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001+1.間章 アレス糞餓鬼第二金蔓王子、はじまり。

※前回8/9~10日からお盆投稿を開始してます。

 今回は12日~16日の5日間投稿となります。今日から第零部の開幕です。


※本編からシリーズ枠に移転させました。内容に変更はありません。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 それはある昼下がり、王城の私室。

 普段ならば執務が終わっている珍しい時間帯に顔を出したのは、密偵頭を務めるグレイス宮廷伯だった。


 身も蓋も無い事だがダモクレス城は常に人員不足であり、先触れは城門に届くし待機用の客室も城壁の尖塔を使う。勿論これは大国では有り得ない話で。

 理由は単純に、予定表を確認して探すからだ。


 規模が小さいダモクレスで国政に関わる仕事は案外少ないので、大体は朝に陳情を聞いて、午前中に対応を検討して作業を分担し、城を出て現場に向かう。

 現地視察を終えた頃に昼食を取るのが普通だと言えば、昼食後の王族が鍛錬等で城外を出歩いているのも割と納得される話だろう。

 地方王族においては、馬に乗れる事と戦える事は極めて重要だ。

 はっきり言えば馬に乗れなくなったら次世代に引退しないと国が危うい。

 王が出陣出来るかどうかは、国防力の限界といって良い。


 とにかく。昼以降は王族とて城内に居るとは限らない。

 密偵頭のグレイス宮廷伯は非常時に備え、直接面会する許可を得ているとはいえ王城への報告は密談と緊急時以外はプライベートな時間を避けるのが常だった。

 故に珍しく動揺を顔に出したグレイス伯に、ダモクレス王は驚きと共にどうしたと問いかけ次の言葉を待つ。


「実は先日、森で拾った少年を養子にしました。」


「?そうか。それが何か問題なのか?」


 実のところ、貴族が平民を養子にするのは案外珍しくない。

 今の時代、人は思いの外簡単に死ぬし、人手は常に不足している。

 養子といえど全てが嫡子と対等な筈も無く、貴族の身分を与えず身元保証人として優秀な平民を囲う事は珍しくない話なのだ。

 勿論失態を犯せば勘当される事もあるが、普通は何かあった時は義理の親として力になってくれる。

 その対価として奉公するというのは、意外と何処の貴族でもやっている事だ。

 ある程度周知は必要だが、平民なら孤児だろうが関係無い。

 貴族にするなら確かに王の承認も必要だが、先日の話なら玉石混淆、本音を打ち明ける程親しいとも思えない。

 密偵頭ともあれば、人に言えない仕事もさせる。王に伝えていない養子の方が多いくらいだろうと思うのだが。


「今日、風呂に入れたのですが。」

「いやだから何だと。」


 読書というのは贅沢だ。本を買える者は案外少なく、特にダモクレス王は他国の風土記を好んで読む。

 ダモクレスは貧乏なので、夜の明かりは松明か蝋燭。何時間も読み耽られるものではない。今の時間は貴重なのだ。

 早く続きを読みたい。段々我慢出来なくなって来た。


「背中の紋章が、五つあるんです!!」

「ふざけんな今すぐ本人連れて来んかッ!!」


 アホ程大事だった。背中に複数の紋章がある、それ即ち高位貴族か王族という意味だ。他国の王族が迷い込んだとか、戦争モノである。


 閑話休題。

 どうも最低でも認知された王族では無いらしい。


「有り得ると思うかねグレイス伯。五つだろう?誰が手放す?」

「むしろ認知されてない方が有り得ると思います。何せ五つです。」


 言われてみればその通りだ。我が子だと主張しない道理がない。

 因みに五つがどれほど珍しいかと言えば、初代聖王ジュワユーズ一世が比較対照に上るレベルだ。最初の数代以降、五つが居たという記録は無い。

 ぶっちゃけこの子供を王家に迎え入れれば、北部でも聖王家との婚姻が可能だ。

 何せ聖王家が一番五つの紋章を欲している。今の聖王家は概ね三つの者が王位を継承しているが、直系ですら二つの者も増えているらしい。

 まあ普通の貴族なら一つでも自慢出来る。紋章四つすら多分今代では一人も居ないだろうというのは想像に難くない。


