ずっと
今は暗い場所にいるのではなく、『黒いもの』に飲み込まれているのだと悟ったのは、先ほどまで見上げてみた黒い切り傷のようなそこに、己がいた明るい空間が見えたからだ。
逆転した
口を開けていた黒が、おのれをのみ、徐々に閉じてゆく切り口のむこうが、元いた場所だった。
―― 本物の闇にのまれている。
近くにいるはずの、ほかの人間はもとより、もがくように振り回した手、駆け出したいのに固まっている足元すら、 自分でも、 見えない。
音が、 しない。
耳が、 空気の動きさえ、 拾わない。
本当に、自分のほかにも、ここに人がいるのか、 わからない。
「―――・・・おれはな、この、四の宮が飼っている、『ウツロ』の口をあけられるのよ。 ウツロはいつでも腹が減ってるから、何でも喰う。 ああ。おまえら、高山から来たのなら、もうひとつの方が通りがいいか。 ―― ウツロの別名を教えてやろう」
ぱくりとあいていた口が、徐々にしまってゆき、明るいそこに見えたコウセンの緩い笑顔も狭まってゆく。
別名はなあ――、と、もったいぶると、笑顔を消した。
「 ―― 『 冥界 』だ 」
ぱしん
音とともに、口が完全に閉じた。
恐怖に叫びをあげるが、開いた口からでるそれが きこえない。
あの男は言わなかったか?
固まるのを、『首まででとめてやる』 と。
―― ならば、首から上の感覚だけは、これからも、ずっと、残るのだ。
なにも聞こえず、見えず、感じ取れぬまま
光も、音も、何もないこの ウツロ の中で。
頭だけが 感覚を保ち、 ずっと ずっと ―――




