婚約破棄って言わないで!
コロン様の個人企画「アフォの祭典」参加作品です。
最後に、企画参加特典のIFAがあります、よろしくお願いします♪
「もういい! コロン=ダ=コロン、お前との婚約は今、ここで破棄してやる!」
豪華なシャンデリアがいくつも並ぶ、大きなお城の大広間に大きく響いたこの声で、パーティーを楽しんでいた大勢の貴族達がピタリとおしゃべりをやめて、場を盛り上げていた音楽隊もギョッとした顔になって楽器を奏でている手を止めてしまった。
あんなにも賑やかだった空間が一瞬にして静寂となっても、私は怯むどころか目の前にいる輝く金の髪に空を映したような澄んだ青い瞳の美しい王子に向かって怒ってやる。
「えぇ! 何でそうなるの、王子。 ちょっとイタズラしただけじゃん! そこまで怒ることないでしょ?」
エメラルドグリーンの瞳をぱちぱちさせて口を尖らせる私とは反対に、王子は身体をわなわな震わせてやっぱり怒鳴ってきた。
「お前のイタズラは半端ないんだよ! 確かにコロンを愛してはいるが、これまでにどれだけの事をしてくれたと? それが一生続くかと思うともう耐えられないんだ!」
そんなにひどい事したっけと、私は淡いブルーの煌びやかでお気に入りのドレスをキラキラと光を返させながら、う〜んと考えてみる。
「もしかして、王子のお部屋にヘビを入れた事?」
「それだそれ、しかも毒ヘビだったぞ。最強最悪のな」
「王子が一番高い買い物だったって言っていた騎士像が持っていた剣を、デッキブラシに変えた事?」
「それもだそれ。あの剣、未だに戻ってないが売ってないよな」
「王子のお気に入りだったペガサスを逃した事?」
「それな! もうほんと、まだむちゃくちゃショックなんだぞ!」
その時の感情を思い出したのか、赤鬼のような顔で睨みつけてきたので、王子が大好きな私の方が大きくショックを受けてガラスの靴をカツンと鳴らしながらよろめいてしまった。
「そんなぁ! これまで私、王子のお嫁さんになりたくてすんごい頑張ってきたのに! 大臣たちにだってわい……おっと。こんな事で婚約破棄だなんて酷いでしょ!」
「今、犯罪めいた事言わなかったか? いや、お前にとってはこんな事かもしれないがこっちは我慢の限界なんだよ!」
ざわざわと周りの貴族達が見守る中、人前でもおかまいなく喚く王子に、今度は私の方でも腹が立ってきて怒鳴り返し始めてしまったのだ。
「どれだけ視野が狭いのさ! あれは王様に美味しいヘビ酒を作ってあげたくて持ってきただけなのに! 相談しようとしたらちょっと逃げられたけど」
「へ? 酒?」
「王子が暗殺者に狙われたのを見たから、咄嗟に石像の持ってた剣で応戦しただけなのに! 折れちゃったから修理に出してるけど」
「え? いつの間に私は狙われた?」
「ペガサスはさ、乱獲されてきた仔馬だったみたいで夜中に母馬が探しにきたから返してあげたんだよ! 王子が爆睡していて起きなかったから独断だったけど」
「……それは、ペガサスに悪い事をしたな」
説明を聞いているうちに、王子は目を点にして冷静になってきたのだけど、私の方はどんどん感情がヒートアップしていってついに爆発してしまった。
「わあぁん! 婚約破棄するって言うならっ、魔法で異常気象を呼んでこの国を滅ぼしてやるっ! 大魔女舐めるなぁ!」
「な、なにぃーーーー⁈」
私はこの世界屈指の大魔法使い。
仰天する王子たちを尻目に、胸につけていたエメラルドのブローチをカッと光らせて、ブルーのパーティードレスから深い紫色のフード付きゆったりロングワンピースである魔女の正装に変身すると、同時に出現させた長い杖の先にはめ込まれているでっかいアクアマリンの魔石に魔力を込める。
すると、広間を埋め尽くしている大理石の床に、私を中心とした巨大な魔法陣が青白い光となって浮き上がったのだった。
「大魔女さまがお怒りだぁ‼︎」
「国が滅ぼされてしまうぅ‼︎」
大広間に戦慄が走ると、私が呪文の詠唱を始めた事でパニックが起こり、貴族や使用人たちが逃げ惑い出している。
「や、やめろ! コロン! 私が誤解していた! 悪かった!」
王子が大声で謝ってきたが、魔法陣の中で風が巻き起こり、白目をむいてトランス状態になってきた私は詠唱を全然やめない。
ピシャンピシャンと稲妻まで所々で発生してきてますます大惨事になってくるので、王子も声を張り上げて必死になってくる。
「コロン! 婚約破棄はやめる! 破棄を破棄するから! な、ごめんって!」
「——、——、ちゅーして——」
「は?」
ごうごうと部屋の中で風が吹き荒れる音に混じって、王子の耳へ呪文に混じる私の声が届く。
「——、——、じゃあ、ちゅーしてよ〜♡」
「はぁぁ⁉︎ こんな、公衆の面前でかぁ⁈」
「ならば滅びよ‼︎」
「何でだよ!」
恥ずかしがり屋の王子の性格をよく知っている私のちょっとした仕返しに戸惑っている王子へ、周りの人たちが国を救ってくれと説得している。
やがて、グッと拳を握って顔を真っ赤にしながら意を決した王子が走り出すと、魔法陣の真ん中にいる私の両腕をガシッと捕まえたのだ。
「白目が怖すぎるだろ……」
そう呟きながらも、風に吹き飛ばされないように両足を踏ん張りながら、王子は目を閉じて私に
ムチュッ
と口づけをかましたのだった。
呪文の詠唱が強制中断されたので、私の瞳がスッとエメラルドグリーンに戻る。そして部屋の嵐も無くなり、青く光っていた魔法陣も消えてしまったのであった。
周りでわっと歓声が上がり、
「王子の英雄ぶりに乾杯!」
と口々に賞賛の声が飛ぶ中、安心した顔で唇を離した王子に向かって私は、うふっとイタズラっぽく笑ってやる。
「……感触がイマイチだったからもう一回」
「ねだり方! 全く……もっとかわいい言い方があるだろう……」
呆れた顔をみせてから、王子は引き続き顔を真っ赤にさせて微笑むと、今度は片手で腰を引き寄せてきて唇をふんわり重ねたので、私は満足してそのままギュッと抱きしめてやったのだった——。
⭐︎コロン様より、企画参加特典頂きました⭐︎
最後までお読み下さってありがとうございました。
そしてコロン様、可愛い特典イラストをありがとうございました!