ふびん
― むっつ ―
「―まあ、なんていうか・・・・。ある意味、すごいことは起こってはいるんだよなあ」
先ほどの『なにもおこらぬ』というセリの言葉を思い出したように、茶をすすり、セイテツがつぶやいた。
「『凶事』じゃねえけどな。・・・あ、おまえにとっちゃ、そうなのか?」
コウセンが、ようやくみなの集まる円卓にやってきたスザクに、お茶を渡す。
「ああ?なにがだよ?」
片眉をあげて受け取った坊主の顔の前、セリが扇子を振る。
「この馬鹿が、そんなこと考えるわけなかろう?」
「セリ。それじゃあ君の弟が、あまりにふびんだよ・・・」
サモンが同情するように坊主の肩を叩いた。
「なんだあ?おれか?どこがふびんだって?」
なんだか自分のことを言い合う周りの様子が気に食わない坊主は、同じ卓につくその面子をみまわすと、ふいにむこうへながした目をとめた。
むこうから、手をつないで戻るシュンカとヒョウセツを認める。
前、川から戻ってきた、アシとシュンカを見たときをなぜか思い起こす。
「お?どうしたスザク?」
眉をしかめた坊主が、うっそりと立ち上がり、二人の方へ歩いてゆくその背に、絵師はおもしろそうな声をかける。
前に立ち、なにもいわない坊主に、「――スザク殿?なにか?」とヒョウセツがたずねる。
離れて見守る一団は、先を期待した。
「――・・・あのな、ヒョウセツ・・」
坊主はなにかを説明しようとして、言葉をとめると、ヒョウセツと手をつないだこどもをいきなりさらうように片腕で抱え上げた。
おお!とセイテツが手をたたくが、つぎの言葉にがっくりとうなだれる。
「なあヒョウセツよ、こんな軽くてちいせえんだからよ。運んだほうが早えぇだろ。シュンカ、足を、どうした?」
抱えあげられ子は、恥ずかしそうに、サジを踏みそうになって足場をまちがえ、拍子にすこし筋をおかしくしたことを告げた。
「サジなんか踏んでもどうってことねえぞ」
なあ、と同意をもとめられたヒョウセツは、こちらをおもしろそうに眺める一団に気付く。
―― なるほど。そういうことか。




