カッ素い宇宙転生2
補助記号:◎話数、○●天、□■地、△▲▽▼人神視点◇◆亜空間。 【最重要読書前注意&要覚悟事項】:本作には地の文が皆無で動きは重視しておらず、表現不可避部分は台詞に()等で無理矢理詰込んでます。許容して読める方のみお進み下さい。途中離脱か読後後悔で人生時間を奪った際はご宥恕賜りたく存じます。4部構成第2部です。タイトルは転生と読みます。それではどうぞご高覧下さい。
◎ 第11話 カッさん編3 ◎
● 別宇宙無期滞在刑25日目の朝 ●
■ カッサンドロップスの家の前 ■
▽ 大昨夏未来 ▽
「今日は僕の最も忠誠なる部下達に、ここから知一位の都市と、人一位の都市までの往来を護衛してもらうことを頼んだよ!」
「さぁ諸君! 我が最愛の妹カッサンドロテーア、親しみを込めて略しカッサンドラ、更に親愛の情を込めて略せば、ミライと初対面の挨拶を交わしてくれたまえ」「……(汗)」
「初めてお目にかかりますミライ様。守備隊長の二個乗ールと申します、以後お見知りおき下さい」
「うっ!?」
「!? 大丈夫ですか?」
「どうかした? 未来???」
「いいえ……? すみません、お名前をもう一度伺っても?」
「は、はい(困)。二個乗ールです」
「ニコノールさん。初めまして……未来です。これからよろしくお願いします」
「はい。あの、お加減の方はよろしいですか?」
「何でもありません、ご心配なく。あははは……」
(やっぱちょっと壊れとるわ。脳内に漢字のイメージが押し寄せてくる感覚、でもどう考えても漢字文化圏の人名ちゃうし意味不明や)
「二個乗ールは最古参でね。安心して指揮を任せられるよ」
「しかしまさかカッサンドロップス様にまだ姉妹の方がいらっしゃったとは、今日まで存じませんでした」
「えっ!」
「あぁそうそう。知らない者もいるだろうから説明しておくが、僕には5人の姉と妹がいてね。彼女は末っ子なのさ」
「そっそうなんですよねー……アハハハ(汗)」
「副隊長のペラペラ薄ッスっす。おなしゃーす!! うっすうっす!」
「はぁ、どうも。お願いします(汗)」
「剣士のピーリッポスです。道中の安全は私めにお任せ下さい」
「よろしくお願いします」
(漢字のイメージが来る人と来ない人で混ざっとる。中途半端に壊れとるんやこの腕輪)
「直属の配下では一番の新人だね。剣の技が噂になっていたから他に取られないうちにスカウトしたのさ」
「光栄です」
「私めは御者のピーリッポスと申します。快適な旅になるよう努力します」
「えーと? お願いしますね……ピーリッポス、さん?」
「ピーリッポスと名のつく者は多い。カッチドニア王国の今は亡き大王の先代もピーリッポスだった。職種を先に呼んだりして区別してね。彼の捌きは天下一品だから例え馬車が初めてでも大丈夫さ」
「は……はい」
「プレースタイル濃イスです。普段は別働隊隊長を務めています。今日は久々に我が兄カッサンドロップス様に、任務の報告も兼ねて挨拶に来たところです」
「えっ兄!?!?!?」
「そうです、私はカッサンドロップス様のすぐ下の異母弟にあたります」
「イボテー……?」
「以後、よろしくお願いします。初見の妹、ミライ様」
「よろしく……お願いしますです(固)」
「僕には僕を含めて7人もの男兄弟がいるからね。混乱するのも仕方ない、実際に会ったことがないどころか、母親が違う場合は互いに知らなかったりする兄弟姉妹が多いんだ」
「そ……そうなんですよねー(汗)」
「他の兵達は後から来る者もいるし追々挨拶させるよ。さて、いいかい諸君!! 未来はね、今は亡き我が父、摂政アンティパトロンロスと遥か遠い東方にある異郷の大国の王女とのあいだに生まれた娘なんだ。カッチドニアの前王家が実質的に断絶した今、彼女は政治的に重要な存在だからね。全員くれぐれも無礼や粗相などないよう頼むよ。それでは出発!」
「……(汗)」
■ カッサンドロップスの家から知一位の都市までの道中 ■
▼ カッサンドロップス ▼
「未来君とまた会える日が来るなんて夢のようだよ」
「いや何回言うねん。昨日からもう、それ言い過ぎやで(笑)。でもまっ、うちもやでカッさん。まぁうちの体感的には昨日の今日やねんけどな」
「時間の流れ方のことは聞いていたが、本当にそうなんだね。驚くべきことだよ」「ところでさ、カッさんのこと、これからお兄さんって呼んだ方がえぇの?」
「ん? お兄さん? あぁ異国流の呼び方かい? まぁどっちでも構わないけど、せっかくだから今まで通りでいいよ」
「ならえぇんやけど、周りの人達への違和感とかってだいじょぶなん?」
「君は元から違和感しかない。半分異国人の異国育ちで、多少変でも納得するだろう。今更そこに問題はないよ」
「あーそーですかっ」
「フフフ……。それにしても家と浜辺を往復してただけの日々だったのに、再会したら出かけるどころか旅に出ようとまで言ってくるとはね。せっかくだったら一緒にいられるあいだ君を独占したい気持ちが半分あるけど、それでもこの世界を共にしながら見て回れるのは嬉しいよ」
「別に心境の変化とちゃうで」
「分かってるよ。人一位の都市に囚われている、君の同郷の巫女を助けたいんだね?」
「同郷っていう程でもないかもだけど……まぁ同郷やな。こっからしたらな」
「その巫女も神罰によってこちらに来ていたんだね」
「せや。でも囚われてること自体は別に神罰とちゃうで、こっちの事情や。多分やけど不法滞在か何かの罪やないかって思ってる。うちはたまたまカッさんっちゅう理解者に逢えたけど、普通に考えて一回疑われだしたら誤解はまず解けへん、『別の世界から転移して来ました』なんて言ってもな」
「そうかもね」
「牢獄にいるせいで巫女さんは神命をこなせんのや」
「神命の内容は?」
「ここに来たタイミングで教えてもらったで。でも共同課題で一緒に提出せなあかんらしい。うちが全部片付けてこっちはこっちあっちはあっちで勝手に帰ってもらうのは駄目やって。それがケッチ神様のご命令やからね仕方ないわ」
『…………』
「結局、実際に解放しないとその巫女は助からないってことだね?」
「そうなんや! 力貸してほしい」
「了解だ。その方が僕にとっては話が分かり易い。とにかくまずは知一位の都市に急ごう。僕のかつての同僚の軍人達で、大王の後継者の座を争うと見せかけて大して争わなかった者達、ディア・ドッコイの諸王にも協力を要請してみよう。たまたま近いうちに鳥パラディーソの軍会以来、久々となる諸王会議を僕が主催するところだったんだよ」
「何か焼き鳥屋とパチンコ屋が合体してみましたみたいな名前やな」
「予定通りなら街の近辺には来てるだろうし、彼らにはちょっと早めに集まってもらうことにしよう」
「でも王様言うても、結局みんなカッさんみたいに本職は軍人さんなんでしょ? 軍隊の人達が来る予定がずれちゃって早く着いたら、街の人達ってかなり驚いちゃうんじゃ?」
「早馬をやったから街の政治の文官トップは先に知ってて、すぐに話が通るし周知されてるから安心していい」
「通るんそれって? 知らせただけで?」
「もちろん通るさ。なぜなら任命したのはこの僕だからね」
「……何となく分かってたけど、もうハッキリさせてもいい?」
「何だい?」
「やっぱ吟遊詩人ってお忍びっちゅーか仮の姿やったんな? 本業は別で、国王なんやね?」
「ん? いいや? 本職は吟遊詩人だよ」
「カッさんもうえぇやんか、そんな隠そうとしないでもさ。こんなに仲良くなったんやから、さすがに教えてくれてもさ」
「いやいやそうじゃなくて、本当に。未来君が何か変に勘違いしてるんだよ。隠棲してから此の方、千人隊長だの太守だの摂政だの王だのといった役職は、もはや趣味と惰性でやってる副業みたいなもんなのさ。本職は吟遊詩人なの、あくまでね」「ただの1回も楽器弾いたり歌ってくれたりしたことないのに、本職主張されても説得力ないがな(笑) 王様なんでしょ? あの家は避暑地の別荘みたいなもんなんでしょ? そう言ってよもう、断言してよ!」
「まぁね。でも周囲から頼まれて仕方なくやってる副業なんだよ。今となっては王だの何だの言ってみても虚しいったらないよ。この人類絶滅寸前社会にあっては、王とはもはや一方的に民衆に奉仕するだけの損な仕事。僕自身うんざりしてるから現実逃避に詩人でもやらないと、やってられないのさ」
「カッさんには悪いけどうちは信じられへんで。そういうの」
「え?」
「そんなん典型的な気取った政治権力者の言葉やもん。税金毟り取りながらみんなの為に仕方なくやってるアピール出してな。都合がえぇねん」
「ん? ん? せっかく再会して一緒に遠出しようっていうのに、何だかずいぶん手厳しいんだね、未来君って!(笑)」
「大阪人はそういうスカした言動に敏感やからな。すーぐに肌で感じ取るで」
「そうなのかい?(汗)」
「でもだからこそ頼りにしてるでカッさん! 今はどうしても強い男の力が必要なんや! うちはご都合主義者やからな!! 利用させてほしいんや、お願い!!」「フフフ……いいよ♪ 僕のこと都合良く使ってもらって構わない。未来君に限ってなら、ね」
◎ 第12話 欠陥編 ◎
◆ 宇宙の神々の亜空間 ◆
▲ カッ素宇宙の主神 ▲
「おぉ? 起きたか水素神」
「う……む……」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃ……」
「こんなに早く起きてくるとは意外だな」
「……何じゃと? わしを何だと思っておる?」
「偉大なる宇宙の主神ではあるが、下手するとそこらの【中級神】より酒に弱い爺さん、かな」
「今回の不覚はたまたまじゃ。飲んだことのない酒だったから一瞬驚いて寝てしもうただけじゃ。もはや耐性がついたわい」
「どうだかなぁ」
「そんなことよりもカッ素神よ。やりおったな???」
「ん?」
「わしに無断で……これは宇宙主権の侵害行為じゃぞ」
「はて? 何のことだかな?」
「とぼけるでないぞ」
「お! そうだった、お主が起きたからオリュンポ素神を呼ぶぞ」
「ん? 何じゃ。帰っておったのか」
「来ましたよ」
「うおぉっ!!(驚)ゲホゲホゲェッホオ!!(吐)」
「さては今か今かと来る準備をしていたな」
「ふぅ~。…… 何じゃ……来たり帰ったり忙しない若ぞ……盟主殿じゃのぉ」
「こう見えて忙しい身なんです。なので二日酔いのところ急かしたくはないのですが、カッ素神が貴方に次の酒を注ぐ前に、壊れた通神発石の実物を見せて下さい」「ふんっ!」
「ホイ」
「……これは……」
「例外的事態だろ? 信じられんことに同盟間の交換の儀直前のタイミングで、たかが人間の小娘二人に踏まれた程度の衝撃で壊れたのだ」
「いいえ違います」
「いや会合のタイミングと噛み合ったこと自体は奇跡的な確率で、それはある意味例外的現象だったと言えるでしょうが、壊れた原因そのものは別に例外でもなんでもありません。これは劣化した状態でそのまま使い続けたことによる故障ですよ」「なぬ??」
「フォッ?」
「既に極度に脆くなっていたんです。人間が踏んだら亀裂が走ったというのは、ただのきっかけに過ぎません。仮に衝撃が加わることがなかったしても、そのまま劣化が進んですぐ似たような状態になっていたことでしょう。時間の問題だったんです」
「だがこれの耐用年数は一劫、という話ではなかったか? 我が持ってきたこれは中々に古いタイプのもので何回も同盟間で証として交換してきた逸品だが、そっちのは見るからに43億年は経ってないだろう」
「一劫どころじゃないぞい。交換の儀の対象となったのも初めてじゃし、カッ素神のものと比べたらほとんど新品みたいなもんじゃ」
「我等同型宇宙で43億はもつはずの代物が何故、神の力で破壊しようとしたわけでもないのに早めに壊れたのだ? 経年劣化にしてはあまりに早過ぎやせんか」
「誤解しないで下さい、43億年というのは物質として完全に消滅するまでの時間です。それも完成度が高い個体かつ理想的環境下に在り続けた場合の、最長理論値に過ぎません。消滅するより先にまず壊れます」
「そうだったのか?」
「そうですよ、なぜ把握していないのですか? その事実の方が私は余程信じられません」
「すまん。神が壊した以外の理由で壊れた実例に今回初めて遭遇したもんでな」
「しかもこれみたいに小型かつ注文に合わせて生産された形状のタイプのものは、個体差が著しいんです。【第十二宇宙通神発石品質検査共通機構】で解体して詳しく調べないと断定までは出来ませんが、おそらく生産された時点からして故障しやすい初期不良の個体、即ち欠陥品だった可能性が高いです」
「なんと!(驚)」
「まさか個体差まであるとはのぉ。今の今まで知らんかったわい」
「いや周知してますよこちらは(呆)。特注品は特に壊れやすいんです。この個体が元から欠陥品であったならそれは申し訳ないですが、メンテナンスで判明することもあるので定期的に私の宇宙に送って下さいと常日頃から言ってるんです。最低でも2000万年に一度はメンテしないといけません」
「いや~1個ならともかく、宇宙じゅうに散りばめておるしそれぞれ古さも違うのに、2000万年に一度はさすがに短いのぉ」
「そんな頻度じゃ落ち着いて宴会も開けんわな」
「しかし欠陥品であったとしてもですよ。何故そんな人間がすぐに踏めるような地点に設置したのですか?」
「いやいや待っとくれぃ。せっかく縁石タイプを注文したのにそこれもこれも全部地面の中じゃあまりに芸がなかろうて。たまにはガーデニングに凝ってみたかったんじゃ。そういう面白い場所が1箇所くらいあってもよいじゃないか?」
「そのガーデニングで今こうして大問題が起きているんですよ(呆)。まぁ石の品質に問題がありそうなので私も強くは言えませんが」
「とりあえずこれは私が回収します。代わりにこちらをお渡しします、最新の超小型通神発石です。地中に埋めれば自然の石に紛れながら人間の手にも触れづらく、中級神、下級神へのカバー範囲も中型には及ばないものの今までの超小型や小型を大幅に超え、宇宙から星内まで様々なノイズに邪魔されにくく、何より耐久性にも優れています。上手くいけば量産する予定です」
「ふ~むすまんのぉ。……といっても交換の宴じゃからな。すぐにカッ素神の宇宙で使われることになるがの。ヒック!」
「現存する我の宇宙の最古に近い通神発石と、最新の通神発石が同盟の証として交わされるわけだな。いやーこれも何だか因縁めいたものを感じるなぁ! ガッハッハッハッハ!」
「さてと。それで、この石を踏んだ人間二人というのは?」
「うむ。それなんだがな、ことの経緯を細かく説明するよりも、当日の人間どもの様子と我等の反応を見てもらった方が早い。飲みながら再生してくれ」
「分かりました」
◎ 第13話 過っ疎編3 ◎
● 別宇宙無期滞在刑25日目の昼過ぎ ●
■ 知一位の都市の市場 ■
△ 大昨夏未来 △
「過っ疎!!」
『…………』
「閉店ガラッガラやないかい!!」
「ま、仕方ないよね。こないだ商船が来てからだいぶ経っちゃったし、次の交易まではこんな感じさ」
「聞いてはいたけどそれにしても過っ……! いや、あれやな。古代版シャッター通りやな。これが噂に聞いた誇り高い知一位の都市の実情かいな」
「学者にとっては静かで思索が捗りますがね」
「きゃっ(驚)」
「久しいな、出目トリックス!」
「お久しぶりです王よ」
「彼は哲学者兼ここの代理統治者だよ」
「あ……初めまして、未来です」
(脳内変換なんとかならんかこれ)
「初めまして。王の妹よ」
(えーと……この人は多分教科書には載ってない……)
「な、何ですか? その手に持ってる物は……?(驚)」
「あ、このノートはあれですその(焦)」
「伝えた通り彼女は異国の王女の血を受け継いでる。よって祖国から僕達が見たこともない珍しい品々が送られてくるのだよ。文官武官問わず丁重に接するように」「おぉ……素晴らしい! 徹底させましょう。そしてその貴女の為に諸王が続々と集まっています。予定外なので到着時間がばらつきますが、知らせによれば遅くとも夕方頃には勢揃いする見込みです」
「さすがは僕が見込んだ最優秀の行政官だ、仕事が早い。さて未来君。彼に何か伝えたいことがあるんだったよね?」
「そうや! 本題の1つなんやそれが!」
「はい。何かご所望でしょうか? 私に手配可能な範囲内であれば、すぐに用意させましょう。王の妹よ」
「ここはもう名もなき半島の知一位の都市じゃなくなるで! 今日からここは『大阪ギリシャ』の都市、『合ッテナイ』や!!」
「は?」
「合ッテナイは『合ッテネー』でも構へんで! 言いやすい方で発音してな」
「なん? すみません、何ですって?(困)」
「果たして合ってるのか合ってないのか、正しいのか正しくないのか! ド偉い哲学者が思想やら瞑想やらに没頭し続ける街にはピッタリの命名やろ? どや!(自信満々)」
◎ 第14話 欠陥編2 ◎
◆ 宇宙の神々の亜空間 ◆
▲ カッ素宇宙の主神 ▲
「何ということだ……2人ともただの子供じゃないか!!(驚)」
「まぁそうだな」
「事前に相談してほしかった……」
「相談だと?」
「……知らなかった行為と結果への懲罰として、あまりに過酷です。そうは思いませんか? カッ素神」
「そうかのぉ?」
「人間にとってはそうですよ。それも、こんな年端も行かぬ女児に……あまりにも無慈悲」
「フン。我等から見ればみな女児だが、人間年齢でいえば児童という訳でもない。しかし相変わらずだの~お主ものぉ。中級神や下級神に女ばかりを揃えて侍らせる女ったらしの若造が」
「いい加減にして下さい! そんなこと全然ありませんし、関係もありません! ただ単に私は、私の宇宙で作られた通神発石の欠陥品が原因で、二人の少女の一生が狂わされたなどとは思いたくないだけです!!」
「だが我は神命を成し遂げれば帰ることが出来るという慈悲を与えておるのだ」
「それにしても彼女達は二度と故郷の土を踏めないという恐怖に晒され続けているわけですから」
「だが1人は既に故郷の土を踏んでおるぞ?」
「え? そうなんですか? しかし……??」
「こっちの小娘は地球に戻っている。だがその後自らの意思で、我にある種の変則的司法取引を持ちかけてきた。我はそれに応じることとし、小娘は我の宇宙に再び舞い戻ったのだ」
「何ですって!?(驚)」
「そこじゃて! 問題は!! カッ素神お主、わしが寝てる間に地球で勝手放題しおってからに!!(憤) 大昨夏未来の方は神罰を終えたはずじゃな。お主はわしの宇宙にいる人間を、無断で移動させた。これは明白なる物理的宇宙政干渉じゃな? 宇宙間で外交問題にするぞい?」
「ぐ……しかしだな、正直お主がいつ起きてくるか分からんかったしな。最初に神罰が済んでこっちの小娘を帰す時点で既に寝とったから、どうしたらいいか対応に困っておったのだ(焦)」
