001+2.間章 アレス糞餓鬼第二金蔓王子、食糧事情。
※前回8/9~10日からお盆投稿を開始してます。
今回は12日~16日の5日間投稿となります。
※本編からシリーズ枠に移転させました。内容に変更はありません。
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温泉があったのは意外と城の近くだが、割と小高い山の中腹だった。
崖が近いので城へ流す事は難しくなさそうだが、確かに冬場にこの近くに来る気には中々ならないだろう。急な吹雪で迷いでもしたら、転落死の恐れがある。
けれど温泉の湯量はそこそこあって、きちんと掘れば十分使えそうだ。
「いいね。近くの川から水を引けば、温度調節も簡単だ。」
「坊主、本当にこんなところに小屋を建てて金が稼げるのかよ。」
「勿論!それにおっちゃんたちだって温かい風呂に冬でも安心して入れるって聞いたら賛成してくれたじゃん?
ちゃんと費用は計算するんだから、後払いの約束は忘れないでね?」
「わーってるよ。手間賃と利子を取らない代わりに俺達も自由に使って良い。
そう言う話だろ?ちゃんと宮廷伯様の許可は取ってくれよな。」
協力者、猟師のおっちゃん数人と子供達俺ら!以上!
猟師は冬場でも山に入る事がある。そういう時の避難場所の一つをここに作ろうという計画を立てたのだ。
因みに一応温泉は知られていたが、使い道が無いと思われていた様だ。
許可は割と直ぐに下りた。というか実質無償では無いかと首を捻られた。
ざっと板に絵を描いて予定を決めて、必要な木材はどうするのかを聞いたら錬金術師の青年を一人連れて来ているとの事だった。
「錬金術師?!え、木材って魔法で増やせるの?!」
「ああ、そうだよ。ていうか【木材錬成】の魔法は魔法使いなら修得出来る。
単に付与魔術を専門にした魔法使いの事を錬金術師って呼ぶのさ。」
「専門にする利点は何ですか?!」
「残念ながら大して無いよ。エンチャンターって特殊クラスなら有るんだけどな。
魔法使いで限界を感じた皆が、職人達に混じって暮すために名乗るのさぁ。」
お、おう思ったより世知辛い話だった。
どうも厳密な意味で錬金術師という括りは無いらしい。ただ戦いが苦手でも付与魔術で大成する者は居るらしく、自分の店を構える成功者はいるのだという。
ただ田舎に暮す大部分の錬金術師は、【木材錬成】【石材錬成】【金属錬成】のどれかを習得し、現物を魔法で複製してそれぞれ必要とする職で働くのだという。
「板一つあれば何十枚も乾いた木を作れるって言うのは結構役に立つんだぜ?
それにお兄さんは【木材錬成】と【石材錬成】の両方が出来るからね。色んな所で引っ張りだこなのさぁ。」
「じゃ、じゃあ温泉の床を石で固める事も?!」
「固めるのは無理かなぁ。でもそこの平らな石を増やすとかなら出来るよぉ?」
「ヒュウ!エキサイティングッ!!」
温泉自体を銭湯張りに山小屋の中に設置し、完全に冬場は雪を気にせず入れる形に設計し、二つの山小屋を並べる構図にした。
浴室を優先して避難場所の山小屋は後に作る事にしたが、これが思わぬ副産物を生んだ。ぶっちゃけるとサウナだ。
「いやぁ!これ良いな、すっきりする!」
「ていうか洗い場を別に造ろうぜ!服を洗う場所と浴室別にした方が絶対良い!」
「なあ隣の山小屋眠れるようにしないか?避難場所兼ねてるんだろ?」
「ちょ、経費限界あるんだから加減してよ!?」
「お兄さん自腹切るから小屋もう一つ増やさない?」
「お、じゃあオレ使ってない竈門持って来る!」
「火ィ使うんならちゃんとした小屋建てろよ!」
……一ヶ月で、立派な長方形の小屋が三つ出来ましたよ!
あれぇ?実際に風呂に入って貰ったのが悪かったのかなぁ?
「……で。どうやって金を稼ぐ心算なんだ?」
「あ。ここ石版を敷いて下に温泉を通したんだ。なんで年中暖かいの。
ここに敷き詰めた土の上で植物を育てれば、年中使える畑の出来上がり!」
おっと義父上が噴き出しましたよ。どうやらここの価値が一発でお判りになったご様子ですねぇ。
「まあ規模に限界があるんで、単価の高い香辛料や薬草を植えてます。
一応これが今日までに採れた分ね?土は定期的に変える必要があるかなぁ。」
因みにこの畑を担当していたのが私ら子供達です。
大人達の遊び場、げふん仕事場は経費外という形で落ち着きました。その分結構御立派様な建物になっておりましてよ?
