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001+10.間章 アレス糞餓鬼第二金蔓王子、味噌子爵。

※年末年始、投稿予定表再。

 本編。22日、24日、25日、28日、31日、1日、2日、3日、4日、5日、11日。

 零部。20日、26日、27日、29日、30日。

 ??、31日。

※脳死をするのだ。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 実際問題、発酵食品の開発には時間がかかる。

 例えどれだけ知識があろうが、地域や周辺環境が変われば発酵具合や菌種も変わるのだから、今迄のノウハウが新天地で役に立つとは限らない。

 ましてその道の素人が集まってるのなら猶更だ。


 それでも個人単位で試すだけなら少量でも可能であり。

 例えば苦汁ことにがりは海水を煮込み、塩から分離させた琥珀色の液体の事だ。


 簡単に言えば塩田で塩分濃度を増した鹹水を濾過して釜で一割になるまで煮詰め再度濾過、再び煮詰めて塩分が結晶化してとろみが出て来たら再度濾過。

 最初の濾過はゴミ取り、二度目の濾過は先に結晶化する成分の除去、最後の濾過で塩とにがりを分けて分離完了。

 水分を完全に飛ばすと塩以外の成分も結晶化してしまう。にがりを絞った塩分を乾燥させれば食塩の完成だ。つまり塩を作ればにがりも入手出来る。


 にがりとは何か?それは豆腐の凝固剤だ。他にも使い道はあるがそれ以上に大事な事など無い。それ以上に大事な事など無い。私ならテストに出す。


 因みににがりは海水からしか作れないが、豆腐作りに使うなら代用品がある。

 要は大豆の絞り汁、豆乳を固めるための凝固剤だ。味は変わるが凝固出来るならにがりに拘る必要は無いのだが。そんな事はどうでもいい。



 味噌さえ出来れば、味噌汁に必要な全てが揃う。それだけが肝心だ。



「知っているか、諸君。味噌は、家庭でも作れるのだ……。」


 苦節ン十年、遂に味噌汁を異世界で味わう日がやって来た。

 異世界での菌類は同じなのか、諸々性質が変われば味も変わるのでは無いか。

 細かな失敗はあった。手順の違いもあった。道具も必要だった。


 だが火の本の魂は、今ここに結集された。遂に、辿り着いたのだ!


「おいアレス王子、事件だぎゃわぁ!!」


「覚えておけ。食べ物の恨みは恐ろしい、とな。

 食い物の恨みは命にかかわるのだ……。」


 人を殺す勢いで壁を貫通した包丁に、ジョニーはアレスの本気を感じ取る。

 正直、味噌汁の一杯を口に含むまでは正気を失ってたかも知れない。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「味噌と醤油には、夢があるんだっ!!希望の星だッ!!」


「味噌とやらだけでは終わらんのかお前の狂気は。」


 王城に戻って来たアレスにジョニーの怯えっぷりの理由を説明したら、お前の食には狂気が宿っているのかと呆れられた。

 いや警告だから殺意は無かったよ。死んだら警告出来ないじゃん。壁だって人に当らない位置を選んだよ。てへ。


 全員の拳か足が、体にめり込んだ。

 狙いどころといいタイミングといい、全員実に慣れて来たものである。

 お陰でアレスも流石にしばらく声が出ない。


「話を戻そう。今回は隣国マルケルからの侵略軍だ。

 数だけなら二百程度だが、問題はバーランドだ。連中も秘密裏に軍を集めており恐らく裏で同盟を組んでいる。

 流石に両国同時に攻められれば、本気で攻められずともダモクレスは危うい。

 幸い今は準備中だが、早急に手を打つ必要がある。」


「えぇい、またか。マルケルは最近不作続きらしいからな。

 まあ立地が悪いから今以上に畑は増やせんだろうが。」


 バーランドは表立って動いていないが、軍事物資を事前に国境際の砦へと大量に運び込んでおり、恐らくは位置的にダモクレスから遠いからと高を括っているのだろうと予想が付く。

 だがマルケルの反対側の砦と言うのは如何にも過ぎて分かり易い。

 因みに確認したのはアレスだが、密偵網は当初バーランドしか掴んでなかった。

 むしろ囮の筈のマルケルの方が目立たずに動いていたのは少々皮肉が過ぎる。


 いや。案外マルケルはバーランドに小突かれただけで、乗り気じゃない?


「ん~。ていうかマルケルって、買収しちゃ駄目なの?

 いっそダモクレスに臣従してくれれば、この程度の人数だし交易で向こうの生活保証も出来なくない?」



(((…………()()…………?)))



 向こうが畑増やせない理由って多分、ダモクレスとの国境際を開拓出来ないからじゃね?緩衝地帯を無くせるならそこに畑を広げられる訳だし。

 国境的にもそっちの方が、警備兵を減らせて助かると思うんだけど。


(((……え、国を買うって事?え、いや。違うか?違うの?)))


「ダモクレスとマルケルってそんなに因縁ある?

 お互い困った時にしか攻め込んでないと思うんだけど。」


「……いや、そのな?