「その点はわしが悪かった、面倒をかけたの。最初の神罰からの送還に関するわしの宇宙の空間操作は止むを得ない代行じゃった。それは承認する。合意の範囲内で当然なされるべき処理じゃからな」
「おぉ一件落着か?」
「落着などするわけがないわい。わしゃ誤魔化されんぞい? そこから先が問題になっておるのじゃ。二度目の神罰もその共同もわしは合意しておらぬ。人間の意志がどうであれ、わしの意思を確認せずともよいわけがなかろう?」
「むぅ……」
「むぅではないわい。冬楠木千早はまだ神命完遂しておらんからいい。大昨夏未来を今すぐに返さんか!(怒)」
「しかしだな……今1人だけ中途半端に返すと、その何だ? かえってこの、事態の悪化がだなぁ(困)」
「カッ素神!! 何をごちゃごちゃ言うとるか!!!(激怒)」
「あの……水素神様……そのことなのですが……」
「ん??」
「何だ社の神か。酒はまだあるし特に呼んでおらんが、大事か? 急を要する用件か??」
「はい。実は縁石全体を司る土着の神から抗議がありまして、神罰に関係する為、そのことをお伝えしようと参りました次第でござりまして……」
「縁石の土着神???」
「後ろに控えております」
「土着神まで連れて来るとは何事じゃ一体? 余程重要な話なんじゃろうな、主神間の話し合いに割って入るんじゃからの?」
「大変畏れ多いことながら」
「申してみよ」
「はっ! 縁石の土着神の抗議ではありますが、私も怒りを共有しているのです。通神発石を取り外した後に露出した土の部分を、その娘が蹴って蹴って蹴り捲ったのです、神聖なる神社の境内において!!(怒)」
「…………」
「…………」
「…………」
「前回の神器損壊の過失とは違い、今回は故意にそうしたのです。即ち悪意があります! 更には畏れ多くもカッ素神様を名指しし、あまつさえ意図的に呼び捨てにした上、この静謐なる神域において本来、口に出すのも憚られるおぞましい言葉の数々で口汚く罵ったのです!! そうでしたねカッ素神様?」
「うーむ……ま。そうといえばそうだわな」
「重大なのは、これが一度目の神罰後になされた行為だということです!! 純粋な再犯という訳ではありませんが、それに近いといっても過言ではないでしょう。何故ならば一度目で既に、仮に故意ならより重罪であったと認識したはずだからです。にも関わらず、通神発石が置いてあった場所の土を蹴るという行為を、あえて実行した。より悪質さが際立ちます」
「…………」
「…………」
「…………」
「宇宙の主神をも畏れぬ不敬と暴言を咎めることを、その共同神罰に加えるならば、その娘を今すぐ取り戻さずに神罰を受けさせ続ける理由付けになるのではないかと……。いいえそれでは足りないのではないでしょうか!? むしろ巫女とは別個に新たな神罰を今からでもこの娘に課してもよい程の不敬行為と暴言三昧なのです。以上の経緯を踏まえた上で御一考頂ければと僭越ながら具申致しますが」
「まさしく僭越の至りじゃのぉ」
「えっ」
「のぉ社の神よ。わしを何じゃと思うておる? 寝てるあいだに起きた我の宇宙のこと全てを把握出来ておらぬと思うてか? お前の主の能力はそこまで低く見積もられているのか」
「いえいえいえいえ滅相も御座りません! そのようなことは決して! 夢にも思わぬことで御座りまする(滝汗)」
「では分かっておるな? 経緯を知っているじゃろうてお前も。この娘があの時の下郎4人組とは全く違うということが理解出来ているはずじゃな?」
「えええ、えぇ……その……」
「神域や神々を冒涜することが主目的の娘がじゃぞ? 境内が下郎どもに汚されたことに心を痛めて可能な限り掃除出来ないかと試みると思うか?」
「えぇまぁ。最初の参拝時のことですね。……しかし私は彼女の行動を然程は評価していません。この私めの観察いや推察によれば、一見すると清廉な行動であるかに見せかけてはいるものの、その実、利己的な動機が働いていたのではないかと睨んでいるのです」
「利己的じゃと……?」
「状況をあの場の視点だけでなく、世界に広げてお考え下さい。仮にあの下郎ども4人の蛮行が表沙汰になったならば、人間社会において徹底的に批判され、逮捕される可能性が高かったことはこの娘、当初から感じていた様子でした。であれば先の展開を予想し、場合によっては証拠映像を提出したこの娘が取材を受け、世間から注目を浴びるなどして賞賛される機会を狙っていた可能性もあるかと。ところがその後、自らに起きた神罰は元より下郎どもも消息不明で事態が有耶無耶となり、結局はカッ素神様の情状酌量の一部に使われただけに終わったのです。つまり下心の産物です」
「…………」
「卑小なる娘の小賢しい心中を、偉大なる宇宙の神々に代わりましてこの私が! 愚考する次第に御座ります!!(ドヤッ)」
「…………」
「…………」
「主神が勢揃いしている会合の場で、お前の卑小なる愚考を開陳せずともよい」
「え……いや……あの……」
「のぉ社の神よ、そして土着の神よ。お前達には少しは人間に寄り添ってもらいたいものじゃな」
「いえ……寄り添った上にて……」
「社の神よ。お前今の社に赴任してから何年になる」
「はっ……ほんの500年程の新任で御座ります、とはいえ色々兼任しておりますが」
「うむ。どこの社でもいいんだがのぉ。聞き届けるべき人間の願いを強く代弁して陳情することもわしは許可しているが、お前が人間の為に行動を起こそうとしたことをただの一度も記憶しておらん。そんなに上ばかり見るとかえって出世に逆効果じゃぞ? たまには下に目を向けよ」
「ももももちろんで御座ります……たまたまこれまでの参拝者には強く聞き届ける程の願いがなく、世俗社会の欲まみれであったため……」
「……切なる願いが皆無であったか? わしは全て把握しとるぞ?」
「いえいえ、もちろん全くの皆無という訳では……無きにしも非ず、というところが実態で御座りまする」
「それだけじゃない。お前はことあるごとに人間を懲罰することだけは取り上げよる。自らに仕える社の巫女すらも全く庇わず弁護せなんだ。カッ素神の威光を嵩にかかって責め立ておったな。お前は生き生きとしとったが、わしゃ正直あの光景は悲しかった」
「あの……私はカッ素神様にご賛同申し上げただけで……」
「大昨夏未来のことに話を戻すがのぉ。分かるじゃろうが? どうしてもわしらにもう一度話を聞いてもらいたいが為の、他ににとるべき手段が見当もつかない無力な人間の少女による、必死の行為じゃったということが。あの様子を見ていて、聞いていて、理解出来るはずじゃな? お前は人間を見守る社の神として、それすらも許容出来んか? どこまでも杓子定規に境内の土を蹴ったと責め立て続けたいか? あまりに穿ち過ぎて土よりも先にわしの信頼に穴が空いていると思わんか?」
「あ……あの……それは、もう……仰せの通りで、やや疑い過ぎだったようです……ただ……とはいえこの娘はあえて不敬行為と分かっていて、その……(焦)」
「もうよいか????? 今、ここでは重大な宇宙際問題が発生しているんじゃ。下級神、土着神が議論に割り込んだり口を差し挟んでよい問題ではない。ましてやお前のつまらん勘繰り話に主神を付き合わせるなどもってのほか。酒を追加する時だけは呼ぶが、それ以外は話し合いが済むまで一切立ち入るでないわ!! 分不相応じゃ。すっこんでおれ、よいな!!!!!」
「ははぁーーーっ!! 申し訳、申し訳御座りませぬうううううううううう!!!(平謝りで土着神と共に退場)」
「全く……酒が抜けても頭が痛いのぉ……」
「とにかくじゃ! カッ素神、わしが素面になった以上はもう続けさせん。まずは主権侵犯行為の原状回復を求めるぞい。つまり大昨夏未来の送還じゃ。それがなされるまで通神発石交換の儀は延期じゃ延期!」
「…………」
「応じなければ、わしとて面子がある。議長職を降りてでも同盟総会で緊急の議題にするぞ。それでもまだ、わしの与り知らぬうちに契約された共同神命に拘るのであれば、こちらにも考えがある。そこに至ればもはやわしらは引き返せぬ関係にまで突き進むぞ(脅)」
「水素神よ、せっかくの酒宴の場でそう凄むなて。我はお主らとは違って平和主義者だ。紛争は好かぬ。そこで我が友神の為にこれを用意した。何だか分かるか?」「ぬ?」
「我の宇宙でしか入手不可能な極上酒……他の宇宙の神々も喉から手が出る程欲しているにも関わらず、同盟の神々ですらまだ誰にも飲ませておらん。あまりに希少過ぎてな」
「ぬぬぬ?」
「ささ、一献……といきたいところだが、さすがにこれクラスとなると条件が2つあるぞ水素神」
「やや? 何じゃ?」
「1つは本件の宇宙主権侵害問題を解消、事後承認とすること。2つ目は本事案の神罰、神命がいかような結果を辿ろうと後から宇宙際問題にしない、つまり本事案限りの我への全面白紙委任だ」
「!! いけませんよ水素神! そんな条件を飲んでは!!」
「無論じゃオリュンポ素神! お主に言われるまでもないわ! そんな条件を飲むなど、文明を司り人類を管理する宇宙の主神として論外!! 酒は飲んでも飲まれるな! いや無理な条件ぜったい飲むなじゃて!!」
「GOGOGO!! 2人とも! どーんと神罰、行ってこ~い!!! ふぉーっふぉっふぉっふぉ(酔)(超愉快)」
「はあ~あ……(特大溜息)」
「ガァーッハッハッハッハッハッハッハ!! 大、逆、転!! 完、全、勝利!! これぞ酒宴外交の醍醐味ぞな!!」
◎ 第15話 カッさん編4 ◎
● 別宇宙無期滞在刑25日目の夕方 ●
■ 合ッテナイの市政会場 ■
▲ カッサンドロップス ▲
「どわぁ~っはっはっはっはっはぁ!!! 早く来いって言うから何かと思えば、こりゃ傑作だぁ!!!(爆笑)」
「ぶはぁーっはっはっはっは!! 腹が痛い!! 腹が捩れる、信じられん!! 助けてくれ!!(爆笑)」
「……アンティッ後伸ス、リューシ負ケ越ス。何がおかしい」
「はぁ……はぁ……(息切れ)。だって……なぁ?」
「カッサンドロス、知らなかったよ。お前、面白いことを言えたんだな。そこの見るからにハーフでも何でもない、純然たる異国人の女の子が? 亡くなった親父さんの突然増えた新しい娘さんで?? しかも実は母方の方でもどこか聞いたことのない国の王女でお前の妹さんなんだってな???」
「ぶふっ!!(吹) こりゃ駄目だ近年稀に見る傑作だなおい!!(笑)」
「いや~かなり心配してたんだからな俺はお前のことを。元から陰鬱根暗のお前が世界を渡り歩きもしない吟遊詩人(笑)を名乗るし、その上表舞台から退いて隠棲だか院政だか知らんが政治を裏から操るようになるし、それこそもう一体どんだけ陰険な性格になるんだよってな。今回その不安を見事に吹き飛ばしてくれたじゃあないか!!」
「弾け飛んだなカッサンドロス!! お前はついに明るくなったんだ!! 実にめでたい!! 親父さんも天からお喜びのことだろうよ!!(笑)」
「…………」
「待て待て、そう怒るなよ。おかしいを通り越して見直したってことが言いたいんだ。お前にそんなユーモアが有ったんだってな。しかもこんな盛大な仕込みまでしてな(笑)」
「ふざけるなよ」
「ふざけているのはどっちだ? カッサンドロス」
「! プトレーマイ推ス、セレブ狡ッス!! お前達も来てくれたか」
「来てくれたか、じゃない。いいか? 私の枝プートとセレブ狡ッスの支ッ離ーアはな。カッチドニアや知一位なんかの都市国家群とはわけが違うんだ。安易に政治を代理者に任せると即、命取りの事態に繋がるんだからな」
「別に僕だって人物を見極めもせず安易に政治を他人に任せている訳ではないよ」「黙れ! ほぼ故郷も同然で、文化文明の価値観の大部分を共有しながら統治出来るお前と、私達が直面している困難を一緒にするなと言ってるんだ!! いいか? 私達は治めるべき国を今こうして、王不在にしている。いくら信頼出来る身内に任せているとはいっても反乱が発生する可能性は常に有る。そんな中で政治軍事的危険を伴いながらも出国させ、参加しなければ他勢力全部に結託されるというお前の脅迫に怯えながら、遠くから呼びつけらる程の重要な理由とは一体何なのか? それはかつての同僚が一発ギャグを披露して、笑いを振舞う同窓会を開きたかったからか! この暗いご時世に、私達は実にいい友人を持ったものだな!!」
「プトレーマイ推ス。遠路遥々駆けつけてくれて大変ありがたいが、別にこの件の為だけじゃないんだ。そういきり立つな。僕達が話し合って決めるべき食料問題、国境問題や通商問題、その他政治外交軍事の解決していくべき話は依然として山積してるんだ。その点に何ら変わりはないし、一切脅迫などしていない」
「例えお前に脅迫しているつもりがなくても、お前の苛烈で陰惨極まりないその性格と政治手法、そして大王一家の実質的断絶後の私達の関係性!! それらを総合して判断すれば、自動的に脅迫として受け取る以外の余地はなくなるんだよ!」
「なぁなぁなぁなぁ、一旦落ち着けよお前らせっかく5人集まったんだ久々にな。そんなことよりもっと驚きで楽しい話があるんだ。なぁ聞いたぞ? お前、何日間かそこの『王女』を詩人の方の家に泊めたんだってな? それも無料で」
「!?」
「あの徹底的な金の亡者の極み、天下のドケチ王、道端に落ちているどんな小銭でも見逃さず拾わないではいられない守銭奴中の守銭奴カッサンドロスが、『他人』にタダで部屋を貸すだなんてな!! こりゃ神の怒り以来の天変地異が起こる前触れなんじゃないか?(笑) つってもま、自然に考えりゃあ別に、女を避暑地の別荘に連れ込むそれ以外の理ゆうぐぁがっ!?(苦)」
「セレブ狡ッス、貴様どこでそれを嗅ぎつけた?」
「いやっ……待てっ……(苦)」
「気をつけろよ。あまりに下手な嘘をつくか侮辱を続けるようであれば、宣戦布告と見なす。これ以後の言動は冗談だったでは済まさない」
「……怖いって苦しい、ちょっと! 苦しいってマジで!! いつもの素のお前が出てきてるぞ、大丈夫か? 妹さん見てるが……??(苦)」
「!」
「……(怯)」
「……。どこから耳に入れた? 情報源を明かせないなら、即ち他国の王の居住地にスパイを放っていたものだと断定するしかない。その場合貴様と貴様の国に対抗措置を取ることを公言する。ここは諸王の立ち会いの場だ。相応の報復はこちらの正当な権利だということを諸国に承認してもらう」
「…………」
「…………」
「…………」
「バカがっ! テッサロ二課だよ無断で自室と服を使われたってな、大層ご立腹だ!(激苦)」
「!! ……チッ(舌打ち)(渋)」
「いいか!? こっちはな、立ち話でさんっざん無理矢理愚痴られてるんだ!! お前らのクソどうでもいい家庭の事情をな!!(激苦)」
「はぁ(溜息)。余計なことを言わないではいられないものなのか(嘆)」
「なぁ俺はお前が個人的事情で助けを求めてるってゆーから、友人として早めに来てやってんだぜ!? いい加減、お前の力で思いっきり首掴むのはやめてくれねーか、窒息しちまうって!?!?!?(泣)」
「すまない(離)」
「ゲホッゲエホォッグベァアッ!!(吐)カッハ……ゼー、ゼー、ハァ、ハァ……一体、全体、これが、昔からの、長年の、友人への、仕打ちか……???」
「あいつの件だけは悪かった、家庭の共同責任として僕から謝ろう。迷惑をかけてしまったことを詫びる。だが同時に勘違いをするな? この行為は貴様の侮辱的言動の分だ。謝罪するものでも代償を払う類のものでもない」
「ちょっとした、軽い冗談で、それも言いかけた、だけじゃねぇか……(苦)」
「分かったら今後、二度と公衆の面前で下衆の勘繰りは止めろ。次は※り捨てる。貴様の息子と戦争になろうが一向に構わん、八つ※きにしてその血筋を根こそぎ断ちながら領土を奪ってやるだけの話だ。しかし無論そんな事態は私の本意ではないし、どちらが勝利しようがこの人口希薄時代では極度に国力は疲弊し国土の荒廃も進み、戦力の更なる低下を招くだろう。必然的に諸王に漁夫の利の動機及び勢力均衡の為の介入を次々と誘発させ、最後に残っていた友情すらも全て崩壊する。だからそうさせるな。いいな?」
「もう崩壊してるっつーの……もう分かったから……分かったったからもうしないからそれでいいって……頼むから解放してくれ、このくだりから(疲)」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……とまぁ、この様に! 愉快で楽しく、非常に頼もしい昔馴染みの悪友達なのだが、多少口が悪いのが玉に瑕な連中だ。どうか気を悪くせずに皆と仲良くしてくれると嬉しいな、我が最愛の妹未来よ♪」
「……はい……」
「さぁさぁ! 辛気臭いのは止めにして! 今回の一件と政治課題を話し合いながら旧交を温めようではないか!!」
「すまんが少しは休ませてくれないか? 私達は遠くからお前に急に早めに来いと言われて急いで馬を飛ばしてきて、到着したと思ったらこれだ。大分疲れてるんだがな?」
◎ 第16話 欠陥編3 ◎
◆ 宇宙の神々の亜空間 ◆
▲ カッ素宇宙の主神 ▲
「いやはや。呆れ返りますね貴方がたには。これが私達の同盟で現役最年長とその次の神々の姿ですか。情けない」
「いやぁ~我などはまだまだよ。この爺さんこそ神々の理想ぞ。お前は代替わりしてまだ経験が浅いから、まだこの爺さんの良さが分からんのだ盟主殿。先代の盟主殿は爺さん同士よぉ分かり合っとったぞ!! 我もいずれこうなりたいものだわ、但し酒に強いままでならな。ワーッハッハッハッハッハッハ(楽)」
「話を戻しますが、貴方はこの少女達をこのままにしていいと思っているのですか? 似ているとはいえ生物的環境の違いだってあるでしょう。しかも女性だ。貴方の宇宙に行っているあいだに手遅れの出来事が起きたら、たとえ後に生かして帰したとしても、一生涯癒えない傷として残ることでしょうね」
「フンッ!!! 神罰のあいだ、人体に一切悪影響のないようにしてやっているのだ。亜空間だけでなく、我の宇宙にいるあいだずっとな。我は配慮の固まりぞ? どれほど感謝されてもされ足りぬわ!! それを知らぬとはいえ、特にこっちの生意気過ぎる小娘が……!!(憤)」
「とにかくですね。もはやこの通神発石に元からの問題があったと判明した以上、貴方の全権を行使してあの2人への神罰は即刻中止、無条件で地球に即時帰還させるべきだと考えますが」
「ならんな」
「なぜです?」
「神と人との契約、即ち我が与えた神命をこの2人は共同し、未だ成し遂げておらぬからだ。理の当然よ」
「その神命が与えられた原因、前提がもう崩れたではないですか。誤解であり冤罪だったのですから」
「冤罪などではない!! いいや仮に冤罪だったとして、冤罪で収監されている者が脱獄すれば脱獄の罪に問われるように、あるいは無実の者が法廷を侮辱すれば元の罪は無罪でも司法に対する罪を犯したとして有罪となるように、知らずとも欠陥品であろうとも置かれていた場所が悪くとも壊れかけであろうとも通神発石損壊の最終打撃をこの2人が加えたのは変わらぬ事実!!!」