「選択の余地は無いと思います。

 彼の紋章は《王家》《治世》《軍神》《賢者》《魔王》ですから。」


 紋章は全て遺伝するとは限らないが、殆どの場合直系であれば親が子に転写する形で継承出来る。そして紋章を宿す者は、常人とは隔絶した成長力を誇る。

 要は各王家は特定の紋章を継承権の根拠として定めており、逆に言えば同じ紋章を持つ者は王位継承権を詐称出来るのだ。

 勿論偽物は親と似ていなかったりするが、紋章を継承出来る者は貴重だ。なので普通は周囲も敢えて気付かなかった事にする。囲い込むためである。

 うん。まあ、嫡子扱いせずとも隠し子扱いにして家族と結婚させた方がね?直系王族替えが利かないとか、どの王家でも困るので。とても困るので。

 王族の嫡子は精々三人程度でも、側室やらで子供が十人とか王家なら普通普通。

 老衰で死ぬ王族とかまあ半分居れば良い方?


 そしてダモクレスが王位継承の必須条件と掲げているのが《王家》と《治世》。

 少年アレスが継承している紋章の一部である。

 隣国バーランドは、いつでもダモクレスを狙っている。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 《治世の紋章》を使えば現在位置が直ぐに分かると気付き、早速使って見て自分が狼に囲まれていると気付いたアレスは、辛うじて人里に逃げ延びる事が出来た。

 その後里の人間に助けられ、晩御飯に里の皆と狼を頂き。

 アレスはグレイス宮廷伯の養子となる事が決まった。

 素性不明の子供なので、取り合えずは手元で養い序でに見張る事にしようという話でまとまったらしい。グレイス伯がそう言ってた。


 グレイス宮廷伯はダモクレスでもトップクラスの名士である意味一番王家に近い貴族なのだという。因みにダモクレスには宮廷貴族がやたら多い。

 何故なら宮廷貴族は領地無しの役職のみ貴族を指すからで、領地持ち貴族家など数名しかいない。なので王家直轄領の運営は宮廷貴族達全員で行う。


 王家の役割は所謂議長であり、実質管理下にあるのは王城だけだ。

 王城内は中堅国くらいに広いぞ!中庭の七割が王族が育てる畑だ!マ?マ?

 乗騎の世話係は傍流王族が代々世襲?使用人全部宮廷貴族?そっかー。


「では義父上、この国の常備兵は何人いるのですか?」


「0人だ。武将は含まないとはいえ、騎士だって内職があるからな。

 中々専業で生活するのは難しいとも。」


 うん。勝てねぇなこの国。


 あれだ。もしかしてゲームで最初十人部隊でスタートなの、北部の兵力が低過ぎだからなんじゃね?

 案外この国の実情を無理矢理ゲームに当て嵌めたのが原因だったりして!


……え?この状況で国滅ぶの?

 え?……神具増えるくらい難易度上がってるかもなの?


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 アレス5ちゃい。前世の記憶取り戻して約半年が過ぎました!

 学校で習う内容は全てマスターしたぜい。なんと成績トップです☆

……この世界では、小学生LVの勉強を学んだら学校卒業デス★

 高校?中学?ありません!

……いや、大学はあるんだ。魔法大学。

 具体的には〔中央部〕にある砂漠の国シャラームって言う他国にね?ゲーム唯一の大学があるの。魔法を研究するためだけの大学が。

 というかこの国の成立自体が、古代遺跡を発掘していた魔法使い達が町を築いた代物で。現地部族と調査隊が手を組んだり対立したりで出来た国だった筈。

 ふふふ、どうやら原作ゲームに関わる情報は、前世で見聞きしている限り詳細を思い出せる御様子ですよ?まあ出来る限りメモは取っとくけど。


 とにもかくにも。文字と数字は全てマスターしました。

 地理は北部全土も微妙、というかダモクレス国内以外の正確な地理情報などこの国にはありません!歴史も同LVだ!マジか!


「アレスよ、お前コレ絶対数学とか事前に教育受けてるだろう?

 少なくとも平民が習う様なレベルの学力じゃないぞ。」


「ふははは、残念ながら本当に物心付いた頃には森にいたとしか言えません。」


「どこかで頭を打ったとでも言う気か?

