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後編:婚約は続きそうな二人

リオンが自分を顧みていたその頃、サリーナはリンデンと名乗る男と一緒に居た。


ミラン隊の3名は王都への報告と、町への報告、後処理のために残し、他は3隊に分かれて逃げる男の足取りを追い、辺境伯領での追跡を行っていた。


サリーナは侍女のミーナとミランと3人。

馬2頭で3日かけて辺境伯領の南端にある海沿いの町にたどり着いていた。



途中の町でドレスと侍女服、騎士服をそれぞれ町に馴染む服へ着替えたり、頭からフードマントをかぶった男についての聞き込みをしながら南下した。

普段口を開かないミーナに懇願され、サリーナはスカーフで髪を覆っていた。

サリーナは無頓着だが、彼女の金髪は美しすぎて目立ってしまう。

ミランはミーナの声を初めて聴いたことに驚いたが、ミーナの適応能力に感心していた。

それ以降はサリーナへ休憩を勧めたり、食事を進言したり、サリーナに関わることは強く主張するのですっかり慣れてしまった。

捜索場所や捜索方法は口を出さないのに、サリーナの世話は決して譲らない。

侍女の鑑というべきミーナの姿勢にミランも襟を正す思いだった。


行きついた港町。

自分たちを探る、怪しい男を捕まえた。それがリンデンだった。

互いに変装していたものの、サリーナとリンデンは王宮で面識があった。

リンデンは辺境伯の息子であり、彼もまた何かを察知して動いていた。


「隣国で不穏な動きがあって。調査中だったんだ。」

彼の言葉は真剣そのもので、サリーナは彼を信用することにした。



サリーナは爆発後、爆薬のあまりの強力さに危機感を強めていた。

すべてがおかしい。

王家へ反旗を翻しつつもリオンの逃走を許し、民を傷つけず、殺傷能力の高い武器を使用する。

混乱。恐怖。

確かに混乱したし、民は恐怖したでしょう。でも、リオンが話している間に最前列で爆発させれば確実にリオンと民を傷つけられた。

それをせず、被害は最小限。一番狙いやすい橋は無事。

橋を爆破すれば交易に期待する商人、今までお金を出した辺境伯領と王領が打撃を受ける。

互いのせいだと思わせれば国防の要である辺境伯領と王家に互いの不信感を植え付けられる。

でも、そうはなってない。

全てがどこにも向かっていない。

何が目的なのかしら。



サリーナとリンデンは、賊の背後に潜む黒幕の手がかりをそれぞれ追っていた。

月明かりの下、辺境伯領の小さな村の一角に4人は集う。


「サリーナ嬢、何か分かった?」

リンデンは周囲を警戒しながら尋ねた。


「まだ、具体的な証拠はつかめていないわ。でも、賊が使った爆発物についての話を聞いたの。どうやら隣国の魔導師が関与しているという噂があるみたい。」

サリーナは手にしていた情報をまとめた地図を見せながら言った。


「隣国の……。私が入手した情報も同じだ。彼らが今回の事件の黒幕だとしたら、辺境伯領はもちろん、アリスティナ王国は今後も脅威にさらされることになる。私たちが何としてでもその魔導士を捕まえなければ。」