「……その例えも理屈もこの状況に当てはまっていませんが、冤罪で脱獄した者や元は無実で法廷を侮辱した者には、その置かれた境遇を考慮すれば情状酌量の余地はあるというものでしょう」
「既に十分情状酌量しておるぞ? その上でこの神罰の内容を罪に相当するものとして結審したのだ。そうでなければこの2人も、下郎どもと同様にとっくのとうに我の宇宙で虫か石器にしておるわ」
「今現在進行中の神罰も到底、罪に匹敵する量刑だとは私には思えませんね」
「おぉそうだそうだ、忘れておった。今回の一件では現場と時間帯がほぼ同じ故、下郎どもの人生と、その量刑妥当性とのバランスを取らねばならん側面もある」
「下郎の人生などどうでもいい!!!!!(酒瓶を叩き割る)」
「彼女達は通神発石の事情を知らなかった。それなのにこんな惨い仕打ちをして、なぜ平気でいられるんですか貴方は!! 哀れだとは思わないのですか!!!」
「よいかあ? 我の宇宙でなされる神罰は我の流儀で通すまでのことよ。オリュンポ素神よ、これ以上口を挟むなら我の宇宙への司法管轄権侵害と見做すぞ??」
「ずっと酔っているから正常な判断が出来ないのです。今一度原点に立ち返って下さい、いいですか? 私達主神の全知全能はあくまでも自らの宇宙に限定されたもの。そしてこの通神発石は私の宇宙でしか生成不可の産物、貴方達に構造の全容を把握することは出来ない。だから主神が2人いながらにして事実認識に間違いが発生したのです。神が人間に対して下した判決に非があったと認めたくはないという気持ちは分かりますが」
「非は水素神による神器の設置場所が不味かったというただ一点のみ。我に非などない」
「はぁ……(溜息)。まだ言い張りますか? 酔っ払いながら審理を開き、酒乱のまま審判を下しておいて一体何を開き直っているのやら。こんな有様で罰を科せられたら人間だってたまったものではありませんよ。それもこんな、仮に罪があるとしてもですよ? ごくごく僅かな過失で……」
「これだけなどではっ!! ないわあああああああああああっ!!(怒)(酒瓶を叩き割る)」
「知らぬとはいえこの小娘ぇ、そっちじゃないこっちの方だ!! こっちの小娘がなあ、我の名を軽蔑的に呼び捨てにしたのだ、もっともお?? その後意図的に再犯するわ悪口に変えるわ連呼するわでぇ、尚悪いがなあ!! それからあ!!! まだあるぞ!!!! 神々の酒宴を妨害した!!! 交換の儀延期の事態の遠因となった!!!! 余罪、余罪、そのまた余罪がワンサカ掘り起こされるわ!!!!(憤怒)」
「それはそもそも貴方達の酒癖のせいで」
「黙れ若造!! そして何より我への畏れを知らぬ不敬な態度、とどまることを知らぬ増長した言動、あってはならぬおぞましい暴言の数々と台パン連打の嵐!!!! さっきの地球の社の下級神の抗議の中身にしても、分不相応ながらもあながち全部が全部的外れという訳でもないわ!!!! 別件、別件、そのまた別件!!!! 再犯、再犯、そのまた再犯!!!!」
「判決は確定、有、罪!!!!! 全権が委任された我には異議も上告も再審もない、ましてや司法管轄権侵害も宇宙政干渉も必要ない、よいな!!!!! しかし……この小生意気な小娘の信じられぬあの思い上がった態度と言動!!! 思い返したら収まっていた腹がまた立ってきたぞ!! 酒だっ!! この煮えくり返った腸には五臓六腑に染み渡る酒酒酒酒酒酒酒ぇ! さぁさぁさぁさぁさあ!!!! 極上の酒を追加しようぞ、水素神!!!!!」
「カッ素神よ!!(歓喜) その方針には全面的に賛成じゃあ!!!(酔過)」
「…………」
◎ 第17話 カッさん編5 ◎
● 別宇宙無期滞在刑25日目の夜 ●
■ 合ッテナイの食堂 ■
▲ カッサンドロップス ▲
「それでは諸王……。永久に不滅な僕達の友情と再会を祝して、乾、杯!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「緒将、兵士達、文官諸君らも楽にして食事してくれたまえ! 未来君はどうだい?」
「あ、頂きます」
「乾杯しよう」
「乾杯だけならはえぇけどな、前も言ったけど王様だろうと将軍だろうと勧められてもうちは酒は一切飲まへんで。故郷の法律では二十歳未満は禁止やねんからな」「それは君の世界の法だろう? しかも聞くところによれば神から定められし法でもなく、所詮は人だけで決めた法であるに過ぎないという話だったね?」
「こっちの世界の法は知らんけど、私ってそういうの厳しい家庭で育ってるから。どこにいようと故郷基準でそこは譲らんから。郷に入っても法に従え、但し故郷の国のね。こう見えてうちはめっちゃ順法精神の固まりなんやで、覚えとき?」
「分かったよ。飲まないのは知ってるからね。ちょっと言ってみただけさ」
「それからね、もうひとつ! うちは男に酒なんてぜったい注いで回ったりせんからなカッさん。そういう習慣とか役割とか、女性だからとか、うちに一切求めんといてね? もしそのライン超えたら……」
「分かってる、分かってるよ! 今まで通り君の意思を尊重するよもちろん!! もぉー……ほんの少しでも基準に差し掛かるとす~ぐに矢継ぎ早の口撃が始まるんだから未来君は(笑) おーい給仕係、ちょっと来てくれ! 妹の未来は酒が飲めない。ジュースと水を頼む」
「ただいまお持ち致します」
「……カッサンドロス」
「プトレーマイ推ス」
「そして妹君? 初めまして」
「あっ……。はははは初めまして。みみみみみ未来です(超緊張)」
「私はしがない枝プートという地の王を務める、プトレーマイ推スと申す者。ご存知か分からないが貴女の兄とは昔馴染みでして」
「存じております。兄とはかつての同僚であり戦友だったと(緊張)」
「おぉ」
「兄が昔からお世話になっています(緊張)」
「こちらこそ。実に良く出来た妹さんだ」
「そうだろう! いいかプトレーマイ推ス、この可愛い妹未来の切なる願いを叶えるために今日君達に」
「しかし妹さん、ここは滅多にない国際的な祝いの場だ」
「おいっ! 僕を無視するな」
「無礼講というわけでは決してないが、他国の王とはいえそこまでカチコチに堅苦しくならなくても構わない。君は王族なんだから」
「お気遣い頂きまして……大変感謝致します……(緊張やや低下)」
「先程は貴女の兄と口論になって、声を荒げてしてしまった。初対面の王女がその場にいるというのに、私はやや冷静さを欠いていたようだ。許してほしい」
「いえいえ……全然いいんです! 平気です私は(緊張かなり低下)」
「ミライ様、お飲み物をお持ちしました。どうぞ」
「あ、ありがとうございます……。アハハハ、ちょっと喉が渇き過ぎてまして……(飲)」
「ところで私は、貴女から見て半分は義理の兄にあたることを知っているかな?」「ブフゥーッ!!(盛大に噴き出す)」
「……プトレーマイ推ス、ちょっとこっちに来い話がある。給仕係! 未来君が固まってるから、周辺の惨状を何とか頼んでいいか?」
「お任せ下さい(汗)」
◎ 短編につき26日目~32日目の展開カァッt!! 2 ◎
◎ 第18話 カッさん編6 ◎
◆ 宇宙の神々の亜空間 ◆
▽ どこかの誰か ▽
「三神様方、私の宇宙からも特製酒をお持ちしましたよ」
「おぉヘーベー神、久しいのぉ! よう来てくれたわ!」
「カッ素神様、お久しぶりです♪ お注ぎしますわ。これは他と少しでも混ざると味が落ちるので専用のコップもこちらのもので」
「さすがだ。気が利くのぉ」
「水素神様も! こちらをどうぞ♪」
「うむ。苦しゅうない」
「……この映像は神罰のものですね?」
「ん?」
「私も聞き及んでおりますから」
「なぜ話したのじゃ? オリュンポ素神」
「私は話してませんよ。何だヘーベー、どこから聞いた」
「第十二宇宙とカッ素宇宙の中級神、下級神らのあいだでとっくに噂になってます。嫌でも耳に入ってきますわ。主神方が揃って異例な動きをしているので何事かとね。中級神以下には以下なりに、下のネットワークがありますことよ。もうすっかり知れ渡っています」
「許可範囲外の宇宙間の情報交換は処罰の対象だぞヘーベー。他宇宙の主神の前で口にしていいことかどうか、まず考えてから弁明するようにしろ」
「まぁまぁオリュンポ素神よ。ここは宴の場だ。今はそう目くじら立てて咎めるでもなかろう、興が削がれるわ」
「さすがはカッ素神様、何と寛大な御方♪ ……オリュンポ素神様ったら、自分の部下にだけは建前建前、処罰処罰ですか? それでこの少女達には、神罰の償いである神命を未達成で赦してやろうと仰いまして?」
「! 口を出すなヘーベー!! これは宇宙の主神同士で扱う話だ」
「出過ぎとはいえ、なかなか鋭いことを言いおるわい。相変わらず我と気が合うなヘーベー神!」
「ありがとうございます、カッ素神様はいつも私に優しくして下さる御方♪」
「こいつを調子に乗らせないで下さい」
「しかしながらカッ素神様。あまりにも御心が広過ぎるのか、別宇宙の【中級女神】である私などには解せないことが1つ」
「ん? 何だ」
「聞けばこの神命、少女達の持つ知識をそちらの人類の進歩の促進剤にされるとか何とか」
「そうだぞ、ついでにな。水素宇宙の基軸時間現在の地球人類の方が、文明文化が進んでおるからな」
「うむ……」
「しかしこの少女達は人間基準においても、大した頭脳を持っているようには到底見えません。もちろん私の想像ですけど、きっと平凡『以下』でしょう?」
「いや。地球人類の平均値を我は把握しとらんが、我が思うに恐らく平凡『未満』だな(笑)」
「そうでしたか(笑)。であればなおのこと疑問が深まります。この神命は神罰の対象者が仮に当代随一の学者であれば、それは私にも理解出来る内容ですわ。どう考えてもこのお馬鹿さんの少女達には、明らかにそぐわない内容に見えてしまいます。一体何故このような不相応な神命をお与えになったのでしょうか……?」
「それはむしろ反対だな」
「反対?」
「もし転送神罰の対象者が地球人類において当代随一の学者であれば、そうだな。我が下す神命の内容は、罪が軽ければ途中解放の可能性の無い強制終身重労働刑、中程度であれば虫か石器に転生、重ければ肉体をあえて完全不死にしてやり、人間には永劫と感じられるであろう時間を火焔地獄で過ごさせる」
「まぁ!(驚)」
「だが地球の学者が我に対し重罪を働くとは考えにくい、ここは軽い部類の何かの罪だと仮定しよう。ならば残りの生涯を、知恵者たる人間の尊厳という尊厳を肉体労働で徹底的に奪い続け、その知識はごく僅かでも、現地住民に披露する機会を与えてはやらぬな。力尽きるまで不向きな力仕事を強いられ続け、最期は虚しく冷たい土に還るのだ。誰も知らない異郷の地で、同郷の者の誰にも知られずにな」
「実に納得のカッ素神様らしい刑罰内容ですわ! でしたらそれをこの少女らにもお与えになればいいのでは?」
「だからこそ違うのだ。神罰の対象者がこのような小娘2人だからこそ、この例外的な神命課題を出したのだ。困るのだ、地球人類で一、二を競うような大学者に、先進的で正しい学問知識を積極的に持ち込まれてはな。それでは我の人類に自発的な進歩の刺激がもたらされた、ということにはならない。何から何までをただただ一方的に教えられただけに過ぎん(新たな酒ゴクゴク)」
「アホの小娘二人が提示出来る程度の、生半可未満で誤解混じりがいいのだ。分かるかヘーベー神? どうしようもない薄っぺら表面知識だからこそ、言葉だけ導入するのに適しているのだ」
「はぁ……果たしてそういうものですか? 水素神様もそのように御考えでいらして?」
「うむ、その点に異存はないぞい。その点にはの……」
「その点に、ではないだろう水素神よ。全面的に異存はない、だろう?」
「ぐぐ……わしは今回、酒の勢いで過ちを犯してもうた……いや、今回ばかりではない! 最初の神罰からして根本的に間違いじゃった……地球でわしが相応の処罰を下しておればこんなことには(頭を抱える)」
「何を今更。カーッカッカッカァ!!」
「じゃがなカッ素神、覚えておるな!! わしが飲んだ2つの条件に、通神発石交換の儀延期をやめさせる文言はなく、対象事項には含まれておらん。わしは本件が片付くまで儀式に応じるつもりはないからの」
「抜かったわ! そこは我の手抜かりだった。条件を3つにしておけば」
「フォッフォッフォ! いいか、今更増やすのは締結ルール違反じゃからな?」
「分かっておるわい」
「ほらそうこうしているうちに見て下さい、そろそろ一行が人一位の都市の手前の町に入りそうですよ」
「おぉ着いたか。最終目的地まで、あと一泊というところじゃな」
「こやつらここまで仲違いせんとはな、一枚岩ではないくせに」
「素直じゃないのぉカッ素神よ?」
「そうですよ。喜ばしいことは言葉に出して歓迎すべきです」
「フンッ!」
「……?」
「!!!!!」
「…………(嫉)」
「あの……三神様方、酒宴の場でこうは申し上げにくいのですが」
「ん?」
「現在進行形でそれぞれの宇宙にある多種多様な文明で、多くの事象が発生しておりますよね?」
「うむ、そうだな……。何だヘーベー神よ、第十二宇宙で何かあったのか?」
「いえいえ! 特に何かというわけではないのですが……。あの……宴のあいだ、この小娘達をずっと観察しておいでだったのですか三神様方は?」
「そうだぞ。我が課した神命故に、その遂行に不正がないか監視しておるのだ」
「いやいや……。別に何も、常時監視なさらなくても見抜けるでしょうに、別宇宙ならいざ知らず御自身の、全知全能たるカッ素宇宙のことなのですから」
「無論な。しかしこの神罰は宇宙際問題に発展しかけた重大事案となったのだ。その成り行きには深く注視せねばならん。いくら水素神に白紙委任されたとはいえ、完全に放置していいわけではないのだ。我の管轄下にあるのだからな」
「はぁ。その白紙委任なさった水素神様は?」
「わしゃ通神発石交換の儀が延期を余儀なくされておるでな、カッ素神の強引な外交手腕のせいでな。この件の委任の経緯は正直憤懣やるかたないところじゃが、こうなった以上止むを得んでな。行く末を見守っておる。何と言っても2人ともわしの宇宙の人間なんじゃからのぉ」
「……ではオリュンポ素神様は? 第十二宇宙を離れて、ここで何日間ものあいだ一体何をしておいでで???」
「私も宇宙同盟の盟主として、ことの推移を見守る義務がある」
「いいえ? ないでしょう」
「っ!」
「水素宇宙とカッ素宇宙の二宇宙間で解決すべき外交問題のはずです。どうしても話が拗れて盟主に調停を委ねられるか、または総会で問題提起され意見や裁定を求められるまでは盟主の出る幕はない。それが同盟宇宙間の基本的外交原則であり、独立した宇宙同士の相互尊重、秩序と結束の為に守るべき鉄の掟でしょう。違いまして?」
「やかましいぞヘーベー!!! 宇宙際の場にいる主神に向かって、それも他の主神達の面前でわざわざ、一体何の指摘だ!!??(激怒)」
「ひぃいいいっ!?(怯)」
「いいか!! これは私の宇宙の通神発石の欠陥品が発端となって起こった初の同盟宇宙間事件だ!! 私にはことの顛末を見届ける義務もあれば権利もある!! これ以上、中級女神如きが分を弁えずに口を挟むなら、亜空間移動特権を剥奪の上、今までお前に下したことのある生ぬるい懲罰とは比較にならぬ重罰を監獄で受けさせるぞ!!!! 他の放埓な中級女神や【下級女神】どもへの綱紀粛正の意味も兼ねて、一罰百戒の見せしめには誂え向きだ!!!!! 私が手心を加えなかったら一体どうなるかを示してやる!!!!! それが嫌なら酒を置いて今すぐ消えろ分かったな!!!!!(超激怒)」
「……はい(落)」
「……まぁまぁオリュンポ素神よ! 我も出過ぎとるなとは思っとったが、何もそこまでガンガン怒鳴り散らす程のことでもないだろう。ここは楽しい酒宴の場だ、酔いが醒めぬようにお主のところの珍しい特製酒をもっと振舞ってはくれぬか? せっかくこうして久しぶりに会ったのだぞ。そんなに早々と退散せんともよいわ。のぉヘーベー神よ?」
「えぇ……。ではとりあえず……お注ぎ致します」
「宴の主催者であるわしからも頼むぞい。これまでの出過ぎた口出しも場の賑わいだったとして許してやりなされ」
「……カッ素神と水素神がそこまでおっしゃるなら」
「…………」
「良かったのぉ怒りもこの場も丸く収まったようじゃ。ということでわしの方にも頼んでえぇかのぉ? 出来ればじゃが、なみなみとだと嬉しいんじゃがの~」
「もちろんですわ。水素神様……」
「フォッフォッフォ(嬉)」
「しかし頭に血が上って見てませんでしたが、一行の様子はどうですか?」
「宿屋に到着するところだぞい」
「おぉ! 順調ですね~」
「いやはや、順調過ぎて退屈だ。我の宇宙は平和過ぎて活気がない」
「そりゃお主の方針通りの平和が実現してるのじゃろうて(笑)」
「争いは好かんが、それにしても波乱がなさ過ぎる」
「お主の星で生き残った最強の軍勢が結集しておるんじゃ。どんな山賊盗賊だって手を出そうとはせんじゃろ」
「カッ素神。せっかく彼女は目的に近づいているのですから、ここはもう大人しく祝いましょう」
「フン。何が大人しくだ。気に食わん連中だ!」
「カッ素神様、波乱ならこの私めにお任せあれ――」
「ん? 何か言うたかヘーベー神? ……んん?」
「!? チッ(舌打ち) ヘーベー……!!」
● 別宇宙無期滞在刑33日目の昼 ●
■ 宿屋の前の街路 ■
▼ カッサンドロップス ▼
「? ! 未来君来い!!」
「えっ――」
「きゃああああぁっ!!(驚) なになになになになに???」
「っ……全員距離をとって馬車を取り囲め、同時突撃準備!! 未来君はそこの宿に入ってて!!!」
「はいっ! はい!! 行きます!(怯)」
「両ピーリッポス、彼女を頼めるか」
「お任せ下さいっ!」
「わわわわ私もそっちの役目のがまだ助かりますぅ(怯)」
「信じられないわ! たかが人間が咄嗟に庇っただけで……!?(驚)」
「……女???」
「しかも建物に入るだけのしょぼい行動が、実際に一時凌ぎになってるだなんて……やっぱり別宇宙の物理制限ってのは簡単じゃないのね。勝手が違うわ~」
「誰だ貴様、どこの暗殺者だ? 誰に雇われた?」
「…………」
「どこから降って来た? まさか宿屋の屋根に潜んでいたか?」
「そこの男、察知したの凄いわよ。正直、舐めてかかってたみたいね私、降り方雑だったわ。反省反省♪」
「質問に答えろ」
「あんたの観察力と判断力、瞬発力は褒めたげる、でもなーら。ねえ? 分かるでしょ? この私がそこのボロ宿の低い屋根からジャンプして出てきたように見えたわけ?」
「いや……真昼の太陽の影になった。天から降ってきた」
「そうよね? ってことは最初の質問の仕方、ずれてたって思わない? 逆に聞くわね、私ってば何者かしら?」
「……女神か」
「そのと~り♪ この美しい羽を広げて見せてあげるわ♪ この姿を見れるなんて滅多にないことなのよ。光栄に思いなさいねー非力な人間さん達~♪♪♪♪♪」
