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001+8.間章 アレス糞餓鬼第二金蔓王子、婚約外交の裏側。

※外伝整理も兼ねた、冬休み連続投稿中です。詳しくは001+6前後書き参照。

 年末年始はほぼ毎日になってしまった……。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 アレスが〔錬金魔法〕を習得した頃、ダモクレス王はアストリア王子の婚約者を探すため、建造し終えた中型船を使っての外交遠征に出発した。


 その間アレスは王城内での仕事を覚えながら日々の鍛錬に励んでいた。

――そう。励んでいたのだ。


「ホゥアタタタタタタタタッ!!!」


 蹴撃の乱打が交錯する。

 片や大人気無くも特製の装甲靴。片や怪鳥の如き、否。怪鳥の域に達した鉤爪。

 盾の如く構えられた手刀は相手の翼撃を払い落として構えを崩す。

 にも拘らず、重心は乱れず連撃も留まる事を知らず。


 子供の身長を上回る長さの硬質な鳥脚が、人なら弱点となる筈の脛を鈍器や盾に変えて、巧みに重心を傾けての連続蹴撃を可能としている。

 それは殆ど互いが懐間近という、お互いの拳が顔に届く位置での超接近戦を披露しているからだ。

 もし少しでも腰が引け、互いの距離が離れればどうなるか。


 怪鳥に譲れば、自分の全身よりも長く鋭い鉤爪の乱打を。

 アレスに譲れば、更に踏み込んでの拳の乱打が。


「クェケケケケケケケケケッ!!」


 怪鳥と子供の真剣なる闘争が、馬小屋ならぬ鳥小屋で繰り広げられていた。




 怪鳥。そう、怪鳥なのだ。例えその世界においては常識的な存在だろうと、別の枠組み、異なる世界の視線から見れば紛れもない怪物の類。

 けれどこの世界の住民は、その怪鳥を飼い慣らし使役する術を身に付けた。


 馬よりも強靭で、あらゆる地形に強く。悪路であっても容易く走り抜ける。

 荷馬車というくらいには輸送力に於いて、流石に馬の方に分があるが。

 戦場と言う人一人を載せた乗騎としては、速さに限らず餌の安さという点でも最上級の扱い易さ。それが二足歩行する鳥類、走り鶏と言う生き物だ。

 率直に言って首が短めの駝鳥、いや鶏か。正直どっちが近いかは人による。

 だが実の所、人より弱い筈も無いのだ。特に一桁切り捨て可能なLV圏の生物と比較すれば。何せ人を載せて全力疾走出来る距離が凄い。体力凄い。

 生態としては獣より魔獣なので、幼い頃から調教しないと人に従わない。

 国家にとっては貴重な財産なので、大抵の国ではそれなりの数を確保して専用の飼育所を用意している。


 まあ流石に王城の一角を使うにしても飼育係が王族と言うのは珍しい。

 一応愛馬ならぬ乗騎を自分用に飼育する者もいるが、そもそも平均寿命が走り鶏で十年馬で二十年程度。要は羊飼いの様に群れで飼育するのが正しい運用法だ。

 個別で名前を付けるといざという時に見捨てられなくなる。というか、実は非常食を兼ねている。とても肉は美味い。

 お代わり頂けるだろうか。最高に引き締まった脂身の無い鶏肉なのである。


 騎乗力の落ちた絶妙に弛んだ頃合いが、一番旨い家畜なのだ。

 田舎の友、万能家畜。餌代は安く、繁殖力に優れ、長持ちし、美味い。その骨は魔法で量産こそ出来ないものの、丈夫で使い勝手も良い。

 ぶっちゃけ厨房長ドナードこそ、走り鶏育成に命を懸けていると公言するダモクレス王族である。しかも陛下の兄。現王族最強のLV8。


「なあ厨房長、あの走り鶏明らかに他の個体より強くないかね?」


「当然だろう?上下関係を刻み込むためとはいえ、あれだけ繰り返し戦い続けているんだ。成長もマナ吸収も早い。」


 特殊個体と言い換えても問題無いだろうな、と頷く厨房長に。

 グレイス宮廷伯は同類だったか、と聞く相手を間違えた事を悟る。

 因みに立場上は厨房長より宮廷伯の方が上だが、王族なので尊重すべき相手でもある。他国要人が来た時に怯むのが、ほぼほぼダモクレス城内の従者や侍女が王族で占められている点にある。


