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おとぎばなし ― ゆらぐ噺 ―  作者: ぽすしち
 やっつ

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37/53

仕事


 だが着いてみるといつにもまして、ぴりぴりとした雰囲気のそこへ、表から入ることはできなかった。

 そうっと裏へとまわる。

 まだ、他の者の食事は届けていない。




 建物の横をまわるとき、側の樹が、がさりと音をたて、身が縮む。



  『  おい  』 

          と、かけられた声を思い出す。




 あのときの、あの男たちは、まだ、ここにいるはずだ。


 昼に見かけなかったが、山崩れのほうに出ているのだろうか?



 身構えて見つめた樹の影から、小鳥が飛び立つ。思わず安堵の息をついてしまった。





「おお、わざわざすまんな」

 裏からまわり、中庭から奥の間へ声をかければ、衝立のかげからすぐにアキラが顔をだした。

 

 奥をのぞくように首をのばしたシュンカに気付き、コウセン様はな、とシャムショの表になるほうをみた。


「チョクシ様と下界から呼んだ八百屋たちと、今後の野菜の分配を話し合っている」

 今回崩れた山のふもとには、下界の街に出回る野菜を作る里が多数あった。


「他にも、コウセン様が話し合わねばならぬ商人がたくさん待っている。―心配するな。昼の飯も、うまいといって召し上がられた。これもしっかりと召し上がってもらうから」

 約束してくれたアキラに頭を下げ、他の男たちの飯を運ぶために引き返す。


 足の痛みはそれほどなかった。ただ、少し歩きにくく、筋をちがえた足首からくるぶしの方が、少し腫れている。

 天宮の陽も暮れて、あたりは暗くなりはじめていた。





 戻ればアシが全ての飯を握り終えており、「では、わたしはこれをシャムショへ届けてきます」その間にシュンカもしっかり食べてくださいと、テーブルに置かれた分をしめされた。

 足をくじいたシュンカはここにいろということだ。

 


 礼を言って、ひとりそれをほおばりながら、後の仕事を考えた。



 リンにも食事をやって、後片付けをして、風呂は、今日は水を張ってはいけないからはいれない。それから祭壇へ夜のおつとめを――。


「・・みず・・」


 祭壇にささげてある水を思い出し、シュンカは足の痛みを忘れて走った。







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