 それはそれは、随分都合良く記憶喪失になったな。」


「いや、まあ本当に記憶喪失になった可能性も捨て切れないんですが。

 何せ冬をどう過ごしたか、全く記憶に無いもんで。」


 勿論はっきり認識出来なくて普通に山の洞窟とかで過ごした可能性はある。

 だが同時に、森の動物から逃げてる最中に頭を打って、朦朧としたまま日々を過ごした可能性もあるのだ。

 というか、そのタイミングで前世の記憶を取り戻した疑惑をね?


「……え?本気で言ってる?」

「うん。本気本気、だって狼に襲われる前に人と話した覚え無いし。」


 でも不思議と会話に全く困ってないの。コレ転生チートだと思う?

 わたち未だ五歳児なのよ?異世界サバイバル、前世の記憶で何とかしてたの?




「という訳で、本当に何処かの隠し子の可能性があります。」


「……真面目な話気付かないって、有り得ると思うか?」


 ダモクレス王とグレイス宮廷伯は、執務室で揃って頭を突き合わせる。

 どうやら想像以上に優秀な様だ。それ故スパイ疑惑も冗談だと言い切れない。


「有り得るでしょう。紋章は肉体が負荷に耐え切れない状況では発現しません。

 転写すれば必ず全ての紋章が宿るなら誰も苦労はない。

 そして元々五つ遺伝していたのなら。ある程度成長するまで紋章が浮かび上がらなかった可能性も、家伝の紋章を全て弾いてしまった可能性も有り得ます。」


 だがグレイス伯の意見は違った。アレスに何処かを乗っ取らせれば、逆に飼い犬に手を噛まれる方が有り得るというのだ。

 玉座に居ながらにして他国の傀儡になる人生を喜べる者は稀だろう。

 そして派遣先の王家では、必ず紋章五つの価値を教えられる事になる。


「優遇される王家と共に歩む人生と、冷遇される他国に服従する人生。どちらが良いかは明らかです。婚姻を盾にすれば他国の協力も仰げる。

 ですが逆に、紋章が無い王族だったなら。捨てられる理由には十分です。」


「……だが紋章が五つだと気付いたら、奪い返そうとするよな?」


「ですが先に紋章抜きに聖王家の承認を得てしまえば問題はありません。発現する前に届け出る事は可能です。先に承認を得て、後日紋章の数を報告しましょう。

 勿論発覚は遅い方が良いでしょうが、承認を得た王族を自国の者だと言い張る事は出来ません。聖王家に反旗を翻す事になりますから。」


 養子を嫡子にする事は普通に可能だ。それこそ聖王国の承認すら要らない。

 聖王国は基本、領土争いに積極的に介入する事は無い。何故なら各地方の王家は全て紋章を通して聖王家の縁戚という形になっているからだ。

 正確なところは既に絶えて久しいが、表向き全ての《紋章》は聖王家によって齎された事になっている。

 だから聖王家を祖と認める限り、誰がその地方のトップになろうと聖王家の正当性は否定されない。元々全大陸を聖王家が統治し切るのは距離的な問題で難しいと結論が出たが故の措置だ。故に聖王家は、頼まれない限り仲裁をしない。

 逆に言えば、主張に正当性があれば介入する事もある。


「ダモクレスの王族が聖王家との婚姻を望む。その形が一番安全です。

 紋章を理由に他国から王位を要求される恐れも無い。紋章五つの血が手に入るのなら、聖王家だってダモクレス保護に協力的になる。

 逆に聖王家にとっては、婚姻先に力がある方が厄介です。」


「ふむ。儂等としては侵略の口実にされないなら、他は妥協出来るか。」


「というか、聖王家との縁戚って普通に美味しいですしね。」


「そだな。となると理想は、アストリアの子とアレスの子が婚姻を結べる事か?」


 義理の兄弟の子供。義いとこ同士?


