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“長女”イア

 時は流れ―――五年。

 僕が助けた四人の元奴隷(?)の子供達は、美しい少女達へと成長を遂げた。

 同い年だった彼女達には便宜上、長女から四女までの区別・地位を与えたのだけれど………それに関しては、余り意味がなかったと後になって気付いた。

 生まれた時期に一年以上の差がなく、なおかつそれほど権限の差を設けるつもりもないなら、そりゃそうだよね。

 まぁでも、区別そのものは有用なので据え置きだ。

 そして、彼女達の広い主として、偉大なる父として信仰させるために自らを「パパ」と呼ばせることも試みたけれど、これにはあえなく失敗。何となく、どちらかといえば先輩後輩みたいな気安い関係に固定されてしまい、今に至る。

「あるじー、森の奥に家作ったよー、見てみてー」

「それはすごい、是非見たいな」

 長女のイアが僕の手を引っ張る。

 肩口まで伸びた金髪がフワリと揺れて波打ち、僕の視界の斜め下方で川の流れのように踊った。

「あるじー、早く早くー」

 彼女が振り向き、整った表情の中から(オレンジ)色の双眸が僕を見ている。その両目は血走ってもおらず虹彩の周りはすっきり白色。しかし目蓋が半分閉じかけ、眠そうな半目。

 そんな、感情の読みにくい無表情だから勘違いしやすいけれど、彼女は読み取れる情報は即座に読み取ってしまうタイプだ。

 例えば僕は先程まで自分と相棒、そして姉妹達用にオヤツを作るため、森の地下の工房でちょっとした料理に挑戦していたのだけれど………そうしたことも、匂いやら格好やらから読み取られているとみていい。

 ま、今は本当に眠そうだけれど。

 その眠気が関係しているのかいないのか、以前より格段に強くなった力で、グイグイと僕の手を引っ張って森を歩く。

「そんな急がなくても、僕は逃げないよ」

「わたしが早く見せたいのー」

 そうそう、長女なのにどことなく幼い言動で、この点でも僕は彼女を「長女」としたのは少し失敗したと思っている。彼女の性格を考えると、そのポジションは次女とか末っ子とかが適切なんだろうし、最初からやり直したいくらいだ。まぁ、どの道、僕は父親ポジションにはなれないのだろうけれどね。

 ただ、現実はゲームではないのでやり直しはきかないし、彼女はずーっと長女のままだ。

 それでも愛そう、この言動の幼い長女を。

「どう? どう? 今の家よりも土台はしっかりしてるけどー」

「うん、いい感じだね」

 ただし、幼い部分ばかりが目立つけれど、彼女の美的センスは僕でも目を見張るものがある。前世は異世界の住人である僕からしても、故郷より文明の発達が二歩も三歩も遅れているこの世界において、イアのセンスは別格なのだ。将来有望でパパは嬉しいよ。

「この柱とかー、昔のあるじの話をー、やっと再現できたー、ってカンジー?」

「すごいじゃないか。とうとうやったね」

 さて、肝心の、このイアの建てた建物だけれど。

 僕の目の前に、まるでギリシャ神話に出て来るような立派な神殿がそびえ立っている。

 そして、そんな神殿の上に載るように、巨大な城っぽい建造物が見える。

 どうやら立派なのは外見だけではないらしく、ちゃんと人が住めるように頑強なだけでなく、六階建てという大きな規模。見た目も中身もかなり立派な建物だ。

 ともすれば現代日本においては郊外のラブホテルにも見えるかもしれないけれど、あれよりももうちょっと本格的な城だ。

 見た目は……京○タワーを初めて見た時のような? あれほどちぐはぐな感じはしないけれど、それでも違う建物の上に違う建物が載っている感じ、という印象は受ける。それでいて見た目が洗練されていて、違和感とはまた違う何かを感じるのも不思議だ。

 大きな神殿の上に載った城。とどのつまりは、「宗教と政治と生活の融合」、その究極を目指したといったところだろう。このイアがどの程度まで僕の希望したコンセプトを意識したのかは分からないけれど、僕としては百点中百二十点くらいはあげてもいい建物だ。

 さて、ではでは、肝心の内装は………っと。

「わお」

「すごいー? すごいー?」

「………ああ、すごいとも!」

 僕は心からの感嘆の溜め息を吐いた。

 だって、普通はこういう「城」って形だけで、内装は地味なのを想像するだろう?

 けれども本当に「城」、いや「城塞」なのだ。

 謁見の間、みたいなのまであるし、その中央からやや奥にかけてのスペースに玉座がデンッと設えてあるものだから、初見の僕は思わず身構えた。

 ここは謁見の間、というか主役はあくまで玉座だから、もう普通に「玉座の間」とでも呼んじゃおうかな。

 ………ていうか、ここ、「教祖」というより「王」のための城になってない?

 すごいね………想像以上にやってくれる、この長女。

「褒めてー?」

「よーしよしよし」

「えへへー」

 イアの頭を撫でると、彼女は顔をほころばせて喜んだ。

 言動は幼いけれども、秘めたる才能は計り知れない。これが長女のイアだ。

 ちなみに彼女は建築だけでなく、あらゆることに才覚を発揮するタイプ。万能の天才肌、というやつだね。

「なんかー、頭撫でられたらー……眠くなっちゃったぁ………」

 そう言って急にウトウトとし始める。

 そりゃあ、今までこんな巨大な建造物を作るだけの魔法なり何なりの技術(スキル)を使用していたわけだからね、眠くなってしまうのも無理はないかな。

 この建城作業にかかった期間はおよそ一カ月。僕からは「別に急ぎじゃないから」、って言っておいたはずだけれど、彼女は大分無理をしていたみたいだ。

 城の中でもまだ主要な部分を案内してもらっただけだけれど、ここ玉座の間で力尽きちゃったみたいだね。おやすみ、ゆっくりと心身を回復させるといい。

 僕はイアを大きな玉座に寝かせ、毛布をかけて、その場を後にした。

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