001+9.間章 アレス糞餓鬼第二金蔓王子、戦略兵器・大豆ミート。
※外伝整理も兼ねた、冬休み連続投稿中です。詳しくは001+6前後書き参照。
年末年始はほぼ毎日になってしまった……。
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味噌や醤油を作りたいとは言ったが、実際に大豆で出来る食品は意外と多い。
というか煮たり蒸した大豆や油を搾った大豆、どれでも醤油を作る事は出来る。
伊達に各地でブランド醤油や地元味噌が作られていたりはしない。様々な工夫によって膨大な多様性が存在するのが、かの調味料の魅力でもある。
現在は基本、煮るか炒めるかあるいは焼くかだ。あまりに勿体無いのでやはり我は食の伝道師としての使命に目覚めねばなるまい。
そう、これは国力増強のための大義である!
我!食道楽によって、太平を築く礎とならん!!
「……ふ。また酔狂に言い訳をしてしまったな。
駄目だな俺も。やはり道楽とは、どうしようもなく趣味でなくては。」
「だからワザと聞かせようとするんじゃないよ。このエセ王子ぃぃ~~……。」
顔を抱えるのはシーフもといシーカー見習いジョニー君です。
ちょい気障イケメンに屈辱の表情を浮かべさせるの楽しいです。
「さて。例によって例の如く、君が手伝わんのなら厨房長に直接話を持っていくが君的には如何かな?
ワンクッションを挟んで堅実に調査をしてからの検討と、趣味最優先で好き勝手に予算を揃えてからの暴走と。
私はどちらも楽しめる!さぁ、返答や如何にッ!!」
「もうやだこの趣味人王族共ッ!!」
フハハハハッハッハッハッハァっ!!
ふぅ~~~っはっはっはっはっはァッ!!!
まあ最初にやるのは毒見をしながらのレシピ作りなんですけどね?
何せ異世界の食材ですし。どんな成分か、どんな状況で毒性を発生するかなんてトライ安堵エラーで確認するしか有りませんし。
ふほほほほ、ワタクシ毒耐性スキル持ちですので安堵するのはジョニー君の役目ですの!食べ過ぎ以外にワタクシの敵は、おりませんことよ!
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アレスの今の新しい生活の場は二ヶ所、一つは言わずと知れた王城。
もう一つはこの海岸線間近に建設された小砦、所謂監視台だ。
近隣海賊の群雄割拠が確認された今、放置するには余りに危険な反面、監視手段が非常に限られている。なのでアレスが定期的に《治世の紋章》で偵察し、不審な動きが無いかを報告する役目を担っている。
別にダイエットの為ではない。為では無いったら為では無い。
《紋章》の存在を秘匿するために此処の使用は一部の者に限られており、序でにちょっとした作業場としても使っているのだ。
表向きは監視任務を与えてのアレス開発物の研究所、町中で研究されると情報が洩れるための隔離である。アレ?建前というか口実が本音じゃねぇ?
「おからや煮豆は元々あるんだよな。問題はそれ以上の加工な訳で。」
要は乾燥豆を調理する手段は既にあるのだ。かける一手間が長期保存だけを目的にしているだけで。なのでアレスがすべきは発酵の研究と、にがりの生産。
後は大豆から油を絞った状態での調理法だろうか。
「まあ先ずは油だろうな。油は単体で売り物になる。
この売却益で追加の機材を買い足す費用に充てるのも悪くない。」
「やる事やって金も稼ぐのがホント質悪過ぎんだよなぁ……。」
ジョニー達とて暇じゃない。この世界は子供が勉強だけしていられる程発達してもいないし、学ぶ内容も無い。
職業の幅が狭いこの世界では、ある意味で親の手伝いこそが将来に必要な勉強となるのだ。むしろ算術や文字を庶民に広く教えて、寺子屋モドキがあるダモクレスは異質なくらいだと、他国民と接すれば分かって来る。
ダモクレスは周囲から孤立している分、身内同士での争いが少なく国全体で人を育てる努力をしなければ人口が増えないのだ。
他国の王家はもっと庶民と距離が離れており、彼らは簡単に盗賊と化す。税金が不足したら隣の村を襲う事も珍しくなく、これを防ぐために外征が行われる。
こんな蛮族経済で成り立ってしまう程度には、北部は田舎の集まりなのだ。
「けどさ。海賊被害は今迄滅多に出て無かったろ?
