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おとぎばなし ― ゆらぐ噺 ―  作者: ぽすしち
 みっつ と 半

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21/53




 静かに小鳥が水を飲む。

 弐の宮は、水に囲まれた宮だった。



「―でな、坊主が、あの、スザクが、シャムショの前で『伍の宮スザクとシュンカ、コウセンに菓子をねだりに参った!』なんて叫ぶんだぜ?ほんっと、あの男、馬鹿の見本だなあ」

 言って、酒ではなく、弐の宮の大臣がいれた茶を、コウセンはすすった。


 声にはばかにする響きはなく、顔は静かに笑っている。

「・・・理由は知らねえし、聞こうとも思わないけどよ、・・・髪を、切った後に、会うのは、久しぶりだったもんで・・・」


「泣きましたか?」


「泣くか。おれは、大人だ。子どもに先に、泣かれて謝られちまったら、・・・我慢するしか、ねえだろが」


 シャムショの前で、泣きながら、自分は子どもで、コウセンに菓子がもらえるのが嬉しいというシュンカは、何故か謝った。

 なんとなく、事情をのみこんだコウセンは、坊主にやつ当たるように菓子を投げつけてやった。


「まあ、あなたも半分泣いていたようなものでしょう」


「うるせえよ。それより・ヒョウセツ、・・・あのな、」

「飴、減らないのですか?」


「・・ああ」

 ここに来てから、ずっとヒョウセツに作り続けてもらっていた飴だ。


 一人でいるとき、思い出すことがあまりに重く、それにつぶされそうになるとき、なめれば気分が落ち着く、と。

 そっとそれを渡されたとき、――初めて、すこし、―――生きて、ゆこうかと、思いなおすことができたのだ。



「なんだかな・・・あいかわらず、思い出すし、夢にもみるんだけどよ。・・前みたいに、すぐに後を追おうとか、闇に溶け込みてえとか、・・・動けなくなるほどには・・・、思わなくなってきた」

 コウセンは、蓮が浮かんだ水をながめた。


 円筒形の弐の宮は、その蓮池の真ん中に立っている。

 いちばん下の階は、白く太い柱のみで壁もなく、上の階から部屋となる。

 

 宮を囲む水をながめ、コウセンはなんとなく、後ろめたいものに襲われた。

 

 今までながいあいだ感じ続けた、生き残ったという罪悪感のようなものではなく、先を、思い描いて良いのかという自問。



「―――生きている、あかしです」

 かちゃりと、石のテーブルへ、お茶がのせられる。



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