■ 宿屋の中 ■
▽ 大昨夏未来 ▽
「!! カッ素神様! カッ素神様、聞こえてますか! 未来です!(超小声)」『…………』
「ミライ様、壁際に立たないで下さい、伏せて! よく分からないですが光の波動攻撃を放っています! 扉からも離れて!(なるべく小声)」
「待って下さい、早く上の神様と交信しないと手遅れになる!」
「あわわわわえらいこっちゃえらいこっちゃ、まさか女神が人間に攻撃してくるなんて!!(動揺)」
「何で女神が!? ここは神の雷を免れ続けた聖なる宿屋なんですよ(動揺)」
■ 聖なる宿屋の前の街路 ■
▼ カッサンドロップス ▼
「素晴らしいわぁ! 一発で仕留め損ねて話が遅くなったと思ったけど案外そうでもないかしら? あなた、たかが人間の分際でなかなかにいい男の上に理解が早そうだわ♪ これから後続のあなたのお仲間兼ライバル達が到着してくるでしょうけど、なにもかも全部が無力ってことも分かってるわよね? 逃げることも隠れることも無意味ってことも、全部察してるわね?」
「……っ」
■ 聖なる宿屋の中 ■
▽ 大昨夏未来 ▽
「カッ素神様、私から話し掛けてしまってごめんなさい! でも緊急事態なんです! 助けて下さい、別の全然知らない神様に襲われてます!! 女神です、カッ素神様の部下じゃないんですか???(小声)」
『…………』
「しゅしゅ主人よ! 言いたかないがここは壁が薄過ぎる!! 地下室か倉庫かどこか、頑丈な場所はないか!?(動揺)」
「いやそんな急に言われても、ここには物置くらいしか(動揺)」
「地下室や物置など逃げにくくなるだけだ! 主人はとりあえず裏口を開ける準備だけして!(小声)」
「はいぃ」
「ピーリッポス、念の為もうミライ様を連れて裏に出といた方がいいんじゃないか??」
「いや神が相手じゃ気休めにしかならん、その時はもう最後の時間稼ぎだ……」
■ 聖なる宿屋の前の街路 ■
▼ カッサンドロップス ▼
「いい男に免じて1回だけ交渉というか、提案してあげる特別よ♪ さっきの頭わるわる女を今すぐこっちに差し出しなさい」
「!! 何だと」
「あなたの命は助けてあげるわ。それどころかぁ、そーね! ついでにあなたに都合の悪い政敵のトップ達、皆※しにしてあげてもいいわよ!」
「政敵?」
「でもね、時間がないのよ! 5分以内に急いで空を飛んで※して回れる範囲内で指定してちょうだいね。都合よく近いところに、互いに友人のフリした敵が数人いそうだから、割といけそうじゃない?(笑) どう?? こんな好条件ってなかなかないわよ~♪」
「ふざけるな」
「あっそ。それが答えなの。それはそれで、オッケ♪ だけどあなたってあれね、瞬間的な判断は凄いけど、総合的な判断力の方はそこまででもなかったのね。まるで力量の差の見極めってものが出来てないじゃない? あなたは全軍を率いる大将の器じゃないわ。せいぜい前線部隊の突撃隊長がお似合いよ」
「…………」
「と、思ったけどよくよく考えたら人生で人間としか戦ってこなかったでしょうから、神の力が分からなくても仕方ない部分はあるわね。ごめんなさい今のは撤回するわ」
「…………」
「言い過ぎたからって訳じゃないけど、さっきのまだギリ受け付けてあげるわよ、皆※しタイムを5分から3分にしただけでね。頭軽過ぎ女1人と引き換えにして、一気に政治的有利を手に入れるラストチャンス♪ あと5秒」
「…………」
■ 聖なる宿屋の中 ■
▽ 大昨夏未来 ▽
「カッ素神様助けて!! 暴走してます!! カッ素神様、応答して下さい!! 助けて下さい、今! 後でじゃなくて今助けて下さい!! 明らかに今までと違う異常事態です!!! 返事して下さい!!!(叫)」
『…………』
「あのあのあのあのあのっ! 王女様、あなた巫女じゃないですよね??? 大声やめて下さい、出来るだけ宿に女神の意識が向いてほしくないんです(切実)」
「ひぃいいいぃい駄目だ何をしてもこの世の終わりだあぁああぁああぁ(泣)」
「煩い喚くなピーリッポス! ミライ様、いけません! なるべくそっちに行かないで!(小声)」
■ 聖なる宿屋の前の街路 ■
▼ カッサンドロップス ▼
「2……1……はい締め切り~♪ 残念、少しいい男だったけど所詮は人間。結局は無謀で身の程知らずの筋肉お馬鹿さんだったってわけね、脳みそカスカス女とお似合いだったわ。仲良く土に還してあげる!!(歯バリバリバリバリバリ)」
「!! 化け物め……!!」
「あんのねぇ? 冥土の土産に教えてあげる。人間が自身の命を捨てて他者の命を守れるシチュエーションって、ごくごくたまぁ~にあると思うんだけど、それも人間同士の争い事とか人間対動物とか、その程度の次元でのみ成立可能な話よ。一人が神に逆らえば? 全員まとめて粛清あるのみ♪♪♪ キャハハハハハハハ♪」
「ぐくっ……」
「それが神の怒りの教訓なのにねー、ここの人類ってば比較的神々に従順な方だって聞いてたけど、結局な~んにも学んでなかったのね。じゃ絶望を再度味わってもそれは仕方ないじゃない。同情の余地無し♪ じゃ、さよなら♪(最大出力)」
「!!!!! ……未来君すまない、無力だった……どうか許してくれ……」
■ 聖なる宿屋の中 ■
▽ 大昨夏未来 ▽
「カッ素神様!!!!! お願いです、すぐじゃないと!! 人間には、人間じゃどうしようも出来ません!! 間に合わない、もう……カッさんがっ……!!! カッさん……っ!!」
『…………』
■ 聖なる宿屋の前の街路 ■
▼ カッサンドロップス ▼
「全員、かかれえええええええええええっ!!」
「お馬ギャサンッ!?(驚苦)」
「!?!?!?」
「……やってくれたな? ヘーベー。お前のこの愚行のせいで、私はこの件にますます干渉しづらくなった」
「ちょちょちょちょっと待って下さい!! そこの女を始末してからにして!! それからカッ素神様の前に出頭しますので」
「どこまで愚かなら気が済むんだ?(蔑) お前の主は一体誰だ? これ以上私の宇宙の恥をさらしてくれるな。別宇宙侵犯の罪により【第十二宇宙共通罪神矯正機関】送りを命ずる」
「おおおおまおまおまおまお待ち下さい! 例えあなた様に仕える神でも別宇宙で犯した罪は、その宇宙の主神の判断が先決されるはずです! まずはカッ素神様に会うのでそちらで弁明を」
「馬鹿が。私もカッ素神も注視してる場で犯行に及んでおきながら、何を言い逃れ出来ると思っているのか。もはや誰もお前を庇いきれん。さっさと行って来い」
「いぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!――」「ハァ(溜息)」
「……貴様も神か」
「部下が失礼した。私はこことは別世界にあたる、【オリュンポ素第十二宇宙】の主神。オリュンポ素神とでも呼びなさい。先程失態を演じた女神は私の直属の部下で、中級女神のヘーベーという。あぁ人間達は名乗るのを免じよう、既に名を知っている」
「第十二……?」
「深く考える必要はない。君の世界で崇めてる神々の最高神、といっても人間が勝手に決めたものとは違うが、その崇拝の対象の頂点に立つ主神と、私は完全に同格の存在だと知ってもらえらば幸いだ」
「…………」
「少なくとも、男よ。お前はすぐにでも飲み込めるだろう? そこの少女と話しながら旅をしてきたのだから。もう出てきても安全だ! カッ素神から話は聞いているし色々な事情も知っている。大昨夏未来」
「!」
「…………」
「彼女にも私から直接謝罪と釈明がしたいだけだ。出てきなさい」
「は……い……」
「ミライ様っ!」
「……来ていい、ピーリッポス先導しろ!」
「はっ」
「僕の後ろに! 僕とピーリッポスのあいだにいて。前に出ないで」
「うん」
「部下の中級女神がこの宇宙に無断で侵入し、危険な思いをさせてしまって申し訳ない。襲撃は完全に部下の独断で行われた。とはいえ当然上司である私にも監督責任がある。この世界には本来物質的な干渉をしてはならない為、形ある補償は出来ない。私からはただただ謝ることしか出来ない……」
「…………」
「…………」
「本来は部下だけでなく、この私もここに来るためには、カッ素神の許可を得なければならないのだ。緊急で許可をもらったはいいが、ここの外交を司る中級神が思いのほか職務と原則に忠実で、外交手続きに厳しくてね……カッ素神に怒鳴ってもらって可能な限り手順をすっ飛ばしてもらったが、かなり止めに入るのが遅くなってしまった」
「! そうだったんですか」
『…………』
「主神が別宇宙に、予定された主賓でもないのに直接来るというのはそれだけで重大事件なんだ。主権問題も絡むから、中級神や下級神なんかよりもむしろ大変でね。……すまない。こっちの裏事情なんて述べたところで人間には何も関係のないことだったね」
「その弁明を一応信じるとして、なぜ貴様の部下は未来を狙った?」
「カッさん貴様はあかん!! 神様の感じで分かる!! ほんまにめっちゃくちゃ偉い神様やでこの人!!(汗)」
「はっはっは! 今回だけは赦そう、共同神命遂行中の大昨夏未来に免じて」
「…………」
「動機はこれから尋問するが、まぁあいつのことだから大体の察しはついている。私の宇宙には直情怪行の女神が多いんだよ。しかしまさかここまで考えなしだとはね。とにかく私の宇宙の中級神、下級神らには暫し往来禁止命令を出す。以後こんなことはないから安心してほしい、少なくとも私の部下達に関してはね。さて、私はカッ素神と事後処理について合意する必要があるのでこれにて失敬、人間達よ!(去)」
「…………」
「何やったんや……(呆然)」
◎ 第19話 過っ疎編4 ◎
● 別宇宙無期滞在刑34日目の朝 ●
■ 人一位の都市の市場 ■
△ 大昨夏未来 △
「過っっっっっ疎!!」
『…………』
「過っ疎いわ何が人一位の都市や、おこがましいにも程があるわ!!」
「……未来君。君はどの街に行っても開口一番必ず同じ反応をするんだね(笑) とりあえず周りに人がいないからいいけど、住民に聞かれたら良くないよ?」
「いやだってさ……言っちゃいけないかもだけどさ……ここって人口で世界一位の都市なんでしょ? そんでこれなの???」
「まぁ朝だしだね、昼はもっと人の動きも活発になると思うよ。それから神の怒りはここにも降り注いでる」
「これじゃ『来た見た勝った』ならぬ、『来てみた過っ疎』やな(世界史のノート見ながら)」
「え、何だい? その妙な言い回し?」
「いやここはな、うちの世界の歴史やとめっちゃ偉い有名人が治める都市に相当するはずなんや」
「そうなのかい?」
「ゆーても時代が違うんやけどな、ノートによれば……。しっかしいくら偉大でもこの寂れ具合で人一位はあかんで古代の誇大表現や。固有の名前付けるのは野蛮とかいうしょーもない悪習を一刻も早く捨て去るべきやな。カッ素注入以外の、人類進歩停滞の原因なっとるで」
「東方や南の枝プートなんかだと、統計が取れてないだけでここよりも人口が多いところは実はあると聞くけどね」
「多分あるでこれは……看板に偽り有りっちゅーか、勘違い有りやな」
● 別宇宙無期滞在刑34日目の昼 ●
■ 人一位の都市の政務会議場 ■
「間違いなく巫女を騙る偽者です。生き残った僅かな本物の元巫女達に会わせて確認しました。正しい知識もあるべき所作も皆無で、他国の神殿所属の巫女である可能性すらないと彼女達は断言しています」
「元巫女に確認作業を? 引退した巫女ではなく現役の巫女に検分させた方が確実では?」
「現在、我が人一位の都市では最後の神託によって、神官団も巫女制度も撤廃しています。本物の巫女達も解散し、各自家に帰されました」
「商人から伝わる噂話では聞いていたが、信じ難いと思っていました。まさか本当だったとは(驚)」
「そうでしょうね。しかし神の怒りの知らせを前もって受けることなく回避する手立ても伝えられないどころか、上スタの神殿に神の雷が最初に直撃したのです。それも他の建物と違い、木っ端微塵にされ聖火も消え去りました」
「何と!」
「神殿の権威は地に堕ち、もはや人々の信仰心は聖職者の言葉を介すことを嫌うようになりました。私達はそれぞれ各自で神々に祈りを捧げることにしたのですよ。今はそれどころではありませんが、余裕が出来れば神殿を再建するとしても、神々の像と祈りの場を設置するに留まるでしょう。もはや我々には神官も巫女も神託も最高神祇官の職も不要なのです、もちろん偽の巫女なら尚更ね」
「なるほど? 神祇官も撤廃されたと」
「左様」
「あのー……ちょっとすみません。ジンギスカンの話で盛り上がるのもいいんですけど、その前に質問いいですか?」
「何でしょう」
「こ……ここが政治家の人が会議してる場所であってますか?(唖然)」
「えぇ、でもここはまだ廊下ですよ、この先にあります」
「だって廊下も何も……ちょっと嘘ついてません!?」
「嘘?」
「だって屋根が無いやないですか屋根ぇ!」
「屋根無いのって私知ってますよアレでしょ? 建物の名前出てこないけど、剣闘士の人が戦ったりライオンと戦ったり戦車で戦ったりするドームでしょ?」
「……??? 何ですか? 失礼ながら少し言葉が」
「説明した通り、未来は私達カッチドニアからしても遠い異国出身の王女の娘です。ここの知見はほぼ皆無で、言葉も上達はしていますが若干怪しい。そこをご理解頂けるとありがたい」
「分かりました。しかし理解というのは相互になされるべきだ。貴方はご存知かと思いますが私達は古来王政を廃して以来、王という存在を尊ばない。私達と貴方がたは対等、王と臣下ではない」
「…………」
「ある時は外交上賓客として敬意を持って接するし、またある時は親交を確かめながら同等の者として接しもする。まるで常日頃からの友人の間柄のように。ご理解頂けますかな? 遠方からの客人、カッチドニアの聡明なる元首カッサンドロップスさん、そして我が友人カッサンドロスよ」
「無論だとも」
「よろしい。ではミライさん、屋根が無い場所で会議している理由というか経緯をお話しましょう。これは別に私達が望んでそうしてるわけではありません」
「そうなんですか?」
「終身日くたびれトールの買えッ去れが暗殺された後、塵握度ービアヌスなる若者が仰ぐっすトゥッスとなり、ほぼ全ての重要政務官職を兼任し軍事最高指揮命令権も掌握するといった政変が連続しましたが、神の怒りによって彼は配下の軍団ごと塵芥と化しました」
「チリアクター?」
「それどころか彼と対立していた五月蝿ーなトゥス派の軍勢もまとめて消滅させられました。混乱は続きましたが、幸いなことに周囲の蛮族がほぼ絶滅した上に、東方のとある侵略的な外国同士が征服事業を展開し成功した途端に、ほとんど共倒れのような格好で四分五裂したのです。どこもかしこも軍事力が激減した為、即座の独裁者の再来や外国人の支配という最悪の事態は防げました」
「…………」
「あれ? でも買えッ去れ? ってもしかして……(パラパラ)」
「えっ!? 一体何ですかその物体は?(驚)」
「あぁー(汗)、これはノートなんですけどー、つまりアレやね。紙です」
「??? ではその半透明のペンは……?」
「あ、これは別にそんな。ただの黒のボールペンです」
「ボール、ペン……?」
「フフフ。この紙もペンも我々が知っているいかなる物とも材質が違い製法も伝達されておらず不明。値段のつけようがありません。これらを取ってみてもお分かりでしょう? 我が妹未来が『本物』であるということが」
「た……確かに……しかしですよ……あの偽巫女の方は変な服を着て妙な木の棒を持ってはいたが、そのような特殊な品物は所持してはいなかった……」
「先程から言っているでしょう。未来の母方も高貴な王家なのです。所属神殿不詳の食いっぱぐれ流れ巫女とは身分が違います。いくら同郷だといっても、所持品はそれぞれ相応の物であるに決まっている」
(いや食いっぱぐれて)
「しかも彼女の祖国は決して蛮族や未開人などではない。侮り難い高度な文明と技術を発展させた国だということも伝わりましたか?」
「……どうやらもはやミライさんが特別だという事実だけは、疑う余地はないようだ。くれぐれも念頭に置くことと致しましょう」
「賢明なことです」
(王女設定、意外といけるかもしれんコレ)
「ところで何でしたかな、驚きのあまり話が途切れて……あぁそうだ。買えッ去れのことを知っていたのですね? ミライさんは」
「そうですね、一応……」
「近年の情勢だけはここに来る前、少しだけ詰め込んで教えたんです。やはり王の妹として外交の場に同行させていますからね」
「なるほど、それは結構なことです。ですが別に買えッ去れと塵握度ービアヌスの両名は覚える必要もありませんよ。もう既に元の名を蔑称に変えた名となっていますが、私達人一位の都市にとって、つい最近まで起きていた苦い過去ですからね。駄目な帝王・巡り会えないの刑に処すべきか議論しているくらいなんですよ」
「なになになに? 何の刑って? もう亡くなってるんですよねその2人?」
「記録抹消刑ですよ。簡単に言えば名誉ある記録を剥奪されるということです」
「はぁ」
「まぁ個人的な行政手腕でいえば外交や政策、属州統治といった部分に評価すべき業績はなくもない2人ですが……独裁で台無しにしましたね。それでも買えッ去れはまだしも寛容の精神を持ち合わせている人物でしたが、塵握度ービアヌスなどは冷徹な野心家でおまけに芝居がかった喜劇役者だ。始末に負えませんよ全く」
「あれー……なんかおかしないか? これ……やっぱ300年くらい開きがある気するんやけど、うちの社会ノートが美術重視過ぎて、年表テキトー過ぎなだけか?(超小声)」
『……何を勘違いしておるのか知らんが』
「うひぃっ(驚)(小声)」
『別にここは地球に酷似してはいるものの、パラレルでもなければ過去でもないと言ったはずだな? そこで語られている人間達は、汝の宇宙の歴史的人物と完全には同一人物などではない。更に言えば使われている言葉も違い時代も場所も超えて広域文明圏でほぼ共通している。汝の世界では当時使っていないはずの歴史用語に相当する言葉も、こちらでは生きた言葉として使っている。地名などを除けばな。よって違うことを不思議がる必要はどこにもない』
「……それにしたって激似の人は激似なんでしょ? 歴史だって結局は檄似なんでしょ? カッさんが大王って言ってる人に相当する、地球の人が生きてた時代と全然合わないやんかって言ってるんです(超小声)」
『人間も地理も年代もあらゆる物事が凝縮された世界だぐらいに思っておけ』
「いい加減やなぁ……しかも何やねんカッ素神様……久々に何か話し掛けてきてくれたと思ったらさ。伝えたいことって、それなんかい……はーあ。ガッカリやでっ(超小声)」
『何だぁ?』
