重なる
「悪役に回るのも頭使うんだぜ?アイツに、お前との仲間意識を持たせて…油断させるにもってこいの作戦だったろ」
「普段とさほど、変わりはありませんでした」
九朗がそっぽを向く。
「なんだよ。お前だって、ちゃんと協力してくれたんじゃないか。分かってたんだろ」
「そう思うのなら、あなたの病気です」
九朗が目だけで四郎を見る。
「はんっ…チッ…」
四郎が少し鼻で笑って、舌打ちする。
くるりと軽やかに半回転し、元の体勢に戻ると、九朗が立っている枝に降り立った。
「いっつもいっつも、敵に優しくして味方に厳しいのは良くないぜぇ、天邪鬼ちゃん」
「気持ち悪いんで、もう一生しゃべらなくていいですよ」
近づいてきた四郎の鼻先をつまんで無理矢理、横を向かせる。
「いででででで…、ひっでーなあ!」
四郎がかがんで、鼻を抑えた。
「僕が暗殺対象によくしているのは、命を奪う代わりに、ひと時の安らぎをあげているだけです」
ジロッと見下ろす九朗。
「それに命令があったら、あなたの四肢を削いで、山に捨てたって僕は構いません」
「俺だって命令があったら、お前を殺すよ」
笑いまじりに、九朗の正面に立つ。
「生まれたのが乱世でも、それなりに見合った世渡りするから…」
伏し目がちな四郎の後ろに月が見え、逆光で少し顔が暗い。
「また死体を死体置き場まで、歩かせよう。その方が後が楽だ」
目が開かれ、口が三日月になる。
「……」
やっと向けられた九朗の顔は月明りに照らされ、白く発光して見える。
「ならば、もう少し計画的にお願いしますよ。こっちは急に仕事が入って、寝不足でフラフラなんです」
「なあに、ちゃんと対価は払うさ」
頭についた桜を払う。
影が差し込んだ九朗の顔は、静かに両目を閉じた。
遠くの方には、発光しているような桜が続いている。