「で、如何ざんショ?立派な施設が出来たと思いますが。」
グレイス宮廷伯はフルフルと全身を振るわせて。
「やり過ぎだ馬鹿者ォッ!!城の近くに何十人も立て籠もれる建物を作るな!
そもそもここが敵に乗っ取られたらどうする心算だ!
小規模の山小屋という計画は何処に行った?!」
「「「あ。」」」
結論から言って山小屋は国が買い取り、櫓を立てて小規模の砦として兵士を常駐させる方針で決定した。
一同には罰として国中の温泉の調査を命じられた。
尚、場所に問題無ければ国が支援する形で温泉宿を建設し、猟師達の避難場所として活用して良いと許可が下りた。
「……そうか。で、その温泉というのは、そんなに疲れが取れるのか?」
「……分かりました。城に水道橋を作る事も検討します。」
ダモクレス城温泉、一年後完成。
◇◆◇◆◇◆◇◆
率直に言ってこの世界は、基本的に食事の扱いが悪い。
先ず主食。麦、豆、肉。細かな種類はあるが、料理法でそんなに区別しない。
ここに野菜と山菜、果物がおかずとして並ぶ。唐黍はこの辺では見た事無いし、甘い物は全部果物扱いだ。
さて、肝心の料理法はと言えば。
先ず固パン、パスタ、麺、チーズ、干し肉、干し野菜のどれかにする。
この工程は全ての料理に共通している。というか、この工程を挟まないのは果物だけだ。料理の前に、先ず食材を日持ちする形に加工する方が先なのだ。
香辛料は色々あるが、基本長持ちさせるために用いる。多いのは塩漬けか。
何故この様な形になったかと言えば、この世界が基本、乱世だからだ。
田舎であるダモクレスですら、盗賊が年に数回、必ず襲って来る。
大体隣接国が数年に一度は襲って来る。行商人によると、北部は特に頻度が多いという。毎年冬前に殆どの国が他国へ略奪しに向かうのだ。
これが食生活に致命的に影を落としている。とにかく隠し持つ必要がある。
毎日鮮度の良い食事だけを食べる事は、現在の国力ではかなり難しい。
ただ北部は基本、水不足に陥る事は無い。ダモクレスは海があるので蒸留すればどうにかなる。だから大体の料理は食べる時に煮込む。
多過ぎる塩分を減らすために一手間、それが美味しい食事というものだ。
つまり。食事処の民には、決して許せない現状が此処にある。
「ほほう。つまりこの辺りに、砂糖が取れる植物がある、と?」
「いやぁ。あくまで似た植物が生えてたってだけでさぁ。」
剣術修業が終わった後、旅の行商人から聞いた話を整理するとこういう話だ。
以前子供達が山で引き抜いた茎の汁を吸っているのを見かけた事があり、それが南国で見た砂糖の元の植物と似ていた。
もしやと思って子供達に聞いてみたが、大人は雑草は出来る限り切れと言うので教えて貰えなかったという。
……ほう。実はワタクシ、砂糖の作り方を調べた事がありましてね?
フホホホホ。それは子供の一人として聞くしかあるまい。そして可能ならば製法を確立して、そう。金の生る木に、変えたいじゃあありませんか。
そしてゆくゆくは、ね?
「我は、デザートの王になる……ッ!!」
「まぁ~たアレスが変な事を言い出したぞ。」
将来の密偵候補、ジョニー少年が呆れた顔で溜息を吐く。
くくく、残念ながら今回君は目出度く協力者に任命されたのだよ。
「さぁ吐けェッ!!貴様らが隠しているという、甘い汁を俺にも吸わせろォ!」
「うわぁ!死ぬほど人聞きが悪い!」
ダモクレス王とグレイス宮廷伯は、現状に頭を抱えていた。
アレスとの対面は早々に終わり養子としての認定は済んだ。但し登録されたのは貴族簿、つまり未だ王族の養子では無い。
今の所アレスは背中を誰にも見られていないらしい。というか背中を庇った所為でパンツが脱がされた様で、以来人目を執拗に避けて体を洗っている。
ちょっと病的な清潔度合いなのが少し気になる。本当に大丈夫だろうか。
「おのれグラットンめ。たかが養子縁組にココまで執拗に反対しおって……!」
「あいつは権威主義者ですからな。いや血統主義者か?」
王家に紋章無しの養子を迎え入れる事は別に珍しくない。というより王族だけで結婚し続けるとどうしても血が濃くなり過ぎる。
しかもこの世界戦死率が高いので、王族は子沢山が求められる。側室は割と義務だが、同時に抜け道もある。それが養子縁組だ。
要は優秀な子供や紋章持ちの貴族を血族に迎え入れるのだ。王族が必ず紋章を宿せるとは限らない以上、他の貴族より予備は重要だ。
だがそれでも。子沢山が求められる分、世代によっては王族も養子に出されるしダモクレスの貴族は遠縁で全て傍流王族だ。
