ごつり
シュンカが天宮へやってきてから、下界では季節が移った。
「もう、三月たつのだなあ・・」
伍の宮の中庭で、昨夜ここには戻らなかった男が、赤い花をつける木にもたれ、三月前にここに来た子どもを眺めていた。
下界がどの季節だろうと、ここでは花が咲く。
そのうえシュンカがきてから、伍の宮では、いっそうよく咲く。
草花や、木々の枝が伸びるのもはやくなり、それらを自分の仕業だと理解したシュンカが自然と世話するようになり、今も、セイテツとスザクの部屋に飾る花を、木々からもらっている。
子どもがようやく男に気付く。
「あ。おかえりなさいませ、セイテツさま」
「うんうん。かえったぞ~」
両腕を広げて寄ると、ぎゅううっとシュンカを抱きしめる。嬉しそうに笑った子どもの『気』で、周りの木々が花をほころばせた。
このごろセイテツばかりでなく、伍の宮へ遊びにきた者は、みなしてシュンカをぎゅうと抱く。
そうして笑った子の気をもらって花が咲くのを楽しみ、時々それを嫌そうな顔で眺める坊主を、からかって楽しむ。
「セイテツさま。サボンの良い香りがします。下界の『いろまち』という所へおいでになっていたのですか?」
「・・うん・・いや、・・ちょっと待て。誰が教えた?」
「セリさまが教えてくださいました。下界でも、ひときわにぎやかで、夜半を過ぎても人の声が絶えないと」
「・・・う~ん・・『声』。・・まあな・・」
「絵を、お描きに行ったのですか?」
「それも、ある。あとは、まあ、軽く身体を動かしにだな」
「あ、そういえば、スザクさまが、この頃セイテツさまはからだが鈍ってるんじゃないかと。それで、『いろまち』へ身体のために行ったのですか?」
「まあ、そうなんだけど・・・おまえに『色街』の話をされると、どうにも心苦しくなるというか・・やましいこころもちになるというか・・・」
きれいな瞳で、こちらを見上げてくる子を、男は抱きこんで、その視線を遮りごまかした。
ごつり と、衝撃。