変わった
「ならばスザク殿、ぼくがシュンカの足を診ましょう」
さあ、渡せ。というように、両腕をひろげたヒョウセツを、坊主はいつもの表情の乏しい顔で見返し、抱えた子の顔を見つめ、おかしな間をとってから、「 ああ 」と返事をした。
むこうではコウセンとセイテツがわらいをかみころす。
スザクは自分より低い相手に、抱えた子を渡そうと身を前にかがめたのだが、そこでようやくシュンカが、歩けます平気ですと騒ぎだしたが、そんな言葉はどちらにも相手にされない。
ヒョウセツにかかえられたシュンカをしばし見つめた坊主は、「 あれ? 」と太い首を傾けた。
「どうかしましたか?スザク殿?」
ヒョウセツが鼻先をあげるようにきく。
「・・・・いや。べつに・・。だが・・・」ん~?と唸った坊主は、がしがしと頭をかき、太い腕を組んで眉根を寄せると、とたん、 ぱん と手を打った。
「シュンカ、でかくなったか?」
「え?・・いえ・・あまり・・」
「・・そうか?おかしいな・・」
首元をかいた坊主は、眉を寄せたままきびすを返し、戻った円卓で他の者たちが、一様に自分を見つめていることに気付く。
「なんだよ?てめえら」
薄笑いを浮かべた絵師が、ごまかすように向こうへ消える子どもを抱えた背をさした。
「べつに。―― ただ、ヒョウセツが変わったなあと驚いてんだ」
坊主が、そうかだからか、と首を叩く。
「匂いが変わった」
坊主である弟の言葉に姉が、ヒョウセツよりもおまえのほうがよほど獣に近いと言い、コウセンが、がさついた笑いをあげながら酒の満たされた器を傾けたとき、びしゃり、と顔に何かがへばりついた。
「・・・ったく・・。化け猫のやつ」
顔についたのは、手にした酒の中から飛び出した、帝の役神である蛙だった。
それが、コウセンの顔からうまく落ちた卓の上、よいしょ、と後ろ足で立ち上がり、セリを向く。
『 参の宮大臣 ミカドが お呼びだてじゃ 』
「なんだ?やはりアレに何か凶事がおこったか?」
女は嬉しげに扇子を口元へ当て、壱の大臣をみた。
蛙は四の大臣に、酒の器をそこへ置けと命じると、とびこみながら言い置いた。
『 黒森が燃えておる 』
ぽしゃん、と、こぼれた酒がまわりに散った。




