こいぬ
「―離れろ、セイテツ」
「・・・コウセン。そういうのは拳骨よこす前に言うもんだ・・」
やられた場所をさするセイテツの頭を、シュンカが同情するように撫でながら挨拶をよこすのを、コウセンは気に入らない。
「シュンカ、あまりテツに触るなよ。こいつはおかしな病気持ってるかもしれねえからな」
言って、その男からシュンカを奪うように抱え込む。
ないよ!と叫んだ男は、コウセンに渡った子どもが、男のその腹をじっと眺めているのに気付いた。
もともと、四の大臣は、着物を整えて身につけることのない男だ。
いつも懐には、書きかけの書類だとか、筆入れだとか、時には小さな酒の瓶などを平気で突っ込んでおくので、腹回りがひどく膨らんで見えるのだが、伍の宮へ来るときには、そこへさらに、様々な菓子が詰め込まれてくることが多い。
シュンカもそれはわかっているだろうが、その膨らみを、こんなぶしつけに、じっと眺めるような子どもではないはずだ。
もそ、と、その膨らみが動いた。
「こ、・・コウセンさま?」
びっくりして顔をあげる子どもへ、コウセンはかがんで顔を近づけると、動く膨らみを、抱えるように微笑んだ。
「シュンカ。イヌは、好きか?」
「・・・え、っと、阿吽のことでしょうか?」
首を傾いだ子に、がはははとざらついた笑いをあげたコウセンは、身を起こし、着物のあわせを開いた。
「 わ 」
「犬よ。下界の、普通のな」
開かれたそこから、濃い茶の毛をした犬が顔をだす。
しかも、子犬だ。