いちどきに起こる
― ななつ ―
どうにも、納得がいかなかった。
「なんだってんだよ?絶対におかしいだろ?」
「セイテツ殿、落ち着いて。みな、同じ気持ちなんですから」
ヒョウセツがなだめる声は、珍しく、怒りを含む低いものだった。
『黒森』は、西の領土にある、人が住まわぬ森だ。
暮らすのは、たくさんの動物と、そこを統括する『黒鹿』たち。
大昔からその森に住まう黒鹿は、獣の姿そのままだが、知恵があり人の言葉も解する。気に入った人間には、頭の中に直接語りかけてくるという。
その森が、今、燃えている。
帝からの遣いが酒の中にきえたあと、みなで顔を見合わせれば、今度はシャムショからアキラが走ってきた。
「サモン様!山が!また、山が崩れました!」
厳しい顔で立ったサモンが、ヒョウセツを呼んでくる、と走りだす。コウセンも、強い顔で、どこだ?と確認する。
「東と南の間の、なだらかな山です」
「あそこには、里が多い」
ちっと舌を打ったコウセンも立ち上がる。
だが、アキラの言伝は、まだ終わりではなかった。
「――それと、スザク様、下界の織物問屋から弔いの願いが。セイテツ様、南の産婆から、難産になりそうなので、すぐ祝福に来ていただきたい、と」
坊主と絵師はお互いを見る。
先に口を開けたのは坊主だった。
「――織物問屋は、だいぶ前から寝付いている年寄りでな。昔、世話になったから、亡くなったら、おれが弔うと伝えてあった」
「まあ・・、難産の予定など、たてられないからな。南のあの婆さんがおれを呼ぶのはいつものことだし。赤子を『祝福』できる神官も、限られているし・・・」
だが、なんだ?この、いちどきに起こったものは?
だから、誰も納得いかなかった。




