空がみだれる
― よっつ ―
「しかしまあ・・何も起こらぬな」
ふああ、とセリがあくびする口元を扇子で隠す。
「いいじゃないか。起こらない方が良い。はずれたのかもしれないし」
サモンのそれに、そりゃねえだろ、とコウセンが口を曲げる。
「―みな揃って、嫌な卦相があらわれたんだ」ハズレはねえだろ、といやそうに首をかくのに、セイテツが「そりゃ、初耳だ」と、同じ卓を囲む面子を見回した。
「ヒョウセツが、もらすな、と脅したからな」
「セリ殿、『脅す』などとは、覚えがないな」
ぱしん、と勢いよく、ヒョウセツが札を叩き置いた。
天宮では、それぞれの宮の大臣が月に一度集まり、三月後の卦をみるのだが、それがはずれたことなど、いままでにない。
「この前の『下界に凶事あり』は、当たってしまったしな」
コウセンがもち札をにらみながら髭をかく。
四月前、下界では天候がひどく乱れた。
長雨の時期ではないはずなのに、しとしとと降り続く寒い日が続き、場所によっては山肌がくずれる事態にもなったが、運よく山崩れに巻き込まれる里はなく、人間が天宮に助けを求めることはなかった。だが、その後も天候は回復をしめさず、全ての作物の育ちが悪くなり、人々の生活は苦しくなった。
それでも、天宮が手助けできることはどこにもない。
次の月に移ると、晴れ間が続く日が訪れ、人々の暮らしもようやく落ち着きだしたころに、――またしても、空が乱れ始めた。
先の月のようにおとなしく降る雨ではなく、叩きつけるような雨が襲い、山間を流れる川が濁流となり、所々せき止められた水が鉄砲水となって、いくつもの里をのみ込んだ。
ここにきて、東西南北の将軍たちが、ようやく揃って助けを求めてきたので、やっと、天宮は動くことができた。




