、あの馬鹿がこれほどの宝石を自ら手放すとはな。公爵閣下も『あんな愚か者に娘はやらん。ルファード殿下、もしもの時は娘を頼みます』と快諾してくださった」
ルファード殿下は立ち上がり、エレノア様の腰にそっと手を回して、自分の方へと引き寄せた。
「エレノア、こんな薄汚れた会場にこれ以上いる必要はない。さあ、公爵邸へ戻ろう。君の父親が、首を長くして待っている」
「はい……っ、ルファード様」
エレノア様は、ポッと頬を薔薇色に染めながら、しっかりと彼の腕に抱きついた。
あらやだ、うちのウブなエレノア様、もう完全に落ちてるじゃない!
私は心の中で快哉を叫びながら、ルファード殿下を案内するように一歩前に出た。
「ではルファード殿下、公爵邸までの馬車の手配、および荷物の整理はアタクシにお任せくださいませ」
「ふっ、話のわかる侍女だな。褒美は弾もう」
「おほほ、恐れ入りますわ!」
*
【改めて、甘すぎる結婚の申し込み】
主役を失って静まり返る学園を後にし、私たちはルファード殿下の豪華な馬車で公爵邸へと帰還した。
玄関ホールでは、エレノア様の父親である公爵パパが、腕を組んで待ち構えていた。
「おお、エレノア! 無事だったか!」
「お父様!」
エレノア様が駆け寄ると、公爵パパは娘を抱きしめ、それからルファード殿下に向かって深く頭を下げた。
「ルファード殿下、約束通り、娘をあの泥沼から救い出していただき、感謝の言葉もございません。学園での一部始終は、すでにこちらのジュリから連絡が入っております」
(ええ、馬車の中からアタクシが特急便でパパに報告書を送っておいたわよ。ママの情報伝達力を舐めないでちょうだい)
「いや、閣下。私は自分の欲心のままに動いたに過ぎません。……さて、約束通り、エレノアを妻に迎える許可をいただけますね?」
「もちろんです。娘を最も大切にしてくれる殿下にこそ、エレノアを託したい」
公爵パパの力強い快諾を得て、ルファード殿下は満足そうに頷いた。
そして、エレノア様の方へと向き直る。
公爵邸の、美しく整えられた応接室。
ルファード殿下はエレノア様の前に立ち、今度はただの男として、その熱い視線を彼女に注いだ。
「エレノア。政略ではなく、私の個人的な意志として、君に改めて請いたい」
彼はエレノア様の両手を包み込むように握りしめ、囁くように言った。
「幼いあの日から、私の光は君だけだった。我が帝国へ、私の妃として来てほしい。一生をかけて、君を世界一幸せにすると誓う。……君の, その愛らしい笑顔を、これからは私の隣で、私だけに見せてくれないか?」
その言葉は、とろけるように甘く、それでいて揺るぎない決意に満ちていた。
エレノア様は、目にうっすらと嬉し涙を浮かべながら、大きく頷いた。
「はい……っ! 喜んで、お受けいたします、ルファード様。私、あなたのお妃になります!」
二人は、お互いを慈しむように、優しく、そして深く抱き合った。
*
【後日談:至高の『焦らし』と、ママの生ぬるいお節介】
無事に婚約が調い、エレノア様が帝国へ嫁ぐための準備期間中のこと。
ルファード殿下は公爵邸に半ば居座り、毎日のようにエレノア様のもとを訪れていた。
しかし、ここで一つ、重大な問題(?)が発生した。
「……ジュリ、私……何かルファード様に嫌われるようなことをしてしまったかしら……」
ある日の午後。お茶の準備をしていた私に向かって、エレノア様がシーツを抱きしめながら、消え入りそうな声で相談してきたのだ。よく見れば、お顔が耳まで真っ赤に染まっている。
「あらやだ、どうしたの? あのベタ惚れ重度執着男がアンタを嫌うわけないじゃない」
「だって……ルファード様、いつも二人きりになると、すごく近くにいらっしゃるの。私の髪に触れて、頬を撫でて、耳元で『愛している』って……頭が融けそうなほど甘く囁いてくださるのに……」
エレノア様はシーツに顔をうずめて悶絶した。
「本当に、唇が触れそうなほど近くまでお顔を寄せられるのに……いつも、最後には私の額や手の甲に優しく口づけするだけで、それ以上は何もしてくださらないの……。昨日なんて、キスをしてくださるのかと思って私が目を閉じたら、ふっと低く笑って、私の鼻先を指で突つくだけで……」
「ぶふっっっ!!」
私は思わず吹き出した。
なるほどね、そういうこと!