「統治領域が大幅に後退しましたが、元々私達は昔から都市国家を運営しており、原点に立ち返れという神々の意思だと受け取りました。そこで旧来の体制に戻すことを検討しましたが、人口が激減し過ぎてかつての規模では行政の維持が困難だと分かり、縮小を余儀なくされたのです。それでも世界的に見れば私達の都市が最大なのですから、いやはや神の怒りとは恐ろしいものです」
「ほんま同意です! 人口最大の真偽はともかく、神の怒りの恐ろしさには全力同意!!」
『…………』
「経緯の説明が長くなってしまいましたが屋根についての回答です。一時の権力を握った独裁者がここに華美な宮殿を造営していましたが、神の怒りで屋根が吹き飛ばされました。五月蝿ーなトゥスやその他の議会の議場も全て屋根無しにさせられました。しかもその後、仮の覆いだけでも設置しようとするたびに雷がピンポイントに落ちてきて焼き払われました。……私達はいつか神々に許される日が訪れるまでは、雨が降らない日にだけ空からの風にさらされながら会議や執務をしなければならないのだと悟ったのです」
「え、ひど! ひっど!! う~わ~。そこまですることないやんか、やり直して一生懸命頑張って、必死に生きてる人達に対してその仕打ち!? あーあーさすがにひくわ~、カッ素神様それはないわ。どんびきやで」
『…………』
「? カッ素の……神? もしやミライさん、貴女の国では5大元素そのものを神として崇めているのですか?」
「いやいやいやいや! 今のはこっちの話ですぅ!(焦) 忘れて下さい!」
「神様の名前認識違うのめんどくさっ。こんなに人類社会に干渉するんだったら、もう堂々と姿現して名乗ればえぇやん(超小声)」
『…………』
「独裁者亡き今、我々は五月蝿ーなトゥスの権威を頂点とし尊重しながらも、それ以外の諸議会から選出及び任命された13人の合議制による都市行政運営を行っています。かつては五月蝿ーなトゥス議長を兼任したり議員と兼務可能な役職もありましたが、今は全て現職で行政の高官にある者は兼職禁止となっています。この行政形態は職務職権を分掌するに留まりません。独裁者の再現を防ぐため1人の手に行政権限を集中させず、分散させているのです。我等は迅速を尊ばず、慎重を尊びます」
「さて、それでは手前から順に政務官をご紹介しましょう。元々は上下関係がある役職でしたが、現在仕事といえば各々の役割分担及び細々とした利害調整をするだけなので、全員が同等の権利を有しています。まずは婚・スルの出遅れんティアヌスと捲クレンティウス」
「出遅れるなよぉ!」
「捲くられるぞぉ!」
「次にプラ会得の仮暮らしーンと出禁ウス」
「屋根の無い仮暮らし議会と政府、最高~♪」
「偽巫女はこの都市から即刻出禁にしろ出禁に!!」
「次にアエディ栗鼠の寝ッロとペナルティー失くす」
「果報は寝て待て、命令だ!!」
「純潔を失くした巫女はどうなるかって? 即刻ペナルティーだぞ★」
「次に取り分茄子・プレーブスの空ッ空と下ッ駄」
「我々兄弟仲の良さは!」
「断金の如く断ち切れない!!」
「次に剣・剃ルのスペインニスグ逃げるとヘリオ頑張るス」
「今すぐにでも私は元属州に亡命するぞお!!」
「政治……頑張るす! b」
「次に鍬エス盗るのマクシミ盗むダイアと狩るッス」
「ダイ『ア』モンドなのかダイ『ヤ』モンドなのか……この論争は永遠の輝き!」「東方の蛮族を狩って、狩って、狩り尽くすZE!!」
「以上、12人の政務官が本日は行政運営上の議員となります」
「あ~の~! ごめんなさい! ちょっと何言ってるか分かんないし、東方の異国人の王女の頭ではとても覚えるの無理そうです!」
「無理しなくて結構ですよ義務で一通りご紹介したまでです。最後に名乗るのが遅れました。この私が13人目、今回議長を務めるプロコン・スルーの百合アンヌスと申します」
「何や知らんけど特定のコントローラー使うの意地でも避けて通ってそうな役職やな。あらためてよろしくお願いしますね百合アンヌスさん」
「こちらこそ。本来婚・スルを退任した者が外部の支配地域でこの役職につくのが基本ですが、その支配地域の多くを失っているので議長の役割に落ち着きました。可否同数で決裁に困る場合のみ投票するんです」
「ほんじゃ議長さん、そろそろ本題入ってもらってえぇですか?」
「本題とはあの異国人の偽巫女のことですね」
「そうや、まだ会わせてもらってないから分からんけど、多分その人なんや。その人を解放して下さい! 今すぐうちらで引き取りますから!」
「なりませんね」
「何でですか?」
「あの偽巫女は人一位の都市の市民を前にして自らを聖女だと公言したのです」
「せっ……聖女???」
「そうです。市民を誑かし惑わし扇動して自らを崇めさせ、体制を動揺させ転覆、その後自らが君臨しようとしたのです。それも市民ではなく、どことも知れぬ異国の者が紛れ込んで反乱を企てていたのですよ。これが他国からの指令で潜入した扇動者だったらとするならば更に恐ろしい。企みが失敗に終わったとはいえ、一体どれ程の重罪か! 貴方も王ならば、統治者ならばお分かりでしょう? カッサンドロップスさん」
「えぇ……まぁそれは……。それが濡れ衣や誤解ではなく、確かな事実であるとすればですが。重罪というのは、理解は出来ることです」
「……(ジト目)」
「えー、待って下さい(汗)。まずは最初にですね。恐らくですがその、他国の指令でという、つまり外患誘致の一種ですね。正式な市民ではないわけですから内側に入り込んでの外患罪でしょうか。その線だけはまずないでしょう。なされたとすれば単独犯の可能性が非常に高い。もちろん他国というのは貴君ら人一位の都市にとって、ですよ」
「なぜそう思われます?」
「その巫女が間違いなくこの未来の母方の祖国と同郷の友人、本人だとすれば」
「はい」
「貴君とは何度もその話題になっていますが、会議の皆さんにも事前にお伝えしている通り、その国は遥か彼方にあります。私自身も話に聞くだけで実際に見たことはありません。私達カッチドニアから見ても世界の果てと思う程に遠い、かつてのペッルシアやインドよりももっと極端に東方に進んだ先にある島国だそうです」
「あっ……インドはインドなんや(小声)」
「ましてや貴君等にとっては尚更遠い。その巫女がどうやってここに辿り着いたのか、どこぞの商船団に紛れ込んでいたのか? 隊商にでも売られそうになっていたところを逃走したのか? 事情は知りませんが、貴方がたにとって初めての接触、未知の異国人ではないですか?」
「それはどうですかね。我々の文明とは異なる文明圏の人間にしては流暢に話してますが。それこそミライさんのようにね。たまに謎の言葉を発するようですが」
(! あの子、腕輪は取り上げられてないんか?)
「しかし試しにパピルスに何枚か書かせてみると、一転して謎の文字を書きます。それも横に書いていると思えば、別のパピルスには縦に書き出したりもして、何れにせよ意味不明の文字列です。東方の言葉のような気もしますが」
「その人や!」
「が、それも怪しいものです。神の言葉だと言ってますが、自分で作った民衆惑わし用の自作言語ではないかと疑っています」
「先にその紙見せてもらえれば私と同じ国出身の人間かすぐに分かります!」
「なりません」
「何でやねん! じゃあ、私のこのノート見てよ、ってかさっきちょっとページ覗いたでしょ百合アンヌスさん! 大体同じ様な見た目の文字を書いてるかどうか、判別つくでしょ!!」
「民衆惑わし用自作言語と言いましたが国家ぐるみの作為の可能性も拭えません。それではかえって共謀の可能性が高まり、それは貴女の立場にとっても良くない」「……ケチ!」
「しかしミライさん。ここだけの話ですが」
「どこだけの話や、みんな注目して聞いてますけど」
「貴女の書いている文章らしきもの、少しばかり拝見しました。偽巫女の書いている文字と似ているようで違いましたよ」
「えっ!?」
「偽巫女の文は例え偽の文字で構成されているとしても、非常に鮮明で一文字一文字がクッキリと書かれていました。比べて貴女の文章はまるで、蛇の群れが焼け焦げて八方を向いている様子を描いた絵のようでした。筆記体だからでしょうか? 達筆ですね(笑)」
「うるっさあああああああい!!(恥) うちのは字が汚いだけや!! ちょっと何や!? 百合アンヌスさん皮肉やめーや、これも外交の一環なんかいな!?」
「これはこれは。失礼(汗)」
「未来、いいかな。彼と僕とで話を先に進めたい」
「……はぁい(不満気)」
「いいですか。その巫女が祖国の指令で反乱を起こし、仮に一時的にせよ成功したとして、その国の軍勢は乗っ取りに来れないでしょうね、あまりに遠過ぎて。航路もないとなれば陸を遥々大挙して押しかけるしかありませんが、我々諸王の領土を何事もなく通過可能だとお思いですか? そんなとこから出て来てここに殖民する為の実効支配をするなどと、到底現実的ではありません。ましてや自律殖民都市ではない本国からの遠隔支配の実現なんて完全に絵空事でしょうね」
「なるほど。しかし彼女の祖国は無理だとすると、別の国の指令という線が見えてきますがね。現にそこの王女は貴方の王家とも血縁関係にあるそうではないですか……?」
「!! 我がカッチドニアの関与をお疑いか!?」
(カッさんの妹設定、足引っ張っとるやんけ……)
「我々とて何も率先して疑いたいわけではない。しかし今、王が自ら出向いて身柄の引き渡しを求めて来ている。自国の巫女ならともかく、国民ですらないのにですよ? 貴方の国と偽巫女、何の利害関係があるのですか?」
「それはだから……たまたま妹の友人らしいので……」
「弱い。極めて弱いですね~その動機。ご自分で仰ってて苦しいことに気づいているでしょう? 一国の統治者が乗り込んで解放交渉するにはね。しかも何故だか知らないが近隣諸国の王まで一緒になって押しかけて物騒な圧力をかけてきている。何ですかこの大事は? この物々しさたるや何ですか? この状況下で我々に一片の疑念も警戒心も抱くなという方が無理というものではないですか?」
「……えぇまぁ、それは……そうですね。無理もないことでしょうが……」
「……(睨)」
「とにかく!!(汗) もう私達の問答はいいので、その巫女本人をここに連れてきて下さい。未来ならその友人が本人であるかどうか、会えば一発で分かると言っています、先の交渉はそこからです」
「そもそも全くの別人であれば、話の前提が崩れますからね。但し! 替え玉などといったつまらない真似をした場合、すぐに発覚すると思って下さい。その場合私達カッチドニアを初め、この件を私と共同する諸王をも侮辱したものと見做し、ただではおかない。そんな事態に陥らないよう互いの為に予め警告しておきたい」
「私達を脅迫するおつもりか? もし貴方がたが攻めて来るなら私達は市民総出で受けて立たざるを得ない。それが人一位の都市の、一致団結の伝統なのですから」
「どうぞご自由になさい。これは決して脅しではありませんよ。敵対が現実のものとなるかならないかは貴君等の出方次第。願わくはどうか今まで通り友好関係のままでいさせてほしいものです」
「だからそれが脅迫だと言っているのです!」
「私達はここを征服する気など毛頭ない。しかしもし仮に私達が生きて帰らなければ、王の復讐として神の怒りよりも加減することなく、徹底的に蹂躙し尽くすよう本国の待機軍に命じています。友人の緒王にもそうしてもらっています。私達は亡き大王の指揮下でその類の『作業』には慣れています、それは皆さんお聞き及びのことでしょうね?」
「むしろこちらから貴方に忠告しておきましょう。例えどんなに力の差が開いていようとも、我々は決して降伏などしませんし市民が最後の1人になっても抵抗し続けます! それが人一位の都市の誇りであり名誉なのです!! これ以上侮るようであれば我々の人間力を見せましょう」
「ご安心なさい。降伏などさせません、決して。降伏とは人間が存在するからこそ可能な行為です。人間が存在しなければ降伏することも不可能です。貴君等の誇りと名誉を守ることを今、ここに誓いましょう! 緒王方にも遵守してもらいます」
「!! ……」
「一昔前と違って案外簡単そうですよ? 何しろ人一位といってもこんなに減っているんですからね、手間が多少増えるだけ。時間もかからないし逃げ場も塞げます容易にね。包囲殲滅は得意ですから。相手が軍勢だろうと武装市民だろうと然して変わりません」
「…………」
「普段は訓練で抑えられている、血気盛んで活躍の場に飢えた若い兵達だ。やると決まれば他国人の貴君等に対して何の躊躇もありません。神の怒りなど彼らは一向に気にしませんからね。最近は戦力も大分回復してますし、再編された私の軍団の兵達に、そろそろ実戦を経験させてやりたいと思っていたところなのです。動員しましょうか」
「これは一体、どうしたことですか? 信じられません!! 双方が対等な交渉を望んでいるはずなのに、目の前の人物は応じなければ、私達をいとも容易く全滅させると言っている!! ミライさん!!」
「はいっ!?(ビクゥッ)」
「貴女はご友人を1人助けたいようですが、貴女の兄が今、長年の友好国の我々を!! ずっと友好関係を大切にしてきた我々を、平然と1人残らず皆※しにすると言っているのですよ!? 貴女はその可憐な佇まいで、ご友人1人を救う為だけに大量※戮を肯定されるのかミライさん!! これが貴女がしたかった話し合いですか!? どうなんです??? 貴女もこの状況に納得しているのですか!!」
「え……いっ……あ……あの……(汗)」
「ミライの友人を※せば友好関係も壊れるのです。当然でしょう? 妹の立場で考えてみて下さい。そんな人達と平然とミライは友人でい続けられますか? 自分の友人を※した人達と」
「※してなどいないっ!! 生きています!」
「!」
「フフフ……よろしい。交渉を打ち切る気がないのなら巫女をこの場に連れて来なさい」
「……いいでしょう。そこの衛兵。衛兵隊長を呼びなさい……(未来達から少し離れる)」
「はっ!」
「ねぇこーわーいーよーっ!(汗) 怖いてぇーちょっと! もう前から思ってたけど、カッさんの話の持ってきかたって、全部怖い!!(小声)」
「ごめんね、未来君。もっとさわやかな外交を展開するのが理想だったんだが(小声)」
「でももうこの際えぇわ。ここまで来たらな、良い方向に持ってければ! ナイスやでカッさん!(小声)」
「はいはい……(笑)」
「参りました百合アンヌス様」
「あの偽巫女を地下牢から出して、ここに呼ぶように。但し食事させて、女官らに身支度させてからだ。入浴もさせてからにするように」
「はい」
「それから今日は馬車に乗せて来なさい」
「!? しかし……」
「何だ」
「大罪人を馬車で議場に……ですか? 戦勝凱旋時における市内捕虜見せしめ等のケースはありますが、それ以外では前例が思い浮かびません」
「丸一日かかって歩かれても正直困る。ここでは今現在進行形で国際問題が起きているのだ。これは例外措置だ、馬車で連行して来なさい!」
「はっ!!」
「……カッサンドロップスさん、諸王方、ミライさん。偽巫女を呼びますが、地下牢は郊外にあって、ここまで結構な距離があるし、ご存知の通り私達は不衛生を極度に嫌う。そもそもが偽巫女でありながら、輪をかけて不浄不潔となっている者をこの神聖なる屋根無し議場に入場させるわけには参りません。よって身を清めてから来させます。暫し休会とするので、夕方頃にまた集まって下さい。軽食はご用意してありますし、市内を散策なされるなりされても結構です、どうぞご自由に」
「分かりました。お気遣い感謝致します」
◎ 第20話 月桂冠編 ◎
● 別宇宙無期滞在刑34日目の昼過ぎ ●
■ 人一位の都市の食堂 ■
▲ カッサンドロップス ▲
「休会といっても彼等は今、実質的に討議してることだろうね。想定以上に強硬な僕達に対してどういう対応すべきなのか、『偽巫女』を一体どうすればいいか、どうすれば最終的に話を上手くまとめることが可能かということを、早急にね」
「そうなん?」
「だと思うよ。もし僕が彼等の立場だったら、大体の方向性は今のうちに決めておくね。後は解決策は一本に絞ると交渉が硬直化するから、幾つか案を出しておく。軌道修正が避けられないと理解したのであればそうするのが外交だ。だからこうして時間を作ったんだよ」
「ほえぇ。そういうもんかいな」
「もし彼等が柔軟性を見せるのであれば、僕からもそのタイミングで融和的で友好的な解決案を出したいところなんだ。今後の関係修復も含めてね」
「今更いけるん? 友好的」
「むしろ今更だからさ。最初から友好的で衝突を避ける弱腰の姿勢じゃ返ってくるものも返ってこないよ」
「にゃるほど?」
「未来君も最高神ととんでもない激論を交わして渡り合っていたじゃない」
「いや渡り合ったっていうか(汗) 最初のカッさん家ん時の神命のことやろ?」
「うん。あの光景は脳裏に焼きついてて昨日のことのように忘れられないよ。あの夜の未来君の勇ましい姿だけはね。男勝りを通り越して神勝りだよ」
「はずいって。それに別にカッ素神様、結局折れてないからなあん時。交渉自体却下されてるもん」
『…………』
「でもここに戻ってくるのも最高神と未来君が交渉した末にって話だもんね?」
「せやで! ……あのさカッさん、ここの宇宙の最高神の名前なんやけど」
「うん?」
「それぞれの地域で呼び名ちゃうみたいやけど、別にもう『カッ素神様』って呼んでえぇと思うで? 特に禁止してないみたいなんや。それにもうカッさんは知ってるんやから」
『…………』
「いや……それは君には最高神がそう名乗ってそう呼ぶように言っているんだろうから問題ないだろうけど、僕にとっては問題があり危険だ。止めておくよ」
「何で? カッ素神様、許可してくれはると思うで?」
「『許可』ではなく『命令』が必要なんだよ。君と違ってこの世界の住人にはね」
「そうなん?」
「神託による命令があれば従うし、或いはあの女神を捕まえにきた別世界の最高神のように、自ら現れて名乗りそう呼ぶように命ぜられれば別だが。そうでなければ勝手に人間が従前の呼び名を変えては、神の怒りに触れる」
「十ゼロで怒られるって? まぁ確かにカッ素神様怒りっぽいけども」
「たとえそれまでの呼び名が間違った名なのだとしてもね」
「言いたかないけど、その大前提の神託が全部人間の自己都合のパチモンなんちゃうんかって話。だからカッ素神様は怒ってはるんやろ」
『…………』
「そうかもね」
「そうなんやって」
「それでも神託か神命があるまでは変えない。それがこの世界の全人類が守るべき正統な掟であり規範であり社会慣習であり伝統なのさ」
「保守的やな~」
「亡き大王のように革新的な方が極めて珍しいんだ。とにかく君のように別世界の人間には例外的に許されていることであっても、僕達にも同じ様に許されるとは限らない。だから遠慮しておくよ」
「まぁ別にえぇけどさ」
「さて話を戻すけど、僕からの融和的解決案を出す場合なんだけどね」
