001+4.間章 アレス糞餓鬼第二金蔓王子、海賊騒動。
※前回8/9~10日からお盆投稿を開始してます。
今回は12日~16日の5日間投稿となります。第零部4日目の連続投稿となりますので御注意を。
※本編からシリーズ枠に移転させました。内容に変更はありません。
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アレス達三人が向かったのは舟のある浜辺の方だった。
高々十人載れるかどうかの小舟一艘ごとに一人が見張りに付く程、海賊達も人数に余裕は無い。というよりそこまでの警戒心は無い。
アレスは秘蔵というか非売品の魔導具〔シーカーリング〕を用いて『伏兵』技能を使って先行する。一応周囲の様子を確認しながら気付かれない様に、細心の注意を払った上での行動だった。
無論、目的や動機が危険じゃ無かったとは一切言わないが。
松明を持たずに走った事で、一番近場の舟の影までは誰にも気付かれず隠れる事が出来た。見張りのタイミングを計る事で、アレス以外も同様に近付けた。
「オイオイ見張りたったの二人かよ。不用心だな。」
「そうでも無いだろ。百人も居ない連中ならそんなもんだ。」
実の所。この場の三人、全員弓が使える。
だが少々遠い。のでタイミングを見て一斉に次の舟の影に移動するが。
(『収納』。)
小舟程度なら問題無く《王家の紋章》に仕舞えるらしい。
「へけ。」
二艘収納したところで事態に気付いていない、見張りの片方が小便と告げて砂浜を離れていった。
「へけけ?」
ある程度離れるのを待って。
過労で目の死んだ三人は躊躇無く、残った見張りへと狙いを定める。
吸い込まれる様に次々と矢が刺さり、悲鳴を上げる事無く海賊は倒れた。
「「「へけけけけ?」」」
闇に紛れた三人が舟を仕舞いながら松明の元へ走り、松明を蹴ると舟の影に潜み倒れるのを待つ。
砂浜に転がってももう一人が振り向かなかったのを確認し。
松明と残る舟を全て《紋章》に収納してしまう。
物陰で用を足した見張りの片割れは、海辺に明かり一つ無い事に戸惑う。
もう一人は何をしているのかと首を傾げながら歩き、そして気付く。
松明は愚か、舟が一つも無い事に。
慌てて走り出し、波打ち際まで舞い戻って見回すが全く見当たらない。
戻る場所を間違えたかと遠くの船の方角を頼りに砂浜を走ると。
波に攫われそうになっている仲間の死体を発見し。
背中に次々と矢が突き刺さった。
「「「へけけけけけけ?」」」
出血で力が抜けて倒れ込む見張りの男に、一斉に包丁が振り下ろされた。
自分達でも良く分からない笑いの衝動が収まり、全員から肩の力が抜けた。
アレスはもう一人からも武器を没収すると素早く立ち上がる。
「……さて、撤収するぞ。後は国の皆に任せよう。」
「良いのか?待ち伏せしなくても。」
「流石に俺達だけじゃこれ以上は無理だろ。
それに舟が無いなら連中はもう逃げれない。」
追撃に来た大人達が全員始末してくれるだろう。アレスは二人を促しながら静かに村の方角を迂回する形で砂浜を離れる。
「それに俺達が居たら舟を盗んだのが一発で分かる。いや、流したか?
けど居なかったら犯人を捜そうと周囲を探す筈だ。」
「その方が時間は稼げるって訳か。」
正直初陣の緊張で馬鹿になっていた感じはする。
だが最初っから慣れる心算で戦ったアレスと違い、普通に海賊達を倒した二人の様子は少々意外だった。
(いや。むしろ今は緊張で冷静な判断が出来ていないだけか?)
とにかく話は安全な場所まで離れてからだ。今の砂浜には岩場以外の障害物が無いから早急に距離を取らなければならない。
幸いにもアレス達が丁度砂浜を脱出した辺りで松明を持った集団が浜辺に走っていく姿を見る事が出来た。
あの辺なら灯りを持たないアレス達の姿を見つける事は不可能だろう。
安心して近くの岩場の陰に隠れると、海岸際で右往左往する数十個の松明の様子を遠目で伺う余裕が出来た。
「な、なぁ。何か様子が変じゃないか?」
エミールが疑問を口にした途端、辺りから次々と悲鳴が響き渡る。悲鳴と重なる様に叫び声が聞こえ、松明の灯が次々と消えていく。
「や、止めて!許して!」
「オラオラどうした海賊共!さっきまでの威勢はよぉッ!」
「武器を持っただけで強くなった心算か、この素人がっ! 」
「降伏する!降伏するから!」
「知るか!お前らに食わせる飯はねぇ!」
「どぉして舟が無いのォッ!!」
「「「…………。」」」
次第に悲鳴が収まり、慌てる様に沖の船が遠ざかっていく。
重い何かを海に放り込む音が何度も響き、全てが収まると一仕事終わった様子で歓声が上がり、半数近くに減った松明が村に戻っていった。
「……さて。町に帰ろうか!」
「「今からぁ?!」」
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。起きて報告したら、思いっ切り説教された。当然だね★
「言え!何でそんな事をした!」
「折角休めると思った時に騒ぎ起こされてムカッ腹が立ちました!
