表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

001+3.間章 アレス糞餓鬼第二金蔓王子、一桁歳前後。

※前回8/9~10日からお盆投稿を開始してます。

 今回は12日~16日の5日間投稿となります。第零部3日目の連続投稿となりますので御注意を。


※本編からシリーズ枠に移転させました。内容に変更はありません。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 砂糖は製法工程によって「含蜜糖」と「分蜜糖」の二つに分かれる。


 含蜜糖は絞り汁をそのまま固めたもので、黒糖等を指して素材の味が混じる。

 分蜜糖は更に糖蜜分を分離させて結晶分だけを取り出したもので、上白糖や氷砂糖等を指してより甘く癖が無い。


 含蜜糖は割と簡単に出来たが、分蜜糖は器材作りに手間取った。だが手作業なら製法は確立したが、量産したいなら最低でも精選機や粉砕機の類は欲しい。

 なので取り合えずビールなら麦芽で似た様な事をやっている筈だと酒屋を訪れてみたのだが。


「け。どうせ田舎の酒屋が酒を造ったところで三級品なんだ。

 全部他所から買えばいいだろうが。」


 めっちゃ自分の奥さんに管を巻いていた。


「バッカやろォッ!酒屋が酒造りに妥協してんじゃねぇぞッ!!」

「ふべらッッッ★!?」


 取り合えず今の一言だけで抉るボディブローを見舞った。

 膝を突いた酒屋のおっちゃんは、腹に拳が届くかどうかの子供に吐きそうな一撃を喰らった驚きと、初対面の困惑で目を白黒させている。


「一体何が不満だこのスカポンタン!

 アンタ昼間っから酔い潰れるほど酒が好きなんだろうが!」


「う、うるせぇ!酒の味も分からんクソ餓鬼に、高いのにまずい酒扱いされながら酒を造り続ける酒屋の気持ちが分かるかよォッ!」

「え?いやアンタ。」


「能書きは良いんだよォ!

 大事なのはお前はその酒を美味いと思って飲んでいるのかどうかだ!」


「だ、だったら何だよ!新種の酒でも造れってのか?

 売り物になるかどうかも分からない、金にならない酒をよォ?!」


 大人気無く殴り返したおっちゃんの腕を捻り上げ、カウンターでアッパーをかましながらアレスは叫ぶ。


「うるせぇ!酒屋が酒を造る理由なんざぁ、俺が!お前が旨い酒を呑みたいだけで十分なんだよォッ!!」


「はっ!?」


「金にならない?売れるか分からない?

 お前が今呑んでる分を、新作にすりゃあ良いだけだ!

 美味い酒が出来れば増やして売りゃあ良い!売れなくってもお前が嬉しい!

 酒造りっていうのは、そういうもんじゃ無いのかよォ?!」

「坊やアンタ何言ってんだいッ?!」


「お、ぉお?お、俺が呑みたい酒を、造って良いのか……?」


「そうだ!何も売り物に拘る必要はねぇ!大事なのは呑みたいかどうかだ!」

「いや酒造りだってタダじゃ無いんだよ?!」


 必死でおっちゃんの奥さんが口を挟むが、勢いに乗ったアレスは脇に流す。


「当たり前だ!売れ筋だけが酒造りじゃねぇ!

 アンタが美味いと思えない酒が、本当に売れると思っているのか?」


「へへ、そうだな。その通りだ。

 全く、こんな餓鬼に教えられるなんざ、俺様も焼きが回ったもんだぜ……。」


 翌年の、銘酒『アル中殺し』爆誕秘話である。


「……今の何?」


 尚。思わず一部始終を魅入ってしまった視察中のアストリア王子が。

 この日の光景の意味を理解するのは、もう暫く先の話になる。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 精選機と粉砕機自体は先代の鍛冶師が作った物だが、手動なら鍋の応用で造れる類の物らしい。これが職人として凄い話なのか、単に原始的な仕組みなのかは正直吾輩には分からない。


(川の利用はルールがあるから水車を使える様になるのは大分先かな。

 先ずは出来る所から進めて行けばいいか。)