 普通に出来そうだけど、王様今いないんだが?!」


「実際マルケルだけなら小競り合いしかしてないし!出来ないし!

 そりゃ恨みがあるかって言えばそうでも無いんだけど!無いんだけど!」


「普通に我が国って他国を買収出来る程の収益って本当に上げてるな!

 今年の黒字って去年の数倍だわ!」


「皆さん、それは去年の黒字額が低過ぎるだけです。冷静に。」


「「「はい。」」」


 でもまあ実際現段階でもこの黒字だ。今年の収益はもっと増える。交易船が数隻纏めて沈まない限り、赤字に転落する事も無いだろう。


「しかし実際王がいない間に決めて良い案件では無いだろう?」


「だから現段階では相談です。でも連携しているならマルケルは、バーランドを先に襲撃してしまえば沈黙させられるのでは?」


「そ、そうか。共闘なら片方が進軍を止めれば契約違反な訳で……。」


「しかしそんなに上手くいくかね?その場合マルケルが攻められるだけでは?」


「そこは勿論、マルケルとの緩衝地帯の開墾にダモクレスも出資してだね?

 どっちか一方の土地にせず、そこにバーランドを迎え撃つための軍隊を用意しておくとだね?向こうにとっても安心材料な訳で。

 そう言えばマルケルとは反対方向に、ダモクレスからの襲撃で壊される予定な次の橋頭保になりそうな砦があったなぁ。」


(((……コイツ、これ今思い付いたんだよな……?)))




「そんな旨い話が呑めるとでも?そもそも信用出来るとでも?

 そのまま我々を武力で属国化してしまう心算では無いのかね?」


「上がりますかな?それ程の収益が貴国から。」


 マルケル城、当主の館。

 近代の様な城を連想する者には砦にしか見えないだろう、小さな古城。

 石積みの建物は半数も無い、緊急時には全住民を抱え込めるかも怪しいだろう。


「では一体、どれ程の収益を臨んでいる?」


 そんな小さな館の城主は、突然現れた全権大使を名乗る子供に対し、不信感を露わにして一蹴して見せた返事がこれである。

 重臣達が子供に舐められたと色めき立つが、マルケル王は荒唐無稽過ぎて、逆に挑発とは思えなかった。

 取り合えずまるで大金をせしめる計画があると言わんばかりの子供に対し、その腹案を聞き出すため周囲を軽く押し止める。

 これで全てを漏らすのなら、同盟などせず勝手にやれば良い。

 子供の浅知恵、さて如何なるものか。


「この緩衝地帯、全てを農地にした場合の収益を。

 腹を割って話しますが、あなた達の法はダモクレスと大差ない。つまり臣従して頂ければダモクレスの法をそのまま畑に適応出来る。

 つまりこの面積で、通常通りの税率を収めさせる事が出来る。

 これが、ここに畑を用意した場合の推定収益額です。」


 普通に地図が、開墾推定経費と面積毎の収穫率を記した計画書が出て来た。


(いや。確かにコレはこの地が緩衝地帯な限り机上の空論だがな?)


 そして本当に我がマルケルの、国家予算に匹敵する規模の収益計画だった。

 数値に異論は無いどころか、多分我が国で立てても同程度の計画書が出来る。


(我が国の人口ってこの程度だったかぁ……。

 いや、我が国の住民だけじゃあどうあっても足らんな、この規模は。)


 この計画をやりたいなら、本当にダモクレスの協力は不可欠だ。

 というか。まさかコイツ、臣従という体でマルケルから労働力を募集する計画だと言われても正直納得する。


(……いや。我々を丸々取り込めば、真面目に属国にしない方が儲かるのかぁ。)


 国防計画にマルケル国の軍がそのまま計上出来る。確かに家臣として代官統治を認める形なら、マルケルには恩を売る形にすら出来るだろう。

 何せ開拓の費用も人も折半では無く、ダモクレスが多めに出してる。

 国境が消えて農地になれば、此処を未来の防衛拠点にするのは不可能だ。反乱を起こすのも難しい。増税しなくても開拓費用はいずれ元が取れるだろう。

……物凄く普通に、妥当だという数字しか書かれていなかった。


 何というか、ダモクレスの資産力を当てに出来るならマルケルに損は無い。

 悲しいやら嬉しいやら有難いやら情けないやら。


「まあアレです。折角なら此処も、食料件交易用の作物を育てる拠点にしたい。

 実は我々は、新しく味噌という調味料を開発しましてな……。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「陛下!では私の事は、味噌子爵とお呼び下さい!」


「う、うむ。我が国の将来を担う新たな交易品、元国王である貴公にそこまで高く買って頂けた事を嬉しく思う。

 今後は我が下で、マルケル子爵として領地の管理に尽力して貰いたい。」


 どう考えてもバーランドに勝った事はおまけだが、あくまで彼の国の臣従は自分ダモクレス王の承認あってこそ。

 はっきり言って選択の余地は無いし、時間的に確認を取る猶予も得られる利益も自分のメンツも完全に保たれた、文句の付けようもない対応なのだが。




 誰が自分が息子の婚約者を決めて帰って来たら、国土面積が約五割増えてるとか想像出来るだろうか。税収がスゴイ増えてる。くろじすごい。




 いくら大部分未開地だろうがそういう問題じゃないだろう?