わざわざこっちから喧嘩を売って、藪を突く必要は無いんじゃないか?」
「それが出来れば良いんだけどな。
はっきり言えば近隣の島々にも、居住出来る場所と数に限界がある。
連中に土地を開拓出来る手段が無いのなら猶更な。」
最近のダモクレスは船が増えた事で、近海での漁が増えている。
近場の海賊島を中継点に改造した事で安全な航海範囲は広がった反面、海賊達と接触する機会は増えていた。
「陛下達が居ない今、こちらから積極的に仕掛ける必要は無いがね。
元々海賊達の襲撃が増えるのは時間の問題だったさ。」
さてと。大豆の発酵には少々時間がかかるので今は研究用脱脂大豆の量産で限界だが、これは醤油の原料に出来る。今は研究用に沢山作っておけばいい。
何よりこの脱脂大豆は油を売る傍ら、飼料や大豆ミート作りにも使える。
発酵の利点が直ぐに提出出来ない分、目先の成果は研究を続ける上で分かり易く評価され易い。何より要は謎肉、肉モドキだ。
貴重な肉料理の幅、増やしたいとは思わんかね?
何を隠そう、今の私は食べ盛りの餓鬼だ!食いたいぞ!腹一杯の肉が!
これは未来の野望の為の布石なのだ!
「さて。今日の作業は終わったので、《紋章》様の偵察が終わったらゆっくりするとしましょうかのぅ……。」
「何なのその老人のフリ。」
オイラ真面目に働いたから、疲れちまったのさ…………あれ?
ちょいと中断。え、目元解して。もう一度確認。……ふぅ。疲れたのかな。
「どうしたんだ?トラブルにしては随分と珍妙な表情しているぞ?」
「うん。まぁ。
おかしいなぁ。俺にはまるで、ダモクレスが確保した島に、白旗を上げた海賊団が船団単位で包囲しているように見えるぞ?」
「それどんな状況ッ!?」
「報告を聞こうか、グレイス宮廷伯。
彼らの主張と、君が現地で聞き及んだ現状について聞かせて貰いたい。」
(((あ、あのアレスの小僧が真面目に対応しているだと?!)))
皆さーん?表情を控えても腰を浮かせてたら意味無いですよ~?
はい、着席ちゃくせーき。皆も直ぐに似た様な表情になるから報告聞こうね~?
はい!おめでとう同士諸君!
「……えぇと。整理すると、ですよ?