あと舟が欲しかったので逃げられる前に没収してやったら絶対悔しがってくれると思いました!」
「子供だけで軍事行動やらかすな!敵の退路を当然の様に断つな!
死兵ってのは民兵ですら一軍を打破しうるんだぞ!」
スゲェな異世界常識。そんな普通に死兵が出る戦いをやってんのかい。
まあ正直出来る限り早くLV上げたかったのは確かだが、冷静になると小学生が戦場に出た様なもんだなと自分の焦りを実感する。
「いやぁ若気の至りっていうのはこういうのを言うんだろうね。
どう考えてもやり過ぎてるわ。」
「このクソ餓鬼ぃ……。」
グレイス宮廷伯によると近々正式に王族として取り立てられる準備が整ったが、紋章の事は今後も彼らとジョニー、密偵見習いの彼までだと厳重注意された。
基本的には貴族は愚か他の王族の前でも秘匿必須だという話だ。
地図と舟二艘以外を渡して、後日の馬小屋掃除他を命じられて解放された。
取り合えず海賊の件は大人任せにしておこうと反省したので、本来の目的な砂糖作りの方に戻ろう。
というか一応報奨金は出たので精選機と粉砕機を発注し、更に遠心分離機も可能だったので序でに頼んでおいた。
砂糖作りに付いては今これ以上できる事は無い。ならば次に考えるべきは。
「え~ん、塩、エン。海があるぅ!
そう!塩田開発ですッ!!」
「お前何言い出すの?!」
でんでんでん、と両手を開き。
後ろにジョニーが隠れてたに気付いたので、誘い出し序でに揶揄いました☆
「はっはっは、やぁ人で潜伏の練習をしていたジョニー君。
標的にバレたら逃亡のリスクがあるって知ってたかなぁ?」
「く、何て嫌味な奴だ。で?何が言いたい。」
「色々試したいから手伝って?」
その舌打ち、承諾と受け取った。
この辺りで伝統的に用いられてきた製塩法はと言えば。
1に海水を煮込んで蒸発させる釜焼き方式。
2に板の上に定期的に海水をかけて日光で蒸発させる天日干し方式。
前世であった藻塩焼きでも揚浜式でも無い、塩田としては極めて貧弱で小規模な代物だった。理由は単純、それで国内分は賄えるからだ。
揚浜式塩田にするには大々的な砂浜開拓が必要で、海賊対策に警備が必要となるので費用的にもかなり跳ね上がる。
近隣との交易でそこまでの利益は出ないのだ。
因みに前世で有名な入浜式塩田は江戸時代に考案されたもの。
詰まり生活に余裕が無い状況をある程度脱し、新しい様式を研究しようとする意欲がある金持ちか役人か権力者が現れたか、という話だろう。
実際湿潤な土地だと、天日だけで結晶化させるのはかなり難しい。それはダモクレスでも同様だ。
「まあ試すなら当然流下式だよなぁ。」
入浜式は潮の満ち引きを利用して海水を塩田に引き入れるもの。
流下式は更に傾斜を付けた流下盤の上に海水を流して太陽熱で蒸発させ、更に竹で組んだ枝条架の上から滴下して風力で蒸発させる方式だ。
こちらは昭和考案。イオン式は論外。そもそも無理。
(いや、枝条架も無理か?水車か風車も……駄目だな。予算と場所が無理だ。
ポンプが人力になると逆に効率が悪い。)
結果を知っているんだから、効率化済みの方を選ぶのは当然だ。
場所は海岸近くの見張り塔から見える砂浜を使えばいいだろう。丁度海からは岩陰になる方角もある。
「……なぁ。その地図、随分細かく無いか?」
ジョニーが指摘したのはアレスが持つ海岸線の地図を見たからだ。多分先日二枚とも提出した地図と同じ物だと思ったのだろう。
「これは元々ダモクレス領周辺を調べた時の方。
ていうか向こうの複製側は面積が広いから複製し辛いだけで、折り畳んだ状態で写せば最初程手間はかからないぞ?」
ぶっちゃけ折り畳んだ状態の地図数十枚はもう写した。薄布なら窓に張り付けて線をなぞるだけで、最初の二枚ほどの手間はかからない。
二枚目を切り分けて使うのはこの複製し易さが大事だからだ。
後日この地図も縮小化した略地図を用意する予定だ。勿論その時は予備も作って提出する。今のままでは現地で測量しての修正も大変だろう。
(あれ?小規模だと流下盤を移動させた方が早かったり?)