リンデンは決意を示すように拳を握りしめた。


サリーナの心は新たな緊張感に満ちていた。

今まで集めた情報から隣国が敵対している。

それだけでは説明のつかないことが多すぎる・・・

彼女はリオンを思い浮かべ、彼がどれほど心配しているかを考えた。

彼女はリオンを大事な幼馴染で護衛対象。と認識している。


「リンデン様、私たちは急いで隣国状況を掴むための行動を起こしましょう。」

サリーナは気迫を込めて言った。

ミランもまた厳しい表情を浮かべ同意した。




数日後、王都に戻ったサリーナはリオンのもとへ訪れた。

サリーナの帰りを喜んで迎えたリオンは、彼女の纏う不穏な空気に不安を感じた。


「サリーナ……。無事に戻ってくれて良かった。君に助けられてばかりで。情けない俺で悪かった。民を、俺を、守ってくれてありがとう。」

リオンはサリーナを支える存在にならなければならないと考え始めていた。


「僕は変わってみせる。今度からは、サリーナ。君を俺が守る!」

リオンの目は強い決意に満ちていた。




その瞬間、サリーナの心には希望の光が差し込んだ。

彼女はリオンの変化を感じ、彼が事実を受け入れることが出来ると判断した。

リンデンもまた、彼らのやり取りを静かに見守りながらリオンの変化を感じ取っていた。


「リンデン殿が一緒とは驚きましたが、父上(へいか)への謁見が必要であればすぐに手配します。」

サリーナは頷きながら、今までにないリオンの行動的な発言を驚く一方、成長を嬉しく感じていた。

行動を共にしていたミランが近衛騎士団へ報告し、陛下へは騎士団から報告が行われる。

ただし、証人としてサリーナやリンデンも呼ばれるはずだ。

サリーナとリンデンが行きついたのは王家にとっての悲劇だった。




王の執務室に関係者が集められた。

第一王子、リオン、サリーナや騎士団長であるサリーナの父。

リンデンにミラン。宰相と数名の大臣。

そして、存在感を消したミーナがサリーナの後ろに控えていた。



謁見の間ではなく、執務室の為陛下は執務机の椅子に座っており、

応接用のソファーに第一王子と大臣たちが座っていた。

第一王子カイザルはリオンとリサーナをみると笑みを浮かべて軽く手を振ってきた。

リオンとともにサリーナもカイザルへ会釈を返す。


カイザルは子供の時から病弱で武芸全般が禁止されていた。

武芸の代わりになる自身の武器として知識を吸収し、国に寄与してきた。

そう。

王都領と辺境伯領の間の大橋建設も当時12歳の第一王子発案だったのは有名な話。

膨大な資料を基に、どこに橋を架け、工事の出来る期間(乾期)を定め、かかる年数を導き出し、安全性と強度を増すために多くの知恵を授けた立役者だ。



サリーナたちが部屋に入った時、騎士団長(ちち)が橋の開通セレモニーでの被害状況の最終報告している途中だった。

その後はミラン班による犯人追跡で得た情報。

そして、すべての情報を合わせた際に分かった首謀者(黒幕)の名が告げられた。

「今回のセレモニー襲撃は第一王子であるカイザル殿下のご指示によるものとご報告いたします。」


騎士団長(ちち)が淡々と告げる中、リオンが声を上げて騎士団長(ちち)に掴みかかろうとした。

「何を言うんだ!兄上がそんなことをするはずないだろう!」

普段の覇気のないリオンからすると人が変わったかと思うほどの剣幕だった。


リオンは病弱ながらも優しく聡明な兄王子を幼い頃は尊敬して慕っていた。

その反面、武芸の出来ない兄王子と比べられて侮られる事で、兄に対して劣等感と反抗心を抱くようになった。

頭脳明晰。比類なき王子。でも!兄は武芸ができないくせに!