彼らはヨルムンガント帝国を自称する、元〔西部〕の難民であったと。
そして乗騎である魔狼ガルムの飼育を村単位で担当していた職人集団でもあったという事ですな?ですが同時に、帝国に滅ぼされた亡国の民であると。」
「少し訂正を。職人村が中心となった現海賊団です。」
「脅威度が下がった訳では無い、という事か?」
王族家畜長の疑問に、グレイス伯ははい、と頷く。
彼の関心はただ一つ、食を奪いに来るか否かだけ。他の王族達も同類だ。
「彼らは言わば難民連合といった集団で、別に飼育員だけの村でも無ければ一つの村の出身者でもない。
ですが、魔狼ガルムの力で海賊として他と渡り合えた、過半数が老人と女子供で構成された逃亡者の集まりなのです。
彼らの意見を却下する場合、今後海を走る魔狼ガルムを操る集団が敵となる事をお忘れ無きように。」
「それで、彼らの要求は?」
「安住の地、つまり定住と保護です。可能であれば食料と医者の支援もと。
彼らは戦火で故郷を追われただけで、常識的な租税に忌避は無いとの事。」
向こうの税金相場はダモクレスが労働による比率が多いとしてもざっと数倍。
う~ん、戦時下だったとしてもヒドイなこりゃ。とはいえ幾ら信用や即金が彼らに無かったとしても、本土と極端に税率が違ったら何れ不満は抱くだろう。
しかも非戦闘員中心とはいえ、千人規模の移民はいずれ在来民に対して強い発言力を持つ。習慣も違う彼らを全員本土で受け入れるのは現実的じゃない。
「様子見として、一部だけ受け入れるのは。」
「いや、向こうが特に保護して欲しいのは働けない方だろう?」
「陛下の帰国まで時間を稼ぐというのは。」
「病人がいるんだ、待てんだろう。」
「しかしこれ程の案件を陛下不在中に裁決してしまうのは……。」
「そもそも向こうの言い分が本当に信用出来るのか?」
意見が一通り出切った会議は空転する。明確な指針や同意が無い場合は猶更だ。
けれど早々に議論を終わらせては意見を聞いて貰えなかったと不満は残り、長々まとまらない会議を続けると徒労感が不満の種になる。
どの程度のタイミングで話を纏めるかが議長の腕となる――が。
「止むを得ない、彼らをダモクレスの民として受け入れよう。
但し本土では無く無人島の開拓民として、だ。」
こういう議論の中に無い意見で会議を纏めようとすると、会議の参加者達は本当に困るのだ。
要は『先に提案しろよ』案件である。
確信犯だけどね☆彡
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アレスが指定した無人島。それは最近船の数が増えた事で上陸可能になったが、野生動物が多くて開拓を後回しにされていた島だった。
調査のために船が上陸出来る仮の港と居住可能な洞窟と小屋は建設されている。
だが船団全ての住民が生活するのに十分な数があるとは言い難い。必然彼らの要望は満たされたとは言えないのだが。
「甘えるな諸君!領主として、伝染病かも知れない元海賊な連中を無条件で本土に上陸させられる訳が無かろう!
先ずは自分達で肉を取り、食い扶持を稼げ!体力さえあれば感染型の病気は自然治癒が可能なものが殆どだ!」
「ふざけるな!病人達の中には一刻を争う者もいるんだぞ!」
「田舎の医者が重病人を治療出来ると思うな!
医者が居ればどんな病気も一発解決、そんな名医の心当たりが有るなら今すぐ教えんか!土下座してでも全力で雇用しに行くわ!
我が国で紹介出来る医者の心当たりなど、貴様らより地元の薬草に詳しい程度の御老体じゃい!」
「「「え、えぇ~~……。」」」
「土地だって貴様ら全員が今直ぐ食えるような場所など無いわ!
そんな大規模開墾が済んでる土地があったら、とっくに別の住民を入れる計画があるに決まっておろうが!
貴様らの住める土地を用意するなら、元々開墾するしか無いんじゃい!」
「「「……あ、うん……。」」」
「そもそも魔狼ガルムなんざ、始めて見るわ!飼育ノウハウ無いわ!
必要な施設自体、儂等は知らんわ!お前達が作るしか無いんじゃい!
広い土地を与えて、お前達に自由に開拓させる以外に無いんじゃい!
お前達の安全を確保する場所に、船を使ってしか侵入出来ない無人島以上に安全な土地なんぞ無いんじゃい!」
「じ、じゃあ俺達がアンタらの下に付く利点って何だよ!」
「近々君達の居た辺りの海賊を纏めて掃討する計画がありましたが?
その為に使う筈だった戦力と資金を、君達のために回す事になります。
二年間は開墾経費として労働力で支払った扱いだけど、いずれは近隣の海賊討伐に君達も貢献してね?
ガルムを育てるなら食肉じゃないでしょ?戦力でしょ?」
「「「あ、はい……。」」」
ん~、大体は論破し尽くしたかなぁ~?