海水濃度を濃くするためは何回か乾燥を繰り返す必要があり、付着用に藻や砂を利用していた筈。
最終的に付着した砂を集めて海水で流し、濃い海水を塩釜で煮詰める。煮詰め終わったものが完成品の筈だ。
塩田の周りに堀を作って栓をする事で、満潮時に作業出来る形にするから、乾燥させる日と海水を溜め込む日があるのだろう。
という事は、三つくらい並べて一つを海水溜め込む日、残り二つを乾燥させる日と結晶を集める日にするとか?いや、結晶化が数回程度では殆どしないのか?
「まあその辺は試行錯誤すれば良い訳で。」
「……お前、これ何?塩田?」
「そうそう塩田塩田。その試作品。」
「お、お前コレ庶民がやる奴じゃねぇだろ!
大体コレ手伝って俺達に何の利益があるんだよ。」
序でに暇そうな数人捕まえて小道具作りに協力させましたよっと。
「はっはっは。成功したら出来た塩をタダであげるよ?
後完成したら流石に国から褒賞が出るさ。塩造りの効率が跳ね上がるからな。」
「いや凄いのは分かるけど手間と費用が釣り合ってね~よ。
そもそもその新式の製法ってちゃんと全部分かってんのか?」
「忘れた!だから思い出し序でに製法の記録取って再確認してる!」
「「「この馬鹿「馬鹿野郎っ!!」っ!!」」」
「「「……え?」」」
叫んだ者同士がお互いの方を振り向く。
どうやら浜辺の向こう側で、浅黒肌の青年が同郷の青年に殴られていた様だ。
見た目的にも恐らくは最近流れ着いた難民達だろう。
ペロ!これは厄介事の予感!
◇◆◇◆◇◆◇◆
青年達の素性はやはりというか、先日の難破船に乗っていた難民達だった。
どうやら船が海賊達に襲われた際、難民達の一部が海賊達に攫われていたという話だった。そして殴られていた方の青年ドルゴンがその者達の救出を主張し、もう一方の青年に止められたところだった。
「ええと。その難民達に、家族がいるのか?」
「違う。コイツは孤児だ。」
「血は繋がって無いだけだ。家族同然に育った女がいる。」
流石に無神経では?という子供達の視線に名乗って無い方の青年がたじろぐ。
「け、けど無理だろう!海賊達は何処に居るかも分からないんだ。
捕まった連中だってもうとっくに手遅れさ!無理に助けに行って海賊達をここに連れて来たら俺達はここから追い出されちまう!」
「言いたい事は分かるけど……。」
「「「やっぱり凄く無神経……。」」」
「うぐっ!」
流石に彼がいると説得以前の問題なので、先に帰って貰う事にした。
「で?実際の所当てはあるの?」
「……これでも密偵の真似事は出来るんだ。船だって動かせる。
舟さえあれば、この近くの島にこっそり忍び込むくらい出来るんだよ!」
「けど肝心の舟が無いんじゃあ……。」
……あるなぁ、一応手漕ぎ舟が。
「それに島を一つ一つ調べるの?時間かかり過ぎじゃない?」
……《治世》で探せるなぁ。
「というか、連れ出すのは一人で良い訳?」
「向こうにも舟を動かせる奴が何人か連れて行かれた。
全員が無事なら海賊の船を奪うって手もあるさ。」
「というかその人何歳?オバちゃんなら飯炊き係じゃない?
多分国も討伐隊出す話が出てるから、そっち待った方が……。」
「妙齢だよ!そこそこの美人だよ!
ていうかむしろエロいって評判の錬金術師だよっ!!
だから余計に心配なんじゃねぇか!」
「「「エロいのォ?!」」」
やっべぇ。多分錬金術師ってだけで助ける価値あるわ。ていうか。
「「「エロいのか……。」」」
こんな日に限って、紅一点のケイトリーは居なかった。
※前回8/9~10日からお盆投稿を開始してます。
今回は12日~16日の5日間投稿となります。第零部4日目の連続投稿となりますので御注意を。
※本編からシリーズ枠に移転させました。内容に変更はありません。
ドルゴン君の話を聞いていたのは思春期の悪ガキ鬼共ですw
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