預かろう
結局アシがシュンカを手伝うようになり、前よりは構う時間が増えたというのに、リンはよけいにシュンカを困らせるようなことをしはじめた。
サモンのしつけのおかげで、伍の宮の中ではいわれたことを守っていたのだが、綱でとめおかれないのを良いことに、宮の門を勝手に出ていくようになってしまった。
壱の宮や参の宮へ、遊びにゆく。サモンもセリも、その従者たちも、頭を下げてリンを迎えに来るシュンカに、気にすることはない、と言ってくれるが、―― そういうわけにもいかないところまで、きてしまった。
「―― もうしわけありません」
「よいよい。シュンカがそんなに頭を下げることはない。もとはと言えば、コウセンさまが拾われたのだ」
シャムショの奥。
チョクシは中庭でリンを抱えて小さくなる子に菓子をすすめる。
「それに、最初のうちに食べ物を与えてしまったうちの者たちが良くなかった。わたしもおもしろくそれを眺めておりましたので・・」
脇に座ったアキラも、チョクシへ頭を下げる。
シュンカにかまってもらえる時間も増えたのに、外へ出ることを覚えたリンは、他の宮を回った後に、いちばん食べ物をもらえるシャムショへ通うようになっていた。
しかも、食べ物がほしいと、吠えて催促するのだ。
初めはかわいくおもしろい、とそれに応えていた者たちも、こう、度々とあっては、仕事にさしつかえると、弱って、チョクシに訴えた。
綱でとめれば、と思うが、《事の次第》を承知する年寄りは、それもすすめられない。
子犬は、首にひどい怪我を負い、死にかけていたのを、コウセンに助けられていた。
傷はセリ手製の首輪で少し隠れてはいるが、生々しい傷跡には、いまだに毛も生えていない。
「・・・リンは、綱でとめることにいたします」
縁側の下、地べたに膝をつき、子犬を抱える子どもは、しょげかえって約束する。
さすがにシュンカの気持ちをくんだらしいリンが、弱く鼻を鳴らしたが、とたんに、キャンと高い声をあげてもがいた。
「そのイヌ、われらで預かろう」
「預かって、犬の本分を教えてやるわ」
突然中庭へ来た大柄な二人連れに、これはまた、珍しいとチョクシが立ちあがり、縁側に腰掛けるようにすすめる。