農家の片手間で事務やってても畜産しか興味無くても王族は王族だ。
貴族である事にプライドを持ち、王家の血を引かない者に頭を下げる事が心の底から許せない者が一定人数現れる傾向がある。
グラットン将軍は正にその一人だ。
「奴に紋章の事を明かして秘密が守れると思うか?」
「翌日国中に広まり数日中にバーランドが我が子を誘拐されたと叫んで侵略始める方に金貨を賭けます。」
「く。負けると分かってても金貨は乗りたい……!」
「陛下。王族王族、あなたは王族。」
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詳しい調査は技術的な問題で出来ないが、恐らくこの世界は植物の成長が体感で倍くらい早い。
人々が開墾し続けなければ植物は確実に国を侵食し、緑の中に埋没させるだろうとは皆が認識している。
畑の管理は前世以上に重要で、これだけ戦争を繰り返しても食料が尽きない秘密がココにある。
と同時に、頻繁に収穫して新鮮な野菜だけを食べ続ける事も中々出来ない。
技術革新が進まず、やる事が多くて畑にだけに精を出せないのだ。
なので案外、草を食べる家畜の存在は結構重要だ。というかこの国、王都の城壁内で牛を放し飼いにして、街道整備に活用している。
なので民家でも必ず家壁がある。無いと中に牛が入って来る。町の外には牛糞の処理場兼肥料精製所が建造されている。中世暗黒期と比べて案外国は清潔だ。
町にはちゃんと管理されたトイレもある。意外!
あとゴミ捨て場のゴミは片付ければ自由に持って行って良いらしい!
職人が廃品持ってって修理した物を売ってる事もあるぞ!
捨てたモンだからね!リサイクル!
え、職人の基準?無い!強いて言うなら周囲か国が認めたかどうかだ!
錬金術師は魔法で素材の【錬成】(複製?)が出来れば大体認められるぞ!
……ちょっと現代人感覚だと怖いモノがあるナァ……。
閑話休題。
砂糖黍っぽい異世界植物の量産は、以上の理由で意外と簡単だった。
単純に砂糖の原料と製法を知る者がいなかったのが原因の様だ。まあ植物学者がいるかも分からない世界だ、そういう事もあるのだろう。
「アレスは何処で砂糖の製法を知ったんだ?」
「詳しくは知らんさ。単にこの手のものは全部絞ったり煮出したりで必要な成分を分離させるだけなんだよ。手順は違っても必要な事は同じなのさ。
薬草でも似た様な事はやるだろ?それと同じだ。」
カーターの疑問に絞った黍モドキ汁を煮込んでろ過しながら答える。
というか異世界の植物が前世と同じ植生とは限らない。実際のところは試した上で毒性が発生して無いかを確認するしか無いのだが。
フゥ~~~~ッハッハッハッハッ!!知っているかな?『鉄心』スキルの事を!
このスキルはななな、なぁんとォッ!あらゆるステータス異常を弾くのです!
分かるかね火の本の民よ!詰まり吾輩は、河豚を余さず食べられる究極生物なのだよ!そう、別に毒が分からない訳では無い!
つまり効かないだけ!ノーダメージ!
「それで?何でアレスはそこで黒い顔をしているの?」
「食べ過ぎは物理ダメージなのだ……。覚えておきたまえ……。」
食中毒も毒の場合と物理の場合がある。メモっておこう。
「ところでその砂糖って勝手に作って良いの?許可いるんじゃない?」
「どういう事?」
ケイトリー曰く。一部産業は国が保護しているため、品質保証されていない商品を売る事は出来ないという。例えるなら座の様な仕組みがある様だ。
「その辺どうなんですかね義父上。」
「…………いやお前。そもそも砂糖が国内で精製出来るって話が初耳だからな?
許可制にするかはこれから議論される話になる。
というかソレ、自腹でやってるの?え?お前年齢サバ読んでない?」
……そういや変かな?いや前世でも大してやってる事変わらんわ。
「完成したら産業化しようぜ義父上!交易で一儲け!」
虫歯には気を付けてな!
※前回8/9~10日からお盆投稿を開始してます。
今回は12日~16日の5日間投稿となります。
※本編からシリーズ枠に移転させました。内容に変更はありません。
別にアレスは天才的な知識や技術を持ってる訳じゃないです。単なる趣味人w
忘れてたり自分じゃ出来ないところに躊躇無く他人を参加させる。利益を折半する事で人を雇う。後はトライ&エラーを繰り返してます。
ぅう~ん、今日もワシの胃袋で耐久試験w
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