素直じゃない
そもそも、シュンカたち親子の危険をみつけたのは、ヒョウセツだった。そのヒョウセツがスザクとセイテツに命じたので、けっきょくシュンカはここに来たのだ。
だが、ヒョウセツは子どもが天宮へやってきたことを歓迎しなかった。
さらにシュンカがきてからみた大臣たちの卦はどれも悪く、『天宮内にて凶事に通ずるさわぎあり』とでた。
「―さては、どこかの将軍が帝を狙うか?」
コウセンが笑いとばしたのを、むっつりと黙っていたヒョウセツが「あの子どもだ」と断定した。
「おいおい。会ったこともねえくせに、何言ってやがんだ?」
ヒョウセツに冷たい眼をおくるコウセンは、シュンカのどこに『凶』がある?とサモンとセリをみやる。
「たしかに。『気』の嵩があまりに多いので、宮の中も乱れるのはしかたがないだろう。が、あの子の気は、『凶』には結びつかん」
サモンの言葉にセリもうなずく。
「なにも、あの子自体が凶だとは、ぼくも言わない。ただ、きっかけになりそうだとは、思っています。―― だいたい、連れて帰ってくるなんて思いもしなかった。ほんとうは下界のことだから、放っておきたかったのですが、・・・後味の悪い思いはしたくなかったですしね」
だとすれば、とコウセンがめずらしくヒョウセツにいどむような顔をみせた。
「あの子には、関係ねえだろ」
「――どうかは、わかりませんがね。とにかくこのことは、伍の宮にはもらさぬよう願いたい。坊主と神官は、すでにもう、あの子に絡みすぎている・・・」
そうしてその『天宮内』でなにか起こるはずなのを、みなで待っているところなのだ。
「シュンカが『きっかけ』ねえ・・・ま、起こってるっていえば、そうなのかなあ・・」
のんきなセイテツのひとりごとにあわせるように、むこうから茶を載せた盆を手に、アシが現れた。
「あれ?シュンカは?」
絵師の問いに、役神は、リンとサジが・・・とむこうをみやる。
たしかに、むこうから子犬の鳴き声と甲高い声、それにシュンカの声がまざって響いてくる。
「・・・まったく、サジは・・」
たち上がった弐の大臣に、にやけた四の大臣が声をかける。
「サジをむかえに行くのか?それともシュンカをむかえにいくのか?」
「・・・両方です」
軽く肩をすくめたヒョウセツはそのまま歩いていく。
「――あいかわらず、素直じゃねえなあ」
コウセンのにやけた声は、しっかりと聞こえていただろう。