 普通の王家はそこまで王族働かない。有能な者は役人や大臣になるが、王族の基本は婚姻による勢力拡大であって、腐ってごく潰しになる者も少なくない。

 畑や建築業に情熱を燃やす王族は、地理的に孤立しているダモクレス王国の風土が産んだ、極めて例外的存在である。


 自分達で必要な物を用意し続けた結果、ダモクレス城は北部一の堅牢さを誇るとすら言われ、段々嘲笑出来る存在じゃなくなって来ている。

 けれど絶対に真似したくない、北部のギリ中堅国家なのだ。国力の半分は王家が占めている。国力的にはまだ小国の筈だ。脅威かは別として。


「見どころはある。努力家でもある。料理の腕も様になって来た。

 奴は立派な、儂以上の王族になるだろう。」


「厨房の後継者にだけは、絶対にされては困りますぞ……?」


 ここでしれっと目を反らし返答を避ける程度には、厨房長は信用ならない。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 走り鶏の飼育過程を学ぶのは、戦場で運用する上でも重要だ。

 尤も気性の荒い個体の飼育を任されたのは意外だったが、それは気性が荒過ぎて乗騎に向かないから、飼育失敗しても食肉になるのが早まるだけだった所為だ。

 朝の死闘を制し、温泉で爽やかな汗を流したアレスは晴れやかな気分で礼儀作法の勉学に励む。実の所、歴史についてダモクレスの書物は薄い。


 王家の秘事以外は大部分が治水、治世、財政管理等の実用的な情報に終始し他の分野における情報の蓄積が殆ど無い。

 他国の情報については、宮廷伯の下で暮していた頃の方が豊富だった程だ。

 まあそれは仕方が無い。何せグレイス宮廷伯は密偵頭、情報を精査してから王族に上げるのが職務だから、最も他国の情報が集まる場所だ。

 アレスが今最も苦戦しているのは、礼儀作法。他国との外交に必要なマナーの類だった。ぶっちゃけこの世界独特の常識によって培われた作法がかなり多い。


 例えば前世では他国との法律は国ごとに大きく違ったが、今生では聖王国という中心国家があるせいで、殆どの王国は聖王家の法を丸々採用している。

 後紋章の比重が凄く高いが、その割に罪状次第であっさり処刑される。

 というか公式の使者と貴族以外の権利がとても雑であっさりしてる。他国人との区別がかなりふわっとしてる。庶民は割とあっさり亡命や移住するらしい。


 要は税金を払っている間は諸々の権利が保障されるが、支払いが滞ったら簡単に土地を追い出される。その代わり税金は大体安い。

 人頭税は子供の手伝いでも稼げる程度なので、近所の大人に見捨てられなかったら孤児でも成人まで一人暮らしが出来る。

 一方で盗賊になる庶民も多く、盗賊はその地の者がその地で裁くのが常識だ。

 大抵現行犯なのでその場で処刑される事も多い。実に人命が軽い世界だ。

 あと暴行罪より窃盗罪の方が遥かに重い。略奪しなければ割と些細な罰で許されるという謎文化。


 まあこの辺は前世の罪状は大体今生でも罪なので、左程気にする必要は無い。

 強いて言うなら罪状の重さが違うだけだ。


 勉強を終えたアレスは、今はお飾りの王族として視察を代行している。

 まあお飾りと言えば聞こえは悪いが、見習いなので実際の指示は全て周りの部下達が担当する。説明を受けながら許可証を渡すだけが、今のアレスの仕事だ。

 その筈なのだが。


「茎砂糖の滓問題は飼料豆と混ぜる事でもう解決したと見て良いんじゃない?