「うん」
「これはディア・ドッコイの諸王にも関係していることなんだけど。恐らくだが偽巫女自身、つまり君の友人はあの百合アンヌスの話が本当であれば、交渉目的ではあるが交渉材料にはなりそうもない」
「? まぁ牢屋にいるんやからそうやろな」
「そこで心苦しいんだが、未来君に物理的にお願いしたいことがある」
「!! ……カッさん、まさか……!?(驚)」
「ん?」
「うちに……うちに物理的に『一肌脱げ』って言いたいんかぁーっ!!(恥)」
「……うん、あの……正しく訳されてるみたいだから言うけど、比喩的表現としてはそうだね。変な誤解はなしでお願いしたいよ」
「サイテー!! 信じてたのにカッさんがそんな人だったなんてっ(笑)」
「はいはい、いいからいいから(笑)」
「あの……」
「お話が大変盛り上がっているところ失礼。もし勘違いでなければ、東方の異国の高貴な出自の御方とお見受けしますが?」
「? はい、私? えーとまぁ。そうですよ(照) 旅行で滞在してます」
「おぉこれは珍しい、感激だ! やはり私の目に狂いはなかった。はじめまして。私、桂冠吟遊詩人の鐘ギリッ打つと申します」
「!!!!!」
「ミライです! 吟遊詩人さんですか」
「そうですよ。もっともただの詩人ではありません。私の頭上に控えめに添えてあるこの月桂冠を御覧なさい」
「? ゲッケーカン? えーと、何やアレですか? お酒の銘柄?」
「??? 何という驚きだ、これは失礼!! いや私の方が悪いのです、説明不足です。まさか月桂冠をご存知ないとは思いもよらず」
「もしかしてその木の枝のこと言うてはるんですか?」
「……(青)」
「正しくその通り」
「政治家の人達も被ってますよねそれ」
「そうですね。但し統治者達がこれを被るのはですね、王冠を被らない。即ち自分は国王になるつもりはない、市民の第一人者であり選良に過ぎないという意思の表明です。あるいは民衆の評判やら議会対策のために、既に専制君主や独裁者でありながらパフォーマンスで被るケースもありますがね。しかしながら、私のこの月桂冠はそれらとはまた違う意味を持つのです」
「ほえ~。何かまたややこしい理屈がありそう」
「未来君、それもう飲んだ?」
「え? うん」
「そのパン口に咥えて」
「へ? なになになに?」
「これも何かのご縁。異国の高貴な御方の為であればこそ、この私が特別に!! 直々に解説致しましょう、滅多にないことです」
「ちょ、カッさん??(肩に担がれる)(困惑)」
「これは私が競一位の都市における詩作競技大会において優勝を飾った輝かしい栄光の証として授与されたものであり、これぞまさしく象徴という抽象的表現を通り越した栄冠なるものの具現化そのもの……あれ?」
「ぅぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
■ 人一位の都市の市場 ■
「ちょっとなんなんカッさん!! 私まだ食べてたんだけど!!(憤慨)」
「ごめんごめん! でも結構食べてたよね未来君、もういいんじゃない(汗)」
「よくない! 腹が減っては戦ならぬ交渉出来ぬでしょっ!!」
「交渉は僕がするからさ……。どうしても急いであの場を離れたくて、つい強行手段に走ってしまったんだ(汗)」
「急にどーしたの。話してる途中で退席しちゃって、失礼しちゃったやん」
「嫌だったんだ彼と話を続けさせるのが」
「あの詩人さん? 知り合い?」
「会ったことはあると言えばあるよ1度だけ競一位でね。向こうが覚えてるかどうかは知らないけど」
「こんな強引に中断させる程の何がそんなに嫌なわけ」
「彼によって僕は徹底的にトラウマを植え付けられ、思い立っていた諸国吟遊を中止することにしたんだ」
「じゃあ何でまだ吟遊詩人名乗っとんねん自分、もうこのツッコミ何回目か分からへんで?」
「そしてあの話の流れだと、きっと彼はあの場で詩を披露するに違いないんだ」
「へー?」
「そして彼は周囲の人達から大絶賛を浴びながら、一通り詩人らしく『謙虚』に『自慢』した後、次に僕に発表の番を回してくるとこまで先が読めた。だからもう今の内に逃げたのさ」
「そんなあんさんなぁ……じゃあ何? うちはまだカッさんの詩を聴けないわけ? こんなん絶好の機会やん、王として来てるのに要らん楽器まで持ってきて自分。またお預けなん?」
「詩う気持ちはあるんだよ、気持ちはね。要らん楽器とか言わないでよ」
「一体いつまでうちはそのお気持ちだけ表明され続けるんや(笑)」
◎ 第21話 過っ疎編5 ◎
● 別宇宙無期滞在刑34日目の夕方 ●
■ 人一位の都市の政務会議場 ■
△ 大昨夏未来 △
「……?」
「ちはやちゃん!!(大きめの声)」
「!?」
「だよね(超小声)」
「……あなた、誰?(未来の腕輪と顔を交互に見る)」
「ぃっ!!(焦)」
「なんで私の本当の名前、知ってるの?」
「んん? これはどうしたことか? お二人は友人関係であると伺いましたが」
「違うんや百合アンヌスさん!! こ……これや! うちの、これ、この格好!! カッさん家の借り物の服やから分かりにくいんや、文化がちゃうんや!! 故郷の見慣れた服じゃないせいや」
「服で友人の顔を忘れるものですかねぇ?」
「それだけじゃない! 女は衣装、メイク、髪型でまるで別人なるんやで!! オシャレで印象変わり過ぎるんやからな!! それにめっちゃ会うの久しぶりやし、話しながら思い出してもらわないとあかん!!(滝汗)」
「そうなのでしょうかねぇ、ご友人のこの反応。相当貴女に対してピンときてないご様子ですよ……?」
「ちはやちゃん! 神主さんにあれから色々、事情聞いたよ!」
「!」
「ほら覚えてるでしょ巫女さん! 私のこと! あの神社に不良が来て暴れるから一緒に隠れて撮影して……」
「!!!!!」
「あなた……あの時の……」
「思い出した?」
「……(頷)」
「ほら百合アンヌスさん、ピンときたみたいやで!」
「そうですか? 果たして自国の王女が訪れている割にはご友人、感激が薄いようですが」
「まだ呆然としてるだけや! ちはやちゃん! 助けに来たよ!」
「う、そ……」
「嘘じゃないよ! ここの最高神の神様に、神命で課題を与えられてるよね?」
「! ……(頷)」
「私が一緒に神命していいって神様に許可もらったんや。だから一緒に課題内容をこなして、それから日本に帰ろう! ねっ」
「…………」
「あの、突然のことやし、まだ混乱してると思うけど」
「信じられない」
「えっ?(汗)」
「あなたは何でここにいるの? どうやってここに来れてるの?」
「詳しいことは後で話そ思ててん、事情が込み入ってるさかいな! 簡単に言うと私もここの神様に神命を与えられたんやで。ちはやちゃんと同じ状態やったんや」「っ!!(目を見開く)」
「うちの神命はもう完了しとる。せやけど、本物の巫女のちはやちゃんがここにいるって噂が耳に入ったんや。うちも天性の素質(嘘)あるから神様の声聞けるし、ちはやちゃんの手伝いも出来るはず! そう思い立ってここに来たんや!」
「…………」
「こっから外に出よう。そんでそれからあらためて神命に取り組んで、神様に認めてもらおう。そんで一緒に家に帰ろ!」
「…………」
「ね?」
「…………」
「大変畏れ多いことながら、カッ素神様(自分の左腕のブレスレットを右手で触る)」
「!!」
「!?」
「!」
「神と人との契約違反を承知の上で、私から伺い申し上げます。今、私の目の前にいる、この人物が発言していることは、事実なのでしょうか?」
「ち……ちはやちゃん……」
『……真のことだ』
「!!」
「!!!!(ビクッ!!)」
『手短に経緯を伝えるぞ。汝の目の前にいるその人物、【未来】は、汝と同罪で転送神罰を受け、別の地で神命を完遂し、我に赦され、一旦は故郷に帰った』
「!?」
『しかしその後、汝も神罰を受ける身であり、完遂する見込みが無いと知って、神命の共同を申し出た。我が許可したが故、その小娘はこの宇宙に戻って来たのだ』
「…………」
『よって神命課題に共に取り組んでもよい。我が承認しておる。以上だ』
「…………」
「せやって。納得した? 今の神様の声、私達2人にしか聞こえてないよね、明らかに。さすがに信じてもらえる?」
「……あなたって、誰?」
「ズコーッ!!(滑)」
「いやいやいやいやここに来てそれはない!! 思わず己で擬音まで言うてしもたがな変なリアクションさせんといて恥ずかしい!!」
「……暫く黙って聞いていましたが、どうやらご友人の方は、貴女の名前すらご存じないご様子ですね」
「いや待っ」
「ミライさん」
「!」
「!?」
「!!」
「多分、漢字で書けば将来とか時間の先のことを表す、未来さん」
「せや! せやで! ほらな、うち再会してから言うてへんからね! 事前に指示された通り、うちからは一切名乗ってへんよ百合アンヌスさん! 政治家の皆さん方も、そうですよね! ずっとそこで注意しながら見て聞いてましたよね!」
「理解出来ない」
「え」
「あなた、助かったんでしょ?」
「!」
「?」
「…………」
「だって? あなたもう家に帰れたんでしょ? 自分の神罰って?? 終わったんでしょ???」
「ち、ちはやちゃんっ(焦)」
「神罰……?(怪訝)」
「……(汗)」
「なんでまだ、あなたは、ここにいるわけ???」
「助けに来たんだよ!!」
「!?!?!?」
「ちはやちゃんが、あん時うちを助けてくれた巫女さんがまだ帰って来てないって聞いたから、課題手伝いに来たんだよ分かるでしょ!」
「…………」
「何回も言ってるやん!! もうさすがに分かってほしい、きっと急な展開やと思うし、頭が混乱してるの分かる、それはじゅうぶん分かるで。分かるけどそろそろ混乱収まってほしい、みんなほら、こうして話の成り行きを見守ってるんやで! お願いや、信じてほしいで。このままじゃ話が先に進まへんねん!! 頼むわ! この通りっ!(拝)」
「……混乱……じゃ、ない」
「?」
「困、惑、……こ……れわ゛っ!」
「!」
「……この……感情、わっ?! ちがう……こ、れ゛わ゛ぁっ……困わァぐっ! 困惑って……言う、の。よ゛……っ! っ! っ! っ! っ!!」
「……いや似たようなもん、やって えぇっ!?(いきなり抱き着かれる)」
「(号泣で言語不明瞭)」
「ちはや、ちゃんっ……」
◎ 第22話 過っ疎編6 ◎
● 別宇宙無期滞在刑34日目の夜 ●
■ 人一位の都市の政務会議場 ■
△ 大昨夏未来 △
「篝火を焚け! 議場を明るく照らすのだ!」
「はっ!!」
「屋根が無いのに夜も会議すんのマジか」
「まぁこれは緊急案件だろうからね」
「あ。百合アンヌスさん達、戻って来た」
「隊長、男神像の撤去と女神像の移動は?」
「はい。作業完了しております」
「よし、後は閉会まで火を絶やさないでくれ」
「我等にお任せを」
「うむ。……会議の皆さん! 客人方! 五月蝿ーなトゥスで審議が終了し、重大な声明が届きました。お集まり下さい! ご静聴願います!」
「ウルッセーナトゥスて何やっけカッさん?(小声)」
「元老院(小声)」
「ゲンローインて?(小声)」
「僕もよく知らないけど、お偉方が集まって制度やら予算やらの可否を決定する、この都市で一番権威が上の議会らしい(小声)」
「そんじゃ、ここの人達より上ってことかいな(小声)」
「そうみたいだね(小声)」
「私百合アンヌスは当会議の議長として先程まで、様々な事情変更があったことを中間報告致しました。彼等の結論ですが当会議への本件の一任、そして私達への信頼は一切変わらず!(歓声)(拍手)」
「声明を読み上げます! 『本事案の職掌は最高神祇官職廃止以降、政務会議全体が職責を引き継いでいることを再確認する。私達五月蝿ーなトゥス議員一同は、依然として我等の手元にある神格化権限及び名誉授与剥奪権限を除外していることに大いに満足しており、諸政務官側にある暫定的祭祀関連権限の返上を現時点で要求しない。但し無条件ではない。上述の決定は諸議会への祭祀権限の全部及び一部譲渡を含まず、それら政務会議の逸脱越権、諸議会の不当干渉を決して容認するものではないことに注意せよ。私達が認可した職権の範囲内に限り、どのような結論に至ろうとも、私達はそちらの決議を全面的に支持することを再決議するものである』とのことです!!(歓声)(拍手)」
「…………」
「今の話ってさ、つまりどういうこっちゃカッさん。要約頼んでえぇ?」
「つまり別のとこでやってた『議会』の結論が出た。それはここの『会議』で出た結論に全部従うよって話さ」
「……は~あ???」
「二度手間やん!! え、なにー? そのためにうちらずっと待ってたの今の時間!? まだ夕食も食べてないのに!?」
「いやもう大丈夫でしょ、昼過ぎであんな食べてたんだからさ。じゅうぶんでしょ(呆)」
「議論長引きすぎてお腹すいた!! お腹と背中がくっつくてこれ!! カッさんがうちの食事、切り上げさせたせいやわ!!(怒)」
「そんな(汗)」
「ちはやちゃんは大丈夫?」
「え……?」
「お腹すいてない?」
「えぇ……。大丈夫です。地下牢を出た後、軽く頂いたから……」
「うちも軽食食べたけど軽食があまりにも軽いんや。あん時カッさんが腹ごしらえに1つ詩でも歌ってくれればそのあいだも食べれたんや」
「軽くてもいいから軽食って言うんだよ」
「てゆーかさ、何や? 市長さん的な人おらんのここって? 市長が全部、独断と偏見で『解放する』って決めればすぐ済む話やんかこれ」
「ぶっ!(吹) ケホッケホッケホッ……(咳き込む)」
「だいじょぶ?」
「うん……。未来君、今の台詞は僕じゃなくてさ、あの百合アンヌスに聞かせてあげた方がいいよ(笑)」
「へ? 何で?」
「彼はあぁ見えてかなり君に好意的と見えるからね」
「え……そうかなぁ?(汗)」
「フンッ! そうだよあの感じ。話してるうちに君の魅力に気付いたんだね、気に食わない奴だが見る目はあるようだ。だからきっと彼も喜んで泣き出すよ。昼間のこの都市の歴史語り、現在の政治形態の懇切丁寧な解説、反独裁政治についての熱意。最初は僕に対する嫌味だったが、段々と君に向かって熱心に話してたろ?」
「え。え、そーお?(照)」
「うん。そのせっかくの解説の内容が、全部君の右耳から左耳へと通過してって、少しも頭の中に残っていないことを知れば、かなり愕然として奴も心に来るものがあるはずさ」
「カッさん? 今夜はうち、カッさんと一緒に過ごさないことに決めた」
「ちょっ!? みみみ未来君!! 何だい急にっ(滝汗)」
「いやだってその予定やもん。今夜はうちが千早ちゃんと一緒にいてあげないと」「…………」
「あぁ! そうか、それはそうだね。同郷同士2人にしてあげた方がいい、まだまだ不安だろうからね。僕や兵達も全力で配慮しよう。但し!」
「?」
「それは彼女の即時解放が決まればの話。そうだろう? 百合アンヌスさん」
「その通りですよカッサンドロップスさん。とはいえ1つだけ安心材料を貴方と、何よりミライさんに提示したい」
「安心? 何ですの?」
「解放時期を先延ばしにしないと宣言しましょう。即ち解放すると決定すれば彼女は即刻解放、即時貴方がたに引き渡します。解放しないと決定すれば彼女を即刻地下牢に戻し、生涯をそこで終えさせます。2度目の審議もありません」
「!」
「!!(ビクッ)(未来の後ろに縋る千早)」
「…………」
「何日後だとか何年後に解放する、これは選択肢としてありませんのでご安心を。何故なら私達も多くの政治課題を抱えています。この問題を早く終わりにしたいからです。特にミライさんはしびれを切らしていそうだ、これは朗報でしょう?」
「んーまぁそうですね! 話が良い方に行くんならってとこやけど」
「そうですね……では議事再開と致しますか」
「……フン」
「カッさん、うちいつのタイミングで? もうこれ、行った方がえぇんとちゃうの?(小声)」
「いいや、今行くのは逆に良くないよ。というか今が最悪のタイミングだ。狙いがあからさま過ぎて態度の硬直化を招く。言っただろう? 解放が可決か否決されてからでいいって(小声)」
「でも延期も2度目の審議もないって宣言してるんだよ!? 否決されたら手遅れやん!(小声)」
「それは詰まるところ彼らの内側だけで通用する規則、僕の知ったことじゃない。2度目の審議を『させる』さ。否決されたらね。素直に可決されればそれに越したことはない。今は採決とやらを拝見するとしよう(小声)」
「定足数を確認するまでもなく全員出席していますね。それでは政務官諸氏! 『偽巫女』あらため『自称巫女』の解放について決を採ります! 解放を是とされる者はユー拒否、上ヌス、嶺ルバの各女神像側の席へ! 解放を非とする者、日アーナ、帰レース、上スタ各女神像側へ! 各自ご移動されよ!!」
「……え?」
「動きにぶっ! 何やここに来てまで動き鈍いなオッサンら」
「彼らも慎重の上にも慎重を期しているのですよミライさん。それに普段にはない緊張もあることでしょう。何せ友好諸国の国王で構成される圧力外交団の視線を受けながらの採決など、前代未聞の事態ですからね」
「フフ……」
「ねぇこれってこっからどうなんの百合アンヌスさん? 真ん中の人達も動いて、全員がどっちかの席についたら、その時点の多数決で決定?」
「いいえ、そうとも限りません。何故なら議論によって反対側により優れた演説や意見があるのを耳にしてそれをもっともだと感じ、更に自分にはそれを超える対抗意見や論理を構築出来ないと感じた場合、立場を変える可能性もあるからです」
「えっ? だってもう投票するんでしょ? 議論終わったんじゃないの?」
「採決しながら議論もしていいのですよ」
「えー? そういうもんだっけ議会って? たらたらし過ぎとちゃうん」
「議会ではありません。会議です。さて、まだ移動と議論に時間がかかりそうなので、ミライさんの為に細かい点は省いて簡単に仕組みを解説しましょうか?」
「それすごい助かるわ、簡単でお願い!」
「それでは煩雑な細則などは大胆に無視、簡略化して、これだけ押えておけばいい大枠をお教えします。まず基本として全会一致ならそこで成立します。とはいえ一部修正を要する決議事項の場合、そこから話し合いが続くこともありますが。全員が一致しない場合は比較的採決が早く終わるケースもあれば、なかなか終わらないケースもあります。原則としては、議場全体で有意義な演説や発言が続き、単なる議事妨害ではないと議長が判断する限り続けさせます。討論がなくなり、特に少数意見側の発言がなくなって、もはや席を変える者も出そうになくなった際に、議長判断でその時点を最終採決とし、多数派の案を決定します。昼に説明した通り、可否同数の場合は例外的に議長、つまり私が採決に加わり多数派を決します。しかしそれは止むを得ずの決定方法であって、決して望ましい事態ではありません。……ここまでは基本的には五月蝿ーなトゥスを始めとする諸議会の方式に準拠したものですが、違いとしては審議未了の廃案や期日の延期をほぼ排している点です。私達の管轄は立法以外の全ての行政、いえ細かく言えば予算、決算、宣戦布告、属州統治等に関し諸議会と重複する部分もありますが、端的に言えば行政全てです。即ち内治、通貨発行、財政、外交、司法(行政に含まれる)、祭祀、国防、治安維持などの実体のある統治行為です。具体的な物事を決められない、では済まされません。独裁者の迅速さを望む声を抑えるために、慎重ながらも決める政治運営を実現しなければならないのです。分かりますかミライさん? この理想と現実の葛藤の渦中にある我々の……? ミライさん?」