 息子などは『もうあっちが第一王子で良くない?』とか笑顔でほざく始末。

 尚当の本人は『いやいや第一王子が仕事をサボりたがるなんてそんなまさか』等という人聞きの悪い冗談で対抗している。え?もしかして実子本気?

 我が息子本気で王位譲りたがってる?


「うるせぇ!王位より醤油なんだよォ!オマンマが最優先なんだよォ!

 玉座に座って新しいメシが開発出来るかッ!!」


 そこで本気で玉座拒否するの止めてくれない?祝いの席だからって王いるのよ?

 ねぇ?息子達がどっちも本気臭いの。

 派手な笑いが二人から絶えないの。こいつらスッゴイ笑い声が胡散臭い。


「陛下。ご報告は終わりましたが、明日から本格的に仕事に復帰して頂きます。」


 ヤダ儂の腹心容赦無い。グレイス宮廷伯が目で現実逃避するなって訴えてる。


「あのな、儂これでも長旅で……。」

「私はあのアレスにあなたの代理を務めさせてました。

 ところで例の件、如何なさいましたか?」


「…………アレスの王位継承権は認めて貰えた。

 紋章についても未だ追加で発現の可能性がありと、ダモクレスの紋が揃っている事だけは匂わせて来た。

 現聖王陛下は『続報は必ず報告する様に』との事だ。」


 つまり紋章は最低三つと、正しく理解されたという事か。

 やはり将来的にはアレスに、聖王家の傍流と婚姻を結ばせる事になりそうだ。


「……ていうか、ホントやだコイツ。

 絶対コイツを国外に逃がしたら国が傾く。」


「………………………。」


「オイ、形だけでも否定したらどうだ?」


「…………い、いえ。まさかそんな……。」


 ヤダ宮廷伯、本気で口元を隠して呻いてる。

 付き合いが長いコイツがここまで動揺するの始めて見た。

 え?考えてなかったの?思い至ってなかったの?ねぇ腹押さえているよ?


 その反応、マジなん?


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふざけるな!マルケルがダモクレスに無条件降伏した上に、臣従して子爵位まで賜っただと?しかもマルケル王が味噌子爵を名乗って喜んでいた?!

 頭どうにかしてんだろこの偵察員ッ!!

 今直ぐ首にして別の奴に挿げ替えろ!今直ぐにだ!」


「陛下、落ち着いて下さい!今のダモクレスならアリです!

 前もホントだったじゃないですか!」


「そうです陛下!これ以上密偵頭を挿げ替えたって報告は変わりません!

 いえ、嘘しか報告して来なくなった方が問題です!」


「じゃあお前らならこの報告を信じられるって言うのか?!」


「「「いえ、それは。」」」


「ふざけんな貴様らぁッ!!」


「陛下、頭おかしいのは我々ではありません。

 あのアレスとかいうクソ餓鬼です。現実を認めなさい、兄上。」


「う、煩い五月蠅いウルサイ!こんな現実あってなるものか!

 そ、そうだ。こんなものは夢に決まっている……!」


「陛下を寝室にお連れしろ。薬を飲ませて休ませるのだ。

 少しくらい強い薬でも構わん。陛下の安眠こそが大事なのだ。」


 敗北に次ぐ敗北の報告に耐えられなくなった兄が、泡を吹きながら運ばれる。

 ダモクレスの密偵網はバーランドでは太刀打ち出来ない。そんな事は彼の国が常に証明し続けた事で、周知の事実だ。


 最初から色眼鏡を付けて報告を聞くべきだというのに、それが出来ない無能な兄にはそろそろ引退して貰うとしよう。

 玉座から降ろされた兄が、再びこの席に戻る事は無い。

 いずれは精神の安定を保つために、後数ヶ月くらいで強い薬を飲み過ぎて心臓に負担をかけて急死する事になる。



 未来のバーランド王は、己の躍進を確信して玉座に腰掛ける。

 その事に安堵こそすれど、今更拒絶の意を示す者はこの場にいない。



「さて。こうなっては当分ダモクレスへの干渉は控えるしか無かろう。

 陛下の意にも沿わぬ事になる。密偵頭の件も、今は保留だ。

 摂政として、当面のダモクレスへの介入を禁ずる。良いな?」


「「「閣下の、お心の示すままに。」」」




 彼がアレス王子に一騎討ちを挑む未来は、既に十年を切っている。

※年末年始、投稿予定表再。

 本編。22日、24日、25日、28日、31日、1日、2日、3日、4日、5日、11日。

 零部。20日、26日、27日、29日、30日。

 ??、31日。

 取り敢えず一区切りです。次は完結までストックしてから投稿予定。



 アストリア王子がハーネルのマリエル王女に一目惚れされて帰国する間、アレスが何をしていたのかという話、一区切りですw

あすとりあ「コレより天才とか、無いからw」


 最後に登場した方の未来は、本編『4.第一章 バーランド王討伐戦』をご参照下さい!ちゃんと登場している、あの方の事ですよ!



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