 手伝いしか仕事の無い農家の跡取り以外を巻き込めば、人手はある程度解決するだろう。だが人口が現在のままではやはり将来的に心許無い。

 折角子供から記憶を以って転生したのだから、成長前にそれなりの産業を興して人口増加に貢献するべきだろう。



 悲しい話だ。この辺りには米が無い。豆も麦もあんまり細かく区別されてない。

 それは即ち、味噌も醤油も無いという事だ。

――悲しい話だ。そして使命感に目覚める話だ。



「我は、飯魔界の神になる……!」


「どうしてお前は怪しい言動しか出来ないんだ?」


「風が囁いているからさ。何か用かカーター。」


 将来の騎士を目指す少年は呆れた顔で小さく溜め息を吐く。


「今日の訓練は中止になった。この近くで船が難破したらしい。

 大勢の難民達が流れ着いていて、城の騎士達は今対応に追われている。」


「おや、これは天啓かな?」




――そんな虫の良い話じゃ無かった。

 難民達はこの近くで海賊達の襲撃を受けたそうで、恐らく彼らがこの近くに流れ着いた事は予想されているとの事だ。


 早々に防衛戦の準備を整えるため、大人達は直ぐに動き出した。

 子供達は全員城に集まり待機する事になると言うが、正直襲撃が何時になるかは分からない。


「まあ警鐘が鳴ったらすぐに城か近場の避難所に逃げるしか出来ないけどな。

 避難場所のチェックだけはしておけって話だ。」


 アレスに説明しながら避難場所を案内しているのはアランとエミールだ。

 ゲーム原作ではアストリア王子の護衛騎士となっていた二人だが、今の段階では只の騎士見習いに過ぎない。

 アレスの案内序でに点検の雑用を押し付けられたという話だ。


 まあ実際は義父殿グレイス伯が紋章持ちの子供の安全を確保するために、色々手を打ったのだろう。案外アレスと親しくさせる意味もあるのかも知れない。


(というか……。この二人、もしかして巻き込める?)


「ねぇ。もし二人の協力があれば海賊の襲撃位置を突き止められるかも知れないって言ったら、二人はどうする?」


 ほうほう。途端に緊張感が走りましたな?という事は知ってる?

 お二人は私の《治世の紋章》の事を、聞かされてらっしゃる?




 難民達の漂着した海岸は複雑な岩場になっており、その中でごく狭い砂浜には今でも難破船の破片が漂着し続けている。

 岩山が影になっており、それを海の方角から見つけるのは難しいだろうが、潮の流れやこの辺りの地形を熟知していれば察するのは造作も無い。

 問題はダモクレスに中型を作る技術が無く、彼らを追撃する手段が無いと言う点にあった。流石に数人乗りの小舟では、拠点を見つけたところで何も出来ない。


 だがそれでも拠点を見つける事には意味がある。

 幸いにもこの岩山の崖上には小さな洞窟もある。獣に襲われさえしなければ近隣の無人島を捜索する事は可能だろう。


「……い、意外と多いな海賊達の拠点。あと島。」


 実の所アレスはダモクレス周辺の地図は完成させていた。寝ているタイミングで《紋章》を使えば気付かれる心配も無い。

 使用中は気絶している様に見えるが別に呼吸までは止まっていないので、布団に包まっていれば単に呼吸の上下幅が浅いくらいにしか分からないからだ。


 だが当然ながらそれは町中の王城近くの宿舎の話だ。それでもダモクレス周辺の国々は正確に観測出来る。

 というより、海岸からは海賊しか来ない。

 大型船を使って侵略する国などいないから、王族が警戒する必要は無いのだ。


 なので真剣に海岸線向こうの地図を作った者など今迄居なかったらしい。

 アレスも加減が分からないので、とにかく何度も《紋章》を使いながら、周辺の島々を地面に書き記し、何度も修正して正確な形を描き出していく。

 だがまあ。軽い気持ちで始めた事だが、元々隣接諸国まで監視出来るのが《治世の紋章》の凄さである。普通に探せば視界が遮られる場所も目視出来る。

 そして地味に影の長さと角度を確認し続ける事で、相応の寸法も割り出せた。


……割り出せ続けたのである。


「ねぇ。そろそろ床足りなくない?」


「そうだな。でもまあ、ギリギリ描けるわ。」


 思った以上に終わらない。というか最初は敵の砦の位置さえ割り出せればいいやと思ってはいたのだ。だが止める事が出来なかった。


「……なあ。難民達を沈めた海賊って、どれだと思う?」


「……多分、国に近い方じゃない?」


 無人島の数は百以上。海賊と思しき生活跡、砦の数は多分ギリ百未満?

