飴
静かに小鳥が水を飲む。
弐の宮は、水に囲まれた宮だった。
「―でな、坊主が、あの、スザクが、シャムショの前で『伍の宮スザクとシュンカ、コウセンに菓子をねだりに参った!』なんて叫ぶんだぜ?ほんっと、あの男、馬鹿の見本だなあ」
言って、酒ではなく、弐の宮の大臣がいれた茶を、コウセンはすすった。
声にはばかにする響きはなく、顔は静かに笑っている。
「・・・理由は知らねえし、聞こうとも思わないけどよ、・・・髪を、切った後に、会うのは、久しぶりだったもんで・・・」
「泣きましたか?」
「泣くか。おれは、大人だ。子どもに先に、泣かれて謝られちまったら、・・・我慢するしか、ねえだろが」
シャムショの前で、泣きながら、自分は子どもで、コウセンに菓子がもらえるのが嬉しいというシュンカは、何故か謝った。
なんとなく、事情をのみこんだコウセンは、坊主にやつ当たるように菓子を投げつけてやった。
「まあ、あなたも半分泣いていたようなものでしょう」
「うるせえよ。それより・ヒョウセツ、・・・あのな、」
「飴、減らないのですか?」
「・・ああ」
ここに来てから、ずっとヒョウセツに作り続けてもらっていた飴だ。
一人でいるとき、思い出すことがあまりに重く、それにつぶされそうになるとき、なめれば気分が落ち着く、と。
そっとそれを渡されたとき、――初めて、すこし、―――生きて、ゆこうかと、思いなおすことができたのだ。
「なんだかな・・・あいかわらず、思い出すし、夢にもみるんだけどよ。・・前みたいに、すぐに後を追おうとか、闇に溶け込みてえとか、・・・動けなくなるほどには・・・、思わなくなってきた」
コウセンは、蓮が浮かんだ水をながめた。
円筒形の弐の宮は、その蓮池の真ん中に立っている。
いちばん下の階は、白く太い柱のみで壁もなく、上の階から部屋となる。
宮を囲む水をながめ、コウセンはなんとなく、後ろめたいものに襲われた。
今までながいあいだ感じ続けた、生き残ったという罪悪感のようなものではなく、先を、思い描いて良いのかという自問。
「―――生きている、あかしです」
かちゃりと、石のテーブルへ、お茶がのせられる。




