桜道
四郎が手首を痛そうにさすと、九朗がそっぽを向いた。
(ますますクズだな…)
陰陽師が四郎を見ながら、わずかに不機嫌な顔をする。
「あーあ、そんなんだから、いつまで経っても八方手裏剣のままなんだぜ!心が広くないと腕も上がらないぞ」
九朗がめんどくさそうに、じろっと四郎を見て、ため息を吐く。
「お二人は知り合いで?」
「そうだよ。同じ村の仲間さ」
「どうでもいいから、早く脱獄しましょう」
九朗が牢屋の天井の一部を外す。
「ヒュウォー」と鋭い風が、大量の桜の花びらを巻き込みながら吹き続いている真夜中、桜道の桜の影に沿って、三つの影が移動する。
先頭の四郎は風のように駆け、遅れて九朗が陰陽師の腕を引きながら、後に続いている。
「ううっ、桜が…」
全身花びらまみれになりながらも、前に進む。
「しっかり…」
九朗が後ろを振り返ると、陰陽師が膝をついた。
「だっらしねーなあ!花、吸い込むのと、命を落とすのどっちがいいんだ、のろまが!」
井戸の前で立ち止まり、後ろを振り返る。
四郎はあまり花びらがついておらず、振り払おうともしない。
だだ二人を待っている。
「はあ、はあ」
遅れてきた影が、四郎の所までたどり着いた。
井戸を境に桜道が途絶え、先は荒道になっている。
荒道側に行くと、桜吹雪に巻かれることはない。
「もう…、走れない…!」
陰陽師が地面にへたり込む。
九朗が陰陽師についた花びらを払った。九朗は花びらまみれのままだ。
その様子を見て、四郎が目を細めた。
「お優しいこったねぇ」
四郎が九朗の肩を押した。