「……百合アンヌスさん……ごめんなさいうち、ちょっと信じられへんこと言っていいですか……?」
「何でしょう?」
「カッさんとちはやちゃんもお願いやから引かないで聞いてほしいんやけどな……肝心要なこの時にな……うち今、眠なってん」
「…………」
「…………」
「…………」
「お腹すいてるしそんなに眠くなかったはずやのに……耐え切れん……もう限界やわこれ、早く決めてくれないと……このままやと……寝落ちしてまう……」
「ミライさん、後少しの辛抱です。御覧なさい、賛否不明は残り1人ですよ」
「いつの間に。ならまだ頑張るわ!」
「狩るッス! もうじゅうぶんに議論は尽くされたはずだ! 自称巫女の解放は是なのか非なのか!」
「あ、あぁ……」
「是、捲クレンティウス、出禁ウス、寝ッロ、下ッ駄、ヘリオ頑張るスの計5人!!」
「非、出遅れんティアヌス、仮暮らしーン、ペナルティー失くす、空ッ空、スペインニスグ逃げる、マクシミ盗むダイアの計6人!!」
「ちょっと待ってくれ議長!!」
「何だ? 出禁ウス。席を替えるのか?」
「違う。他の4人と異なり私の是というのは無条件ではない。あくまで優先的な付帯条項付きでの賛成だ! そこの偽巫女と身元引受人の王が条件を飲むならば解放してもいい」
「付帯条項だと? 中身は?」
「今、下書きしたものを皆に見せていたところだ。読み上げる!」
「1、偽巫女の解放が決まれば人一位の都市を可及的速やかに国外退去すること。2、出国後の彼女の再入国は我等の支配領域、属領を含め永久に禁止されること。3、これらの条件がそちら側から一方的に反故にされるならば、我々も正当な対抗措置として当決議本文を破棄し、再び彼女を処罰することを宣言する。4、再処罰の際、彼女の身柄がそちら側にあれば引渡し要求には即時応ずること。5、再処罰がなされるならばそちら側は刑の内容がどうであれ、いかなる異議をも唱えないこと。以上、5項目の内容を偽巫女と身元引受人は事前に同意すること」
「彼女に選択肢はない。カッサンドロップスさんに保証して頂けるかだ、どうですか?」
「あぁーそうだな……。今の話……別に悪くないと思うが。えーと、2だったか? ちょっと確認なんだがいいかな? 支配領域、属領を含めって話だが、そちらの属領残存部が飛び地になってて、私達にとっては陸路迂回困難な地域がある。他にも街道や関所なんかがそちらの支配下にある地点が要所要所に点在しているだろう。まさかとは思うがここを出た後、私の国までの帰路でそこを通過した途端にいちいち『偽巫女が領域に入った、決議違反じゃないか』と咎められたら、こちらとしてはどうしようもないんだが」
「貴方がたは外交で来られた。街道、関所の往来通過は当然ながら認められる」
「第2項は文言を修正すべきだ出禁ウス、彼女の『出国後』ではなく身元引受人の王が連れて行った先の領域に完全に入ってから後、つまり『帰国後』に、とすべきだろう」
「うむ」
「彼女の本当の『出身国』がどこなのかも、その後の処遇も私達には無関係です。カッチドニアでご自由にされればよろしい、こちらに再入国さえしなければ」
「ならば何の問題もない。私が出国する際に彼女も一緒に立ち去らせ、その光景を君達に目視確認してもらえばいいんだろう。別に私も今回これ以上の長居をする気はない。そして帰国後、二度とこの都市の土を彼女に踏ませないことも我が国の責任を持って約束しよう。見届け人であるこちらの諸王達も見てる前の言質だ、確約だと思ってくれていい」
「よろしい。出禁ウス、今の話と修正で納得したか?」
「OKだ!」
「他の4人、今の内容を決議書に盛り込んでも問題ないな? 合意であればいよいよ最終段階に進もう」
「(キョロキョロ)」
「どうしたんだい未来君?(小声)」
「『解放されたら誰が二度とここに入りたがるんや頼まれても断るわ自意識過剰か』って盛大に突っ込んだら事態が悪化するんやろなあカッさん?(超小声)」
「万が一にも彼らに拾われたら不味いから小声でもそういうこと言うのやめとこうか未来君(超小声)」
「さぁ、狩るッス。今のやりとりを踏まえて、君の是非を鮮明にしてもらいたい」「あ、あぁ……だが……百合アンヌス」
「だが?」
「議論も出尽くしているし……非の場合……私が……仮に非の場合、仮にだぞ? 非が非が非が7人になる。解放が非で過半数だがそこで採決する気か議長?(机をカリカリカリカリカリ)」
「他に席移動がないようであればな」
「非の場合……非の場合だぞ……非の場合、非とするならば我が国の安全保障……いやこの際言葉を濁さずに言えばだ。非ならば誇り高き我が国の存亡はどうなる? 我が友カッサンドロス……(机をカリカリカリカリカリカリカリカリ)」
「…………」
「狩るッス、議長として注意する。先程の決議文は当事国の保証を要する事柄故、彼に同意の確認を行った。しかし採決自体に関しては傍聴人は単なる見学者だ、部外者に意見を求めてはならない。彼等彼女等を証人や参考人として質問する時間は事前にじゅうぶんに設けたはずだ。君は彼に質問をしなかった。そしてもはやその段階は過ぎたのだ」
「だが……我が都市は断固として屈してはならない……決して外圧には屈しない……そうだろ百合アンヌス? 賛否をどうすれば」
「貴方の一票だ。私にはどうこう指示する権限はない。自分で決めなさい。それとも棄権するか?」
「!」
「棄権の場合は意思表示として退席すること。控えにいる鍬エス盗る次席筆頭の者が繰り上がる」
「だがそれじゃあ! 職責放棄で俺は剣とおりゃあ民会に弾劾され失職してしまう可能性が高いんだ!! 俺の華麗なる出世の職歴が止まってしまう!! 五月蝿ーなトゥス議員になる道も閉ざされてしまうではないか!!」
「それは剣とおりゃあ民会の判断次第だ。政務会議が関与出来る話ではない」
「非ではない(是側の席に行きかける)」
「!」
「非であります(戻って非側の席に行きかける)」
「?」
「非である、非である時、非であればこそ、非であれ(中央付近に戻って机をカリカリカリカリ)」
「あああああああああああもおおおおおおおおおおおおおお!!!!!(怒)」
「眠いっちゅーにどんだけ優柔不断なんや自分そろそろ大概にしときや!!!!!(怒)(ツカツカと篝火の近くに行く)」
「ちょ未来君! 待って!! 良くないよ!!(汗)」
「止めんといてカッさん! 我慢も眠気も忍耐も全部が限界や!!」
「ミライさん駄目ですよ! 待ちなさいっ!! 傍聴席に戻りなさい!(汗)」
「ちょっとえぇですか!! あんさんだけじゃなくて政治家さんら全員な、耳かっぽじってよく聞きぃや!! うちの機嫌をこれ以上損ねない方が賢明やで??? えぇか? 今この炎のすぐ隣にある、うちの鞄にはな――」
『――――』
「!」
「うあああああああああ!! かかかかかか雷だあああああああ!!!(怖)」
「こ……これは……どこまでも雲ひとつないこの星空で、落雷……」
「神の怒りだっ!! あの色合いを見たか!? 最高神の雷だ、目に焼きついてる……!! 自然じゃない、天候じゃない!! 神の作為だ!!」
「尖塔が見えなくなったぞ!! 多分あの廃墟の尖塔に落ちたんだ、唯一残ってたあの聖堂が崩されたんだ……!!」
「この感じ間違いない! これは神判だ!! それも警告形式の! このままだと次は……最高神の警告だ……!!」
「狩るッスさん」
「ひいいぃっ!(ビクゥッ) 御赦しを!! 私は決してこの事態の主導者などではありません!!」
「……それで? どないしはるんですか?」
「!! 是! 是! 是! 解放を是ですぅ!!(是側の席に身を屈めて走る)」
「これで6対6」
「!」
「半々なったな? 百合アンヌスさん」
「…………(微笑)」
「いや、我々も」
「!! ペナルティー失くす! 制止するわけではないが、移動しないでくれないか!」
「だ、だが百合アンヌス、このままでは(困)」
「他の非側の諸君もだ! 一度落ち着け! 私に強制する権限はないが、頼む!! 今の席を替えないでほしい、是の席にゾロゾロ走り出すのはやめてくれ!!」
「今回の事態は例外中の例外だ。怯えあがって今更全会一致になったのでは、政務会議全体が自ら尊厳や品位を損なうことになる! 五月蝿ーなトゥスや市民からの信頼も失われる!!」
「神の威しに屈したのは、私1人だけだった(静かに非側の席に掛ける)」
「!!(驚)」
「五月蝿ーなトゥスや諸議会にそのように報告してもらって構わない。私は本決議案の可決をもって、プロコン・スルー及び議長職を辞することとする。どうか全員これで場を収めて頂きたい。……以上。これにて閉会」
◎ 第23話 ちっさ編 ◎
◇ 第十二宇宙共通罪神矯正機関、中級女神用監獄 ◇
△ ヘーベー中級女神 △
「…………」
「女神の部屋に男神が無断で忍び込むなんて許されると思ってるの? 盛るべウ素、パン頼素、行けロ素」
「ちぇっ……何ヨ、気づかれてたノ」
「ちっさ! 相変わらずちっさいわねぇ~あんた達」
「チョット! その言い方は語弊あるわヨ何か色々、良くないワァ。『何て可愛らしい!』 ぐらいの童話的褒め方で気分良く挨拶出来ないワケぇ?」
「はー。気配も消して、バレてないと思ったんだけどォー」
「でもォ。ほぉんとは来てほしかったんでしょォ? め・ん・か・い・に!」
「冗談キツいのはその口調だけにしてよ。申請もしないで第十二宇宙、共通空間、矯正機関、独房と四重も侵入しておいて、面会ですって? 【派手素神】様は一体どんな教育してるのかしら(呆)」
「嘘でしょチョット!? 他神の侵入を責めるとか、一体全体どの口が言ってるノヨ」
「呆れるのはこっち側なんだから。ネー!」
「あとちょっと勘違いしてるワネ、アンタ」
「勘違い?」
「この監獄に侵入したのは事実。でも第十二宇宙のこの共通空間には正規の外交手続き踏んで来てるのヨ!」
「あんた達が? 何の用で」
「派手素神様と【顔素神】様が外遊でここの施設の見学に来てるノヨ!」
「はあ!?(驚) 聞いてないわよそんな予定!?」
「私達は派手素神様の随行員ってワ・ケ」
「ま、暇なんだけどネ。下っ端だし仕事ないシィー」
「配下に中級神、下級神を大量に引き連れてるっていう派手素神様の見栄で連れて来られてるだけ。カナシー」
「いや、映えかシラ」
「見栄え重視って言った方がいーイィ?」
「うるさい全部同じよ!! それよりも外遊ですって? まさかオリュンポ素神様の代理が応接していらっしゃるの?」
「いやいや代理にそんな大役勤まるわけないじゃないノ。【ティターン素神】様ヨ!!」
「!」
「各機関、各機構を案内して回ってるワ・ケ」
「主神じゃないと対応出来ない二神だからねしょうがないネ」
「ネェネェそれよりサ、ヘーベー。酒の女神なのに客神に酒を振舞ってくれないワケー? 」
「なーにが客神……ここは監獄なのよ。あんた達こそ差し入れする方でしょ」
「どうせ監獄だの矯正機関だの名ばかりで、男神どもを部屋に連れ込んで色々お楽しみにやってんデショー?」
「今よ! 今現在進行形で男神が部屋に入り込んでんのよ、このノンデリども!!(怒)」
「私達の不満も聞いてチョウダイ! 【派ー手ー素宇宙】の酒はどこに行っても全部が全部クソ不味過ぎるノヨ!!」
「そーヨそーヨそーなのヨ!!」
「だからってアンタんところの麦価素神の正規輸入酒なんて、悪酔いするだけが取り柄でマジでしょーもないワ。全部が不味いところに並の品を持ってきて、バカ舌の下級神界隈で有難がってるダァ~ケ!」
「ま、そりゃそうでしょうね! 何せ今のオリュンポ素神様の先代の頃から、既に宇宙間全面輸出禁止だからね私の極上酒は。外交の席上、主賓でようやく贈呈されるわけ。主神クラスじゃないと飲む機会はほぼ皆無。派手素神様はきっと、あなた達には麦価素程度の下級神が大量生産する粗製乱造品でじゅうぶんって判断なさってるのよ」
「ひどいハナシ!」
「あんまりヨっ!!」
「たまには私達だってェ、あんたの特別な酒が飲みたいのヘーベー! ネッ! 頼むワ!!」
「しょうがないわね……。そんじゃ、あんた達お姉ロ素三神組の特殊な力を見込んで、それぞれに頼みごとしたいことがあるの。それをこなしてくれたらね♪」
「チョット!」
「その括り方ヤメテちょ~だいって前から言ってるでっショ!」
「じゃあもう、普通にノンデリ三兄弟ね」
「イヤ!」
◎ 第24話 カッさん編7 ◎
● 別宇宙無期滞在刑34日目の深夜 ●
■ 人一位の都市の酒場 ■
▲ カッサンドロップス ▲
「……?」
「店主、この店で一番キツいのをくれないか」
「この店で一番キツいってことはこの都市で一番度数が高いってことになりますがお客さん大丈夫ですか?」
「それは嬉しい、頼むよ」
「了解」
「大丈夫なのかカッサンドロス」
「大丈夫かだと? 誰に向かって言っている? プトレーマイ推ス。あの大王ですらついに負けを認めざるを得なかった僕の酒の強さを忘れたか」
「忘れてはいないが、お前可及的速やかに帰国の途につかなきゃならんのだろう。明日の朝起きれるんだろうな?」
「問題ない。お前はすぐに飲みに行ったが、僕はあの後少し百合アンヌスと細部を詰めたんだ」
「ほぉ? ずいぶん急いでるな、もうこんな夜になってるっていうのに」
「太いパイプ役がいるうちに交渉作業を完了させたかったんだ。何せ百合アンヌスが政治家として主導権を発揮出来るのは今日限り。明日にはもうやつは政治生命を絶たれて、失脚と引退が決まってるわけだからね」
「潔くも有能な外交政治家を失ったもんだな人一位は。だがここの政治に度量があれば、彼に復帰の可能性も残されているだろう」
「果たしてそれはどうかな? ここがいくら寛容だといっても、名誉を何よりも重んじるのが建前だ。安全よりも実利よりもね」
「どうぞ」
「ありがとう(グビッ)」
「慌しく出て行かなければあの自称巫女がまた捕縛されるとか、そういう話ではないことは確認済みだ。彼等にしてもようやく落着した問題を再浮上させたくはないんだ」
「それはそうだろうな」
「どうやら穏便に出国出来そうだよ」
「彼女達の様子はどうだ」
「未来は心配ない。疲労と空腹で眠気が限界突破しただけだ」
「疲労は分かるが空腹で普通、眠くなるものかね」
「もうベッドに辿り着く前から爆睡するもんだからまた担いだよ。自称巫女も同室で寝させた」
「お前、『最終最後は自分が命をかけて妹を護るしかないんだ』ってあんなに息巻いてたろ。常時近くにいてあげなくていいのか?(笑)」
「そうしたいのはやまやまだが。というか今までずっとそうしていたんだが、そうしにくい事情が発生してしまった。正直こればっかりは参ったよ(困)」
「はっはっは」
「といっても、そもそも外交目的があの自称巫女なんだから仕方がない。今あの部屋の周囲と宿屋の周辺はこの都市で、王よりも誰よりも厳重な警備体制を敷いている。常時複数人の交代制で信頼出来る身内と部下だけで固めてな」
「その自称巫女だが、ついさっき自分が釈放されると決まったばかりだろう。そういう立場になったことがないから分からんのだが、突然状況が一変して眠れるものかね」
「彼女の方は僕はよく知らないし感情がなかなか読み取れないんだが。最初のあの気丈さを失って一度号泣したのが、かえって良かったらしい」
「号泣したのが良かった?」
「採決時にはまだ僅かに震えが見られたがそれも治まって、宿に向かう時にはすっかり落ち着きを取り戻してる様子だった。解放が決まった直後も喜びを爆発させるわけでもなし、1回未来と抱き合って少し笑顔が見えたが、それだけで後は淡々と受け入れていた。第一印象の、冷静そうで暗くて物静かって感じに戻っていた」
「それは素晴らしい。街中ギャーギャー浮かれ馬鹿騒ぎして廻るような人間でないのは何よりだ。ここの都市住民の感情を逆撫でして、台無しの流血沙汰でも起こされるのが一番迷惑だからな」
「そこまでいったらいくら未来の頼みとはいえ、僕もさすがに庇いたくない」
「お前、一足早く戻るんだってな」
「すまんな。帰りは同行警護出来ん。今朝、枝プートから急報が入った」
「それ自体はもう聞いていたが。内容は僕が聞いてもいい性質のものか?」
「構わん。何だと思う? 一発で当てて見せろ」
「反乱か?」
「不正解」
「じゃあ何だ」
「菜煎る川の方が氾濫したんだ」
「何と!」
「もっとも菜煎るにしては小規模らしい。だが神への儀式を執り行ない、応急支援や災害復旧、今後の治水指示といた諸対策の最終承認をする王が長期不在では、民衆に不安や不満が広がる。それが反乱を誘発するんだ(グビッ)」
「いつも羨ましく思っていたが、大河があればあったで大変だな」
「プハーッ! 『大変』なんて言葉で形容してくれるな。下手すると王朝が交替するきっかけになるんだ最悪な。馬美ロンのチグ栗鼠・ユーフラ試験出るの定期的氾濫なんか大人しいもんだ。セレブ狡ッスのやつは自分のところの灌漑農業が成功してるからって、うちにもその方式を参考にと推奨してくれるんだが、とてもじゃないそのまま導入は出来ん。時期外れで突発的な大規模洪水も来たりするし、もう意味が分からん(困)」
「何だ珍しいな、そんなに愚痴りたい気分なのか? じゃあお前もコレ飲んだらどうだ?(笑)」
「やめろ(笑)。私こそ明朝、確実に起きなければ……。正直私ももっとゆっくりしていきたいんだが」
「感謝する」
「ん? 何だ急に。気持ち悪い」
「交渉が終わるまで帰らないでいてくれたんだろう?」
「いやまぁそうなんだが、別にそれはそこまで問題ない。普通に急ぎ気味に帰る、ぐらいで丁度いいんだ。急ぎ過ぎて菜煎るが治まる前で下手に渡河に失敗すれば、例え生き延びても兵を失っただけで支持も失いかねん」
「それもそうだな」
「うちの船団で海から帰れれば早いが、軍船は一発でやられるからな」
「まだ赦されそうにないか?」
「駄目だな。嵐ではなくて必ず雷でやられる、遠巻きの商船からハッキリとそう分かるようにな。それも全部ご丁寧に、どこの陸地からも遠い海上のど真ん中で沈没させられる。半分商船のように装っても無駄だ、武装が目的なら見抜かれる。結果誰一人として助からん」
「徹底的だな」