「一応問題はない、か。」


 法的にはセーフ。というかその辺を条件に聖王家の協力を取り付けるべきか。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 風呂に入りたい。だが中世基準の世界観まして豪雪地帯ではどうしても薪が貴重品なので世間では水浴びが中心になる。最も別に嫌われてはいなかった。

 というか猟師は割と頻繁に入るらしいし、とある滝壺周辺は女性陣の洗濯兼水浴びスポットとして男子立ち入り禁止となっている。

 洗濯中に水浴びをすれば見張りも可能、実に効率が良いですな。

 因みに同時期に山に入る猟師が増えるが、割とこの世界は男女差別が無い。死は誰にでも訪れるものだからね。まあ美少女キャラがゲーム画面に並んでるって事はそういう事だよ。え?何で風呂の話の最中にそんな話を?ハハハこの時期は事故死率が増えるんでね。山に入る時は気を付けるんだよ(高速会話)?


「アレス、お前女の裸に興味があるのかよ!」


「すごく。伊達に女好きは自称してないぜ?」


「お、おう。お前そういうとこホントすげぇよな……。」


 話は逸れたがあくまで今回は自分が入りたいという話だ。特に温泉、冬場も入れる様な場所があればもっと良い。やはり水浴びと温泉はね?違うんですよ。


「温泉ならあるわよ?別に湯沸かし用の魔導具が欲しいって話じゃ無いんでしょ?

 けどこっちじゃ冬場に、湯冷め覚悟で入りたがる変人はいないわね。」


 答えたのはケイトリーだ。魔法使い見習いの少女と、同じく男子トミー。二人は恐らく両親と同じクラスを習得するのだろうが、現段階では決まってない。


 貴族に限らず成人した者は必ず基礎クラスを得る。戦闘職に就くとか就かないとかは関係無いのだ。野盗に殺されたくなかったら自衛手段は必要だ。

 そしてこの場にはもう一人、アレスと同じ密偵職に就くと思われるジョニーだ。

 ぶっちゃけ同世代メンバーの中で紅一点のケイトリーがこの中に紛れている最大の理由は、この中でリーダー的存在が彼女だからだ。

 最近グレイス伯に拾われたアレスとジョニーが加わったが、彼女に逆らえる男子は少ない。意外と彼女はモテるのだ。


(ね、ねぇ。ケイトリーってアレスに気があると思う?今のそういう事?)

(まさか、姉御だぞ?ていうかアレスって普通に裸見れるんじゃね?

 確か前、水浴びの時一緒に連れて行かれたって聞いたぞ?)


「ぇえ?!アレスって女だったの?!」


「男だよ。男の尊厳的に切実なんだよ……!」


 あれす一桁歳。母親と一緒にお風呂入る年齢扱いされるのも分からなくはない。

 因みにオイラ美少年な!皆きゃーきゃーいうくらいのイケメンな!


「そういう事よ。流石にあの光景は哀れだもの。」

 姉御発言はスルーした様だ。


(わきち前世社会人の魂!エロイんじゃなくて怖いんだよ!集まるな!弄るな!

 子供なんだよ!小さいのは当然なんだ!可愛いは絶対に禁句なんだよ!!)


「お、お前その蹲り方はどうよ「ってバカ!そっとしておけ!」お、おう?」

「そ、そうか。大変だったな。」


「でもなぁ。男は割と川の下流で服ごとだぜ?

 一通り泳いだら服を絞って家で干して。精々がその場で新しい服に着替えるくらいだろ普通。男が気にするのって便所か血の臭いくらいじゃね?」


 衛生感がなー。時代的になー。


「まあお湯で温まるのに慣れたらお前らだってわかるさ。

 それに温泉には色々使い道があるんだよ。」




「ちょ!不味いだろ?!アイツ温泉なんて探してるの?!」


「王よ、落ち着いて下さいむしろ好機です!アイツが暴れなかったら紋章がバレたかも知れません!ここは協力した方が都合良いかと!」


「そうだな!イモ洗いの方が悪いな!

 よし、早めに王城に登城させろ!性格とかは後で矯正すれば良い!」


 裏で泡を吹きかけた大人達の話をアレスが知るのは、もう少し後の話だった。

※前回8/9~10日からお盆投稿を開始してます。

 今回は12日~16日の5日間投稿となります。今日から第零部の開幕です。


※本編からシリーズ枠に移転させました。内容に変更はありません。



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