そう思うことでしか自分の存在を生かす(認める)ことが出来なかった。

婚約者までも自分をフォローするために選ばれた「完璧な淑女」だったのだから。

兄王子と婚約者は完璧。

その評価がリオンを苦しめた。

誰も俺を優れているとは言わない。

俺は要らないと何度思ったことか。


兄王子(カイザル)とサリーナが結婚すれば良い。

そう思ってやけを起こした時期もあった。

どれほど人から冷たい目で見られても、兄王子(カイザル)とサリーナが自分を見限らないのも逆に堪えた。

俺さえいなければ・・・と。


いつだって国の為、民の為に身を削って来た兄上が民を傷つける策を弄するはずがない。

それ(信頼)がリオンの兄王子(カイザル)に対する全てだった。

なぜ自分が兄やサリーナに対してあれほど卑屈になったのか。

今ではリオン自身理解できなかった。

それぞれに、それぞれの役割があると思えた。


騎士団長(ちち)に軽く抑えられたリオンをみて思う。

成長したな。

もう、リオンは一人で立っていける。

兄の庇護も、私の後ろ盾もいらない。

リオンが自身(リオン)として生きていける。



「リオンは落ち着いて。」

落ち着き払った第一王子(カイザル)の言葉が静まり返った部屋に響いた。

「兄上。」

目を見開いて静止するリオン。



第一王子(カイザル)は彼なりの正義を実行したに過ぎない。



アリスティナ王国の第二王子は妾腹なので王位継承権を持っていない。

すでに他国への婿入り済みだ。

この国で王位継承権第一位は第一王子。第二位は第三王子であるリオンなのだ。


そして、第一王子(カイザル)は病弱。

周りの評価はさて置き、本人(カイザル)はリオンを次期王にすべきと考えていた。

そのため、いまだに第一王子(カイザル)に婚約者が決まっていない。


第一王子(カイザル)の心配は劣等感の塊の(次期国王)の事。

自分が生きているうちにリオンに自覚させなければならなかった。

リオン自身が次期王だと。

ひがむ必要はなく、胸を張って欲しかった。

死に行く自分(カイザル本人)を安心させて欲しかった。

そして、自分(カイザル)を後継者から外さない王や重臣も疎ましく思っていた。


「それだけではございませんよね。王太子殿下。」

サリーナが口を挟む。


国王陛下以下、身動き一つせず息を飲んで第一王子(カイザル)の告白を聞いていた重臣たちも魔法が解けたようにビクッと体を震わせた。


「王太子殿下のお考えは「獅子の守り人」そのものですわ。」

サリーナは続けた。

「獅子は王家の守護精霊。その守り人は、王家の守護精霊を守るもの。王家を守るものと同義ですわ。」

カイザルは喜びとも、怯えとも取れる表情で固まった。

「あなたの使用した爆弾は隣国の魔導士が準備したもので間違いないですよね。

今までの常識では有り得ないほどの威力でした。

何も知らずにあの爆撃を受ければどれほどの被害が出たことか。」

サリーナは言葉を切って周りを見回した。


言いたいことを理解している父は頷く。

現状を理解した者は慄き、理解しない者は不思議そうな表情を浮かべている。

サリーナは続けた。


「王太子殿下はあの爆薬の存在を知った。だからこそ 国と、リオン殿下へ最適な報告方法(危機意識)を考えついた。ご自身は悪として処罰されることも厭わない。いえ。リオン殿下の肥やしになるなら幸せだとすらお考えだったのかもかもしれませんね。」


第一王子(カイザル)の頬が引きつる。

元々そのつもりのくせに、何故指摘されたら戸惑うのか。

おばあ様もそうだった。命に期限が付いたら、早く死ぬのが皆のためと思う傾向がある。

おばあ様は両親に説得されてしぶとく生きてくれた。

それが良い。

王太子殿下も生きれる限り生きるべきだわ。


リオンの為に早く死んでも良いなんて、残されるリオンの気持ちを考えてない。

リオンを解ったつもりで全く解っていない。

お兄様(カイザル)が自己犠牲の末にリオンを生かしたなんて、リオンが益々生き辛くなる。

自分が死ねば全て上手くいくと思う所は本当に兄弟ね。

残される者の気持ちは考えていないのよ。


第一王子(カイザル)のやり方にサリーナは怒っていた。

王宮で第一王子(カイザル)が隣国の生み出した爆薬の危険性を話したところで、どれほどの人が真剣に受け止めるだろう。

第一王子(カイザル)が自分を犠牲にして国とリオンの為に行動したことは分かる。

だからこそ辛い。


リオンにとっては血のつながった唯一の兄。

兄の治世を支える弟である事がリオンの希望だ。

兄を押しのけて王になりたいなどと考えたことすらない。


それに・・・、隣国での諜報活動でサリーナは王太子殿下の(魔力多可症)に効く治療方法を得ていた。

民間療法とも言えないほど、小さな村でひっそりと伝えられていた方法。

その村でしか採れない薬草が必要なのだ。

自分よりお互いが大事な兄弟。

結局お互いのことを考えて、自分の事しか考えていない。

はぁ。

これは誰かが手を貸すしかないわね。


隣国の魔術師はすでにアリスティナ王国へ連行済み。

本人は到って平和主義の女性だった。

自分の発明が悪用されると分かって密かに身を移してくれた。

今は辺境伯領の小さな村で身を隠しながら元々行っていた薬草の研究を進めている。



陛下と大臣たちは多くの意見を交わした末、第一王子を病気療養と称して辺境伯領へ事実上の追放。

今後はリオンを王太子として体制を整えてくことが決まった。

王太子の罪は公にならず、爆薬の危険性を先んじて教授した方を評価したそうだ。

王太子は廃嫡した上で、病気が治ればリオンに助力したいと張り切っている。

魔導士とカイザルの気力から推測するに、病気はあっという間に完治するだろう。


リオンはお兄様(カイザル)が戻られれば王になる気はないと宣言し、なんだかんだで

王宮は大団円を迎えた。

隣国が爆薬を新たに作ることは難しいかもしれない。

彼女ほどの魔導士を得ることは難しいだろう。


カイザル殿下が辺境伯領へ戻るリンデンと共に出立する日、サリーナはカイザルへ挨拶したのち、誰にも気づかれないないように耳打ちした。

「殿下は戦場で私と対峙して笑う余裕をお持ちのお方。通常2年はかかる治療をどれくらいで完治させるのでしょうね。」

不敵にほほ笑んだ。

お互いに。


一人立ちしたリオンは自ら婚約者を決めると思ったのに、サリーナとの婚約解消は成されなかった。

サリーナは隣国の戦力を危惧し、早々に居を辺境伯領に移した。

凄腕の元暗殺者、ミーナと共にしばらく隣国の状況を探るらしい。


リンデンとの交流にリオンがやきもきしているとかしていないとか。

サリーナが王都へ戻る頃にはリオンは益々立派に成長しているだろう。



(補足)

 ※第二王子の母親は王妃を殺害したので、第二王子は王位継承権を失っています。

 幼い頃に母を亡くしたリオンをカイザルは母親のような気持ちで見守り慈しんでいたのです。

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