「かといって商船で帰るのは性に合わんし専売特許の笛兄貴ア人の末裔どもの風下で力を借りながらなんて真っ平だ。いつ船の上で気が変わって襲ってくるかも分からんしな。それだったら陸路の方がまだマシだ。気心の知れた同族の友人達が支配者だからな、油断大敵警戒度合いが少しは減るだろ。他種族の支配下にある、逃げ場の無い空間よりはな」
「ふっ」
「まぁ、そういうわけでだ! 私達は椅子に座って眺めてただけで、何もせずに話がまとまったな」
「お前達は目を光らせるだけで圧力になるからそれがいいんだよ。それが失われると忽ちやつらの頭の中で毎度お馴染み恒例行事、挟み撃ちが登場する。話し合いをダラダラと先延ばしにして、背後から挟撃させてやろうという選択肢が、政治力学的思考を蠢動させるわけだ。結構な理想と御託を掲げてはいるが、どこの王よりも失地回復と領土獲得にご執心なのがここだ」
「ここと枝プートの2勢力だけで挟撃が成功したら、お前らの領土は折半出来るか?(笑)」
「神の怒りさえ抜きにすれば、悪くない話だろう」
「いや、悪いな」
「悪い?」
「鮮烈でド派手な大王の活躍だけが記憶に新しいが、ここの強さも地味だが決して侮れない。結局、大王は西方には侵入せずに終わった」
「…………」
「今はすっかり神の力でボロボロだが、ここの再生する力と不屈の信念は尋常ではない。強勢になったここと枝プートの、緩衝地帯が無くなった1対1の緊張状態の現出は望ましくない。こいつらの背後の北西南の勢力もほぼ全滅したせいで大戦略での挟撃も望めそうにない。そうなると本当に1対1だが、比較するとこっちの方が兵数は多くても寄せ集め勢力で、結束力が段違いだ。待ち受けるのは分裂、それも今以上の細分化と更に悪くすれば被征服の逆転状態の到来だ。かつてのペッルシア戦争を思い出さないか」
「……? いや、その例えは不適切じゃないか。当時、各都市同盟の方が遥かに弱小勢力で、それでも奇跡的に勝ったのは歴史的事実だが、ペッルシアの軍勢はただ単に撤退しただけだ。別に都市同盟に攻め込まれて支配されたわけじゃない。今の想定には当て嵌まらないだろう」
「私が言いたいのはそこじゃない。寄せ集めの烏合の衆はどれだけ数で勝ってても士気を高めるのが困難で、まとまりに欠ければ最終的には敗北するということだ。これは緒王どの国が旧領を統合しても結局は同じだ。軍勢の均一さではどうやってもここには勝てない。行き着く先はカッチドニア人支配の失墜と終焉だ。それを避ける為に結束するのが、私達ディア・ドッコイ全員の共通認識。そうだろうカッサンドロス」
「全くもってその通りだが、まだまだ飲めるなそんなド正論が出てくるようじゃ。少しは奇抜な異論を口走ってくれるかと期待してるのに。これじゃ素面のお前と話してるのと何も変わらないじゃないか」
「お前には及ばないが俺も強いんだ。潜在的な敵性国に来て、いや違った。『友好国』に来て無様に酔っ払ったりはしない」
「どこまでも相変わらずだな(笑)」
「まっ、そうだなあ。私が今は亡き大王のように、そんな他勢力の情勢など一切無関係で何もかも全部を征服出来るカリスマと力量と熱意があり、且つ全てを失う覚悟で神をも恐れぬ所業の数々に及べるなら話は別だが。さすがにあれは真似出来ん芸当だ……」
「しかしここの屋根の無い議会や元宮殿の役場、神の雷が落ちた尖塔、木っ端微塵になって再建も未定の神殿の話とかを聞いててぼんやり思ったんだが……」
「うん」
「うちのところも暫く、大規模建造事業の方は中止しようかってな。飲みながら考えてたんだ」
「建造事業? あぁ、あのデッカい墓か。あれは神の怒りを受けて壊されたから、もう造らないって話じゃなかったか?」
「違うぞ。今は主に2つデカいのを建造してるんだが、1つは大王の命令が契機となって出来た新しい街にある大灯台だ。そっちは有用だし続ける。街も発展途上だしな」
「ふん?」
「もう1つの方を暫く中止したいと思ってるんだが。今は亡き大王の親友中の親友ソファ椅子ティオンの霊廟だよ」
「ブフゥーッ!!(吹) まだ造ってたのかよっ!!(大声)」
「な、どうした? そんな大袈裟に反応しなくてもいいだろ(汗)」
「ケホッケホッ……すまん。……未来君の感じ、移ったかな……?(小声)」
「結果的に大王の遺志となったからな、止むを得ん」
「遺志といっても存命中に命令を受けたのは、お前が処刑した前任の呉れよンメネスだろ」
「やつは前任者などではない。ただの部下の徴税官だ。在職中に不正を働いたつまらん男だというに過ぎん」
「呆れたな。そんなこと律儀にやってないでさっさと切り上げろよ。適当なところでこれで完成ってことにしておけばいい。それこそ財政の無駄遣いで民衆反乱が勃発するぞ」
「いやこれがかえって2つの面で反乱対策にもなってるんだ」
「反乱対策?」
「1つは民衆向け。枝プートは菜煎るのおかげで豊穣の地だが、農業漁業だけじゃどうしても職にあぶれる者が出てくる。平和で兵士も増やせんし、人間向き不向きもある。そこで墓やら神殿やら霊廟の造営さ。もちろん給料を払ってるし、労力の配分、財政面、ともに無理のない範囲内の規模だ」
「だが神の怒りに触れたらどうする気だ」
「もし最高神の意に沿わぬものだとしたら、とっくに神の雷で木っ端微塵にされてるはず。そうだろうが? 現状そうなってないんだ。民衆に職を与え適正な労働力として活用し、関連産業をも振興させるのは支障ないってことだろう。ま、菜煎るが氾濫したことだし、暫くは休養期間を置こうと思ってるがな」
「だが昔と違ってそんなに人は余ってないだろ?」
「確かに神の怒りはうちにも炸裂したが、あれから我が国には続々と人が集まってきている。それが枝プートという土地柄だ。以前のような大繁栄とはいかないが、人口はどこよりも回復傾向にある。都市単位でも人一位をそのうち抜かすさ。いやもう数えたら抜いてるとこがあるかもな」
「フン。それで? もう1つの面ってのは?」
「支配者層向け、つまりカッチドニア勢の生意気な部下どもと、そいつらが連れてきた家族どもだよ。小煩い上に頑迷な連中だが、どうしても支配を固めるのに必要なんだ。律儀に大王の遺命を果たすその姿勢こそが継続的に支持されるのに有効ってことだな」
「遺命だって? その命令を出した当時、大王はまだ元気だった。別に今際の際で頼まれたとかじゃないだろ、記憶改竄するなよ(笑) それとも呉れよンメネスから総督職務の引き継ぎ事項とかってあったわけ?」
「黙ってろ! とにかく結局のところ、どこまでいっても私の一家はごくごく少数の部外者だからな、色々四方八方と気を使うわけだ。これが所詮余所者肩身狭過ぎ王と、ほぼ地元同然の王朝で暢気にやってるお気楽自称吟遊詩人王の慢心、環境の違いってわけだ」
「うるさい!(笑)」
「とにかくだ! 話を戻すが緒王が全員一致団結を通してくれて隙を与えなかったのは本当に有難かった。それでこれなんだが……」
「ん?」
「昼頃にな、お前が早めに帰るかもって未来に言ったら、これをお前にプレゼントするって」
「何だこれは……?」
「正直、分からん。異なる世界で作られた謎の物体だ。未来が最高神に確認したところでは、没収されない時点でここに在ることを許されているとのことだ。だから未来があちらの世界に帰っても同時に消えたりはしないらしい」
「使い道は?」
「分からんてだから」
「いやいや……。これは何かの道具であることは私でもすぐ分かるぞ。素材や製法は不明でも、少なくとも用途は知ってるはずだろうが妹さんは。聞けば分かるじゃないか」
「すまん、何かごちゃごちゃ言ってた気がするが、全然理解出来ないせいか覚えてない」
「はぁ(溜息)。まぁいい。これはあるだけでいい。人々に見せるだけで貴重だと分かる。神秘的だ。素晴らしい威信財となる」
「その通り。実用的に使う必要性なんてないんだよ、僕達にとっての有効活用はそれでいいんだ。他の緒王への礼と、咎人の巫女を釈放してくれた人一位の都市へ、友好国からの贈り物も未来君は前もって準備していたらしい。意外と用意周到だよ。それらは明日配って回る予定だ」
「そうか……」
「私は往路旅をするあいだ、挨拶くらいしか言葉を交わしてないし、近くにいてもほぼ見てて言葉を聞いたりするだけだったが……。とてもじゃないがあの一連の言動から推察するに用意周到な性格には思えんのだが、この際それは置いておこう。朝早く出立するが故、復路は同行せずもう会えないのは残念だが、くれぐれも彼女に私が贈り物に手放しで喜び、感謝していたと伝えてくれ」
「伝えよう」
「無事に帰れるといいがな。彼女達」
「ん」
「遥か彼方の見たこともない東方……ではなく、東方に似たその別の『世界』とやらに」
「何だ? プトレーマイ推ス、お前緒王の誰よりも率先して、馬鹿らしくて信じる気ないって断じてただろ」
「あぁ。信じてなかった」
「僕ですら未来が『出入り口』から帰っていくあの光景を目の当たりにするまでは半信半疑だったんだ。あれを見てないなら信じられない方が普通だ」
「だが、気が変わった。もう信じる……信じるよ……(酔)」
「ほんとか?」
「他所の女神だか何だかの襲撃事件跡を見て、少しぐらついたが私はリアルタイムで目にしてはいないし、まだ信じないと自分を保ってた。彼女達は再会すると、何やら神に呼びかけ交信している様子を見せた。聞けば相手は最高神だという。だが私は枝プートの神官どもの実態を知っていて、嫌というほど幻滅している。きっと彼女達のあいだで、事前に取り決めていた芝居なんだろうと自分に言い聞かせた。そしてあの神の雷を見せられた……。コレも貰ってしまった……。私はもう……お手上げだ……頭が痛い(酔)」
「海が真っ二つに割れてなくても信じる気になったか」
「ハハハ……。だがなぁ、お前が建前の妹話の次にその話を俺達にした時、到底信じられないにしても、お前の目が必死だったから、切羽詰った政治的事情があるんだろうとは感じてはいた。そして仮に!(酔)」
「仮に真実なんだとしたら、何て迂闊なやつなんだって思ったよ。どう考えても話すべきではないだろうってなフッハッハッハ……(酔)」
「そんなことは分かってる! 仕方ないじゃないか! 僕だって本当は言いたくなかった未来の安全のために!! それをお前、エウ流ディケを呼び寄せるぞとか言いやがって!!(怒)」
「はっはっはっはっは! 実際会わせてみたかったもんだ、亡くなった親父さんのお前達の兄妹で、一番若い『はず』のエウ流ディケが彼女を見て一体どんな反応を示すのかをな……会わせるまで互いに事前説明せず、伏せといてな。ふははははは(笑)(酔)」
「お前は実にいい性格してるよプトレーマイ推ス。お前は、というかお前達全員、自分のこと棚に上げて、僕のことばかり性格悪いだの何だの言い過ぎな」
「そこはさすがに不動の地位だからな……(笑)(酔)」
「黙れ!! とにかくだ! どんなに有益な提案をしても、お前達全員のらりくらりと渋り続けるから僕は仕方なしに真実を打ち明けたというのに、あの時のお前達ときたら……!!」
「ふはははは。だが、結果論としては良い方向に転がったな……(酔)」
「?」
「もはや脅しの材料に使おうという動機に駆られても、どこの勢力の誰も彼女達の誘拐を指示したり、危害を加えたりすることが一切出来ない。後先考えずに手を出そうものなら、神の怒りで自分達が地獄行き確定だからな……彼女らには明らかに最高神の加護がある、それをまざまざと見せ付けられた……思い知らされたのだ。彼女らに比べたら現人神だのファラ雄だのと、ちゃんちゃらおかしいったらありゃしないんだよハッハッハッハッハ(酔)」
「……そうだな、政治的動機で安易に狙われにくくなったのは良いことだ。だが目先の欲を満たすことしか頭にない軽はずみな輩というのはいるものだ。未来達が帰れるその時まで、厳重警戒態勢を解いてはならないんだ」
「あぁそうするがいい……さて、私はそろそろ限界だ。このままじゃ本当に明朝に起きれなくなって、昼頃にでも彼女達に顔を見せるはめになってしまう(酔)」
「いいじゃないか、あらためて別れの挨拶をすればさ(笑)」
「勘弁してくれ(笑)」
◎ 第25話 過っ疎編7 ◎
● 別宇宙無期滞在刑35日目の昼 ●
■ 人一位の都市の市場 ■
△ 大昨夏未来 △
「ミライさん」
「!(怯)(未来の後ろに隠れる)」
「百合アンヌスさん、お別れに来てくれたんか!(嬉)」
「えぇ、そうです。何も今になってご友人を取り戻しに来たわけではありません。ご安心頂きたいものです」
「ま、しゃーないでしょ。ちはやちゃんからしたらここの人達は恐怖の対象でしかないやろから。ちょっと先、馬車入っててくれる?」
「えぇ……」
「……百合アンヌスさん! はいこれ!」
「ん? 何ですか?」
「あれから会えなくて、もう渡す機会ないかと思ってた! 都市全体へのプレゼントした時に他の政治家さんに渡してって言おうかと迷ったけど、黙って懐に仕舞われるのが不安やってん。でも王様達にも配ったから化粧品類は全部渡してもうたわ」
「???」
「はい! うちからのプレゼントやで!」
「こ、こ、これはっ!! 昨日の、半透明の……!!(驚)」
「せやで、まさにあの時のペン。名称は『使いかけの黒のボールペン』やで!!(笑)」
「こんな貴重なものは受け取れない!! それに私はもはや公職を去った身、外交贈答品を受け取ることは出来ない」
「これはうちの純然たる私物! 私有財産や! カッさんちの、兄の王国の物でも何でもないんや」
「全くもって妹の言う通り。僕には干渉する権利は一切無い、王室財産ではなく未来が故郷から自分で持ってきた物だからね」
「せや! つまり私的で個人的な友達へのプレゼントってこと!」
「……しかし……これは貴重というだけに留まらず、実用的に使える物だ。ミライさんの手元になくなっては、あの紙に書く際に困るのでは……?」
「あのノートだけは今あれしか持ってきてなくて、どうしても使うからプレゼント出来へんのや。でも実はペンの方は複数有るんや。群がられると嫌やから大声では言わんようにしてるけどな。せやからうちは大丈夫! 受け取ってくれはる?」
「……。ありがとう……ミライさん。何と言うご厚意だろう。そして私から何もお返しする物がないのです……。いえ仮に何かを事前に用意してきたとして、これに釣り合うような物を私は所有していないのです」
「えぇんやでそんなことは! 受け取るの断られなくて良かった!(嬉)」
「政治家を辞めはったんですね、百合アンヌスさん。私のせいで」
「!」
「私がここに来た影響で百合アンヌスさんは辞職することになった」
「貴女のせいではありません。お気になさらず」
「……別にあのままで良かったのに」
「あのまま?」
「雷の後で、あのまま非の側の政治家さん達が全員是の席に移動してれば、それで良かったのに。百合アンヌスさんが辞める必要なんてなかったんや。あの流れに任せてればそのまま決着。それで何の問題もなかったやないですか」
「……それでは別の重い問題が政府全体に残るのですよ。政治的信頼の喪失という重大問題がね。私一人が名誉を失くして去ることで、それが僅かでも軽減されるのであれば、良いことなのです」
「何か理解出来んわうち、そういうのって。そんなん生贄やないですか。それで他の政治家さん達は信頼され続けて、救われたってことですか? 百合アンヌスさんだけ犠牲にして? ほんまに良くない! 良くないですよ……」
「…………」
「…………」
「……私はミライさんに別れの挨拶と、それから感謝の言葉を伝えたくてここに来たのです」
「感謝? 何で?」
「私はもしあの神の雷なくば、もう少しのところで、そこにいる貴女の兄とそのご友人方に、惨めに膝を屈しなければならなかったのです。神の怒りから立ち直れないこの都市を、住民を戦火から守るため、大量虐※の嵐に晒さないために。なるべく私だけが名誉と役職を捨て去るだけで問題を決着させたかったが、展開次第では解放否決後に無いはずの再議決という屈辱の流れも起こり得た。悪夢です」
「…………」
「しかし実際はミライさん。貴女を加護する最高神に屈することとなった。あの雷は私達の目に焼きついているものと同じです。あのタイミングでハッキリと分かりました、間違いなく最高神の意思が示されたものです。人の力に脅されて屈服したと人々に指弾されるより、神の力に威されて屈した方が余程体裁がいいでしょう? 私は貴女の突発行動に助けられたのです。何も気にすることはありません」
「百合アンヌスさん……そんなんうち、だって……納得出来ひん……百合アンヌスさんだけが損な役回り……(苦)」
「名残惜しいところ大変心苦しいんだが、我が友百合アンヌス」
「!」
「そろそろ馬を出してもいいかな? 緒王の隊列と進行ペースを合わせねばならない、既に少し遅れ気味だ」
「えぇ。これだけ時間を頂けた、感謝します我が友カッサンドロス。出発なさい、帰路も万事安全無事であるよう、最高神の加護があり続けるように祈ります」
「ありがとう。それは私も完全に同じ思いだ」
「あっ! そうだ!! 私が出来ることって、もうあとこれしかないなって思ったんですけど(馬車に乗り込みながら)」
「? はい」
「今日からこの都市は! 人一位の都市から『ローマ京都ー』っていう名前に改名することを提案致します!! 政治家の皆さん方にそれ伝えてもろて!!」
「??? 何ですって?????」
「私からのお礼として命名してもいいなって、それを百合アンヌスさんと私の共同名義で永遠に名誉を共有するっていうのはどうですか!!」
「未来君(汗)。やっと話が丸く収まってるからさ。まーた話が荒れちゃうとあれだから一旦、やめとこうかそれ。ね」
「え~???」
「ピーリッポス、出してくれ!」
「あいさぁ!」
「めっちゃお世話んなったわ、はいきょーしゃ百合アンヌスさん!!! さよーなら、元気でねーーーーっ!!(馬車が出発する)」
「私も貴女とのお話、楽しい時間でしたよ! さようなら!(声が遠ざかる)」
「……未来君、久々にうまく腕輪の通訳されてないみたいなんだけど。今の『はいきょーしゃ』って何だい?」
「あだ名や」
「へー? 意味は?」
「分からん」
「分からない?(汗)」
「うちこのノートに歴代ローマ皇帝の似顔絵練習で描いとるんやけどな。あの人に相当する人がうちの故郷の世界にもおってん」
「へーえ?」
「一応説明文も書いてるんやけど、我ながらテキトー過ぎ……。何かその人はあだ名が『はいきょーしゃ』だって。多分百合アンヌスさんって水泳か陸上がめっちゃ得意なんとちゃうの? 肺活量すごそうなあだ名しとるしな!」
◎ 第2部終わり 第3部に続く ◎
作者情報:枯木田万流です。世界史は好きですが浅いです。政治学は好きではなく不得手です。化学は嫌いで苦手です。 注意事項:地名は地方公共団体までは実在地名が出てきます。詳細地名や建物等は一部実在の場所を参考としている場合が有りますが、あくまで架空です。登場人物は一部歴史上の人物をモデルにしている場合が有りますが、全員架空の人物です。