最初は子供が代表者の一人として現れた事に不満気だった彼らも、現状が呑み込めて現実的な提案をされているとは理解出来たご様子。
だが同時に劇的な改善も無いのだと実感し、特に切羽詰まった身内を抱えた者達が肩を落として打ちひしがれる。
その傍らで、鉄板と材料を用意させている。
「くそ、じゃあどうにもならないのかよ……。」
荷物の積み下ろしが一通り終わり、次第に香ばしい匂いが漂い始める。
アレス自ら炙り加減を確認し、親指を立てて配膳を開始する。
「……ねぇ。何やってんの?」
「先ずは食え。腹を膨らませろ。
しっかり体力を付けて休めるだけでも、気持ちは楽になるもんだ。」
貴様らは、大豆ミートハンバーグの実験台となるが良い!
お、船の方でも唸り声や吠える奴らがいるようじゃのう、良い良い。
え、雑食じゃない?肉食?でも代用が出来るかどうかは試してみないかね?
「こ、これが代用肉だと?この、旨味溢れるひき肉が?
畑から収穫出来るというのか!」
「まあ全部が大豆では無いがね。色々試して肉感の向上に挑戦している最中さ。」
「「「ななな、何とォッ?!これより上があるというのか?!」」」
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「という訳で、彼らは開拓に積極的になってくれましたよ。
何でも彼らにとって肉は、全部ガルムに食べさせるだけで精一杯な贅沢品だったそうですな。
大豆ミートならガルムも食べると分かり、以後飼育の目途も立ちました。」
「「「お前本当に何をやってんの?」」」
えぇ?皆のお悩み事を解決して難民達を味方に付けただけじゃない。
難民全部が入植地に好意的なら本土との接触も最小限で済むと思うけどなぁ?
「び、病気の方はどうなったんだね?確か伝染病の疑惑があるとか。」
「今の所は死者が出る様子は無いですね。
栄養失調、ガルムを優先するあまり食生活に著しい偏りが見られたので。その辺を改善して運動を推奨し、体力付けさせたら半分以上は回復しました。」
体力の無い連中が運動不足になって更にっていう黄金パターンだったんだよ。
ま、多少風邪を拗らせた連中もいたみたいだけど、これも体力で改善。今の所、伝染病とみられていた患者は全員回復した。
「だが、帰属意識はどうかね?
結局我々ダモクレスと縁が薄くなって、独立しようとするのでは無いか?」
『馬鹿野郎!ここには何も無いんじゃない!何でも出来るんだ!
全て自分で欲しい物を探せるんだ!足りない物も、必要な物も、全部自分達で決める自由があるんだ!』
「病気の心配が無いと確認出来た者達を中心に本土と交易を始めて貰います。
基本的には大豆を始めとしたガルムの飼育地として確立させる予定なので、彼らだけで生活が成り立つほど豊富な食料生産地になる事はありません。
それに開墾に専念出来る様に環境を整えているのも我々です。」
『肉!肉を狩るのだ!この地の魔物肉は、全て俺達の自由にしていい!
こんな融通の利いた国は、他に無いぞッ!!』
『『『ゥウオオオオォォォッッッッッッッ!!!』』』
『『『ダモクレス、ばんざ~~~~いっ!!!』』』
まぁ魔物肉が無くなったら家畜の飼育も始めさせて畜産地にすればね?
農作物ばっかり生産するのは難しくなると思うよ?
独立を考えるよりは他所に肉を売却する方向で考えるんじゃないかなぁ。
※外伝整理も兼ねた、冬休み連続投稿中です。詳しくは001+6前後書き参照。
年末年始はほぼ毎日になってしまった……。
流石に現代社会ほどの旨味は無いですw
あと餓えた人に食べさせるとショック死するっていうアレは、そこまで弱って無かったと解釈して下さい。最低限の診察は事前に終えているので。
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