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TODYE HANDS  作者: 鳴海 慶
4/5

出張



「今日は地上に出てもらうから、スーツでね」


 遊戯場(こどもべや)から出て白衣を脱いでいたら、上着を手渡された。言われずとも白衣の下はすぐにワイシャツネクタイ姿である。

 地上の偵察は……僕が行くのは初めてだ。





「前にクロさんが行ってたのが半年前でしたっけ」

「もうそんなに経つか~。前に出たのは道作りだったね」

「交通整備と誤解されそうな平穏な名称ですね……」


 道作り――――組織の場所を嗅ぎ回っている者達を蹴散らして地上と行き来する道を切りひらく作業。

道中はち合せた生き物は皆殺しにされる。

 おかげで今、ここは誰にも知られていない通路で地上と繋がっているらしい。それもバレてしまったらまた、道作りがあるわけだが。


「今回はそこから歩いて行けるよ。地上の偵察。どうなったかなーって」

「どうなったかですか……誰と行けばいいんです?」

「クロとは一緒に行ってもらうよ。あともう一人……」


 甘楽さんが話している途中で、(ルーム)のドアが開いた。

 入ってきたのは一人の青年。


「ああ、ちょうどよかった!この子だよ」


 それは青年……僕らと同じスーツ姿、でも僕よりなお若い、まだ成人してもいないような線の細さを残している……美青年、だった。

 豊かに波打つ長髪は薄い青紫で、その異様な色彩はこの組織においても珍しい。ほっそりとした顎の小さな顔に、大きな目はくっきりとした二重で、瞬きの音がしそうなほど長くふさふさした睫毛が上にも下にも揃っている。眉も濃く太め、鼻筋も高く通って、彫りが深い。唇は薄く緊張したように引き結ばれていたが、無愛想な印象を与えない、麗しい面立ちをしていた。

 ギリシャ神話の神をイメージした人間を実験で錬成したらこうなったとか言われてもうっかり信じたかも。


RIA(リア)だよ。Rシリーズの、かなり初期からの子。道作りでもクロと一緒に行ってる」

「初めまして」


 リア、と呼ばれたその子は丁寧にお辞儀をしてからその大きな目で僕を見た。真っ直ぐに。

 キラキラと美しい水晶か、陽光を反射した泉の水面のような、不思議なひとみ。銀とも違う澄んだ色。

 他メンバーに感じる曲者っぽさや偏屈っぽさは微塵も感じない。ヴィジュアルで圧倒的に勝利。こんな子も居たんだなぁ。


「よろしく……康夛(コウタ)です」

「コウくんは組織内で狭い室内でも環境に瑕疵も残さず倒して掃除してくれる期待の新人さ」

「それは、すごいですね」

「僕思ったより好評価なんですね」

「RIAは広い場所での戦闘が得意。手から波ーー(ハアア)!ってできるから頼もしいよ」

「へえ、頼りにしてま…… 波ーー(ハアア)って何だ!?」


 え?技?!衝撃波……!?

 ここに居る生物はそういうのもアリなのか!?


「え?っと?リアくんは一応人間……なんですか?」

「そうですね。Rシリーズですから」


 R……といえば、Right(ヒカリ)と同じだ。ヒトガタの被検体

 自分のことを、人間だと思ってるのか。


「でも手から()が出せるんですか?」

「はい」


 冗談など言いそうにないリアくんが表情も変えずに頷いてきたので、これはマジで出せるらしいと判断する。人間は手から()は出さねえけどな。

 見るの楽しみ~……


「RIAは地上の知識も、常識もそれなりに身につけているし、経験も豊富だからコウくんわからないことあったら遠慮なく聞くといいよ」

「はぁ……」

「微力ながら、お力になれることがあれば。……じゃあ、行ってきます、母さん」

「はい行ってらっしゃい」


 甘楽さんが笑顔で手を振る。

 その時「お待たせ-」ともう一人黒スーツが現れて、僕らは揃って(ルーム)を出た。


 リアくんが主任を「母さん」と呼んだ件については僕の心の中でツッコミが響き渡り、どこにも出すタイミングを逸したままになった。





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