がんばる
― ふたつ ―
朝の仕事をする合間にも犬に呼ばれる。
一度、リンのご機嫌をとってから、薪割り、朝飯のしたく、スザクの部屋へ今日の着物を届ける。
坊主は既に起きており、着物も自分で身につけるので、朝の挨拶をして飯の支度へと戻る。
その、合間に、また呼ばれ、いっしょに働くアシが渋い顔をつくる。
「リン、待って!スザクさまのお食事が先だから!」
「シュンカ、食事よりも前に、朝の御勤めがあるだろう?」
祭壇にあげた水と塩は、夜に役神たちが来て口にする。
それを、朝の経を唄う坊主が来る前までに片付けるのがシュンカの仕事だったのだが、この頃は、経も一緒に唄うように言いつけられている。
坊主いわく、どうせ覚えたんだからやっとけ、ということだが、シュンカはそれが嬉しかった。
今では坊主の動作もまねて、多少の《字》も綴れる。
アシが気遣うように、「あとはわたしがやろう」と膳をみやった。
なのに子どもは、だいじょうぶ!とカマドにかけた鍋にふれ、あちい!と指先をくわえた。
「・・・どうにも、仕事が増えたように、あわただしい。いや、別に、このことを言ってるのでは、ないが・・・」
赤くなった子どもの指先に薬をぬりこむ役神が、思っていることをのべた。
「うん・・・ごめん・・」
いつの間にか、このふたりは友達のように話すようになっている。
前には、ゆっくりと食事をする子どもを見つめていられたのに、今では、その時間も犬に呼ばれてしまい、アシも、なんだか落ち着かない。
「リンはまだ子犬だからさ。きっと、もう少し大きくなれば」
「そうか?」
本当は、前よりひどくなっているように感じるが、役神は、その言葉をのんだ。
「ごめん。アシに迷惑かけないようがんばるから、」
いいさす子へ片手をあげる。
「シュンカはもう、十分がんばっている。―― もっと、わたしを頼ってくれまいか?」
「・・・ありがと」
ひどく人間くさくなってしまった役神は、その笑顔を見てようやく落ち着いた気分になれた。