(総数はどっちもこれから数える)

 流石に複数の島を占拠している海賊達もいるだろうが。



…………最低でも二桁の別グループが近隣で争っていると思われた。



(((いや。多過ぎ……。)))


「海賊が少ないんじゃなくて、単にこっちに来る余裕が無いだけだったのかぁ。」


「というか、明らかに元難民っぽい集団も居たんだよなぁ……。」


 《紋章》はデータ的には魔力を消費しないが、気力というか体力というか、とにかく結構精神的に疲れる。だが問題は未だ何も終わっていないという事だ。

 アレスは地図用に用意した布団用の生地を何も描いていない床に広げる。


「……どうすんの?」


「どうも何も。全部描かないと報告もしようが無いだろう……?」


 変わってくれるの?と死んだ瞳で見上げると、二人とも揃って土下座して。

 じゃんけんで勝ったアランが報告に行って来ますと外へ出て行った。




「……お手柄ですな。アレスの小僧の。」


「お手柄だのう。アレスとやらの。」


 正直今迄海に関心が無さ過ぎた事を認めざるを得ない。

 島の一つ一つは大きく無いが、流石にこれは放置出来ない。

 けれどコレは。


「流石にちょっと準備にかなり時間が必要じゃ無いか?」


「中型船の購入も、視野に入れるしか無いかと。」


「……アイツ、絶対に王族に迎え入れるぞ?」


「はい。というかそろそろ功績的にも十分な気がします。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 グレイス宮廷伯に頼まれて()()()の周辺海域観測地図を描いた。


……いや。重要性は分かるんだよ、だってこのサイズだもん。

 このままだったら絶対使い辛いし、実際に使う時の為にはこの布切り分けて使うべきだって俺だって進言するもん。


……だから一刻も早く同じ地図を描いて片方を切り刻んでも位置が分かる様、全体図を残しておかなきゃならないんだよぉぉぉぉ~~~~………。


「な、なあ。流石に今一度に全部やる必要無いんじゃ無いか?」


「床の方と確認しながら描けるのは今しか無いでしょうが。

 別の機会で床の一部が消えてたら最悪全部、測量し直しやぞ?」


 騎士見習いの二人は現物を見ていないため手伝えない。下手に複数人で描き始めたら間違って床を消すリスクが高まるからだ。


 軽いノリで始めた地図作りは、軍事機密の塊と化して軽食を食べながらの徹夜作業と化していた。だが。

 それでもやがて終わりは訪れる。


「お、終わった……!ば、ばんじゃ~~い……。」


 完成品を床と見比べて問題無い事を確かめて。

 ようやく洞窟の中から這い出して、震えながら体を伸ばした頃には既に月明かりが照らす深夜帯になっていた。


「か、体がいてェ~~~。流石に今日は帰ったら寝坊して良いよな?」


「あ~あ~。というか王城に呼ばれているからそっちで寝ろってさ。

 報告は明日で構わないってよ。」


「まあ今日中に終わるとも思わなかったしなぁ……。」


 子供とは思えない動きで全身を解し、お互いの健闘を称え合う。

 ぶっちゃけアレス以外も地味に大変だったのだ。グレイス宮廷伯に話を通すのも食事を他の子供達に気取られない様に運び入れるのも一筋縄ではいかない。

 何せグレイス伯の家には将来の密偵候補として育てられている義兄弟達が、大勢面白い事を探してうろついているのだ。

 田舎はアレスの様な趣味人以外、大抵暇を持て余すのが普通だ。


 だがその苦労も報われた。もうこの二人にはアレスが《王家の紋章》を持っている事も教えてある。安全に地図を仕舞うためだ。

 アレスの存在が軍事機密の塊である事も、二人は既に理解している。

 三人は既に同じ苦労を共にする、ちょっとした仲間意識が芽生えていた。


 そして解放感に浸りながら、眼下のダモクレス王国を見下ろした。


 カンカンカンカン。


 警鐘が耳に聞こえて来た。

 海岸線から小さな点がチラつくが、恐らくあれは松明だ。


 何が起こってるかと言われれば明白だ。

 海には中型の帆船が数隻と夜の海に浮かび、十数艘の手漕ぎ舟が浜辺に並ぶ。

 砂浜に乗り上げた手漕ぎ船には一つづつ松明が掲げられ。

 そこから走り出した松明を持った人影が、海岸沿いの村を目指している。



 要は連中、海賊達だ。

 海賊達が、今襲撃して来たのだ。


「……なぁ。あいつらにちょっと痛い目見せたくない?」


「「賛成。」」


 正直当時、睡魔と過労で頭回ってなかった自覚はある。

※前回8/9~10日からお盆投稿を開始してます。

 今回は12日~16日の5日間投稿となります。第零部3日目の連続投稿となりますので御注意を。


※本編からシリーズ枠に移転させました。内容に変更はありません。



 アレスが言っていた天啓というのは、難民達に技術者がいるかもという期待です。単なる遭難じゃなくて敵がいたので、それどころじゃなかったというお話。

 海賊に海を歩く超能力なんて無いよ?ゲーム画面では船とか休憩用の小島とかが省かれているだけだよw?


 作品を面白い、続きが気になると思われた方は下記の評価、ブックマークをお願いします。いいね感想等もお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