 搾汁機の方もこれ以上の性能向上は必要無いよ、今は数を増やした方が良い。

 厨房長また新しい砂糖パイの試作用飼料の請求してるじゃん。今期の収穫量は既に打ち止めだって言ったのに。

 砂糖の方はこれで手続き終わりだよね。」


 今や普通に主戦力として活躍していた。大人顔負けというか、大人のブレーキを立派に勤めてた。

 王が居ない隙を狙った普段通り難い報告や申請の山が、前世の経験と知識がフル活用されて適切に処理されていく。

 グレイス宮廷伯が、もう本業に専念して良いんじゃないかと思うほどの適切且つ正確な処理能力だった。

 それに引き替え我が国の大人達と来たらと、溜め息を吐かざるを得ない。

 まあ流石に監督の建前と監視の目を弛める事は出来ない。大抵の者は目を離した隙に企むものだし、何より首謀者がアレスとは限らない。


「塩田の方は拡張の余地ありかぁ。でも人手がなぁ~。」


 いややっぱり企むかも知れない。共犯が唆すかも知れない。

 有能だからこそ、余計な事が出来る余地がある点を忘れてはならない。




 砂糖黍かと思った北部の砂糖原料植物だが、絞り粕はぶっちゃけ火を通すだけで普通に食べられた。もうこれ別種じゃねぇかなと思ったので、今は茎砂糖と名付け国を挙げての生産を開始している。

 とはいえ農家の数に限りがあるので、人手不足という深刻な問題があるが。

 塩は増えたので量産はともかく、そろそろ醤油や味噌の開発研究に着手したいところだが、個人研究を始めるには少々今は問題があった。


 一つは許可を出すトップがアレスになっている点。嘆願や申請という形が今取れないので、下手をすると国家の私物化になる。

 最低でも開始段階では個人研究に出来ないと、後々不味い事になる。


 そしてもう一つが目下最大の問題。ここ最近山賊、海賊の襲撃が多発していた。


 元々ダモクレスは面積だけなら中堅国と呼べるほど広く、農耕に適した土地等も案外多い。しかも海に面しているので発展の余地はかなりある。

 では何故小国なのか。それは船抜きの交易が難しい、国境を山脈に遮られた陸の孤島と呼んでよい閉鎖環境だったからだ。

 今の世の中、他国との交易に船は滅多に用いない。少なくとも北部はそうだ。

 只でさえ交易品の少ない陸の孤島、加えて最東端、北の端ともなれば好んで来る行商人も稀だ。交易路も盗賊や国家に見張られている。

 だが近年、アレスが砂糖を始めとする新しい交易品の開発に成功した。

 そう。商人の往来が増え始め、他国は。金蔓の臭いを嗅ぎ付けたのだった……。


 尚、海賊に関しては単に、制海圏が広がった事が理由だと思われた。


 中型船の数が増え、近場の海賊島を制圧して周辺の守りを固めた結果。

 多分この辺りまで来ていた海賊が、以前と同じ感覚でダモクレス軍に襲撃を仕掛けていると思われた。

 彼らの中にはダモクレス軍を、海賊の新興勢力と誤解していた者も居たからだ。


「まあ正直山賊側は守りさえ薄くしなければ現状維持、放置して構わないんだ。

 問題は海賊と人口不足の方だな。」


「ほう、その根拠はお聞かせ願えるので?」


 立場が変わったため、グレイス宮廷伯はアレスにも敬語を使う様になった。

 だがお目付け役であり、現状あくまで最終決定権は彼にある。何と言おうと現状は見習いであり、代理王族だからだ。

 流石に一桁の子供に政治の決定権全てを委ねる筈も無い。普通に考えたら判子を押し続けるだけでも十分出来た子供だ。大人しいのだから。

 グレイスももう理解を放棄する程度には大人同然の扱いをしている。


「既に中型船の運用が確立している。近隣との交易なら沿岸地域で賄える。

 交易路を先細らせて困るのは、我々のお零れを失う隣接国の方さ。」


「なるほど……。では海賊の方の問題点は?」


 元よりアレスに大きな権限は与えられていない。現状出来る案件は多い方が良いのは間違いない。


「ぶっちゃけ全海賊が手を組んだら、ダモクレスの総戦力より多くない?