「……エレノア様。それね、嫌われてるんじゃなくて、完全に【焦らし】のテクニックよ」
「じ、焦らし……?」
きょとんとするウブなエレノア様に、私はゲイバーのママの顔になってフフンと鼻を鳴らした。
「そうよ! 男っていうのはね、大好物を目の前にした時、一気に喰らい尽くしたい本能を必死に理性で抑え込んでるの。ルファード殿下にとってアンタは、十数年も焦がれ続けた『極上の獲物』。すぐ手に入れたら勿体ない、もっとアンタが自分を求めて、じりじりして、自分なしじゃいられなくなるように……あえて一歩手前で引くことで、アンタの恋心を煽りに煽ってるのよ!」
「そんな……っ、ルファード様が、わざとそんな意地悪を……!?」
「意地悪だけど、それだけアンタに狂ってる証拠よ。それにね、必死に理性を保って格好つけてる男を、ちょっとだけ崩してやるのも女の夜の――ゴホン、淑女の嗜みよ。いい? 今度殿下がお顔を近づけてきて、またおでこにキスしようとしたら、アンタからすっと顔を動かして、自分から唇を奪いに行っちゃいなさい!」
「む、無理よ! そんな破廉恥なこと、私には……っ!」
「何言ってるの! 攻められたらちょっとだけ攻め返す! これが二丁目秘伝の『揺さぶり方程式』よ! やってみなさい!」
赤面してじたばたするエレノア様を背後から激しく鼓舞していると、背後からスッと冷たい、けれど極めて美しい気配が忍び寄ってきた。
「ほう。私の侍女は、随分と余計な知恵をエレノアに授けているようだな」
「あ、あらやだ」
振り返ると、いつの間にか部屋の入り口に、腕を組んだルファード殿下が立っていた。
その極上の美貌には、底知れない、そしてすべてを見透かしたような妖艶な笑みが浮かんでいる。
「ル、ルファード様……!? いつからそこに……っ」
慌てて顔を隠すエレノア様を、ルファード殿下は愛おしげに、しかし肉食獣のような瞳で見つめた。そして、ゆっくりと彼女のベッドサイドへと歩み寄り、その華奢な肩を抱き寄せる。
「エレノア。私が意地悪で焦らしている、か? ……半分は正解だが、半分は間違いだ。私は、君が可愛すぎて、今ここで理性を失って君をめちゃくちゃにしてしまわないよう、これでも死ぬほど我慢しているのだよ?」
耳元で、わざと、吐息交じりに囁かれる極甘の低音ボイス。
「ひゃっ……!」
エレノア様は完全にキャパシティオーバーで茹でダコ状態。
ルファード殿下は、そんな彼女の反応に酷薄な、けれど最高の恍惚を浮かべながら、私に向かってすっと目を細めた。
(余計な手出しをするなよ、私の可愛い獲物を狩るスリルを邪魔するな、お茶目な侍女殿)
そんな「無言の警告」がビシビシ伝わってくる。
うわあ、この皇太子、やっぱり超一流のドSプレイボーイ(ただしエレノア様限定)だわ!
「おほほ! アタクシはただ、お二人の愛がさらに深まるよう、少ぉしだけお背中を押したに過ぎませんわ〜。では、お熱いお二人のために、アタクシはこれにて失礼いたしますね!」
私はすぐにトレイを抱え、後ずさりしながら部屋を脱出した。
パタンと扉を閉める直前、ルファード殿下がエレノア様をベッドに優しく押し倒し、今度こそ逃がさないとばかりに、彼女の顎を指先で持ち上げるのが見えた。
「――エレノア。そんなに私の口づけが欲しいなら……もう、我慢してやらない」
「あ……、ルファ、様……んむ」
キャー! ごちそうさまです!
私は扉の向こうで、持っていたハンカチをギュッと噛み締めながら、本日一番のガッツポーズを決めた。
*
【エピローグ:夜のママは眠らない】
パーティーの翌日、王宮の裏庭。
……もとい、あの甘やかな焦らし騒動から数日。
ドレスを着替え、すっかり憑き物が落ち、それどころかルファード殿下の激しい(けれど最高に甘い)溺愛によって、以前よりさらに色気と美しさを増したエレノア様が、私に向かって微笑んだ。
「ジュリ……本当に、私、婚約破棄されても大丈夫だったわ。あの人のこと、いまや塵ほどもなんとも思わなくなったの」
その清々しい言葉に、私は扇子で口元を隠しながら、おほほと高笑いした。
「おほほ、当然よ! あんな賞味期限切れの安酒みたいな男、こっちから願い下げよ。さあ、次はあっちの極上ヴィンテージな皇帝陛下を完全に骨抜きにしに行くわよ、エレノア! ママの夜のテクニック、実戦で試す時はこれからなんだから!」
「ふふ、よろしく頼むわね、ジュリ」
真面目だったはずの主人に不敵な笑みを浮かべさせながら、私は心の中でガッツポーズを決める。
傷ついた女を幸せにするためなら、二丁目のママの夜の処世術、いくらでも叩き込んであげるわよ!
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