たとえ
湯気とともにのぼる、良い香りが、己のむさくるしい顔をくすぐり、思わず男は笑った。
「―そういう、もんか?」
「ええ。―― そういえばこのお茶を、差し上げましょう。この前、セリ殿と作った、花の香りがするお茶です。コウセン殿からシュンカに渡せば喜ぶだろうと」
「だがな、おれがそれを、おまえにもらったと言えば、あの子は礼を言いに、ここへ来るぞ」
「―― それは、遠慮願いたい。ぼくは、あの子とかかわりあいたくないので」
「ほう、そうか」
ずずううっと茶をすすったコウセンは、肘をついて小鳥を呼んだ。
きいてもいないのに、ヒョウセツは続けた。
「――ぼくは、静かな今の環境が好きです。あなたたちは、あの子の業と、すでに絡んでしまっている。・・・皆、感じてはいるはずだ。あの子が出入りすれば、宮の『気』まで乱れて動く。まるで、《ゆさぶられて》いるようだ。 伍の宮の『気』の動きなど、とくにひどい。・・・あんなにうるさい環境、・・・ぼくは耐えられません」
ちちちちち
コウセンの指先から小鳥が飛び立つ。
「――なあ、ヒョウセツよ。おまえ、頭がいいのに、時々、スザクより馬鹿だなあ」
「・・・その例え、傷つくなあ・・」
小鳥は弐の宮の周りを数度とび、どこかへと去った。