 五分だとしても、山賊をガラ空きにしないと対抗出来ないよ?」


「   。」


 グレイス宮廷伯は、密偵方だ。

 だが基本海賊達に紛れ込める様な手勢は多くない。また海を挟んでいるため偵察を送るのも船を使わないと苦しい。

 だが今迄アレスが《治世の紋章》で調べ上げた情報は全てアストリア第一王子が同様の場所で確認を取り、事実だった事が証明されている。

 つまりアレスと同様の戦術判断は、薄々察しては居たのだ。


「今の内に彼らを分断しないと、間に合ない恐れもあるよねぇ……。」


 アレスの戦略判断は、本当に的確なので異議を唱え辛いのだ。

 本人の興味があくまで内政にあり、戦端を開きたがっていないのが焼け石に水の救いではあった。


「…………妙案があるのなら、先ずは聞きますが。」


「お。その言い回し、ずっこい癖に葛藤が滲み出まくってるね。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 今日も今日とて、エロ姉さん通いは止められない。

 〔錬金魔法〕は使える様になったので、最近は精製した各種素材を造船場や各店に卸し、商人に換金させている。

 無論アレスが行商人と直接交渉すれば楽だし、手取りも大きい。

 だがその場合国内に貨幣が増えない。

 遠回りであっても彼らが多くの通貨を得て商談に慣れて貰えれば、その分大規模な商売が行える様になる。

 国力の増大に国内産業の育成は不可欠、地味に見えてもこれは内政の一環だ。


 だから魔導書を買うお金を稼ぐ意味でも、魔導具や魔法知識を学ぶのは重要だ。

 何より魔導書作りには魔導書では記憶させられない魔術式を理解し記載出来る、確かな魔術知識が必須となっている。

 記憶出来ない理由は記載した時点で、魔術式の記載と矛盾が生じるためだ。


「だからこれは必要な事なんですよ、ドルゴン君。」


 政治的な裏事情を気にせず鼻の下を伸ばせる。何と幸せな事か。

 実際微妙な仕草がエロいだけで、本人は至って真面目だしアレスも余計な事をしない方がエロスを堪能出来る。真面目に授業を受けるのは当然だ。


「こ、このエロ餓鬼は……。」


「真面目な授業しかしてないんだけどねぇ。」


 とは言いつつ、アレスが定期的に訪れる所為で心配性のドルゴンが研究所通いを止める事は無く、マリーテ姉さんは何のかんのと言いつつアレスを拒まない。

 その態度が隙となり、ドルゴンの不安を煽っているのだが……。


「あ、こちら最新の、お菓子作り教本となっております。」


 山吹色のお菓子の如く差し出したのは、最近砂糖の流通量を増やすために開発中のお菓子作りを研究した資料本だ。最終的に料理本となる予定の見本本である。

 彼女がドルゴンその他に振る舞った感想を厨房長にフィールドバックしている、実は真面目な話なのだが。


 当のドルゴンには、アレスに懐柔されている様にしか見えないのがミソである。


 マリーテ姉さんも研究と称し、ドルゴンの好みを把握しつつある。

 胃袋を掴める自信も出来て、内心確かな手応えを感じていた。

 彼女の料理の腕前は、もう間違いなくドルゴン専用である。


(くくく。いい感じに、次の段階にいけそうだのぅ。)


 ちょっとだけ媚薬を飲ませて二人を密室に閉じ込めたい。

 だがそれはいけない。これはそう、甘酸っぱいからこそ楽しめる娯楽なのだ。

 ドロドロのぐちょぐちょなら他の大人で十分だ。彼女達は本当に希少種レベルで純情だからこそ、息抜きの娯楽として最高なのだ。


(さて。後は如何にしてドルゴン君に己が他の女に目が向かない本音を自覚させるかだが……。まあそこはケイトリーの姉御に知恵を借りるかね?)


 貴重な政治の絡まない娯楽だ、慎重に行こう。

 アレスは軽く口論する二人の後ろで、邪悪な笑みを浮かべた。

※外伝整理も兼ねた、冬休み連続投稿中です。詳しくは001+6前後書き参照。

 年末年始はほぼ毎日になってしまった……。


「砂糖は量産体制が整って来たとはいえ、採算が取れるかどうかはまた別だ。

 なので砂糖を使ったデザートの存在は、砂糖の価値を決める重要案件なのだよ。

 君が安価で入手出来る意味、ちゃんと分かっているね?」


「勿論だとも。やはりこっちは女子向けの味付けだね。

 甘さ控えめにして果物感を増した方が食が進んでいる様だ……。」


「「「くっくっくっく。」」」


……こちらが海賊編後の投稿になった理由、お分かり頂けただろうかw



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