なにゆえ
― ゆらぎ やむ ―
薄布のむこうに気配はあるが、やはり人ではないなとギョウトクは心得た。
「――こたびは、拙僧が推した若い者どもが、揃って突然、姿をくらました、と、聞き及び、こうして帝のご意見をうかがいたく、参った所存でございます」
上宮の謁見の間。
坊主の正装で床に膝をつくが、顔はしっかりと前を見たままだった。
なにゆえこのおのれが―――。
一人の男を思い浮かべ、にがにがしく正面で揺れる薄布をにらむ。
傍らに、えらく顔の整った背の高い男がいるが、たしか壱の宮の大臣だ。
あんな身体つきのくせに、大水で流された岩や橋を軽々運ぶのだと聞いた。
ふん、妖物のようなものだ。
薄布がゆれ、なにか大きな者の、暖かく生臭い息のようなものが顔をなでる。
「――ほお。わしに謝りに来たわけじゃねえのか?」
「それは・・・その者たちの意志で消えたとあらば」
「それ以外に何がある? わしが耳にした話じゃあ、ここでの暮らしが性に合わんと、ずっと言ってたらしいでな。 ―― 西の領土にでも遊びに行ってるんじゃねえか、と聞いた。」
「・・・さて、高山の者が、なにゆえ西へ行く必要がありましょう?」
ここに推すために手を貸してくれたのも、北の将軍だ。
おかしなことを聞かされたように、わらうその顔つきに、おのれと帝の間に立つ男の気が揺れた。
「おい、ギョウトク。たかだか三十年、高山にいるだけで、ジュフク殿と等しい場にいるなどと思うなよ。 おまえの黒い腹の中など、丸見えだ」
冷たく整った顔をむける壱の大臣は、見かけによらず、ひどくはっきりと言葉を投げる。




